少数株主との紛争で会社がしてはいけない初動対応

この記事の位置付け

少数株主との紛争における初動の要点に関するメインのページです。本ページは、発行会社の側が最初の段階で避けるべき言動と取り得る選択肢をご説明します。ご相談いただく時期は別のページをご参照ください。

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少数株主から会計帳簿の閲覧謄写請求、株式の買取りの要求、あるいは配当の増額の要求といった書面が突然届き、どのように対応すればよいか分からないという非上場会社の経営者の方から、ご相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、初動の対応を誤ると、後の交渉や手続において会社側が不利な立場に置かれてしまう点です。感情的に反発した回答をしてしまう、あるいは期限のある手続であることに気付かないまま時間を空費してしまうといった対応は、いずれも会社にとって危険です。

以下では、受け取った書面の内容に応じて最初に確認すべき事項を整理したうえで、してはならない初動対応の具体例をご説明します。

6 背景となる事情 相続、代替わり、退職、処遇その他
7 他の株主の状況 同調する株主の有無
8 過去のやり取り これまでの経緯と発言の記録

 期限のある手続かどうかを最初に判断してください

会計帳簿閲覧謄写請求、株式譲渡承認請求、株主総会の招集の請求といった手続には、期限が関係します。これらについては、直ちに確認が必要です。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

他方で、株式の買取りの要求、配当の増額の要求、面談の要求といったものについては、直ちに回答すべき法律上の期限はありません。この区別を最初に行ってください。

 記録の保全を行います

対象となり得る資料を保全してください。廃棄又は改変があったと疑われる事態は、会社側にとって重大な不利益となります。

 これまでの経緯を書き出します

いつ、誰が、どのような発言をしたかを、時系列で書き出してください。特に、代表取締役その他の役員が口頭で述べた内容は、後の交渉において引用されます。

 背景を見極めます

対立の背景に何があるのかを見極めてください。相続、代替わり、退職、処遇に関する不満、第三者の関与といった事情が背景にあることが少なくありません。

会社側の法的な立場

 この段階での対応が記録として残ります

紛争の初期の段階において会社が行った対応は、後の交渉、裁判所の手続において引用されます。

会社が提示した金額は、その後の価格の主張に影響します。会社が述べた事実は、後の主張と矛盾しないことが求められます。会社が示した書面は、相手方の資料となります。

したがって、この段階での対応は、後の展開を想定したうえで行う必要があります。

 株主の権利行使は制度上のものです

株主が権利を行使したこと自体を非難する対応は、適切ではありません。制度として認められた権利の行使に対しては、制度に従って対応することになります。

「これまで何も言わなかったのに、今になって」という感覚は理解できますが、これを対応の理由とすることはできません。

 急ぐ必要がある事項は限られます

期限のある手続を除けば、この段階で急いで結論を出す必要はありません。方針を整理してから対応することが、結果として最も無理がありません。

会社側が検討し得る選択肢

表2 初期の段階での対応の選択肢

選択肢 内容 適する場面
受領した旨のみを回答する 内容についての回答を留保します 方針の整理に時間を要する場合
期限のある事項について対応する 期限のあるものから順に対応します 期限のある手続が含まれる場合
代理人を通じて対応する 弁護士を代理人として対応します 相手方に代理人が付いている場合
面談に応じる 相手方と直接話し合います 背景の把握が必要な場合
回答しない 何も返さないという対応です 適切な場面は限られます

 受領した旨のみを回答するという選択

内容についての回答を留保し、受領した旨のみを伝えるという対応があります。この対応によって、方針を整理する時間を確保することができます。

ただし、期限のある手続が含まれている場合には、その点への対応を並行して進める必要があります。

 面談に応じるという選択

相手方との面談に応じるかどうかは、事案によります。背景の把握のために有用な場合がある一方で、その場での発言が後に引用されるという問題があります。

面談に応じる場合には、出席する者、記録の方法、その場で回答しない事項をあらかじめ定めておくことが望まれます。

 代理人を通じて対応するという選択

相手方に弁護士その他の代理人が付いている場合、会社側も代理人を立てて対応することが望まれます。当事者が直接やり取りを続けると、発言が記録として残り、後の展開に影響します。

 複数の請求が同時に届いた場合の期限の管理

少数株主との紛争が本格化しますと、種類の異なる請求が短い間隔で届きます。期限を徒過することは、会社が最も避けるべき事態ですので、次の方法により管理してください。

第1に、受領日を確定します。書面ごとに、封筒に押された消印、配達の記録、社内で受領した日時、受領した者の氏名を記録します。内容証明郵便については、配達証明の記録を保存してください。期限の起算日は請求の種類により異なりますので、受領日の記録がないと、期限の計算そのものができません。

第2に、期限の一覧表を作成します。請求の種類、根拠となる条文、受領日、期限、回答の要否、担当者を1つの表にまとめます。株式譲渡承認請求に対する通知は請求の日から2週間(会社法第145条第1号)、提訴の請求に対する不提訴理由の通知は60日(会社法第847条第4項)といったように、期限は制度ごとに異なります。表には条文の番号を必ず記載してください。

第3に、回答の順序を決めます。期限の近いものから順に処理することが原則ですが、事実関係の確認に時間を要するものについては、確認の作業を先に着手し、回答は期限に合わせて発します。期限内に結論を出すことが困難な請求については、期間を伸長する合意ができるかどうかを検討し、合意ができた場合には必ず書面により残してください。

第4に、表を毎週更新し、社内で共有します。担当者が不在の間に期限が到来することを防ぐため、代替する者をあらかじめ定めておいてください。

してはいけない対応

表3 初期の段階で避けるべき対応

避けるべき対応 生じる不利益
感情的な発言をする 記録に残り、後の手続において引用されます
根拠のない金額を提示する 後に価格が争われた場合、会社側の説明が一貫しなくなります
担当者ごとに個別に回答する 会社としての説明が食い違います
期限のある手続を放置する 手続上の不利益が生じます
相手方の権利行使を非難する 制度上の権利であり、対立を深めます
資料を廃棄又は改変する 重大な不利益となります
株主名簿の記載を根拠なく変更する 株主権の帰属が争われる原因となります
他の株主に一方的な説明をする 説明の内容が伝わり、新たな紛争を生じさせます
従業員に事情を広く共有する 情報が流出する原因となります
相手方の生活上の事情に働きかける 権利行使を妨げる行為として問題とされ得ます
その場で結論を約束する 後から変更することが困難になります
会社の資金で個人的な解決を図る 会社の財産の管理として問題とされます

 感情的な発言を避けてください

親族、元役員との対立においては、感情的な応酬が生じやすくなります。この段階での発言は、書面、録音、他の関係者の記憶を通じて残ります。

 根拠のない金額を提示しないでください

早期の解決を図るために金額を提示することがあります。もっとも、根拠のない金額は、後に価格が争われた場合、会社側の説明の一貫性を損ないます。

反対に、著しく低い金額を提示することも、その後の交渉を難しくします。

 窓口を一本化してください

複数の担当者、役員が個別に対応すると、説明が食い違います。窓口を一本化し、対応の内容を記録してください。

 期限のある手続を放置しないでください

期限のある手続については、内容の検討と並行して、期限の管理を行ってください。

 その場で結論を約束しないでください

面談の場において、買い取る、増配する、役員にするといった約束をすることは避けてください。後から変更することが困難になります。

案件として確認すべき事項

表4 ご相談の際に整理していただく事項

項目 内容
受領した書面 原本又は写し、封筒、到達の日
相手方 株主名簿上の記載、続柄又は関係、保有する株式数と割合
代理人 弁護士その他の代理人の有無
経緯 いつ、誰が、どのような発言をしたか
背景 相続、代替わり、退職、処遇その他の事情
他の株主 同調する株主の有無
定款等 定款、登記事項証明書、株主名簿
財務 直近3期分の計算書類
目標 最終的に目指す株主構成

 窓口を一本化する方法

少数株主との紛争においては、会社の側の発言が複数の者から発せられることにより、説明の齟齬が生じ、後に会社の対応の一貫性が争われます。窓口の一本化は、次の手順により行ってください。

第1に、担当者を指定します。管理部門の責任者を第一の窓口とし、代替する者を1名定めます。代表者自身が窓口となることは、感情的な応酬を招きやすく、また代表者の発言が直ちに会社の意思と評価されるため、避けることが望ましい場合が多いといえます。弁護士に依頼した後は、弁護士を窓口とします。

第2に、社内へ周知します。株主から連絡があった場合には、内容にかかわらず担当者へ取り次ぐこと、その場で回答をしないこと、株式、価格、他の株主に関する話題に応じないことを、書面により全ての役職員へ周知してください。株主が従業員の親族である場合、又は元役員である場合には、私的な連絡により情報が伝わることがありますので、その点も含めて周知します。

第3に、株主へ通知します。窓口となる者の氏名、部署、連絡先、連絡の方法(書面によることを求めるかどうか)を記載した書面を、株主に対して送付します。この通知は、株主の権利の行使を妨げるものではなく、連絡の経路を明確にするためのものであることを、文面において明らかにしてください。

第4に、記録を作成します。株主との連絡は、日時、相手方、方法、内容の要旨を、その都度記録します。送付した書面及び受領した書面は、時系列により編綴し、社内の関係者が同一の記録を参照できる状態を保ってください。

弁護士に相談する意味

紛争の初期の段階でご相談をいただく最大の意味は、取り返しのつかない対応を避けることにあります。

この段階で行われた発言、提示された金額、示された書面は、後から取り消すことができません。これらが積み重なった状態でご相談をいただいても、対応の幅は限られます。

反対に、書面を受領した段階、対立が生じた段階でご相談をいただければ、期限の管理、記録の保全、窓口の一本化、方針の整理を、順序立てて進めることができます。

また、この段階では、相手方の目的が明らかでないことが少なくありません。背景の見極めと、想定される展開の整理は、その後の方針を決めるうえで重要です。

さらに、初期の段階での対応は、当該株主との関係だけでなく、他の株主との関係にも影響します。株主構成の全体を見たうえで方針を定めることが望まれます。

なお、回答の内容と時期の選択、面談における対応の組立てについては、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくあるご質問

質問1 書面が届きました。すぐに回答すべきですか。

期限のある手続かどうかを最初に確認してください。それ以外については、方針を整理してから対応すれば足ります。

質問2 まずは話し合いたいのですが。

面談に応じることが有用な場合もあります。もっとも、その場での発言が後に引用されますので、事前の準備が必要です。

質問3 相手は親族です。弁護士を入れると角が立ちませんか。

既に対立が生じている場合、当事者が直接やり取りを続けることが、かえって解決を遠ざけることがあります。

質問4 既に金額を口にしてしまいました。

その事実を前提として、今後の対応を組み立てることになります。早期にご相談ください。

質問5 放置しても構いませんか。

期限のある手続については不利益が生じます。それ以外についても、放置は多くの場合、解決を困難にします。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

受領した書面の原本又は写し、封筒、定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の計算書類、これまでのやり取りが分かる資料をご持参ください。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。