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持分なし医療法人への移行に同意しない出資者がいるとき 認定の期限までに医療法人が整理すること

公開 2026年11月5日更新 2026年11月5日

▶ 持分なし医療法人への移行と出資持分の払戻し 認定制度を使う前に整理すること

持分なし医療法人への移行を検討する医療法人では、「社員の多くは賛成しているのに、出資の多くを持つ親族が持分の放棄に応じない」「以前に理事を務めた出資者が、放棄ではなく払戻しを求めている」といった場面が生じます。

移行は、社員総会の議決だけでは完了しません。出資持分は各出資者の財産権であり、すべての出資者の持分を、放棄又は払戻し等によって消滅させる必要があります。同意しない出資者がいるときは、誰が、何を理由に反対しているかを見極め、移行計画の認定の期限から逆算して整理の方法を選ぶことになります。

本記事では、医療法人の側の立場から、議決と放棄の違い、反対する出資者の型に応じた整理の方法、認定の期限の管理及び税制との関係をご説明します。

移行には社員総会の議決とすべての持分の消滅の二つが必要です

社員総会の議決

移行計画の認定を受けるには、移行計画が社員総会で議決されていることが必要です(良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)附則第10条の3第4項第1号)。移行そのものは、残余財産の帰属すべき者を国、地方公共団体、持分の定めのない医療法人等とする定款の変更によって行い、定款の変更には社員総会の決議と都道府県知事の認可を要します(医療法第54条の9第1項・第3項・第6項、第44条第5項)。

社員総会では、社員は出資の額にかかわらず各1個の議決権を有し、議事は、法律又は定款に別段の定めがある場合を除き、出席者の議決権の過半数で決します(医療法第46条の3の3第1項・第3項)。定款の変更については定款で定足数や議決の要件が加重されていることも多いため、まず自法人の定款を確かめます。

持分の放棄又は払戻し

厚生労働省の手引書は、医療法人の持分は私的財産権であり、理事会や社員総会の決議によって一方的に消滅させることはできず、持分なし医療法人への定款の変更によって自動的に消滅することもないと説明しています。議決ができても、放棄に応じない出資者の持分が残る限り、移行は完了しません。

移行計画には、出資者による持分の放棄又は払戻しの見込みを記載し(医療法施行規則附則第56条第3項第2号)、添付する出資者名簿には、各出資者の出資額と持分の放棄の見込みを記載します(附則第10条の3第3項第2号)。制度そのものが、放棄に応じない出資者がいる場合を想定しているといえます。

誰が反対しているかで整理の方法が変わります

社員の多数が反対している場合

議決権は社員1人につき1個ですから、出資の割合が小さい社員でも、人数で過半数を占めれば、移行計画や定款の変更を否決できます。この場合は、移行計画の議決そのものができません。移行しない場合に社員の退社や死亡のたびに払戻しの請求が生じ得ることと、移行した場合の医療法人の運営の姿を、決算書類に基づいて社員に説明することから始めます。

出資の大半を持つ出資者が放棄に応じない場合

社員総会で議決ができても、その出資者の持分が残る限り移行は完了しません。放棄に応じない理由が、出資した額の回収なのか、医療法人での処遇なのか、ご自身の相続への影響なのかを確かめ、払戻しや出資持分の譲受けを含めて整理の方法を検討します。

社員でない出資者や既に資格を喪失した者がいる場合

出資者と社員が一致しているとは限りません。厚生労働省の手引書は、移行の前に定款・社員名簿・社員総会の議事録等を精査し、現時点での出資者と持分を厳密に特定する必要があるとしています。特定を誤ると、放棄の手続をしても持分が消滅しないおそれがあります。

また、既に退社し又は死亡した社員の払戻しの請求権は、資格を喪失した時に生じているため、移行によって当然に消えるものではないと考えられます。移行の手続とは別に、その請求への対応を進めます。

移行に同意しない出資者への対応を含め、出資持分の払戻しの請求を受けた医療法人の側の対応は、次のページでご案内しています。

同意が得られないときに考えられる整理の方法

説明を尽くし、放棄の効力が生じる時期をそろえる

厚生労働省の手引書は、医療法人の側の誤った説明や威迫的な説得によって放棄の意思表示がされた場合には、放棄が効力を失い、医療法人や役員が損害賠償を請求されるおそれがあると注意しています。放棄を求める際は、移行の内容と、放棄した場合と払戻しを受けた場合の違いを正確に説明し、書面で意思を確かめます。

同じ手引書は、移行が途中で頓挫したときに先に放棄した出資者が不利益を受けることを避けるため、すべての出資者の放棄の効力が生じる時期を、移行に係る定款の変更の認可の時等にそろえる工夫を挙げています。放棄の時期をそろえることは、慎重な出資者の理解を得る材料にもなります。

払戻しによって持分を消滅させる

放棄に応じない出資者には、退社を経て払戻しを行い、持分を消滅させる方法があります。厚生労働省の手引書は、払戻しは、定款上の要件(社員の資格の喪失等)を満たしたうえで、生じた払戻請求権の弁済として行い、払戻額の合意と、支払いによって払戻請求権が全部消滅することを書面で確認しておく必要があるとしています。

払戻額は、資格を喪失した時点の法人の財産の評価額に、総出資額のうち当該出資者の出資額の割合を乗じた額が基礎になると解されています(最高裁判所平成22年4月8日判決)。出資した額を大きく上回ることがあるため、資金の手当てを先に見積もります。

移行の後の類型として基金拠出型医療法人を選ぶ

移行計画には、移行の後の類型として、社会医療法人、特定医療法人、基金拠出型医療法人又はそれ以外の医療法人のいずれかを記載します(附則第10条の3第2項第1号)。基金拠出型医療法人は、基金を引き受ける者の募集をすることができる旨を定款に定めた医療法人で、基金は、医療法人が拠出した者に対して返還の義務を負う財産です(同号ハ)。類型の選び方も、出資者の理解を得るための検討の対象になります。

出資持分を他の出資者が譲り受ける

医療法の本則には、医療法人の出資持分の譲渡を直接定める規定はなく、扱いは定款の定めと社員の入退社の手続によります。定款に反しない範囲で、放棄に応じない出資者の出資持分を、移行に賛成する出資者が譲り受けて集約する方法も考えられます。譲受けの対価と課税関係は、税理士と確かめながら進めます。

認定の期限から逆算して進めます

事項 内容 根拠
認定を受けられる期限 令和11年12月31日まで 附則第10条の3第5項
移行の期限 認定の日から5年を超えない範囲 附則第10条の3第4項第3号
移行計画の変更 厚生労働大臣の認定を受けます 附則第10条の4第1項
期限までに移行しない場合 認定が取り消され、再び認定を受けることはできません 附則第10条の4第3項・第4項
移行した後 新医療法人になった日から6年を経過すると認定は効力を失います。認定医療法人は、認定移行計画の実施状況と運営の状況を厚生労働大臣に報告します 附則第10条の6、第10条の8

認定を受けた後に同意が得られず、移行の期限を過ぎると、認定は取り消され、再び認定を受けることはできません。認定の申請の前に各出資者の意向を確かめ、放棄に応じない出資者への払戻しの資金を含めて計画を立てることが重要です。

あわせて、認定を受ける医療法人には、関係者に特別の利益を与えないこと、役員の報酬等の支給の基準を定めていること等の運営に関する要件も求められます(附則第10条の3第4項第4号、医療法施行規則附則第57条の2)。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

税制は制度の名称と期限を確かめ、税理士と連携します

認定医療法人の制度に関しては、租税特別措置法に次の特例が設けられています。いずれの条にも、令和11年12月31日までの厚生労働大臣の認定に関する定めがあります。

  • 第70条の7の9(医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の納税猶予及び免除)
  • 第70条の7の10(医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の税額控除)
  • 第70条の7の11(個人の死亡に伴い贈与又は遺贈があつたものとみなされる場合の特例)
  • 第70条の7の12(医療法人の持分についての相続税の納税猶予及び免除)
  • 第70条の7の13(医療法人の持分についての相続税の税額控除)
  • 第70条の7の14(医療法人の持分の放棄があつた場合の贈与税の課税の特例)

厚生労働省の手引書は、一部の出資者が持分を放棄した時点で、まだ放棄していない出資者に贈与税が課される可能性があることにも注意を促しています。放棄の順序と時期は、税理士と連携して決めます。税額の計算と特例を受けられるかの判断は税理士にご確認いただき、当事務所は、社員総会の運営、出資者との合意及び手続の順序を整えます。

弁護士に相談する意味

移行に同意しない出資者への対応は、定款の解釈、社員総会の運営、放棄又は払戻しの合意、資金の手当て及び税務が重なる手続です。認定の期限と移行の期限があるため、出資者との話合いが長引くほど、選べる方法が少なくなります。

出資者の意向の確かめ方、放棄の合意の取り付け方、払戻しに切り替える場合の交渉の進め方は、事案ごとに異なり、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示していません。税務の判断は税理士と連携して進めます。ご相談は事前予約制です。

よくあるご質問

質問1 社員総会で移行を決議すれば、反対した出資者の持分もなくなりますか。

なくなりません。持分は各出資者の財産権であり、決議や定款の変更によって自動的に消滅するものではないとされています。放棄又は払戻し等によって消滅させる必要があります。

質問2 出資の大半を持つ理事長が賛成していれば、移行計画を議決できますか。

社員の議決権は、出資の額によらず各1個です。理事長の出資の割合が大きくても、定款に別段の定めがない限り、出席した社員の議決権の過半数の賛成がなければ議決できません。

質問3 移行の期限までに同意が得られなかったらどうなりますか。

移行の期限までに新医療法人にならなかったときは、認定が取り消され、再び認定を受けることはできません。期限の前に、払戻しへの切替えや移行計画の変更の認定を検討します。

まとめ

  • 移行には、社員総会の議決と、すべての出資者の持分の放棄又は払戻しによる消滅の二つが必要です。
  • 社員の議決権は各1個であり、社員の多数が反対する場合と、出資の大半を持つ出資者が反対する場合とで、整理の方法が異なります。
  • 放棄の効力が生じる時期をそろえる工夫、払戻し、基金拠出型医療法人の選択、出資持分の譲受けを比べて検討します。
  • 認定は令和11年12月31日まで、移行の期限は認定の日から5年以内であり、期限までに移行しなければ再び認定を受けられません。
  • 税制は制度の名称と期限を確かめ、税額と適用の可否は税理士と確かめます。

同意しない出資者がいる段階で整理の方法を決めておけば、認定の期限を有効に使えます。早めにご相談ください。

関連するご案内

持分なし医療法人への移行と出資持分の払戻しを検討する医療法人の方は、次の各ページもご覧ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

この記事の位置付け

本ページは、持分なし医療法人への移行の途中で持分の放棄に応じない出資者がいる場面に絞り、社員総会の議決と持分の放棄の違い、整理の方法及び認定の期限の管理をご説明します。移行と払戻しの関係の全体は移行のページで扱います。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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