少数株主が取締役への就任を要求してきた場合

株式を保有しているというだけの少数株主から、自分を取締役に選任するべきだという要求を受けたが、応じる義務があるのだろうかという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。
この場面で問題となるのは、株主としての地位と取締役としての地位は本来別のものであるにもかかわらず、要求する側がこの区別を意識せずに主張してくることが多く、会社側がどこまで応じる必要があるのかが分かりにくいという点です。
以下では、株主の地位と取締役の地位の関係、及び議決権の割合によって会社側の対応がどのように変わってくるのかを御説明します。
| 発生の原因 | 株式の取得 | 株主総会の決議と就任の承諾 |
|---|---|---|
| 内容 | 議決権その他の株主の権利 | 業務の執行に関する職務 |
| 会社に対する義務 | 原則として負いません | 善管注意義務等を負います |
| 相互の関係 | 株主であることは取締役の資格を与えません | 取締役であることは株主の資格を与えません |
株式を保有していることは、経営に参加する権利を意味しません。株主が経営に関与する方法は、株主総会における議決権の行使を通じたものに限られます。
議決権の割合による違い
もっとも、少数株主が保有する議決権の割合によっては、事実上、選任の実現に近づくことがあります。
株主提案として役員の選任に関する議案を提出することができる場合、他の株主の賛成を得ることによって、決議が成立する可能性があります。
したがって、会社側としては、当該株主の議決権の割合と、他の株主の動向を確認しておく必要があります。
例外及び注意点
定款に定めがある場合
定款において、取締役の資格に関する定め、選任の方法に関する定めが置かれている場合があります。定款を確認してください。
また、種類株式を発行している会社において、種類株主総会において取締役を選任する旨の定めが置かれている場合があります。
株主間の合意がある場合
過去に、株主間で役員の構成に関する合意がされている場合があります。この場合、合意の内容と効力について検討を要します。
もっとも、株主間の合意があることによって、会社が当然に義務を負うとは限りません。合意の当事者、内容、時期を確認してください。
要求の背景
表2 就任の要求の背景として考えられるもの
| 背景 | 特徴 |
|---|---|
| 経営に対する不信 | 会社の運営の状況を直接把握したいという意向です |
| 情報の取得 | 取締役として資料に接することを目的としています |
| 処遇への不満 | 役員報酬その他の処遇に関する不満が背景にあります |
| 株式の買取りの前段階 | 応じられないことを理由に、買取りを求める展開になります |
| 承継をめぐる争い | 次の世代における経営の主導権が背景にあります |
背景によって、その後の展開が異なります。会社側としては、この見極めを行う必要があります。
その後に想定される展開
要求に応じない場合、次のような展開が想定されます。
株主提案として役員の選任に関する議案が提出されること。株主総会の招集が請求されること。会計帳簿閲覧謄写請求が行われること。現在の取締役の解任が求められること。株式の買取りが求められること。
これらはいずれも制度として認められた権利の行使です。会社としては、それぞれについて制度に従って対応することになります。
安易に応じることの問題
紛争を避けるために就任させるという判断があり得ます。もっとも、この判断には注意が必要です。
取締役となることによって、会社の資料に接する立場となります。また、取締役会における議決権を持つことになります。さらに、その後に解任しようとする場合、正当な理由の有無が問題となり得ます。
したがって、就任させるという判断は、その後の会社の運営に長期にわたって影響します。
次に確認すること
表3 ご相談の際に整理していただく事項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 要求の内容 | 書面か口頭か、時期、記載された理由 |
| 当該株主 | 続柄又は関係、保有する株式数と割合 |
| 他の株主 | 議決権の分布、他の株主の動向 |
| 定款 | 取締役の資格、員数、選任の方法に関する定め |
| 機関設計 | 取締役会の設置の有無、監査役の有無 |
| 株主間の合意 | 過去の合意の有無と内容 |
| 経緯 | 過去のやり取り、対立の有無 |
| 総会の予定 | 次回の株主総会の時期 |
議決権の分布を確認します
当該株主の議決権の割合と、他の株主の動向を確認してください。株主提案として議案が提出された場合の帰結を、あらかじめ見込んでおく必要があります。
定款を確認します
取締役の員数、資格、選任の方法に関する定めを確認してください。
今後の展開に備えます
要求に応じない場合に想定される権利行使について、対応の方針をあらかじめ整理しておいてください。
弁護士に相談する意味
この要求への回答自体は、難しいものではありません。難しいのは、その後の展開への備えです。
要求が行われたということは、当該株主が会社の運営に関心を持ち、行動を起こす意思を有していることを意味します。この段階で、想定される権利行使とその対応を整理しておくことが、その後の負担を大きく左右します。
また、就任させるかどうかという判断は、会社の運営に長期にわたって影響します。紛争を避けるためという理由だけで判断すべきではありません。
さらに、この要求は、株主構成をどのように整えるかという問題と結び付いています。当該株主との関係が今後どうなるのかという見通しを立てたうえで、方針を決めることが望まれます。
なお、回答の内容と時期の選択については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 株主なのだから取締役になれるのではありませんか。
株主であることは、取締役となる資格を当然に与えるものではありません。取締役は株主総会の決議によって選任されます。
質問2 断ったら株主総会で問題にすると言われました。
株主提案、招集の請求といった権利行使が想定されます。それぞれについて対応の方針を整理しておく必要があります。
質問3 紛争を避けるために就任させてもよいですか。
その後の会社の運営に長期にわたって影響します。判断の前にご相談ください。
質問4 就任させた後に辞めてもらうことはできますか。
解任には株主総会の決議を要し、正当な理由の有無が問題となり得ます。
質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、登記事項証明書、株主名簿、要求の内容が分かる資料、過去の株主総会の議事録、当該株主とのやり取りが分かる資料をご持参ください。
関連するご案内
少数株主から経営への関与を求められている会社の方は、株主総会招集請求・株主提案を受けた会社へをご覧ください。招集請求、株主提案、取締役の解任の要求への対応を、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。
- 少数株主から株主提案を受けた会社は拒否できるか
- 株主総会決議取消訴訟を避けるための会社側の注意点
- 少数株主が配当を増やせと要求してきた場合
- 取締役の解任の請求を受けた会社の初動
- 少数株主との紛争で会社がしてはいけない初動対応
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、少数株主からの要求に対する初動対応に関する解説のうち、「少数株主が取締役への就任を要求してきた場合」という論点を扱うページです。少数株主からの要求に対する初動対応の全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
同じ主題を扱う関連ページ
具体的な御相談をお考えの会社の皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。


