出資持分の払戻しの資金をどう確保するか 医療法人の資金繰りと事業の継続

出資持分の払戻額は、法人の財産の評価額を基礎に算定されるため、長年にわたり財産を積み上げてきた医療法人ほど大きくなります。一方で、医療法人の財産の多くは病院や診療所の土地・建物、医療機器であり、すぐに使える現預金は限られていることが少なくありません。
払戻しの額が正しくても、一度に支払えば、職員の給与や設備の更新、医療の提供そのものに支障が出るおそれがあります。払戻しへの対応では、金額の検証と並んで、資金の確保と事業の継続を同時に考える必要があります。
本記事では、医療法人の側の立場から、払戻しの資金を確保する方法と、医療の提供を続けるための進め方をご説明します。
請求額と手元の資金の差を把握する
最初に、請求額と、法人が無理なく支出できる額との差を把握します。
- 現預金の残高と、毎月の収入・支出の見込み。
- 借入金の返済の予定と、金融機関との約定。
- 設備の更新や改修の予定と、その時期。
- 職員の賞与・退職金の支払いの予定。
この試算は、法人の側の交渉の材料にもなります。払える額と時期の見通しを具体的に示すことで、分割払いや支払時期の調整に説得力が生まれます。
放置すると負担が増える理由
期限の定めのない債務は、請求を受けた時から遅滞の責任を負います(民法第412条第3項)。金額に争いがあっても、支払いの協議を先送りにすると、遅延損害金が積み重なるおそれがあります。資金が足りないことを理由に回答を遅らせるのではなく、早い段階で、支払いの計画を示して協議を始めることが、結果として法人の負担を抑えます。
資金を確保する方法
分割払い・支払時期の調整
最も基本となるのは、相手方との合意による分割払いや支払時期の調整です。各回の支払額を、法人の毎月の収支の範囲に収めることが大切です。分割の条件は和解書に定め、支払いを怠った場合の取扱い(期限の利益の喪失)も、法人の実情に合う内容とします。
金融機関からの借入れ
一時に支払う額を確保するため、金融機関からの借入れを検討することがあります。借入れには返済の負担が伴いますので、払戻しの合意の内容と返済の計画を合わせて検討します。既存の借入れの約定に、新たな借入れや資産の処分に関する制限がないかも確かめます。
資産の見直し
医療の提供に用いていない遊休の資産があれば、売却して資金に充てることも考えられます。他方、病院や診療所の土地・建物、医療機器を処分すると、医療の提供に直接の影響が出ます。処分してよい資産と、残すべき資産を区別して検討します。
移行と組み合わせた資金計画
持分の定めのない医療法人への移行計画の認定を受けた医療法人(認定医療法人)については、政府が、認定移行計画の達成と移行後の運営の安定のために必要な助言、指導、資金の融通のあっせんその他の援助を行うよう努めるものとされています(良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)附則第10条の7)。将来の請求への備えと合わせて、移行の検討も視野に入れます。
支払いの方法の交渉を含め、払戻しの請求を受けた医療法人の側の対応は、次のページでご案内しています。
医療の提供を続けるための進め方
払戻しへの対応は、理事長だけで抱え込まず、法人として判断することが大切です。
- 理事会で、請求の内容、法人の側の算定、資金の見通しを共有します。
- 支払える額と時期の上限を定め、交渉の方針を決めます。
- 必要に応じて、社員総会に報告し、残る社員の理解を得ます。
- 金融機関や顧問の税理士と、資金計画と税務の取扱いを確かめます。
- 合意の後は、支払いの予定を資金繰りの表に組み込み、確実に履行します。
医療法人は剰余金の配当をすることができません(医療法第54条)。払戻しは法人の財産から支出されるものであり、その影響は残る社員や職員、患者にも及びます。法人の財産と医療の提供を守る観点から、支払いの設計を行います。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
将来の請求に備える
一人の社員への払戻しが終わっても、他の社員にも持分がある限り、同じ請求が繰り返されるおそれがあります。社員の年齢構成や後継の体制を踏まえ、残る社員の持分をどう整理するか、持分の定めのない医療法人への移行を検討するかを、この機会に考えておきます。
弁護士に相談する意味
払戻しの資金繰りは、相手方との交渉、和解書の条項、法人の内部の意思決定、移行の計画が連動する問題です。支払える条件で確実に合意し、医療の提供を守るためには、法的な見通しと資金の見通しを合わせて検討する必要があります。
分割の条件の組み方、交渉の進め方は、事案ごとに異なり、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示していません。税務の判断は税理士と連携して進めます。ご相談は事前予約制です。
よくあるご質問
質問1 資金が足りないことを理由に、支払いを断れますか。
資金が足りないことだけを理由に請求を拒むことは難しいと考えられます。支払いの計画を示し、分割払いや支払時期の調整を協議します。
質問2 分割払いの回数に上限はありますか。
法律上の上限はなく、相手方との合意によります。法人の収支の範囲で無理なく払える条件を示すことが大切です。
質問3 払戻しのために病院の土地を売る必要がありますか。
医療の提供に用いる資産の処分は、事業に直接の影響があります。まず分割払いや借入れ、遊休の資産の活用を検討します。
まとめ
- 請求額と、法人が無理なく支出できる額との差を最初に把握します。
- 請求の放置は遅延損害金の増加につながるため、早めに支払いの計画を示して協議します。
- 分割払い、借入れ、遊休の資産の活用、移行と組み合わせた計画を検討します。
- 理事会・社員総会で共有し、法人として判断します。
- 残る社員の持分の整理も、この機会に検討します。
払戻しの資金に不安があるときは、回答する前にご相談ください。
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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
この記事の位置付け
本ページは、払戻しに応じる場合に医療法人がその資金をどう確保し、医療の提供を続けるかという資金繰りの面に焦点を当てます。相手方との合意の結び方は和解のページで、将来の請求への備えは移行のページでご説明します。
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本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

