少数株主が配当を増やせと要求してきた場合

この記事の位置付け
配当の増額を求められた場合に関するメインのページです。本ページは、発行会社の側から、敵対的少数株主の要求に応ずるかどうかを判断する視点をご説明します。取締役への就任の要求は別のページをご参照ください。
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親族の少数株主から、「利益が出ているのに配当がない」「配当を増やしてほしい」と求められた。株主総会でも同様の発言があった。発行会社の代表取締役、法務責任者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。剰余金の配当を行うかどうか、行うとしていくらとするかは、法律及び定款に定められた手続に従って決定される事項です。株主が求めたからといって、会社が当然にこれに応じる義務を負うものではありません。
もっとも、会社側が注意すべきなのは、この要求の背景です。配当の要求は、それ自体が目的である場合よりも、他の目的の入口である場合が多いという実務上の特徴があります。株式の買取りを求める前段階として、あるいは会社の情報を得るための足掛かりとして行われることがあります。
したがって、「応じる義務はない」という結論だけで対応を終えることは適切ではありません。要求の背景を見極め、今後の展開に備える必要があります。
本記事は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側から、この場面の整理を行うものです。
制度の意味
剰余金の配当の決定の仕組み
剰余金の配当は、原則として株主総会の決議によって定めることとされています。配当をする財産の種類と帳簿価額の総額、株主に対する割当てに関する事項、効力が生じる日を定めることになります。
一定の要件を満たす会社においては、取締役会の決議によって定めることができる旨を定款に定めることができるとされています。会社の機関設計と定款の定めを確認してください。
配当をしないという判断
配当を行うかどうかは、会社の判断に委ねられています。利益が生じていることは、配当をしなければならないことを意味しません。
設備投資、借入れの返済、将来の事業環境への備えといった理由から、内部に留保するという判断があり得ます。この判断は、経営に関する判断として行われます。
財源に関する規律
配当を行う場合、分配可能額を超えることができないという規律が置かれています。したがって、株主が求めたとしても、財源が不足する場合には配当をすることができません。
会社側から見た意味
表1 配当の要求の背景として考えられるもの
| 背景 | 特徴 |
|---|---|
| 経済的な利益を求めている | 保有していても何も得られないことへの不満です |
| 株式の買取りの前段階 | 配当がされないことを理由に、株式の買取りを求める展開になります |
| 会社の情報を得たい | 配当の可否を検討する前提として、財務の情報を求めます |
| 経営に対する不満 | 役員報酬の水準、資産の使途に対する不満が背景にあります |
| 相続への備え | 相続税の負担を見据えて、現金化を検討しています |
| 第三者の助言 | 外部の助言者が関与していることがあります |
背景によって、その後の展開が異なります。会社側としては、この見極めを行う必要があります。
長期にわたり無配当であることを会社はどう説明するか
少数株主から配当の増額を求められた会社が最初に直面するのは、長期にわたり配当を行ってこなかった理由をどのように説明するかという問題です。説明の骨格は、次の3点により組み立てます。
第1に、剰余金の配当を行うかどうかの判断は、原則として取締役及び株主総会の判断に委ねられており、株主が個別に一定額の配当を請求できる権利を有するものではありません。会社法第453条以下は分配可能額の範囲内で配当を行うことができる旨を定めるにとどまります。したがって会社は、内部留保を必要とした具体的な事情、すなわち設備投資の計画、借入金の返済の予定、取引先との与信の関係、事業の季節による資金の変動等を、計算書類及び資金繰りの資料により示すこととなります。
第2に、役員報酬との均衡について、あらかじめ整理しておく必要があります。少数株主は、配当がない一方で支配株主が役員報酬により利益を得ていると主張することが多く、この主張は取締役の責任の追及や株式の評価の場面にも波及します。役員報酬の額が職務の内容及び同種の規模の会社の水準に照らして相当であること、報酬の決定が株主総会の決議及び取締役会の手続を経ていることを、議事録により示すことができるように整えてください。
第3に、無配当の状態が株式の価格の主張に及ぼす影響を検討します。配当還元法は、現に支払われた配当の額を基礎とする方法ですので、無配当の会社においては標準的な配当率による方法が用いられることがあります。会社の側が配当還元法による低い価格を主張する場合には、無配当の理由と将来の配当の方針を併せて説明することが、主張の説得力を高めます。
要件と論点
株主が採り得る手段
配当の増額そのものを会社に強制する手段は、限られています。もっとも、株主は次のような手段を通じて、事実上の働きかけを行うことができます。
株主総会において質問し、意見を述べること。剰余金の配当に関する議案を株主提案として提出すること。会計帳簿閲覧謄写請求により財務の状況を確認すること。役員報酬その他の支出について責任を追及すること。
これらは、いずれも制度として認められた権利の行使です。会社としては、それぞれについて制度に従って対応することになります。
株主提案として提出された場合
剰余金の配当に関する議案が株主提案として提出された場合、会社は、要件を満たすかどうかを確認したうえで、招集通知への記載の要否を判断することになります。
この点については、株主提案に関する記事をご参照ください。
役員報酬との関係
配当をしない一方で役員報酬が高額であるという指摘がされることがあります。同族会社においては、しばしば争点となる事項です。
会社側としては、報酬の決定の手続と、職務の内容に照らした相当性を説明できるようにしておく必要があります。この点は、後に非上場株式の価格が争われた場合にも問題となります。
配当をしないことが問題となる場面
配当をしないという判断が、それ自体で直ちに違法となるものではありません。
もっとも、会社の資金が支配株主又はその関係者のために用いられている一方で、他の株主には何らの分配もされていないという状況がある場合、会社の財産の管理のあり方が問題とされることがあります。
したがって、会社側としては、内部に留保する理由を説明できるようにしておくことが望まれます。
種類株式による対応
株主の類型に応じて配当に関する取扱いを変えるという方法が検討されることがあります。定款の変更を要し、株主総会の決議が必要です。
対立が顕在化する前の平時において検討すべき事項です。
会社側の実務
表2 配当の増額を求められた場合の手順
| 順序 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 要求の内容と時期を記録します |
| 第2 | 要求の背景を見極めます |
| 第3 | 定款と機関設計により、配当の決定の権限を確認します |
| 第4 | 分配可能額を確認します |
| 第5 | 配当に関する会社の方針を整理します |
| 第6 | 内部に留保する理由を説明できるように整理します |
| 第7 | 回答の窓口を一本化します |
| 第8 | 今後想定される権利行使に備えます |
要求の記録を残します
書面による要求の場合はその原本を、口頭による場合はその内容と日時を記録してください。後日の展開において、経緯が問題となることがあります。
方針を整理します
配当に関する会社の方針を整理してください。過去に配当を行ったことがあるか、行わなかった理由は何か、今後の見通しはどうかという点です。
方針が整理されていないまま場当たり的に回答すると、説明が一貫しないことになります。
回答の窓口を一本化します
複数の担当者が個別に回答すると、内容が食い違います。窓口を一本化してください。
今後の展開に備えます
配当の要求の後には、会計帳簿閲覧謄写請求、株主提案、株式の買取りの要求といった展開があり得ます。それぞれについて、対応の方針をあらかじめ整理しておいてください。
役員報酬に関する記録を整えます
役員報酬の決定の手続と、職務の内容に関する記録を整えてください。
関連する手続
配当の要求と前後して、会計帳簿閲覧謄写請求が行われることがあります。この点については、会計帳簿閲覧謄写請求に関する各記事をご参照ください。
株主提案として議案が提出された場合については、株主提案に関する記事をご参照ください。
株式の買取りを求められた場合については、買取りの要求に関する記事をご参照ください。
弁護士に相談する意味
配当の要求そのものは、会社が直ちに対応を迫られる事項ではありません。もっとも、この要求は、多くの場合、その後の展開の入口です。
弁護士が関与する意味は、要求の背景を見極め、その後に想定される権利行使に備えることにあります。配当への回答だけを検討して終えると、次の権利行使に備える機会を失います。
また、内部に留保する理由の整理、役員報酬に関する記録の整備は、後に非上場株式の価格が争われた場合にも意味を持ちます。この段階で整えておくことが、将来の負担を軽減します。
さらに、この要求は、株主構成をどのように整えるかという問題と結び付いています。当該株主との関係が今後どうなるのかという見通しを立てたうえで、方針を決めることが望まれます。
なお、回答の内容と時期の選択については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくあるご質問
質問1 配当をしなければならない義務はありますか。
法律及び定款に定められた手続に従って決定される事項です。株主が求めたからといって、当然に応じる義務を負うものではありません。
質問2 利益が出ているのに配当しないのは問題ですか。
それ自体で直ちに違法となるものではありません。もっとも、内部に留保する理由を説明できるようにしておくことが望まれます。
質問3 役員報酬が高いと言われています。
決定の手続と、職務の内容に照らした相当性を説明できるようにしておく必要があります。
質問4 配当をすれば紛争は収まりますか。
背景によります。株式の買取りを求める前段階として行われている場合、配当をしても要求は続くことがあります。
質問5 一部の株主にだけ配当することはできますか。
株主に対する割当てについては規律があります。取扱いを変える場合には、種類株式等の検討が必要です。
質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の計算書類、配当の実績が分かる資料、役員報酬に関する議事録、当該株主とのやり取りが分かる資料をご持参ください。
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