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株主代表訴訟で問われた会社による車両の購入と、私的な使用目的の有無―東京地方裁判所平成25年5月29日判決

公開 2013年5月29日

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株式の85パーセントを保有する代表取締役とその妻である取締役が、会社に約790万円の乗用車を購入させ、自宅の駐車場に置いて使っていたことについて、10パーセントの株式を持つ少数株主が、私的に使用する目的で会社に車両を購入させたのは善管注意義務・忠実義務に違反するとして、株主代表訴訟で758万0932円の賠償を求めた場面の判例です。東京地方裁判所平成25年5月29日判決は、代表取締役の送迎や銀行・事務用品の買物といった業務のために使う目的があり、私的な使用が購入の主たる目的であったとは認められず、購入自体も取締役の裁量の範囲を逸脱していないとして、請求を棄却しました。

本判決は、業務上の使用と私的な使用が混在する会社の資産の購入について、私的な使用が主たる目的であったかどうかと、購入自体が裁量の範囲を逸脱しているかどうかという二段階で任務懈怠を判断しました。自宅保管、私的な買物への使用、役員の車両の下取りといった、私的利用をうかがわせる五つの事情を一つずつ検討して退けている点で、会社・役員の側が反論を組み立てる際の参考になります。

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 東京地方裁判所 平成25年5月29日 平成24年(ワ)第9812号 判決 請求棄却。訴訟費用は株主の負担

控訴の有無及び判決の確定は、確認できていません。判決本文から関連する審級の判決は確認できていません。この表は、判決本文の冒頭、主文及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた「原告」「被告」「訴外会社」等の呼称や符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
少数株主SHM氏 原告です。平成18年3月頃から対象会社HMKの株主で、1000株のうち100株を保有していました
代表取締役HTA氏 被告です。対象会社HMKの代表取締役で、750株を保有していました
取締役WKA氏 被告です。代表取締役HTA氏の妻で、対象会社HMKの取締役として100株を保有していました
医療・福祉施設のコンサルティング会社HMK(対象会社HMK) 訴訟の当事者ではありません(株主代表訴訟で損害賠償の支払先とされた会社です)。平成15年設立で、保健・医療・福祉施設の経営・運営に関するコンサルタント業務等を目的とし、資本金は5000万円、株式の譲渡に取締役会の承認を要する会社です
自動車販売会社CJG 訴訟の当事者ではありません。対象会社HMKに車両を販売した会社です

対象会社HMKの株主は、代表取締役HTA氏(750株)、取締役WKA氏(100株)、少数株主SHM氏(100株)及びもう1名の株主(50株)でした。

事案の概要

会社による車両の購入と、役員の車両の下取り

対象会社HMKは、平成22年11月29日、自動車ローンを利用して、自動車販売会社CJGから普通乗用自動車(以下「本件車両」といいます)を購入しました。購入の際には、取締役WKA氏が登録上の使用者であった普通乗用自動車(以下「下取車両」といいます)が下取りに出されました。

本件車両の購入に要する支払総額は788万0932円で、下取車両の価格235万3333円からそのローン残債205万3333円を差し引いた30万円を控除し、対象会社HMKは758万0932円(現金205万3333円、ローン552万7599円)を支払うものとされました。本件車両の登録上、所有者は自動車販売会社CJG、使用者は対象会社HMK、使用の本拠の位置は役員2名の自宅の住所地とされていました。

提訴請求と株主代表訴訟

少数株主SHM氏は、平成23年12月6日、本件車両は役員2名が私的に使用するために会社の出捐で購入したものであるとして、対象会社HMKに役員の責任を追及する訴えの提起を請求しましたが、対象会社HMKは所定の期間内に訴えを提起しませんでした。そこで、少数株主SHM氏は、会社法423条1項・430条に基づき、役員2名が対象会社HMKに連帯して758万0932円とこれに対する遅延損害金を支払うよう求める株主代表訴訟を提起しました。

事案の経緯

時期 出来事
平成15年5月8日 対象会社HMKの設立
平成18年3月頃 少数株主SHM氏が株主となる
平成18年6月25日 代表取締役HTA氏が代表取締役に、取締役WKA氏が取締役に再任
平成22年11月29日 対象会社HMKが本件車両を購入。取締役WKA氏の下取車両を下取りに出す
平成23年12月6日 少数株主SHM氏が対象会社HMKに提訴を請求。会社は所定の期間内に提訴せず
平成25年5月29日 東京地方裁判所が請求を棄却

当事者の請求と主要な主張

争点 少数株主SHM氏の主張 役員2名の主張
車両の購入の目的 役員2名が自宅で私的に使用する目的で会社に購入させたもので、善管注意義務(会社法330条、民法644条)と忠実義務(会社法355条)に違反する 代表取締役HTA氏の送迎と、取締役WKA氏が会社の業務を行う際の移動手段として使うためであり、私的な使用のためではない
下取り 取締役WKA氏が自己の車両を下取りに出し、そのローン残債を免れた 下取りにより会社は30万円の支払を免れており、任務懈怠ではない
監視義務 取締役WKA氏は、私的な使用目的を知りながら代表取締役HTA氏を監視・監督しなかった(会社法362条2項2号) 代表取締役HTA氏に任務懈怠がない以上、監視義務違反もない
損害 会社が支出した758万0932円 損害の発生を争う。本件訴訟は嫌がらせ等を目的とする濫訴である

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決の結論を左右したのは、業務上の使用目的と私的な使用目的が併存し得る車両の購入について、どのような場合に取締役の任務懈怠となるか、そして、本件でうかがわれた私的利用の事情が、私的な使用を「主たる目的」とする購入であったことを推認させるかという点です。

裁判所の判断

判断の枠組み―私的な使用が主たる目的か、裁量の範囲の逸脱があるか

判決は、次のとおり判断の枠組みを示しました。

「〔役員2名〕が〔対象会社HMK〕をして本件車両を購入させる際に本件車両を〔対象会社HMK〕の業務のために使用する目的を有していた場合に、仮に、それと同時に、〔役員2名〕が本件車両を私的に使用する目的を有していたとしても、〔役員2名〕が本件車両を私的に使用することが本件車両購入の主たる目的であったものとは認められない場合には、他に〔役員2名〕が〔対象会社HMK〕をして本件車両を購入させたこと自体が〔役員2名〕の取締役としての裁量の範囲を逸脱したものと解すべき事情が存するときでない限り、〔役員2名〕が〔対象会社HMK〕をして本件車両を購入させたことが、取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとはいえず、したがって、〔役員2名〕の任務懈怠に当たるとはいえないと解するのが相当である。」

認定された使用状況―業務のための使用目的があった

判決は、次の使用状況を認定し、そこから、業務のために使用する目的があったことを推認しました。

  • 代表取締役HTA氏は、本店の事務所で執務するほか、他県に出張し、自宅でも原稿の執筆等の業務を行っていたこと
  • 取締役WKA氏が、出張の出発や帰宅が早朝・深夜になるときに、月に数回程度、自宅と駅との間で代表取締役HTA氏を送迎していたこと
  • 取締役WKA氏が、従業員の給与の振込みや税金の納付のために、月に数回程度、自宅から約7.8キロメートル(自動車で約16分)の銀行の支店に行っていたこと
  • 取締役WKA氏が、代表取締役HTA氏の依頼で事務用品や図書類を購入するために、自宅から約1.4キロメートル(自動車で約5分)の百貨店に行っていたこと

私的利用をうかがわせる五つの事情は、いずれも主たる目的の推認につながらない

判決は、私的な使用の目的をうかがわせる事情として次の五つを認めたうえで、いずれも、私的な使用が購入の主たる目的であったと推認させるものではないとしました。

私的利用をうかがわせる事情 判決の評価
取締役WKA氏が私的な買物に使うことがあった 専ら私的な買物に使っていたと認める証拠はない。使用方法が相当であったかはともかく、主たる目的の推認にはつながらない
使用の本拠が自宅で、自宅の駐車場に置かれていた 使用状況は自宅周辺での送迎と業務であり、事務所周辺の駐車場代(月額5万円台から8万円台程度)は自宅周辺(月額6000円台から8000円台程度)より高額である
取締役WKA氏の車両が下取りに出された 下取りにより会社は30万円の支払を免れており、会社にも利点がある
現在はガソリン代やETC料金を役員が個人で負担している 当初は会社の経費とされ、会社の経営状態が悪化した後に個人負担としたものである
運転するのは取締役WKA氏だけで、従業員等は運転しなかった 使用状況からすると、取締役WKA氏以外の者が運転する必要があったとは認められない

購入自体も裁量の範囲を逸脱していない

判決は、使用状況に加えて、支払総額788万0932円に対して資本金が5000万円であること、役員2名が株式の85パーセントを保有する株主であることを併せて考えると、本件車両を購入させたこと自体が取締役としての裁量の範囲を逸脱したとは解されないとしました。そして、次のとおり述べて、任務懈怠を否定しました。

「〔役員2名〕が〔対象会社HMK〕をして本件車両を購入させたことが最善の選択肢であったか否か(例えば、より廉価な車両を購入するなどの選択肢がなかったか否か)はともかく、〔役員2名〕が〔対象会社HMK〕をして本件車両を購入させたことが、取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとはいえず、したがって、〔役員2名〕の任務懈怠に当たるとはいえない。」

下取りと監視義務についての判断

下取りについては、会社が30万円の支払を免れ、会社にも利点があることから、取締役WKA氏の任務懈怠には当たらないとされました。監視義務違反の主張については、代表取締役HTA氏の任務懈怠が認められない以上、その前提を欠くとされました。判決は、その余の点(損害や濫訴の主張)について判断するまでもなく、請求を棄却しています。

主文及び結論

判決の主文は、「〔少数株主SHM氏〕の請求をいずれも棄却する。」「訴訟費用は〔少数株主SHM氏〕の負担とする。」というものです。

主張 判断
私的使用目的による購入の任務懈怠 業務上の使用目的があり、私的な使用が主たる目的とは認められず、裁量の逸脱もないとして否定
下取りの任務懈怠 会社にも利点があるとして否定
監視義務違反 前提を欠くとして否定

判断の射程

参考となる点

  • 会社の資産を役員が業務と私的な用途の双方に使う場合でも、業務上の使用目的があり、私的な使用が主たる目的でなければ、直ちに任務懈怠とはならないという枠組みが示されています。
  • 自宅での保管、私的な買物への使用、役員の車両の下取り、費用の個人負担、運転者の限定といった、私的利用をうかがわせる事情について、業務の内容、駐車場代の比較、会社にとっての利点、費用負担が変わった経緯を示すことで、反論が認められています。会社・役員の側は、使用の実態を具体的な記録で示せるようにしておくことが大切です。
  • 購入額と資本金の規模、役員の持株比率が、裁量の範囲の判断で考慮されています。

一般化できない点

  • 判決は「最善の選択肢であったか否か」は判断していません。より高額な資産の購入や、業務上の必要性が乏しい場合、私的な使用が中心である場合には、結論が異なる可能性があります。
  • 役員2名が株式の85パーセントを保有する同族的な会社の事案です。株主構成が異なる会社に同じ判断がそのまま当てはまるとは限りません。
  • 本判決は第一審の判決で、控訴の有無と確定は確認できていません。

よくあるご質問

会社名義の車を役員が私的にも使っていると、株主代表訴訟で責任を問われますか。

本判決では、業務上の使用目的があり、私的な使用が購入の主たる目的であったとは認められず、購入自体も裁量の範囲を逸脱していないとして、責任が否定されました。私的な使用の事実があるだけで直ちに責任が生じるわけではありませんが、業務上の使用の実態を説明できることが前提になります。

会社の車を役員の自宅に置いていることは問題になりますか。

本件では、使用の本拠が役員の自宅とされていましたが、使用状況が自宅周辺での送迎と業務であり、事務所周辺の駐車場代が高額であることから、私的な使用の目的を推認させるものではないとされました。保管場所を選んだ理由を合理的に説明できるかが問われます。

役員個人の車を下取りに出して会社が新しい車を買ったことは、役員の利益相反になりませんか。

本判決では、下取りによって会社が30万円の支払を免れており、会社にも利点があるとして、任務懈怠は否定されました。もっとも、取引の条件によっては利益相反取引の規制が問題となり得るため、取引の内容と会社にとっての経済的な効果を確認しておくことが大切です。

提訴請求を受けた会社は、どのように対応すればよいですか。

本件では、会社は所定の期間内に訴えを提起せず、株主が株主代表訴訟を提起しました。提訴請求を受けた会社は、期間内に事実関係を調査し、訴えを提起するかどうかを判断する必要があります。調査の過程で集めた使用記録や費用の資料は、その後の訴訟でも重要な証拠になります。

関連する記事と御相談のご案内

会社の資産の購入や経費の支出について、株主から代表訴訟や提訴請求によって役員の責任を問われた場合は、購入の決定の経緯、業務上の必要性、実際の使用状況の記録、費用の負担の推移、会社の規模と購入額の関係を整理し、任務懈怠の有無と損害の両面から検討することが大切です。株主代表訴訟や提訴請求への対応については株主代表訴訟・提訴請求への対応に関する御相談で御案内しています。提訴請求を受けた後の会社の進め方は提訴の請求を受け取った会社が60日以内に行うことで、経営判断の合理性の主張の仕方は経営判断の原則を会社の側からどのように主張するかで解説しています。取締役の責任追及への対応全般は取締役の責任追及に関する御相談を、少数株主対策・スクイーズアウトに関するほかの裁判例は少数株主対策・スクイーズアウトの裁判例の解説記事一覧をご覧ください。

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この記事の位置付け

少数株主から株主代表訴訟を起こされ、会社の資金で購入した車両を役員が私的に使うためのものだと主張された取締役の側に向けて、業務上の使用目的があれば任務懈怠に当たらないとされた判断の枠組みを、判決本文に沿って解説します。

株主から役員の責任を追及される場面への備えに関する当事務所の対応は、株主代表訴訟・提訴請求への対応に関する御相談のページで御案内しています。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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