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株式併合による株主代表訴訟の原告適格の喪失と元役員の会計処理責任―東京高等裁判所令和7年3月19日判決

公開 2025年3月19日

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上場会社が元役員に対して会計処理の違法を理由とする損害賠償を求めた訴訟に、株主が共同訴訟参加し、別の元役員を被告とする株主代表訴訟も併合されていたところ、第一審判決の後に会社が株式併合を行い、株主が1株に満たない端数しか持たなくなった場面の判例です。東京地方裁判所令和5年3月28日判決は、インフラ案件3件の会計処理を違法と認め、会社の訴訟では元役員3名に各1億円から2億円(一部連帯)、株主代表訴訟では別の元役員2名に3億0,860万円と2億0,860万円(後者は前者と連帯)を会社に支払うよう命じていました。

ところが、控訴審の係属中に株式併合が行われ、東京高等裁判所令和6年3月6日判決は、株主は原告適格を喪失したとして、第一審判決のうち株主の参加申出と株主代表訴訟に関する部分を取り消し、これらをいずれも却下しました。その後に残った会社自身の請求について、東京高等裁判所令和7年3月19日判決は、インフラ案件の引当金の計上が不足していた可能性や、計上すべき引当金を計上しなかったことを認めながらも、会社の企業規模に照らせば有価証券報告書等の重要な事項についての虚偽記載とはいえず、違法な会計処理とはいえないとして、第一審判決が元役員3名に命じた賠償を取り消し、会社の請求をすべて棄却しました。

本記事では、株主代表訴訟や善管注意義務違反の追及を受ける会社・支配株主の立場から、株式併合が係属中の株主の訴えにどのような影響を及ぼしたのか、また、会社が自ら提起した役員責任追及訴訟で、会計処理の違法性と役員の責任がどのような枠組みで判断され、審級によってどう変わったのかを、3つの判決に沿って整理します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 会計処理の問題の発覚から会社の提訴まで
    2. 会社自身が元役員を訴えた訴訟と、株主の参加・株主代表訴訟
    3. 第一審判決の後に行われた株式併合
  4. 事案の経緯
  5. 問題とされた会計処理の概要
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 会社と株主の主張
    2. 元役員側の主な主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審の判断(東京地方裁判所令和5年3月28日判決)―インフラ案件3件の会計処理を違法とし、元役員5名の責任を認めた
    1. 会計上の見積りの判断枠組み
    2. 海外地下鉄案件―全期間の引当金の不計上・過少計上を違法とした
    3. 国内インフラ案件―控訴審より大きい額の引当金が必要であったとした
    4. 原子力発電所建設案件―会社独自の見積値は会計基準に合致しないとした
    5. 部品有償支給取引とキャリーオーバー案件―違法とはいえないとした
    6. 各役員の責任―社長・財務部門担当役員と、取締役であった事業部門の役員の責任を認めた
    7. 損害―課徴金の一部、上場契約違約金及び信用毀損1億円を認めた
    8. 第一審の結論
  9. 控訴審の判断(令和6年3月6日判決)―株式併合による原告適格の喪失
    1. 株式併合で端数となった株主は原告適格を喪失した
    2. 本案の判断をした第一審判決を取り消し、口頭弁論を経ずに却下した
    3. 会社自身の請求は残った
  10. 控訴審の判断(令和7年3月19日判決)―会社の請求の全部棄却
    1. 第一審判決の引用と補正
    2. 海外地下鉄案件―平成26年度第1四半期末を除き、引当金の計上は不要(第一審を変更)
    3. 国内インフラ案件―計上すべき引当金を計上していなかった(額は第一審より小さい)
    4. 原子力発電所建設案件―子会社の見積値の方が信頼できるとはいえない(第一審を変更)
    5. 部品有償支給取引―一般的な会計基準が確立していなかった(第一審を維持)
    6. キャリーオーバー案件―第一審の判断を引用(第一審を維持)
    7. 重要性の判断―引当金の過少計上でも違法とはいえない
  11. 審級ごとの結論の推移
  12. 主文及び結論
  13. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 株主代表訴訟を抱える会社・支配株主が確認しておきたいこと
  14. よくあるご質問
    1. 株主代表訴訟の係属中に株式併合を行い、原告の株主が1株に満たない端数しか持たなくなった場合、訴訟はどうなりますか。
    2. 第一審で役員に支払を命じる判決が出た後に株式併合が行われた場合でも、訴えは却下されますか。
    3. 係属中の株主代表訴訟を終わらせるために株式併合を行ってもよいですか。
    4. 株主の訴えが却下されれば、役員の責任追及は終わりますか。
    5. 引当金の計上が不足していた場合、役員は必ず会社に対して責任を負いますか。
    6. 会社が納付した課徴金を、役員に賠償させることはできますか。
    7. 監査法人が問題を指摘しなかったことは、役員側に有利に考慮されますか。
  15. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 東京地方裁判所民事第8部 令和5年3月28日 平成27年(ワ)第31552号、平成28年(ワ)第329号、同年(ワ)第16367号、同年(ワ)第16322号 判決 会社の訴訟(第1事件から第3事件まで)では、元役員DMN氏に1億円、元役員EKS氏に1億円(いずれも元役員GRS氏と連帯)、元役員GRS氏に2億円と遅延損害金の支払を命じ、その余の請求と、相続人3名及び元役員FJT氏に対する請求を棄却。株主代表訴訟(第4事件)では、元役員HSM氏に3億0,860万円、元役員JKN氏に2億0,860万円(元役員HSM氏と連帯)と遅延損害金を電機メーカーKDNに支払うよう命じ、その余の請求と、他の元役員8名に対する請求を棄却
控訴審(株主の参加申出及び株主代表訴訟の部分) 東京高等裁判所第15民事部 令和6年3月6日 令和5年(ネ)第2927号 判決 原判決中、第2事件から第4事件までに関する部分を取り消し、株主2名の各共同訴訟参加申出及び株主代表訴訟の訴えをいずれも却下
控訴審(会社の請求の部分) 東京高等裁判所第15民事部 令和7年3月19日 令和5年(ネ)第2927号 判決 原判決中、元役員3名の各敗訴部分を取り消して会社の請求を棄却し、会社の控訴を棄却。訴訟費用は第1審・第2審を通じて会社の負担

2つの控訴審判決は、同じ東京高等裁判所第15民事部の同じ事件番号の判決です。令和7年3月19日判決の本文は、第一審で併合審理されていた株主の参加申出と株主代表訴訟について、株式併合により株主が原告適格を喪失したことから「令和6年3月6日」に却下の判決が言い渡されていると述べており、3つの判決が同じ事件の一連の裁判であることが確認できます。

上訴の状況は次のとおりです。第一審判決に対しては、会社と元役員DMN氏、元役員EKS氏及び元役員GRS氏がそれぞれ控訴したことが令和7年3月19日判決の本文から確認できます。令和6年3月6日判決の当事者の表示からは、株主MRY氏と、株主代表訴訟の被告のうち元役員HSM氏及び元役員JKN氏も控訴人となっていたことが分かります。2つの控訴審判決に対する上告又は上告受理申立ての有無及び判決の確定は、確認できていません。この表は、3つの判決本文の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。3つの判決は、同じ人物を異なる符号で表示していますが、本記事では同じ人物に同じ表記を用いています。また、判決本文が会計処理の対象となった案件や社内の組織を略称で呼んでいる部分は、内容が分かる説明的な名称に置き換えています。

本記事の表記 立場
電機メーカーKDN 第1事件の原告。各種電気機械器具製造業等を目的とする上場会社で、本件当時は平成26年改正前の会社法の委員会設置会社でした。事業グループを「カンパニー」と呼ぶ社内カンパニー制を採っていました。判決は、その会計処理の適法性を米国会計基準に照らして判断しています
元役員HKM氏 電機メーカーKDNの取締役兼代表執行役であった者で、第1事件の被告。第一審の係属中に死亡し、限定承認をした相続人3名が訴訟を承継しました
元役員DMN氏 平成21年6月24日から平成25年6月24日まで取締役兼代表執行役社長であった者で、第1事件の被告
元役員EKS氏 平成25年6月25日から平成27年7月21日まで取締役兼代表執行役社長であった者で、第1事件の被告。判決本文で「コーポレート社長」と表示されている場面があります
元役員FJT氏 電機メーカーKDNの取締役兼代表執行役であった者で、第1事件の被告。会社の主張によれば、部品有償支給取引についてだけ責任を追及されました
元役員GRS氏 平成23年6月22日から平成26年6月24日まで財務部門担当の取締役兼代表執行役であった者で、第1事件の被告
株主NKT氏 電機メーカーKDNの株主であった者で、第1事件に共同訴訟参加しました(第2事件)
株主MRY氏 電機メーカーKDNの株主であった者で、第1事件に共同訴訟参加し(第3事件)、別の元役員10名を被告とする株主代表訴訟も提起しました(第4事件)
元役員HSM氏 社会インフラ事業等の事業グループを担当する取締役兼代表執行役であった者で、第4事件(株主代表訴訟)の被告
元役員JKN氏 社会インフラの社内カンパニーの社長(執行役)であり、平成26年6月25日からは取締役兼代表執行役となった者で、第4事件の被告
元執行役TKY氏 平成25年10月1日から、国内インフラ案件を引き継いだ社内カンパニーの社長(執行役)であった者で、第4事件の被告
その他の第4事件の被告7名 電力事業の社内カンパニーの社長・副社長であった元執行役2名と、部品有償支給取引やキャリーオーバー案件について責任を追及された元役員5名
補助参加した株主 第一審で、電機メーカーKDNの側に補助参加した別の株主1名
海外地下鉄案件 電機メーカーKDNの海外子会社が受注した、海外の地下鉄関連のインフラ案件。発注者は海外の交通事業体OPA、海外子会社の発注元は重工業メーカーRVC(その関係会社を含みます)です
国内インフラ案件 社会インフラの社内カンパニーが受注し、後に別の社内カンパニーが引き継いだ国内のインフラ設備の更新工事の案件
海外原子力子会社NPX、原子力発電所建設案件 電機メーカーKDNの海外子会社で、新規の原子力発電所の建設工事を請け負っていた会社と、その案件
部品有償支給取引 電機メーカーKDNのグループがパソコンの部品を製造委託先(判決本文の表記は「ODM」)に売却し、製造委託先が製造した完成品を買い取っていた取引。判決本文は「バイセル取引」と呼んでいます
監査法人ADT 電機メーカーKDNの会計監査人であった監査法人
海外監査法人OVA 海外原子力子会社NPXの会計監査を担当していた海外の監査法人

事案の概要

会計処理の問題の発覚から会社の提訴まで

第一審判決が前提事実として認定したところによれば、電機メーカーKDNは、平成27年2月に、インフラ関連の案件等について証券取引等監視委員会から報告命令及び開示検査を受け、自己検査の結果、特別調査委員会、次いで第三者委員会を設置しました。第三者委員会は、インフラ関連案件の会計処理、映像事業の経費計上、半導体事業の在庫評価、パソコン事業の部品取引等について不適切な会計処理を認定し、電機メーカーKDNは、平成27年9月7日、過年度の決算を修正しました。

株主NKT氏は平成27年9月9日に役員の責任を追及する訴えの提起を請求し、電機メーカーKDNは役員責任調査委員会を設置しました。同委員会は、元役員HKM氏、元役員DMN氏、元役員EKS氏、元役員FJT氏及び元役員GRS氏について善管注意義務違反を認定し、訴訟による責任追及が相当とする報告書を提出しました。電機メーカーKDNは、同年11月7日、この5名を被告として第1事件を提起しました。

会社自身が元役員を訴えた訴訟と、株主の参加・株主代表訴訟

電機メーカーKDNは、元役員5名の在任中に行われた会計処理が、会社法431条(株式会社の会計は一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする旨の規定)に違反する違法なものであり、元役員らに取締役又は執行役としての善管注意義務違反があったと主張して、会社法423条1項に基づく損害賠償を求めました(第1事件。東京地方裁判所平成27年(ワ)第31552号)。損害として主張したのは、金融庁に納付した課徴金合計73億7,350万円、2つの証券取引所に支払った上場契約違約金合計1億0,860万円、過年度決算の修正に係る監査報酬合計30億2,850万9,000円の一部、及び信用毀損1億円です。

請求額は、元役員HKM氏の関係で19億円(相続人3名に対する請求の合計)、元役員DMN氏に対して32億円、元役員EKS氏に対して28億円、元役員FJT氏に対して27億円、元役員GRS氏に対して17億円と、それぞれの遅延損害金です。いずれも損害の一部を、被告の組合せごとに連帯して支払うよう求める形で請求されていました。相続人3名に対しては、相続した財産の存する限度での支払を求める予備的請求も追加されています。

この第1事件に、株主NKT氏が平成28年1月7日に(第2事件)、株主MRY氏が同年5月21日に(第3事件)、電機メーカーKDNの共同訴訟人として共同訴訟参加しました。さらに、株主MRY氏は、提訴請求をしたものの監査委員らが訴えを提起しない旨を通知したことから、同日、会社の訴訟で被告とされなかった元役員10名に対し、会社法847条3項に基づき、同法423条1項に基づく損害金等の一部を電機メーカーKDNに連帯して支払うよう求める株主代表訴訟を提起しました(第4事件)。第一審では、これらの事件が併合して審理され、令和5年3月28日に判決がされました。

第一審判決の後に行われた株式併合

控訴審の係属中である令和5年11月22日、電機メーカーKDNの臨時株主総会で、多数の普通株式を1株に併合する株式併合を承認する議案が可決され、同年12月22日に株式併合の効力が発生しました。これにより、株主NKT氏と株主MRY氏が保有していた株式は、いずれも1株に満たない端数となりました。令和6年3月6日判決は、これらの事実を「記録によれば」認められるとしています。

判決本文は、株式併合が行われた理由や、株式併合に至る経緯については述べていません。本記事でも、判決本文に記載のない事情は取り上げていません。

事案の経緯

時期 出来事(3つの判決の本文による)
平成20年度第2四半期から平成26年度第3四半期まで 部品有償支給取引について、部品の売却に係る利益を計上し、完成品として買い取らなかった分の利益を四半期末に消去しない会計処理が続く
平成23年度第4四半期から平成26年度第1四半期まで 海外地下鉄案件について、引当金を計上せず、又は第一審が必要と認めた額に満たない引当金を計上
平成25年6月27日付け 国内インフラ案件について、改善策を全て実現しても約35億9,600万円の損失が見込まれる旨の資料
平成25年7月8日・10日 元役員JKN氏が、元役員GRS氏及び元役員HSM氏に(8日)、元役員EKS氏に(10日)、海外地下鉄案件や国内インフラ案件の損益見通しを報告
平成25年8月22日付け 国内インフラ案件について、45億円の損失引当を実施したい旨の報告資料
平成25年度第2四半期末 海外地下鉄案件について25億円の引当金を計上。原子力発電所建設案件の工事原価総額の増加見積値を6,900万米ドルとして決算
平成25年11月13日から19日付け 国内インフラ案件について、施策をほとんど実現しても約87億円の損失が見込まれる旨の資料
平成25年11月16日 元役員EKS氏が、元執行役TKY氏に、損失を第3四半期ではなく第4四半期に認識する方向で求めるメールを送信
平成25年11月22日頃 社内カンパニーが、コーポレート側からの指示を受けて、国内インフラ案件の損益見込額を約87億円の損失から約35億円の損失に訂正
平成25年度第3四半期末 原子力発電所建設案件の増加見積値を2億9,300万米ドルとして決算。国内インフラ案件の引当金は計上せず
平成25年度第4四半期末 国内インフラ案件について約35億円の損失を前提とする引当金を計上。海外地下鉄案件について6億円の引当金を追加計上
平成26年6月20日付け 海外地下鉄案件について、ベース分で約6,430万米ドルの損失が見込まれ、オプション分は損益ゼロを目標とする旨の書面
平成27年2月12日 証券取引等監視委員会による報告命令及び開示検査
平成27年4月から7月まで 特別調査委員会、次いで第三者委員会を設置。第三者委員会が不適切な会計処理を認定する報告書を提出
平成27年9月7日 過年度決算を修正。部品有償支給取引の利益を消去する会計処理を行い、有価証券報告書等の訂正報告書を公表
平成27年9月9日 株主NKT氏が監査委員らに役員の責任を追及する訴えの提起を請求
平成27年11月7日 役員責任調査委員会の報告書の提出。電機メーカーKDNが第1事件を提起
平成27年12月24日・平成28年1月27日 金融庁長官の課徴金納付命令の決定。電機メーカーKDNが合計73億7,350万円を納付
平成28年1月7日 株主NKT氏が第1事件に共同訴訟参加(第2事件)
平成28年5月21日 株主MRY氏が第1事件に共同訴訟参加(第3事件)し、株主代表訴訟を提起(第4事件)
平成29年12月8日 元役員HKM氏が死亡し、相続人3名が訴訟を承継
平成30年3月30日 企業会計基準委員会が、収益認識に関する会計基準及びその適用指針を公表
令和5年3月28日 東京地方裁判所が第一審判決を言渡し。会社、元役員DMN氏、元役員EKS氏、元役員GRS氏、株主MRY氏、元役員HSM氏及び元役員JKN氏が控訴
令和5年11月22日 電機メーカーKDNの臨時株主総会で、株式併合を承認する議案が可決
令和5年12月22日 株式併合の効力が発生。株主NKT氏及び株主MRY氏の保有株式はいずれも1株に満たない端数となる
令和6年3月6日 東京高等裁判所が、株主の各共同訴訟参加申出と株主代表訴訟をいずれも却下する判決
令和7年3月19日 東京高等裁判所が、会社の請求をすべて棄却する判決

四半期の表示は、電機メーカーKDNの決算期(毎年3月末日)を前提とする判決本文の表示によります。控訴した者は、令和7年3月19日判決の本文と令和6年3月6日判決の当事者の表示から確認できる範囲で記載しています。

問題とされた会計処理の概要

会社と株主が違法と主張した会計処理は、次の5つの案件に関するものです。

案件 違法と主張された会計処理
海外地下鉄案件 平成23年度第4四半期から平成26年度第1四半期までの各四半期末に、見込まれる損失に対する引当金を計上せず、又は過少に計上した
国内インフラ案件 平成25年度第1四半期から第3四半期までの各四半期末に、見込まれる損失に対する引当金を計上しなかった
原子力発電所建設案件 平成25年度第2四半期及び第3四半期に、工事原価総額の増加見積値を、海外原子力子会社NPXの見積値より低い会社独自の見積値とした
部品有償支給取引 部品の売却に係る利益(判決本文は「マスキング値差」と表記しています)を計上し、完成品として買い取らなかった分の利益を四半期末に消去しなかった。グループ内の取引に係る未実現利益も消去しなかった
キャリーオーバー案件 映像事業において、費用計上の先送り、特許のライセンス料に係る引当金の未計上、グループ内の取引に係る未実現利益の未消去等を行った

海外地下鉄案件と国内インフラ案件では、受注後の仕様の変更・追加に伴って契約金額を増額する交渉(判決本文は「SPアップ」と表記しています)とコスト削減によって損失を回避できるかどうか、また、海外地下鉄案件では、基本契約(ベース分)の損失を追加発注(オプション分)の利益で埋め合わせることを見込んでよいかどうかが、引当金の要否の判断の中心になりました。

当事者の請求と主要な主張

会社と株主の主張

電機メーカーKDNと株主の主張の骨子は、次のとおりです(株主の主張は、会社の主張と同旨とされた部分が多くあります)。

  • 海外地下鉄案件。損益の目標値はSPアップの実現を前提とするが、発注者が認めない限り重工業メーカーRVCは増額に応じない旨の合意があり、交渉も進展せず、SPアップは実現困難であった。オプション分は発注の確実性がなく、収益の見積りに含めることは許されない。
  • 国内インフラ案件。平成25年度第1四半期末に少なくとも約36億円、第2四半期末に少なくとも約45億円、第3四半期末に少なくとも約87億円の引当金を計上すべきであった。
  • 原子力発電所建設案件。海外原子力子会社NPXの見積値は外部アドバイザーのレビューや海外監査法人OVAの確認を経ており、監査法人ADTも追加コストの反映が必要と指摘していた。会社独自の見積値は米国会計基準のいう「最も可能性の高い金額」とも「最も低い利益額」ともいえない。
  • 部品有償支給取引。部品の取引と完成品の取引は一連一体の取引であり、経済的実態を重視する考え方(実質優先主義)、重要性の原則、真実性の原則、収益認識の要件、日本公認会計士協会の会計制度委員会の研究報告に照らし、利益を消去しなかった会計処理は違法である。
  • 役員の責任。各元役員は、社長、財務部門担当、事業グループ担当、カンパニー社長等の地位に応じて、公正な会計慣行を遵守させ、違法な会計処理を中止・是正させる義務を負っていたのに、これを怠り、一部の元役員は違法な会計処理を促し又は助長した。

元役員側の主な主張

第一審判決の判断部分に記載された元役員側の主な主張は、次のとおりです。

  • 会計上の見積りを要する会計処理の違法性は、経営判断原則と同じ基準で判断し、見積りを採用したことが著しく不合理であったかどうかを問題とすべきである。
  • 連結財務諸表には会計監査人の適正意見等が付されており、会計処理は会計基準に違反していない。
  • 長期の工事案件では見積りの判断に時間を要する。コスト削減施策やSPアップにより損益が改善する見込みがあった。社内カンパニーの算出した見積値は信用性に欠ける。
  • 経理部門や財務部門の判断を信頼してよかった(いわゆる信頼の原則)。
  • 課徴金を役員に転嫁すべきではなく、課徴金の納付は会社の経営判断によるものである。仮に責任があるとしても、役員ごとの関与の程度に応じて賠償額を限定・減額すべきである。

結論を左右した争点

3つの判決で結論を左右したのは、次の点でした。

  1. 会計上の見積りに基づく引当金等の会計処理の違法性を、どのような枠組みで判断するか。担当部署の見積値、損益の目標値、オプション契約の見込み、会計監査人の意見をどう評価するか(第一審判決と令和7年3月19日判決)。
  2. 引当金の計上不足が認められる場合でも、会社の企業規模に照らして、有価証券報告書等に重要な事項につき虚偽の記載をしたものといえるか。言い換えれば、会計処理の違法性の判断に重要性の観点が入るか(令和7年3月19日判決)。
  3. 一般的な会計基準が確立していない取引について、会社が後に採用した会計処理と異なる処理をしていたことが、違法な会計処理といえるか(第一審判決と令和7年3月19日判決)。
  4. 社内カンパニー制の会社で、会計処理について誰がどのような権限を持ち、各役員が違法な会計処理を認識し得たか。課徴金等のどの範囲が役員の善管注意義務違反と相当因果関係のある損害となるか(第一審判決)。
  5. 株主代表訴訟を提起し、又は会社の訴訟に共同訴訟参加した株主が、控訴審の係属中に株式併合によって1株に満たない端数しか持たなくなった場合に、その株主の訴え・参加申出が適法として維持されるか(令和6年3月6日判決)。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断(東京地方裁判所令和5年3月28日判決)―インフラ案件3件の会計処理を違法とし、元役員5名の責任を認めた

会計上の見積りの判断枠組み

第一審は、引当金の計上に関する会計処理は会計上の見積りを要するところ、見積りには不確実性が不可避的に伴い、厳しい時間的制約の中で判断されることから過度に厳密な根拠を求めることは現実的でないとしつつ、次の枠組みを示しました。

「ある会社が会計上の見積りに基づく会計処理を行う場合には、当該会計上の見積りに関する判断が、その時点において当該会社の置かれた状況の下で合理的であることを要し、その判断が合理的といえるためには、上記時点における上記状況の下で、当該判断の基礎とした事実の発生につき相応の確度があり、かつ、当該事実に基づく評価に合理性がある必要があるというべきである。」

元役員側が主張した、経営判断原則と同じ基準で判断すべきであるとの主張については、会計上の見積りに関する判断の違法性の判断基準を善管注意義務違反の判断基準と同一とする必然性はないとし、さらに次のように述べて採用しませんでした。

「一般に会社の経営陣には当該会社の業績を実態よりも良好に見せる動機が存在することなどからすれば、会計上の見積りを要する会計処理の違法性の有無に関する判断を過度に緩やかにすることは相当ではない」

第一審は、社内で算定された複数の見積値を、①何らの損益改善施策も講じなかった場合の見積値、②担当部署が相応に実現可能性があると判断した施策の成果を織り込んだ見積値、③担当部署が実現可能性が低いと判断した施策の成果まで織り込んだ見積値に区分しました。そして、案件の事情に最も精通した担当部署が算定した②の見積値は、通常は合理的に算定された数値と推認でき、③の見積値はそのように推認できないとして、少なくとも②の見積値に相当する額の引当金を計上すべきであったかどうかを検討しています。

海外地下鉄案件―全期間の引当金の不計上・過少計上を違法とした

第一審は、オプション分の収益を見積りに含めること自体は、ベース分の発効時点でオプション分も順次発効することが想定されていたとして、むしろ合理的であったとしました。しかし、オプション分について担当部署の②の見積値でみると、ベース分の損失を埋め合わせる状況にはなかったとし、オプション分の目標額がベース分の損失額とほぼ同額に設定されていたことについて、ベース分の損失額を埋め合わせる数値として便宜上使用されたものと評価せざるを得ないとしました。SPアップ施策は、発注者が認めない限り重工業メーカーRVC側も負担に応じない旨の合意があったことなどから、受注の当初から実現の確度が非常に低かったとし、コスト削減施策も、②の見積値に匹敵する規模で実現する確度を示す客観的証拠はないとしました。

その結果、平成23年度第4四半期と平成24年度第1四半期の各四半期末には少なくとも約5,500万米ドル、平成24年度第2四半期から平成25年度第1四半期までは少なくとも約4,100万米ドル、平成25年度第2四半期から平成26年度第1四半期までは少なくとも約48億2,000万円の引当金を計上すべきであったとし、これを計上しなかった会計処理はいずれも米国会計基準に違反する違法なものであったと判断しました。会計監査人の適正意見を理由とする元役員GRS氏の主張については、次のように述べて退けています。

「会計監査人が適正意見を付すことによって会計処理の違法性が否定されるものと解すべき法的根拠はない」

国内インフラ案件―控訴審より大きい額の引当金が必要であったとした

第一審は、国内インフラ案件についても同じ枠組みを用い、請負代金額の増加状況に照らして収益の見積値は合理的であったとし、それを超えるSPアップやコスト削減施策は実現の確度が低かったとしました。そして、担当部署の②の見積値に従い、平成25年度第1四半期末には少なくとも約101億円、第2四半期末には少なくとも約74億円、第3四半期末には少なくとも約115億円の引当金を計上すべきであったとして、これらを計上しなかった会計処理を違法と判断しました。会社が主張した約36億円、約45億円、約87億円は、第一審の区分では③の見積値に当たるものです。

原子力発電所建設案件―会社独自の見積値は会計基準に合致しないとした

第一審は、平成25年度第2四半期について、監査法人ADTが資料を入手して検討したうえで1億6,740万米ドルを追加コストとして反映する必要があると判断していたことなどから、会社の採用した6,900万米ドルは「最も可能性の高い金額」とはいえないとしました。海外原子力子会社NPXの見積値も「最も可能性の高い金額」とはいえないものの、会社の見積値は主に国内の別型式の原子炉の建設の知見に基づくもので、海外での新型炉の建設にどの程度通用するか定かでなかったことなどから、子会社の見積値には相応の合理性があったとし、会社の見積値を前提とする利益額は「見積もった金額の範囲内で最も低い利益額」ともいえないとして、違法と判断しました。平成25年度第3四半期の2億9,300万米ドルについても、監査法人ADTが会社の見積値の前提となる削減効果について十分な説明と資料を得られなかったとして子会社の見積値を最善の見積額としていたことなどから、違法と判断しました。

部品有償支給取引とキャリーオーバー案件―違法とはいえないとした

部品有償支給取引について、第一審は、部品取引と完成品取引を一体として捉える会社の主張する会計処理は、取引の実態を踏まえた合理的な会計処理であり、望ましい会計処理であったと評価することも可能であるとしました。しかし、部品の使用状況を個々に管理しておらず、2つの取引が契約上独立の取引とされていたことなどから、必ず一体として評価しなければならないほどの強い結び付きがあったとはいい難く、当時、このような処理を明示的に否定する会計基準も認められないとして、実際に行われた会計処理も当時あり得る会計処理の一つであったとし、違法とは認めませんでした。グループ内取引の未実現利益の消去についても、取引の事実等を認めるに足りる証拠がないとしました。

キャリーオーバー案件についても、第一審は、会社が提出した資料の多くが過年度決算の修正作業の際に事後的に作成されたものであることなどから、会社が主張する事実を認めるに足りないとして、違法な会計処理が行われたとは認めませんでした。

各役員の責任―社長・財務部門担当役員と、取締役であった事業部門の役員の責任を認めた

第一審は、まず社内の権限の分配について、財務部門の長であるコーポレート財務部長は社内カンパニーの経理部長に対する指揮命令権限を有し、財務部門担当の執行役はこれを通じて違法な会計処理を中止・是正させる権限を有していた一方、カンパニー社長である執行役には、カンパニー経理部長に対する会計処理に関する指揮命令権限が委任されていたことを示す内部規程等は見当たらないとしました。そのうえで、各元役員について、違法な会計処理を認識し又は認識し得たかを、報告を受けた資料や会議での発言をもとに四半期ごとに検討し、次のとおり判断しました。

元役員 第一審の判断
元役員DMN氏(社長) 海外地下鉄案件について、平成23年度第4四半期から社長退任の平成25年6月24日まで、違法な会計処理を少なくとも認識し得たのに中止・是正させなかったとして、善管注意義務違反を肯定。信頼の原則の主張は、違法を認識し得た以上採用できないとした
元役員EKS氏(社長) 国内インフラ案件と原子力発電所建設案件について、違法な会計処理を認識し得たうえ、国内インフラ案件の引当金の計上時期を第4四半期に先送りすることを求める指示や、原子力発電所建設案件で実現困難な損益改善や損失計上の先送りを求める指示をしたとし、これらを違法な会計処理を促し又は助長する指示であったと認定して、善管注意義務違反を肯定
元役員GRS氏(財務部門担当) 海外地下鉄案件、国内インフラ案件及び原子力発電所建設案件のすべてについて、違法な会計処理を認識し得たとして善管注意義務違反を肯定。海外地下鉄案件では、計上が必要な引当金を3回に分けて計上する案を提案し、その一部の計上を先送りする内容の提案をしたと認定
元役員HSM氏(事業グループ担当) 事業グループ担当の執行役としての権限に基づく義務は否定したが、取締役として、海外地下鉄案件と国内インフラ案件の違法な会計処理を認識し得たのに中止・是正させなかったとして、善管注意義務違反を肯定
元役員JKN氏(カンパニー社長) カンパニー社長である執行役としての義務は否定したが、取締役に就任した後の平成26年6月25日から30日までの期間について、海外地下鉄案件の違法な会計処理を認識し得たとして、取締役としての善管注意義務違反を肯定
元執行役TKY氏、電力事業の社内カンパニーの元執行役2名 カンパニー社長の執行役としての義務や、違法な会計処理を監査委員に報告する義務の違反は認められないとした(電力事業の元執行役2名は、違法な会計処理を認識し得たとはしたが、認識していたとまでは認められないとした)
元役員HKM氏、元役員FJT氏、事業部門の元役員5名 責任を追及されたのは部品有償支給取引やキャリーオーバー案件であり、これらの会計処理が違法とは認められない以上、請求を棄却

損害―課徴金の一部、上場契約違約金及び信用毀損1億円を認めた

第一審は、違法とされた会計処理と相当因果関係のある損害を、次のとおり判断しました。

  • 課徴金。課徴金は法定の算定方法で機械的に算定されるため、違法な会計処理により納付命令の要件を満たす課徴金を納付した場合には、原則として相当因果関係があるとしました。そのうえで、違法な会計処理が行われた期間との関係で、平成23年度と平成24年度の有価証券報告書等に係る課徴金合計46億7,350万円について、海外地下鉄案件に起因する連結当期純損益の修正額(約57億円、及び翌年度の約8億円)が投資者の投資判断に及ぼす影響という観点から「重要な事項」に当たるとして、損害と認めました。課徴金を役員に転嫁すべきでないとの主張は、課徴金の制度趣旨に照らしても責任を一律に否定する理由にならないとし、役員ごとの関与の程度による限定・減額の主張も、会社法430条の連帯責任の規定などに照らして採用しませんでした。
  • 上場契約違約金。2つの証券取引所に支払った合計1億0,860万円を、違法な会計処理が10四半期にわたり継続したことなどから、各元役員の善管注意義務違反のいずれとも相当因果関係のある損害と認めました。
  • 監査報酬。過年度決算修正の監査報酬には、違法とされた案件に関する部分が含まれていると推認しつつ、会社が報酬の内訳について主張立証を全くしなかったため、民事訴訟法248条を適用して相当な損害額を認定することもできないとして、損害と認めませんでした。
  • 信用毀損。違法な会計処理を実行した案件を同時に複数発生させたことで、「企業として公正な会計慣行を軽視する姿勢が露見し、〔電機メーカーKDN〕のガバナンスに対する社会の信用を失墜させたことで生じたものとみるべきである」として、少なくとも1億円の損害を認めました。

その結果、各元役員が負う損害賠償義務の額は、元役員DMN氏、元役員GRS氏及び元役員HSM氏がそれぞれ48億8,210万円、元役員EKS氏と元役員JKN氏がそれぞれ2億0,860万円とされ、会社法430条により連帯債務となるとされました。もっとも、実際の認容額は、会社と株主が被告の組合せごとに損害の一部を請求していたことから、その請求の範囲内にとどまります。

第一審の結論

支払を命じられた者 第一審判決の主文の内容(要約)
元役員DMN氏(第1事件) 元役員GRS氏と連帯して1億円と、平成28年2月2日から年5分の遅延損害金(うち一定の範囲で元役員HSM氏とも連帯)
元役員EKS氏(第1事件) 元役員GRS氏と連帯して1億円と、平成28年2月2日から年5分の遅延損害金(うち一定の範囲で元役員HSM氏及び元役員JKN氏とも連帯)
元役員GRS氏(第1事件) 2億円と、平成28年2月2日から年5分の遅延損害金(うち1億円は元役員DMN氏と、うち1億円は元役員EKS氏と連帯等)
元役員HSM氏(第4事件) 電機メーカーKDNに対し、3億0,860万円と、令和3年6月11日から年3分の遅延損害金(うち一定の範囲で元役員DMN氏、元役員EKS氏、元役員GRS氏及び元役員JKN氏と連帯)
元役員JKN氏(第4事件) 元役員HSM氏と連帯して、電機メーカーKDNに対し、2億0,860万円と、令和3年6月11日から年3分の遅延損害金(うち1億円は元役員EKS氏及び元役員GRS氏とも連帯)
棄却された請求 上記の各元役員に対するその余の請求、元役員HKM氏の相続人3名及び元役員FJT氏に対する請求、株主代表訴訟の他の被告8名に対する請求

主文1項から5項までには仮執行の宣言が付されています。会社の訴訟では、元役員DMN氏と元役員EKS氏の各1億円は元役員GRS氏の2億円と連帯の関係にあり、請求額(例えば元役員DMN氏に対して32億円)と比べると、認容額はごく一部にとどまりました。

控訴審の判断(令和6年3月6日判決)―株式併合による原告適格の喪失

株式併合で端数となった株主は原告適格を喪失した

令和6年3月6日判決は、記録によれば、第一審判決の言渡し後の令和5年11月22日に開催された臨時株主総会で株式併合を承認する議案が可決され、同年12月22日に株式併合の効力が発生したこと、これにより株主NKT氏と株主MRY氏の保有する株式がいずれも1株に満たない端数となったことが認められるとしました。そのうえで、次のように判断しました。

「そうすると、〔株主NKT氏〕及び〔株主MRY氏〕は本件訴訟の原告適格を喪失したというべきであるから、〔株主NKT氏〕の第2事件における共同訴訟参加申出及び〔株主MRY氏〕の第3事件における共同訴訟参加申出並びに〔株主MRY氏〕の第4事件に係る訴えは、いずれも不適法である。」

判決は、原告適格を喪失した理由について、株式が1株に満たない端数となったこと以上の説明をしていません。会社法の条文の適用関係(例えば、訴訟の係属中に株主でなくなった場合の扱いを定める会社法851条)にも触れていません。

本案の判断をした第一審判決を取り消し、口頭弁論を経ずに却下した

判決は、本案について判断した第一審判決のうち第2事件から第4事件までに関する部分は相当ではないとして、これを取り消し、株主2名の各共同訴訟参加申出と株主MRY氏の訴えをいずれも却下しました。手続については、次のように述べています。

「なお、上記各共同訴訟参加申出及び上記訴えは、上記のとおり不適法でその不備を補正することができないものであるから、口頭弁論を経ないで判決をすることとする。」

訴訟費用は、第1審・第2審を通じて、第2事件及び第3事件に係る費用は株主2名の負担とし、第4事件に係る費用は株主MRY氏の負担とされました。

この取消しにより、第一審が株主代表訴訟で元役員HSM氏に命じた3億0,860万円と、元役員JKN氏に命じた2億0,860万円(元役員HSM氏と連帯)の支払も、本案の当否が審理されないまま効力を失ったことになります。第一審で役員に対する認容判決がされていても、控訴審の係属中に株主の原告適格が失われれば、その判断は取り消され、訴え自体が却下されることになります。

会社自身の請求は残った

令和6年3月6日判決が判断の対象としたのは、第2事件から第4事件までです。電機メーカーKDNが自ら元役員らを訴えた第1事件は、この判決の対象ではなく、控訴審での審理が続きました。判決本文は、電機メーカーKDNを「分離前控訴人兼被控訴人」と表示しています。当事務所の見るところ、会社の請求に係る部分は弁論が分離され、令和7年3月19日判決で判断されたものと考えられます。

控訴審の判断(令和7年3月19日判決)―会社の請求の全部棄却

第一審判決の引用と補正

令和7年3月19日判決は、前提事実、争点及び当事者の主張と、各案件の認定事実について第一審判決を引用しつつ、多数の補正を加えています。主な補正は次のとおりです。

補正の対象 補正の内容
株主の訴え・主張に関する記載 第一審判決の「会社提起訴訟」を「本件訴訟」と改め、株主代表訴訟に関する部分や「及び株主原告ら」との記載を多数の箇所で削除。当事務所の見るところ、株主の訴え等が却下された後の判決であることを反映したものです
会社の概要 本件当時、平成26年改正前の会社法の委員会設置会社、取締役会設置会社及び会計監査人設置会社であり、上場していたこと、決算期が毎年3月末日であることを記載
会社の企業規模 過年度決算等の修正後の、平成20年度から平成26年度第3四半期累計までの各年度の連結の営業損益と税引前損益を加える。営業損益は、年度によって3,000億円を超える損失から2,500億円を超える利益までの幅がありました
各案件の認定事実 海外地下鉄案件、国内インフラ案件、原子力発電所建設案件、部品有償支給取引のそれぞれについて、資料の記載内容、引当金の計上の経過、監査法人の見解などを加え又は改める

加えられた企業規模の記載は、後に述べる重要性の判断で、判決が「前提事実第2節第1の1で認定した」企業規模として参照するものです。海外地下鉄案件、国内インフラ案件及び原子力発電所建設案件の会計処理の違法性については、判決は、認定事実は第一審判決を補正のうえ引用しつつ、判断は「当裁判所は」として独自に示しています。部品有償支給取引とキャリーオーバー案件については「当裁判所も」として第一審と同じ結論をとり、キャリーオーバー案件では第一審の理由を引用しています。

海外地下鉄案件―平成26年度第1四半期末を除き、引当金の計上は不要(第一審を変更)

判決は、海外地下鉄案件について、平成26年度第1四半期末には約6,430万米ドルの損失の発生が見込まれることを前提とした引当金を計上すべきであったところ、損失見積額を約38億8,900万円(1米ドル100円で換算すると約3,889万米ドル)とすることを前提として引当金を計上した可能性があるが、その余の期については違法な会計処理が行われたとは認められないと判断しました。全期間を違法とした第一審とは、結論が大きく異なります。

各四半期末の判断で共通して用いられたのは、次の考え方です。

  • 目標値が達成困難であったと認める証拠があるか。判決は、各時点の社内資料に記載された損益の目標値(ベース分とオプション分を合わせて黒字化又は損益ゼロを目指すもの)が、当時既に達成困難な状況にあったと認めるに足りる証拠はないとしました。第一審が、担当部署が実現可能性が低いと判断した施策を織り込んだ見積値は合理的とは推認できないとしたのとは、目標値の扱いが異なっています。
  • 目標値の算出過程の立証。判決は、会社の主張について、次のように述べています。

「〔電機メーカーKDN〕の上記主張は、前記の目標値がどのような検討過程を経て得られたものであるのか何ら具体的に主張、立証していない点において失当といわざるを得ず、上記〈1〉~〈5〉を踏まえても、前記の目標値が達成可能性に乏しいものであることが立証されたとはいえない。」

  • SPアップの可能性。判決は、社内カンパニーの社長であった元役員JKN氏が、インフラ案件では受注後に仕様が変更・追加されてSPアップが行われることは珍しくない旨を述べていることを挙げて、これを覆す証拠はないとし、平成24年8月31日時点では重工業メーカーRVCの側から一定の理解が得られていたこと、発注者との交渉も平成25年1月17日まで続いていたことを指摘しました。発注者がその日にSPアップを拒否した後も、重工業メーカーRVCとの交渉に臨むこととされていたとしています。受注の当初からSPアップの確度は非常に低かったとした第一審とは、評価が異なります。
  • オプション分を見込むことの可否。判決は、会社が指摘した米国会計基準は見積収入総額を定期的に見直すべきことなどをいうものにすぎず、オプション権の行使に係る収益を認識してはならないことをいうものとは認められないとし、オプション契約は最終的にすべて発効したことがうかがわれるなどとして、オプション分の収益も考慮して損失の見積りを行ったことが不合理であるとはいえないと判断しました。さらに、オプション分の収益額がベース分の損失額とほぼ同額に設定されていたことについても、ベース分とオプション分とを合わせて損益ゼロを目指す方針が採用されていた以上、オプション分の収益目標を立てることは当然であり、それだけで合理性がないとはいえないとしました。この点は、第一審が便宜上使用された数値と評価したのとは反対の評価です。
  • 監査法人の指摘の有無。判決は、各四半期末の会計処理について、監査法人ADTが何らかの問題を指摘したこともうかがわれないことを、繰り返し判断の理由に加えています。

平成25年度第2四半期末については、会社が計上した25億円の引当金について、仮に損失の発生の可能性が高い状況にあったとしても、その額が25億円の引当金で賄えないものであったと認めることはできないとしました。第3四半期末と第4四半期末(6億円の追加計上)についても、同様に違法とはいえないとしています。

これに対し、平成26年度第1四半期末については、平成26年6月20日付けの書面にベース分について「CR活動実行するも、▲64.3Mドルの赤字計上見込み」との説明が付記されていたことなどから、各種の施策を実行しても案件全体で約6,430万米ドルの損失が避けられないことをいう趣旨とみる余地があるとして、計上された引当金が本来計上すべき額に不足している可能性があると認めました。ただし、それが違法であったかどうかは、後記の重要性の判断に委ねています。

国内インフラ案件―計上すべき引当金を計上していなかった(額は第一審より小さい)

国内インフラ案件については、判決は、平成25年度第1四半期末には少なくとも約36億円、第2四半期末には少なくとも約45億円、第3四半期末には少なくとも約87億円の損失が発生することを前提とした引当金を計上すべきであったと判断しました。会社の主張どおりの額であり、第一審が認めた約101億円、約74億円、約115億円より小さい額です。

その根拠として、判決は、社内に立ち上げられたコスト管理のプロジェクトチームが検討のうえ算出した見積値であり、カンパニー社長であった元役員JKN氏やコーポレート社長であった元役員EKS氏にも報告されていたことから、相応の信頼性を有する数値であったことが推認されるとしました。元役員EKS氏と元役員GRS氏は見積値の信用性に疑義を呈しましたが、判決は、資料には見積値が暫定的なものであるといった記載はなく、信用性を否定する事情は見当たらないとして、これを採用しませんでした。

第3四半期末の判断では、社内カンパニーが平成25年11月22日頃にコーポレート側からの指示を受けて損益見込額を約87億円の損失から約35億円の損失に訂正したことについて、判決は、訂正が合理的な根拠に基づくものだったと認めるに足りる証拠はないとしました。そして、元役員EKS氏が同月16日に元執行役TKY氏に宛てて、「出来るだけ3Qではなく4Qに認識をする方向でお願いします。」とのメールを送信していたことに照らし、次のように述べています。

「〔元役員EKS氏〕をはじめとするコーポレート側が、損失発生を先送りにしたいという動機に基づき、〔社内カンパニー〕側に働き掛けを行ったことによるものである可能性が高いというべきである」

引当金の計上時期を第3四半期から第4四半期に変更した方針の変更についても、判決は、この動機に基づくコーポレート側からの働き掛けを受けたものとみるほかないから、合理的なものということはできないとしました。もっとも、これらの不計上が違法であったかどうかは、海外地下鉄案件と同じく、後記の重要性の判断に委ねられています。

原子力発電所建設案件―子会社の見積値の方が信頼できるとはいえない(第一審を変更)

原子力発電所建設案件について、判決は、違法な会計処理が行われたとは認められないと判断し、違法とした第一審の判断を改めました。

平成25年度第2四半期について、判決は、海外原子力子会社NPXの見積値は具体的な算定根拠や算定経過が不明であり、外部アドバイザーのレビューの内容も明らかではないとしました。海外監査法人OVAや監査法人ADTの見解については、監査法人は原子炉の専門家ではないこと、どのような資料に基づきどのような検討がされたのかが明らかでないことを指摘したうえで、次のように述べています。

「そもそも、監査法人としては、企業が保守的な見積りをしてきたのを、あえて是正させる動機も必要性もないと考えられる」

そして、会社独自の見積値は、平成25年9月27日頃までに行われた会社の専門家チームと海外原子力子会社NPXとの協議の結果合意されたものであったこと、海外原子力子会社NPXの見積値はその合意から1か月足らずで5倍以上に増加させるものであったこと、監査法人ADTも最終的には「レビュー差異」と扱うにとどめ、四半期レビュー報告書で無限定の結論を述べていたことを考慮し、海外原子力子会社NPXの見積値が会社の見積値より信頼性や合理性の高いものであったと直ちに認めることはできないとしました。そのため、会社の見積値が「見積もった金額の中で最も可能性の高い金額」にも「見積もった金額の範囲内で最も低い利益額」にも当たらないと認めることはできないと判断しました。

平成25年度第3四半期についても、判決は、監査法人ADTの指摘は見積値の差を解消するよう働き掛け、合意できなければ差額を損益認識すべきであるというものにすぎず、子会社の見積値に合理性があり会社の見積値に合理性がないことまで積極的に指摘するものではないとしました。監査法人ADTが最終的に見積値の差異を判断上の差異と評価するにとどめ、無限定の結論を付していたことも考慮し、違法とは認めませんでした。監査法人ADTの指摘を、会社の見積値が会計基準に合致しない根拠として重視した第一審とは、監査法人の意見の位置付けが異なっています。

部品有償支給取引―一般的な会計基準が確立していなかった(第一審を維持)

部品有償支給取引について、判決は、「当裁判所も」違法な会計処理が行われたとは認められないと判断しました。判決は、部品の取引と完成品の取引が密接な関連性を有する取引であったことは否定し難いとしつつ、次のように述べています。

「我が国においては、本件会計基準及び本件適用指針が公表された平成30年3月30日より前においては、部品等を有償支給して完成品を買い戻すという取引については、従前明らかにされていた基準においても、実務においても、一般的な会計基準はなく、各企業において独自の会計処理が行われていたものである」

判決は、このほか、監査法人ADTが四半期末に利益が急増し翌四半期初に急落する傾向に気付いて理由を尋ねていたものの、会計処理を問題視していたとはうかがわれないこと、電機メーカーKDN自身も、平成27年6月25日までには会計処理の適切性に問題があり得ると認識しながら、同月30日の第1四半期末の会計処理を見直さず、見直したのは同年9月7日であったことを指摘しました。そのうえで、会社が主張する会計処理が「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」として確立していたとはいえず、米国会計基準が日本の会計基準と異なる基準を採用していたと認めるに足りる証拠もないとしました。

実質優先主義、重要性の原則、真実性の原則、収益認識の要件の主張については、これらの考え方から直ちに会社が主張する会計処理が唯一の会計処理であるとの結論が導かれるわけではないとしました。部品は現に引き渡され、所有権も移転し、代金も支払われていたことから、その利益を認識することが実質優先主義に直ちに反するともいえないとしています。日本公認会計士協会の会計制度委員会の研究報告についても、委員会における研究の成果にすぎず、当時の実務に受け入れられていたとはいえないとしました。グループ内取引の未実現利益の消去の主張については、取引が行われたことを認めることができないとし、仮に取引が行われていたとしても、会社の企業規模に照らして重要な事項についての虚偽記載といえる程度のものであったと認めるに足りる証拠もないとしました。

キャリーオーバー案件―第一審の判断を引用(第一審を維持)

キャリーオーバー案件については、判決は、「当裁判所も」違法な会計処理が行われたとは認められないと判断し、第一審判決の理由を補正のうえ引用しました。当審における会社の主張を踏まえても、この判断は左右されないとしています。

重要性の判断―引当金の過少計上でも違法とはいえない

以上を踏まえて、判決は、海外地下鉄案件の平成26年度第1四半期末の引当金の不足の可能性と、国内インフラ案件の平成25年度第1四半期末から第3四半期末までの引当金の不計上について、次のように判断しました。

「前記前提事実第2節第1の1で認定した〔電機メーカーKDN〕の企業規模に照らせば、これらの引当金の計上に係る会計処理が、投資者の判断に影響を与えるという観点に照らし、有価証券報告書等に重要な事項につき虚偽の記載をしたものということができないので、米国会計基準に違反する違法なものであったということはできない。」

こうして、判決は、問題とされた会計処理のいずれについても違法とはいえないとし、次のように結論付けました。

「〔電機メーカーKDN〕の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない」

判決は、会計処理が違法でない以上、元役員らの善管注意義務違反の有無や損害の額については判断していません。第一審判決のうち元役員DMN氏、元役員EKS氏及び元役員GRS氏に対する請求を一部認容した部分は相当ではないとして、その各控訴に基づいて取り消し、会社の請求を棄却するとともに、会社の控訴を棄却しました。第一審が示した各元役員の責任と損害の判断は、控訴審では判断されておらず、維持も否定もされていません。

審級ごとの結論の推移

論点 第一審(東京地方裁判所令和5年3月28日判決) 控訴審(東京高等裁判所令和6年3月6日判決) 控訴審(東京高等裁判所令和7年3月19日判決)
株主の参加申出・株主代表訴訟(第2事件から第4事件まで) 本案の判断をした。株主代表訴訟では、元役員HSM氏に3億0,860万円、元役員JKN氏に2億0,860万円(元役員HSM氏と連帯)を会社に支払うよう命じ、他の8名に対する請求は棄却 変更。株式併合で株主が原告適格を喪失したとして、第一審判決の該当部分を取り消し、いずれも却下 判断の対象外(却下判決があった旨を記載)
海外地下鉄案件 平成23年度第4四半期から平成26年度第1四半期までの全期間について、引当金の不計上・過少計上を違法と判断 判断の対象外 変更。平成26年度第1四半期末を除き引当金の計上は不要。同四半期末は不足の可能性があるが重要性がなく違法ではない
国内インフラ案件 約101億円、約74億円、約115億円の引当金を計上すべきであったとして違法と判断 判断の対象外 変更。約36億円、約45億円、約87億円の引当金を計上すべきであったとしたが、重要性がなく違法ではない
原子力発電所建設案件 会社独自の見積値は会計基準に合致せず、違法と判断 判断の対象外 変更。会社独自の見積値は不合理とはいえず、違法ではない
部品有償支給取引 違法な会計処理とは認められない 判断の対象外 維持(認定事実を補充し、独自の理由も付加)
キャリーオーバー案件 違法な会計処理とは認められない 判断の対象外 維持(理由を補正のうえ引用)
各元役員の責任と損害 元役員DMN氏、EKS氏、GRS氏、HSM氏、JKN氏の善管注意義務違反を肯定。課徴金の一部46億7,350万円、上場契約違約金1億0,860万円、信用毀損1億円を損害と認め、監査報酬は否定 元役員HSM氏と元役員JKN氏の部分は、本案の判断をせずに却下 会計処理が違法でないとして、判断せず
会社の請求の結論 元役員DMN氏に1億円、元役員EKS氏に1億円、元役員GRS氏に2億円(一部連帯)と遅延損害金の限度で認容。その余は棄却 判断の対象外 変更。認容部分を取り消し、会社の請求をすべて棄却。会社の控訴は棄却

主文及び結論

第一審判決の主文は、前記「第一審の結論」の表のとおり、元役員DMN氏、元役員EKS氏及び元役員GRS氏に会社への支払を命じ(会社の訴訟)、元役員HSM氏及び元役員JKN氏に会社への支払を命じ(株主代表訴訟)、その余の請求をいずれも棄却するものでした。

令和6年3月6日判決の主文は、第一審判決中、第2事件から第4事件までに関する部分を取り消し、その部分に係る株主NKT氏及び株主MRY氏の各共同訴訟参加申出並びに株主MRY氏の訴えをいずれも却下するというものです。訴訟費用は、第1審・第2審を通じて、第2事件及び第3事件に係る費用は株主2名の負担、第4事件に係る費用は株主MRY氏の負担とされました。

令和7年3月19日判決の主文は、次のとおりです(固有名詞及び符号は本記事の表記に置き換えています)。

1 原判決中、〔元役員DMN氏〕、〔元役員EKS氏〕及び〔元役員GRS氏〕の各敗訴部分をいずれも取り消す。
2 前項の各部分につき、〔電機メーカーKDN〕の各請求をいずれも棄却する。
3 〔電機メーカーKDN〕の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じて、〔電機メーカーKDN〕と1審被告らとの間に生じたものは、〔電機メーカーKDN〕の負担とする。

結局、第一審では会社の訴訟と株主代表訴訟の双方で元役員5名に会社への支払が命じられていましたが、株主が関与した部分は株式併合による原告適格の喪失を理由に却下され、会社自身の請求は会計処理が違法とはいえないとしてすべて棄却されました。元役員らが賠償を命じられた部分は残っていません。

判断の射程

以下は、3つの判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。最終的な判断である2つの控訴審判決を基準とし、第一審の判断が改められた点はその旨を示しています。

参考となる点

  • 株式併合で端数しか持たなくなった株主の訴えは却下されたこと。令和6年3月6日判決は、株主代表訴訟の原告である株主や、会社の訴訟に共同訴訟参加した株主が、株式併合で1株に満たない端数しか持たなくなったときは原告適格を喪失し、訴え・参加申出は不適法になるとしました。株主代表訴訟や株主の参加が係属している会社が株式併合によるスクイーズアウトを行う場合、株主の訴えはこの判決と同じ扱いになる可能性があることを、計画の段階で把握しておく必要があります。
  • 第一審で役員に対する認容判決がされた後でも却下されたこと。本件では、第一審が株主代表訴訟で元役員2名に支払を命じていましたが、株式併合が控訴審の係属中に行われた結果、控訴審はその部分を取り消して却下し、本案の当否は判断されませんでした。訴訟のどの段階であっても、原告適格の喪失は訴えの適法性に影響することになります。
  • 会社自身の訴えは株式併合の影響を受けなかったこと。会社が自ら元役員を訴えた第1事件は、株主の訴え等の却下の後も審理が続き、判決に至りました。株主の訴えが却下されても、会社による役員の責任追及が当然に終わるわけではありません。株式併合の後に会社の経営体制が変わる場合には、係属中の会社自身の訴訟をどのように扱うかも検討事項になります。
  • 会計処理の違法性の判断に、重要性の観点が入ったこと。令和7年3月19日判決は、計上すべき引当金を計上しなかったことや、計上額が不足していた可能性を認めながら、会社の企業規模に照らせば、投資者の判断に影響を与えるという観点から重要な事項についての虚偽記載とはいえないとして、違法性を否定しました。第一審は、重要性を課徴金の損害の判断の中で検討し、海外地下鉄案件の修正額を「重要な事項」に当たるとしていましたので、重要性の評価も審級で分かれたことになります。
  • 見積値・目標値の評価が審級で分かれたこと。第一審は、担当部署が実現可能性が低いと判断した施策を織り込んだ目標値に基づく見積りは合理的とは推認できないとしました。控訴審は、目標値が当時既に達成困難であったことを裏付ける証拠があるか、目標値がどのような検討過程で得られたかを重視し、会社がその立証をしていないとしました。役員の責任を追及する側には、当時の目標値が達成困難であったことを具体的に立証する負担が課されたことになります。
  • 会計監査人の意見の位置付けが審級で分かれたこと。第一審は、会計監査人の適正意見によって会計処理の違法性が否定される法的根拠はないとしました。控訴審は、各四半期末の会計処理について会計監査人が問題を指摘しなかったことを繰り返し判断の理由に加え、監査法人がより保守的な見積値を求めたことは監査法人の立場上当然ともいえるとして、それだけで会社の見積値に合理性がないとはしませんでした。
  • 一般的な会計基準が確立していない取引の処理は、違法とされにくいこと。部品有償支給取引について、第一審と控訴審はいずれも、後に公表された会計基準と異なる処理であっても、当時あり得る会計処理の一つであった、又は当時一般的な会計基準がなく各企業で独自の処理が行われていた以上、違法とはいえないとしました。

一般化できない点

  • 令和6年3月6日判決は、原告適格の喪失について、株式が1株に満たない端数となったこと以外の理由を述べていません。訴訟の係属中に株主でなくなった場合の訴訟追行を定める会社法851条は、株式交換・株式移転又は合併により完全親会社等の株式を取得した場合を定めるもので、株式併合はここに挙げられていません(当事務所の説明であり、判決は同条に触れていません)。株式併合以外の方法でスクイーズアウトが行われた場合や、同条の場合に当たる場合には、扱いが異なり得ます。
  • 判決本文には、株式併合の目的や、株主が原告適格の喪失を争って何を主張したかの記載がありません。株式併合が係属中の株主代表訴訟を終わらせることを主な目的として行われたと主張された場合に、株式併合の決議の効力や原告適格の判断がどうなるかは、本判決からは分かりません。株式併合の目的が不当であるとして決議の取消し等が争われる可能性もあり、本判決を、係属中の訴訟を終わらせるために株式併合を行ってよいという根拠とすることはできません。
  • 令和7年3月19日判決は、重要性の判断について、会社の企業規模を参照するとしたものの、金額の比率などの具体的な基準は示していません。企業規模が大きい上場会社の事案であり、規模の小さい会社で同じ程度の金額の引当金の不足があった場合に同じ結論になるとはいえません。
  • 国内インフラ案件では、令和7年3月19日判決も、コーポレート側が損失発生を先送りにしたいという動機に基づき働き掛けを行った可能性が高いと認定しています。それでも違法性が否定されたのは、重要性の観点によるものです。損失の先送りを図る働き掛けそのものが許されると判断されたわけではありません。
  • 第一審が示した社内カンパニー制の会社における会計処理の権限の分配、各役員の認識可能性、課徴金の役員への転嫁、信用毀損の損害についての判断は、控訴審では会計処理が違法でないとされたため判断されておらず、控訴審で維持されたものではありません。これらは第一審の判断として参照するにとどめる必要があります。
  • 本件は、会計処理の適法性が米国会計基準に照らして判断された上場会社の事案です。会社法431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」の内容は、適用される会計基準によって異なり得ます。また、本件当時の会社は平成26年改正前の会社法の委員会設置会社であり、執行役の責任も問題とされた事案です。
  • 2つの控訴審判決に対する上告又は上告受理申立ての有無及び判決の確定は、確認できていません。

株主代表訴訟を抱える会社・支配株主が確認しておきたいこと

本件を踏まえると、株主代表訴訟や株主の共同訴訟参加が係属している会社がスクイーズアウトを検討する場合には、まず、係属中の訴訟の当事者、訴訟の段階、会社自身が当事者となっている訴訟の有無を整理し、株式併合の効力発生によって訴訟がどのような影響を受けるかを確認しておくことが考えられます。次に、株式併合の目的が、係属中の訴訟との関係で不当と主張されることがないよう、会社経営上の必要性を客観的な事情とともに説明できるようにしておくことが重要です。また、役員の責任が問われている場面では、当時の見積りや目標値の算出過程、判断の根拠となった資料、会計監査人とのやり取りの記録が、後に違法性や重要性を判断する際の基礎になります。第一審と控訴審で結論が分かれたのも、これらの資料の評価の違いによるところが大きいといえます。これらは本件を踏まえた当事務所の着眼点であり、3つの判決が特定の進め方を求めたものではありません。

株式併合の後に株主代表訴訟や提訴請求を受け、会社・役員の側の対応を検討している方は、次のページを御覧ください。

よくあるご質問

株主代表訴訟の係属中に株式併合を行い、原告の株主が1株に満たない端数しか持たなくなった場合、訴訟はどうなりますか。

本件の令和6年3月6日判決は、株式併合で株主の保有株式が1株に満たない端数となったことにより、株主は原告適格を喪失し、株主代表訴訟の訴えは不適法になるとして、訴えを却下しました。会社の訴訟に共同訴訟参加していた株主の参加申出も、同じ理由で却下されています。

第一審で役員に支払を命じる判決が出た後に株式併合が行われた場合でも、訴えは却下されますか。

本件では、第一審が株主代表訴訟で元役員2名に3億0,860万円と2億0,860万円(後者は前者と連帯)を会社に支払うよう命じていましたが、株式併合は第一審判決の後、控訴審の係属中に行われ、控訴審は第一審判決の該当部分を取り消して訴えを却下しました。口頭弁論を経ずに判決がされています。

係属中の株主代表訴訟を終わらせるために株式併合を行ってもよいですか。

本判決は、株式併合の目的については何も述べていません。株式併合の目的が不当であると主張されれば、株主総会決議の取消し等が争われる可能性があり、本判決からその当否は分かりません。株式併合を行う場合には、会社経営上の必要性を客観的な事情とともに説明できるよう準備しておくことが重要です。

株主の訴えが却下されれば、役員の責任追及は終わりますか。

本件では、会社自身が元役員を訴えていた訴訟は、株主の訴え等が却下された後も続き、約1年後に判決が言い渡されました。株主の訴えの却下は、会社自身が提起した訴訟には影響しませんでした。

引当金の計上が不足していた場合、役員は必ず会社に対して責任を負いますか。

本件の第一審は、インフラ案件3件の会計処理を違法とし、元役員5名の善管注意義務違反を認めましたが、令和7年3月19日判決は、計上すべき引当金を計上しなかったことなどを認めながら、会社の企業規模に照らせば、投資者の判断に影響を与えるという観点から有価証券報告書等の重要な事項についての虚偽記載とはいえず、違法な会計処理とはいえないとして、役員に対する請求を棄却しました。ただし、企業規模の大きい上場会社の事案であり、どの程度の金額であれば重要といえるかの具体的な基準は示されていません。

会社が納付した課徴金を、役員に賠償させることはできますか。

本件の第一審は、課徴金は法定の算定方法で算定されることなどから、違法な会計処理による課徴金の納付は原則として役員の善管注意義務違反と相当因果関係のある損害になるとし、課徴金を役員に転嫁すべきでないとの主張も採用しませんでした。もっとも、控訴審は会計処理が違法でないとして請求を棄却しており、この点については判断していません。

監査法人が問題を指摘しなかったことは、役員側に有利に考慮されますか。

審級で扱いが分かれました。第一審は、会計監査人が適正意見を付したことで会計処理の違法性が否定される法的根拠はないとしました。令和7年3月19日判決は、各四半期末の会計処理について会計監査人が問題を指摘しなかったことを、違法性を否定する理由の一つとして繰り返し挙げました。もっとも、監査法人の見解は判断の一要素であり、それだけで結論が決まったわけではありません。

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株主代表訴訟や株主の共同訴訟参加が係属している会社がスクイーズアウトを検討する場合は、係属中の訴訟の状況、会社自身が当事者となっている訴訟の有無、株式併合の目的と会社経営上の必要性、事前開示書面や株主総会での説明の内容を一体として整理し、決議の取消し等を主張されるおそれを踏まえて準備を進めます。少数株主との紛争全般については少数株主とのトラブルに関する会社側の総合相談で、少数株主の排除に関する当事務所の対応は少数株主の排除・スクイーズアウトに関する御相談で御案内しています。少数株主対策・スクイーズアウトに関するほかの裁判例は、少数株主対策・スクイーズアウトの裁判例の解説記事一覧をご覧ください。

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この記事の位置付け

役員の責任を追及する訴訟の係属中に会社が株式併合を行い、原告の株主が1株に満たない端数しか持たなくなった場面の判例を、会社・支配株主の側から、第一審から控訴審までの株主の訴えの帰趨と元役員の責任の判断の推移の観点から解説します。

株主から代表訴訟や善管注意義務違反の追及を受けている会社の当事務所の対応は、少数株主とのトラブルに関する会社側の総合相談のページで御案内しています。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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