親族株主との株式トラブルを会社側から整理する方法

長年配当のないまま株式を保有していた親族株主から、突然、株式の取扱いについて不満を伝えられたが、感情的な対立と会社法上の問題とをどのように切り分ければよいのかという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、親族間の株式トラブルには、配当や業績、財産の処分といった長年にわたるきっかけが積み重なっており、感情の問題と会社法上の問題とが混在しやすいという点です。

以下では、トラブルが顕在化する典型的なきっかけを整理したうえで、感情の問題と会社法上の問題の性質の違いを御説明します。

配当 長年配当がされていないことに不満が生じます
会社の業績 業績が向上すると、株式の価値に関心が向きます
不動産の処分等 会社の重要な財産の処分を機に、経営の当否が問われます
第三者の関与 親族の配偶者、その親族、外部の助言者が関与します

これらのきっかけに共通するのは、株式の保有という状態が長年続いた後に、何らかの事情によって関心が向くという構造です。株式が分散した時点では問題が顕在化しないため、対応が先送りされてきたという背景があります。

 感情の問題と会社法上の問題

表2 2つの問題の性質の違い

観点 感情の問題 会社法上の問題
内容 過去の経緯、扱いの不公平感、家族関係 議決権、情報の請求、株式の価値
会社が対応できるか 会社の権限の外にあります 会社が対応すべき事項です
期限 ありません 期限があるものがあります
記録 記録に残る発言が後に引用されます 記録が必須です
解決 会社の対応によっては解消しません 手続と条件によって解決し得ます

会社側が陥りやすいのは、感情の問題を「話し合えば分かる」として代表取締役が個人的に対応し、その過程で会社法上の期限を徒過することです。

 会社側にとっての意味

親族株主との対立は、当事者間の問題にとどまりません。会社の意思決定が滞る、資料の作成に手間を要する、金融機関との関係に影響する、事業承継及びM&Aの検討が進まないという形で、事業そのものに影響します。

したがって、この問題は、家族の問題としてではなく、会社の資本政策の問題として扱う必要があります。

 時間の見通し

親族株主との対立は、短期間で解決することが多くありません。株式の取得によって解決を図る場合であっても、協議には相応の期間を要します。

他方で、時間が経つほど、相続の発生により対象が増え、解決が困難になります。早期の着手が必要です。

会社法上の制度

 親族であっても株主としての権利は同じです

親族であるかどうかによって、株主としての権利の内容が変わるものではありません。議決権、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利といった権利のほか、持株比率に応じて、会計帳簿閲覧謄写請求、株主総会の招集の請求、株主提案、取締役の解任の請求、株主代表訴訟の提起といった権利が認められます。

会社側としては、相手方が親族であることを理由に対応を緩めることも、厳しくすることもできません。制度に従った対応が必要です。

 主として問題となる権利

表3 親族株主から行使されることが多い権利

権利 会社側の対応
会計帳簿閲覧謄写請求 要件の確認、対象資料の範囲の検討、拒絶事由の有無の検討
株主総会における議決権の行使 招集手続の適正、議事の記録
株主総会の招集の請求 要件の確認、期限の管理
株主提案 要件の確認、招集通知への記載の判断
取締役の解任の要求 総会の決議と訴えの区別
剰余金の配当の要求 決定の権限、方針の整理
株式の買取りの要求 株式買取義務の有無の確認、任意の取得の検討

これらは、いずれも制度として認められた権利の行使です。行使されたこと自体を非難する対応は、適切ではありません。

 会社が対応できないこと

親族間の過去の経緯、相続における取扱いへの不満、家族としての扱いに関する問題は、会社が対応できる事項ではありません。これらについて会社が判断を示すことは、かえって紛争を拡大させます。

もっとも、これらが背景にあることを理解しないまま形式的に対応することも、解決を遠ざけます。背景として認識したうえで、会社としては会社法上の問題に対応するという整理が必要です。

会社側が検討し得る選択肢

表4 親族株主との関係における選択肢

選択肢 内容 検討事項
株式を取得する 合意により会社又は支配株主が取得します 資金、対価の水準、相手方の意向
株主として残ることを前提に整える 情報の提供の方法、配当の方針を整理します 継続的な負担、他の株主との均衡
議決権の構成を整える 種類株式等の活用を検討します 定款の変更、株主総会の決議
法律上の手続によって整理する 定款の定めに基づく取得、株主総会の決議等による排除 要件、対価、争われた場合の備え
現状を維持する 積極的な対応を行いません 相続による分散、将来の支障

 株式を取得するという選択

最も基本的な選択です。相手方に売却の意思がある場合には、合意による取得を検討します。この点については、任意の買取りに関する記事をご参照ください。

親族間の取得においては、価格の水準が、他の親族との関係で問題とされることがあります。1名との条件が他の親族に伝わることを前提とした検討が必要です。

 株主として残ることを前提とする選択

株式を取得しない場合、株主として残ることを前提に、関係を安定させる方法があります。定期的な情報の提供、配当の方針の明示といった対応です。

もっとも、これらは会社の負担となり、また、他の株主との均衡の問題を生じます。方針として定めたうえで、継続することが必要です。

 議決権の構成を整える選択

種類株式の活用等によって、議決権の構成を整えるという方法があります。もっとも、定款の変更を要し、株主総会の決議が必要です。既に対立が生じている場合には、決議の成立が前提となります。

対立が顕在化する前に、平時のうちに整えておくことが望まれる事項です。

 現状を維持するという選択

積極的な対応を行わないという選択もあり得ます。もっとも、相続の発生により対象が増えること、将来の事業承継及びM&Aにおいて支障となることを織り込む必要があります。

株価と手続

 親族間における価格の考え方

親族間の株式の取得においても、価格の考え方は他の場合と異なりません。非上場株式の価格には唯一の正解がなく、評価の手法によって幅があります。

親族間においては、「身内なのだから」という前提で低い価格が提示され、これが不満の原因となることがあります。他方で、感情的な事情から著しく高い価格が求められることもあります。

いずれの場合も、算定の根拠を整えたうえで説明することが、結果として協議を前に進めます。株価の算定の考え方については、非上場株式の株価に関する各記事をご参照ください。

 税務上の取扱い

親族間の株式の移転においては、税務上の取扱いが重要な検討事項となります。もっとも、これは法律上の問題とは区別すべき事項です。

税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。当事務所は、必要に応じて税務の専門家と連携して対応いたします。

 手続の順序

表5 親族株主との対立を整理する順序

順序 行うこと
第1 株主名簿を整備し、株主構成と各人の経緯を確定します
第2 何が起きているのかを、感情の問題と会社法上の問題に分類します
第3 会社法上の問題について、期限のあるものを特定します
第4 窓口を一本化し、対応の担当を決めます
第5 目指す株主構成を設計します
第6 対象とする株主と選択肢を決めます
第7 対価の算定の根拠を整えます
第8 協議を行い、条件を確定します
第9 必要な手続を履行し、記録を残します

 窓口の一本化

親族間においては、複数の関係者が個別にやり取りを行い、話が食い違うという事態が生じやすくなります。会社としての窓口を一本化し、記録を残してください。

代表取締役が個人的に対応を続けることは、会社としての対応と個人としての対応の区別を失わせます。この点は特に注意を要します。

有事化した場合の進行

 会計帳簿閲覧謄写請求がされた場合

親族株主が最初に行う権利行使として多いのが、会計帳簿閲覧謄写請求です。要件の確認、対象となる資料の範囲、拒絶事由の有無について検討することになります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。この点については、会計帳簿閲覧謄写請求に関する各記事をご参照ください。

 株主総会をめぐる争いとなった場合

招集の請求、株主提案、取締役の解任の要求といった形で、株主総会をめぐる争いとなることがあります。招集手続と議事の記録が重要となります。この点については、株主総会に関する各記事をご参照ください。

 株式買取業者への売却が示唆された場合

親族株主が、第三者に非上場株式を売却すると述べる場合があります。譲渡制限の定めがある会社においては、承認の手続が問題となります。この点については、株式買取業者に関する各記事をご参照ください。

 相続が発生した場合

親族株主に相続が発生すると、相続人が新たな株主となります。対象が増え、また、会社との関係がさらに薄い者が株主となります。この点については、相続に関する記事をご参照ください。

 他の親族への波及

親族株主との対立は、当事者2名の間にとどまらないことが通例です。1名との間で条件を合意すると、その内容が他の親族に伝わり、同様の要求がされることがあります。

また、対立している株主が他の親族に同調を求め、複数の株主が共同して権利を行使するという展開もあり得ます。持株比率の要件がある権利については、共同して行使することによって要件を満たす場合があります。

会社側としては、株主名簿に基づき、各株主の議決権の割合と、共同した場合の割合を把握しておく必要があります。

 配偶者その他の第三者が関与する場合

親族株主の配偶者、その親族、外部の助言者が関与することがあります。この場合、対立の性質が変わることがあります。

会社側としては、誰と交渉しているのかを明確にする必要があります。株主本人ではない者が交渉に現れる場合、その者が代理人であるのか、事実上関与しているにとどまるのかを確認してください。

 訴訟に至った場合

株主代表訴訟、株主総会の決議の効力を争う訴え、非上場株式の価格の決定を求める手続といった形で、裁判所の手続に至ることがあります。いずれについても、それまでの記録が重要となります。

平時に整えておくこと

 株主名簿の整備

株主名簿が現在の状態を反映していることを確認してください。相続、名義株式、所在不明については早期に対応が必要です。

 定款の点検

譲渡制限、種類株式、相続人等に対する売渡請求に関する定めを確認してください。対立が顕在化する前であれば、定款の整備が可能です。

 情報の提供の方針

株主に対してどの範囲の情報をどのような方法で提供するかについて、方針を定めておいてください。求められてから場当たり的に判断すると、株主間で扱いが異なることになります。

 配当の方針

配当を行うかどうか、行うとしてどのような考え方によるかについて、方針を整理しておいてください。長年配当がされていないこと自体が、不満の原因となることがあります。

 記録の保存

株式の移転の経緯、株主総会の議事録、株主とのやり取りは、保存してください。同族会社においては、これらの記録が失われていることが少なくありません。

案件として確認すべき事項

表6 ご相談の際に整理していただく事項

項目 内容
株主構成 株主名簿、各株主の続柄、株式数と割合
取得の経緯 各株主がどのようにして株式を取得したか
対立の経緯 いつ、何をきっかけに、どのような主張がされているか
権利行使 会計帳簿閲覧謄写請求その他の請求の有無
代理人 相手方に弁護士その他の代理人が付いているか
定款 譲渡制限、種類株式、売渡請求に関する定め
財務 直近3期分の計算書類
配当及び報酬 配当の実績、役員報酬の水準
相続の見通し 高齢の株主の有無
目標 最終的に目指す株主構成

弁護士に相談する意味

親族株主との対立において、会社側が最も損をしやすいのは、家族の問題として代表取締役が個人的に対応を続ける場合です。この間に、会社法上の期限が経過し、記録に残る不用意な発言が積み重なります。

弁護士が関与する意味は、感情の問題と会社法上の問題を分離し、会社として対応すべき事項を特定することにあります。この分離ができれば、会社は落ち着いて手続に対応することができます。

また、親族間においては、当事者が対面で交渉を続けることが、かえって解決を遠ざけることがあります。代理人を介することによって、感情の応酬から離れ、条件の検討に集中できる場合があります。

さらに、この問題は、目の前の1名との関係だけでなく、株主構成の全体、そして将来の事業承継及びM&Aと結び付いています。全体の設計の中で対応を位置付ける必要があります。

なお、対象とする株主の順序、協議の進め方、条件の組立てについては、株主構成、従前の経緯、親族関係により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 身内なので、弁護士を入れると角が立ちませんか。

既に対立が表面化している場合、当事者が直接やり取りを続けることが、かえって解決を遠ざけることがあります。代理人を介することの意味をご説明いたします。

質問2 配当をしていないことが問題ですか。

剰余金の配当の決定については権限に関する定めがあります。配当をしないこと自体が直ちに違法となるものではありません。もっとも、不満の原因となっていることが多いのは事実です。

質問3 役員報酬が高いと言われています。

報酬の決定の手続と、職務の内容に照らした相当性を説明できるようにしておく必要があります。

質問4 1人に高く買ったことが他の親族に知られました。

同族会社においては、株主間の情報の伝達が速いことが少なくありません。条件を定める際には、この点を織り込む必要があります。

質問5 相手方が第三者に売ると言っています。

譲渡制限の定めがある場合には承認の手続が問題となります。早期にご相談ください。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、株主名簿、株式の移転の経緯が分かる資料、直近3期分の計算書類、相手方から届いた書面、これまでのやり取りが分かる資料をご持参ください。

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