弁護士法人M&A総合法律事務所
HOME / 判例 / 株式併合後の期間経過と反対株主の株式買取請求―東京地方裁判所令和7年3月14日判決

株式併合後の期間経過と反対株主の株式買取請求―東京地方裁判所令和7年3月14日判決

公開 2025年3月14日

▶ 少数株主の排除・スクイーズアウトに関する御相談

公開買付けの後に行われた株式併合によって1株に満たない端数しか持たなくなった元株主が、反対株主の株式買取請求や価格決定の申立てをしないまま期間を過ぎ、後から通常の訴訟で、株式の買取代金、損害賠償及び不当利得の返還を求めた場面の判例です。東京地方裁判所令和7年3月14日判決は、株式併合に反対する株主が株式の買取りを求めることができるのは会社法182条の4及び182条の5の定めによる場合に限られるとして、元株主の請求をいずれも棄却しました。

本記事では、判決が、株式買取請求権、株価の値上がりに対する期待、株式併合の不法行為該当性、不当利得の4つの請求をそれぞれどのような理由で退けたのかを整理し、株式併合によるスクイーズアウトを計画する会社・支配株主にとって、法定の手続を適正に履践し、端数の処理の対価を開示しておくことがどのような意味を持つのかを考えます。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 公開買付けで議決権の約7割を取得し、株式併合で残りの株主を締め出した
    2. 端数相当株式は、公開買付価格と同額で売却され、代金が株主に支払われた
    3. 元株主は、期間の経過後に通常の訴訟を提起した
  4. 事案の経緯
  5. 問題となった法令の定め
    1. 会社法182条の4―反対株主の株式買取請求
    2. 会社法182条の5―株式の価格の決定等
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 元株主の4つの請求
    2. 元株主が主張した金額の算定方法
    3. 争点ごとの主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 前提となった事実
    2. 判断の枠組み―株式の買取りを求める方法は会社法の定めに限られる
  9. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 請求1(株式買取請求権)―期間内の請求も申立てもなく、権利はない
    2. 請求2(株価の値上がりに対する期待権)―法律上保護される利益に当たらない
    3. 請求2及び請求3(株式併合の不法行為該当性)―会社法が想定する結果にすぎない
    4. 請求4(不当利得)―損失も利得も認められない
    5. 争点4(損害等)―判断されていない
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 株式併合を計画する会社・支配株主が確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. 株式併合で端数株主となった株主が、期間を過ぎてから会社に株式の買取りを求めてきた場合、応じなければなりませんか。
    2. 株式併合によって株主の地位を失わせることは、不法行為になりませんか。
    3. 株主が株価の値上がりへの期待を侵害されたと主張して損害賠償を求めてきた場合、どう考えればよいですか。
    4. 端数の処理の代金を受け取っていない株主から、損失を被ったと主張された場合はどうですか。
    5. 公開買付けでフェアネス・オピニオンを取得していないと、株式併合が違法になりますか。
    6. 合併で消滅した会社の株式併合について、存続会社が訴えられることはありますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第8部
裁判日 令和7年3月14日
事件番号 令和6年(ワ)第23650号
裁判の形式 判決
審級 第一審
請求の内容 株式買取請求権に基づく買取代金の支払、不法行為に基づく損害賠償、不当利得の返還(主位的請求・予備的請求の組合せ)
結論 元株主(原告)の請求をいずれも棄却。訴訟費用は元株主の負担
上訴の状況 上訴の有無及び確定は確認できていません

この表は、判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた「原告」「被告」の表示も、本文では次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分では判決本文の文言のまま「原告」「被告」と記載し、それぞれが誰を指すかを示しています。

本記事の表記 立場
元株主である会社KWR 原告。対象会社TGHの普通株式300株を有していた株主です。判決本文からは、どのような事業を営む会社かは明らかではありません
買収目的会社JMN 被告。対象会社TGHの株式の公開買付けを行った会社で、その後、対象会社TGHを吸収合併して存続会社となり、商号を対象会社TGHと同じ商号に変更しました
対象会社TGH 株式併合を行った上場持株会社。株式併合の後に上場廃止となり、買収目的会社JMNに吸収合併されて消滅しました

被告は合併後に対象会社TGHと同じ商号を名乗っていますが、本記事では、合併の前後を通じて「買収目的会社JMN」と表記し、合併により消滅した会社を「対象会社TGH」と表記します。

事案の概要

公開買付けで議決権の約7割を取得し、株式併合で残りの株主を締め出した

買収目的会社JMNは、上場持株会社である対象会社TGHの株式について、令和5年11月27日から令和6年1月15日までを公開買付期間とする公開買付けを実施しました。その結果、買収目的会社JMNは、対象会社TGHの議決権の約7割に当たる株式を所有するに至りました。

その後、対象会社TGHでは、令和6年3月18日に臨時株主総会が開催され、効力発生日を同年4月11日とする株式併合の議案等が可決されました。株式併合は、予定どおり令和6年4月11日に効力を生じました。対象会社TGHは、その直前の令和6年4月9日付けで上場廃止となっています。

この株式併合は、多数の株式を1株に併合する比率で行われ、元株主である会社KWRが有していた300株も、1株に満たない端数となりました。

端数相当株式は、公開買付価格と同額で売却され、代金が株主に支払われた

対象会社TGHは、株式併合により生じた1株に満たない端数の処理として、公開買付価格と同額の1株当たりの価格で端数相当株式を売却することについて裁判所の許可決定を得て、端数相当株式を買収目的会社JMNに売却しました。そして、その売却代金をもって、端数が生じた株主に支払を行いました。ただし、元株主である会社KWRは、この代金を受領する手続をとっていません。

令和6年7月1日、買収目的会社JMNは、対象会社TGHを吸収合併し、同日、商号を対象会社TGHと同じ商号に変更しました。

元株主は、期間の経過後に通常の訴訟を提起した

元株主である会社KWRは、株式併合の効力発生日の前に反対株主としての株式買取請求をせず、効力発生日の後に裁判所への価格決定の申立てもしていませんでした。そのうえで、合併後の存続会社である買収目的会社JMNを被告として、通常の民事訴訟を提起し、株式の買取代金、損害賠償及び不当利得の返還を求めました。

事案の経緯

時期 出来事(判決本文の前提事実、判断及び当事者の主張による)
令和5年11月27日から令和6年1月15日まで 買収目的会社JMNによる対象会社TGHの株式の公開買付け。その結果、議決権の約7割に当たる株式を所有するに至る(前提事実)
令和6年3月18日 対象会社TGHの臨時株主総会で、令和6年4月11日を効力発生日とする株式併合の議案等を可決(前提事実)。臨時株主総会の参考資料には、端数の処理により交付される1株当たりの金額が記載されていた(判断)
令和6年3月22日から4月10日まで 反対株主が株式買取請求をすることができた期間(効力発生日の20日前の日から前日まで)。元株主である会社KWRは株式買取請求をしていない(判断)
令和6年4月9日 対象会社TGHが上場廃止(前提事実)
令和6年4月11日 株式併合の効力発生(前提事実)
令和6年5月12日から6月10日まで 株式買取価格決定の申立てをすることができた期間(判断)。元株主である会社KWRは申立てをしていない(判断)
時期の記載なし 対象会社TGHが、裁判所の許可決定を得て端数相当株式を買収目的会社JMNに売却し、売却代金を端数が生じた株主に支払う。元株主である会社KWRは受領の手続をとっていない(前提事実)
令和6年7月1日 買収目的会社JMNが対象会社TGHを吸収合併し、商号を変更(前提事実)
令和6年9月2日 元株主である会社KWRが本件訴訟を提起(買収目的会社JMNの主張による)
令和6年9月20日 訴状の送達(遅延損害金の起算日を「訴状送達の日の翌日である令和6年9月21日」とする請求の記載による)
令和7年1月20日 同日付けの訴えの追加的変更の申立書により、元株主である会社KWRが不当利得返還請求を追加(申立書の送達は令和7年1月24日。請求の記載による)
令和7年3月14日 東京地方裁判所が元株主の請求をいずれも棄却する判決

問題となった法令の定め

本件は契約条項ではなく、株式併合に反対する株主の株式買取請求の手続を定めた会社法の規定が問題となった事案です。以下は、判決本文が示した各規定の内容を、当事務所の言葉で整理したものです(条文そのものの引用ではありません)。

会社法182条の4―反対株主の株式買取請求

株式併合に反対する株主は、株式会社に対し、株式併合の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、自己の有する株式のうち1株に満たない端数となるものの全部を、公正な価格で買い取るよう請求することができます。

会社法182条の5―株式の価格の決定等

株式買取請求があった場合には、株式の価格について株主と株式会社との間で協議を行います。株式併合の効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主又は株式会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができます。

判決は、この2つの規定を前提に、本件の効力発生日(令和6年4月11日)から、株式買取請求の期間を令和6年3月22日から4月10日まで、価格決定の申立ての期間を同年5月12日から6月10日までと示しています。

なお、株式買取請求をすることができる「反対株主」に当たるためには、議決権を行使することができる株主の場合、株主総会に先立って株式併合に反対する旨を会社に通知し、かつ、株主総会で反対することが必要です(会社法182条の4第2項)。判決本文は、元株主である会社KWRが株主総会で反対したかどうかには触れていません。判決は、期間内の請求と申立てがないことだけで、株式買取請求権を否定しています。

当事者の請求と主要な主張

元株主の4つの請求

元株主である会社KWRは、買収目的会社JMNに対し、次の4つの請求をしました。主位的には請求1と請求2を求め、請求1が認められない場合には請求3(及び請求2)を、請求1から請求3までがいずれも認められない場合には請求4を求めるという組立てです。請求の趣旨は、400万3,230円及びこれに対する令和6年9月21日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払です。

請求 根拠 金額(元株主の主張)
請求1 株式買取請求権に基づく株式300株の買取代金 303万9,600円及び訴状送達の日の翌日である令和6年9月21日から年3パーセントの遅延損害金
請求2 株式併合によりスクイーズアウトされ、株式の値上がりに対する期待権を侵害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償 期待権の侵害による損害59万9,700円と弁護士費用相当額36万3,930円の合計96万3,630円及び同様の遅延損害金
請求3 株式併合により株主権の行使を阻まれ、経済的利益を喪失したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償 株式買取代金相当の303万9,600円及び同様の遅延損害金
請求4 不当利得返還請求権 株式買取代金相当額、期待権及び弁護士費用相当額の合計400万3,230円及び訴えの追加的変更の申立書送達の日の翌日である令和7年1月25日から年3パーセントの遅延損害金

弁護士費用相当額36万3,930円は、請求1の買取代金と請求2の期待権の損害の合計363万9,300円の1割として計算されたものです。

元株主が主張した金額の算定方法

元株主である会社KWRは、公開買付けでは独立した第三者算定機関からのフェアネス・オピニオンが取得されておらず、公開買付価格は公開買付者に有利な価格になっていると主張しました。そして、公開買付価格は少なくとも株価純資産倍率1倍の価格を下回ってはならないとして、対象会社TGHの総資産を発行済株式総数で割った1株当たりの金額を適正な買付価格とし、これに300株を乗じた303万9,600円を、買取代金(請求1)及び株主権の行使を阻まれたことによる損害(請求3)の額としました。

また、対象会社TGHの株価の最高値と上記の適正な買付価格との差額の半分を、1株当たりの期待権の価値とし、これに300株を乗じた59万9,700円を、期待権の侵害による損害(請求2)の額としました。

算定の基礎とした総資産の額を発行済株式総数で割る方法は、元株主の主張として判決本文に記載されているものです。判決は、後に述べるとおり、損害等の争点(争点4)については判断していません。

争点ごとの主張

争点 元株主(会社KWR)の主張 買収目的会社JMNの主張
争点1 株式買取請求権を有するか 株式併合等の一連の手続により株主として有する権利を行使できなくなったため、株主の基本的権利行使の最後の手段として適正な価格による買取りを請求したものであり、尊重されるべきである。会社法182条の4は、株式併合等に伴う株式買取請求の手続を定めた規定であり、株主の基本的権利を剥奪又は消滅させるものではない 株式買取請求は令和6年3月22日から4月10日までの間に、法定の要件を具備したうえで行う必要があったが、行っていない。価格決定の申立ても同年5月12日から6月10日までの間に行う必要があったが、本件訴訟はその期間の経過後の同年9月2日に提起された。株式買取請求は法律上の根拠を欠き、他に買取りを求める法的根拠もない
争点2 株価の値上がりに対する期待は保護されるか 株主となる者は、利益配当請求権や議決権などの株主権の取得とともに、会社の成長発展による株式の値上がりを期待して株式を取得するのであるから、株式の値上がりに対する株主の期待権は保護されるべきである 株式の値上がりに対する期待権なるものは、法律上の権利として存在しない
争点3 株式併合は不法行為に当たるか 株式併合等の一連の手続により株主権の行使を阻まれ、経済的利益を喪失しており、株式併合は不法行為に当たる 会社法は株式併合を含むスクイーズアウトの手続を定めており、一定の手続の結果として株主が株式を失うことは当然に想定されている。株式併合とそれに続く端数相当株式の任意売却は適法に完了しており、不法行為は観念し得ない
争点4 損害等 上記の算定方法による金額が損害である いずれも否認し、又は争う
争点5 不当利得返還請求権の成否 株主としての権利を消滅させられたうえ、株式市場での売却・換金の権利も剥奪されて損失を被る一方、買収目的会社JMNはこれに相当する金額を法律上の原因のない利得として取得している 元株主は端数相当株式の任意売却の対価として公開買付価格と同額の支払を受けるので損失はない。端数相当株式の買受けに当たり公正な価格を支払っており、利益もない。元株主は、会社法上の手続が適法に履践されたことにより株式等を喪失したにすぎない

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

判決は、争点を、株式買取請求権の有無(争点1)、株価の値上がりに対する期待が権利又は法律上保護される利益に当たるか(争点2)、株式併合が不法行為に当たるか(争点3)、損害等(争点4)、不当利得返還請求権の成否(争点5)の5つに整理しました。

結論を分けたのは、株式併合に反対する株主が会社に株式の買取りを求める方法が、会社法182条の4及び182条の5の手続に限られるかどうかという点です。判決はこれを肯定し、法定の期間内に株式買取請求と価格決定の申立てをしなかった元株主は、通常の訴訟で買取代金を請求することはできないとしました。そのうえで、不法行為と不当利得という別の法律構成による請求についても、それぞれ要件を欠くとして退けています。

判決は、争点1から争点3まで及び争点5について請求の要件がいずれも認められないとし、争点4(損害等)については判断するまでもないとしました。そのため、元株主が主張した公開買付価格の当否や、総資産を基礎とする1株当たりの価格の算定方法については、判決は判断を示していません。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

前提となった事実

判決は、当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により、次の事実を前提としました(以下は判決本文の前提事実の要約です)。

  • 買収目的会社JMNは、公開買付けにより、対象会社TGHの議決権の約7割に当たる株式を所有するに至ったこと
  • 対象会社TGHの臨時株主総会で、令和6年4月11日を効力発生日とする株式併合の議案等が可決され、株式併合は同日に効力を生じたこと
  • 対象会社TGHは令和6年4月9日付けで上場廃止となったこと
  • 対象会社TGHは、公開買付価格と同額で端数相当株式を売却することについて裁判所の許可決定を得て、端数相当株式を買収目的会社JMNに売却し、売却代金をもって端数が生じた株主に支払を行ったこと。ただし、元株主である会社KWRは受領の手続をとっていないこと
  • 買収目的会社JMNは、令和6年7月1日、対象会社TGHを吸収合併し、商号を変更したこと

判決は、これに加えて、弁論の全趣旨により、元株主である会社KWRが株式買取請求の期間内に反対株主としての株式買取請求を行っておらず、価格決定の申立ての期間内に申立ても行っていないことを認めました。また、端数の処理により交付される1株当たりの金額が、臨時株主総会の参考資料に記載されていたことを指摘しています。

判断の枠組み―株式の買取りを求める方法は会社法の定めに限られる

判決は、会社法が、一定の場合に株主が自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう株式会社に請求できる旨を定めており、株式併合については182条の4及び182条の5にその定めがあることを確認しました。そのうえで、次のとおり述べています。

「株式併合に反対する株主は、以上の定めによってのみ、株式会社に対して株式の買取りを請求し、裁判所に対して買取価格の決定の申立てをすることができるものと解するのが相当である。」(判決本文)

株式併合に反対する株主の救済の方法を、会社法が定める株式買取請求と価格決定の申立てに限定したこの判断が、本判決の中心です。

各主張を採用し又は排斥した理由

請求1(株式買取請求権)―期間内の請求も申立てもなく、権利はない

判決は、上記の枠組みを本件に当てはめ、元株主である会社KWRが、効力発生日の20日前の日である令和6年3月22日から前日である4月10日までの間に反対株主としての株式買取請求を行っておらず、効力発生日から30日が経過した日である同年5月12日から6月10日までの間に株式買取価格決定の申立ても行っていないことから、元株主が買収目的会社JMNに対して株式買取請求権を有することはないと判断しました。

元株主は、株式買取請求権は株主の基本的権利行使の最後の手段であるとして、会社法の定めによらずに訴訟手続で行使できると主張しましたが、判決はこれを「独自の見解にすぎず、採用できない。」として退けました。

なお、元株主の請求は、株式併合を行った対象会社TGHではなく、吸収合併後の存続会社である買収目的会社JMNに向けられたものでしたが、判決は、株式買取請求権が存在しないことを理由に請求を退けており、合併による承継の点について特に判断を示していません。

請求2(株価の値上がりに対する期待権)―法律上保護される利益に当たらない

判決は、元株主が主張する期待権について、次のとおり述べました。

「自己が有する株式の株価上昇に対する期待権なる権利は認められず、また、これを法律上保護される利益と解する根拠もない。」(判決本文)

株主となる者は株式の値上がりを期待して株式を取得するのであるから保護すべきだという元株主の主張についても、判決は、「株主が株式の値上がりを期待するからといって、その期待が法律上保護される利益に当たるとはいえない。」としました。こうして、株価の値上がりに対する期待は、権利又は法律上保護される利益に当たらないと判断されました。

請求2及び請求3(株式併合の不法行為該当性)―会社法が想定する結果にすぎない

判決は、株式併合そのものが不法行為に当たるかについて、次のとおり述べました。

「現行会社法の下では、株式会社は、一定の手続を踏めば事由を問わず株式の併合を行うことができるところ、本件株式併合が不法行為に当たることを基礎付ける事情は認められない。」(判決本文)

株式併合によって株主権の行使を阻まれたという元株主の主張に対しては、判決は、株式併合により1株未満の端数が発生し、その端数を有するに至った者が株主でなくなることは会社法が想定するものであり、元株主は株式併合の結果として1株未満の端数を有するに至ったにすぎないとして、元株主の主張によっても株式併合が不法行為に当たるとはいえないとしました。

また、元株主は、公開買付けにおいてフェアネス・オピニオンが取得されていないことも指摘しましたが、判決は、「そのことから直ちに本件株式併合が不法行為に当たるとはいえず」とし、ほかに株式併合が不法行為に当たることを基礎付ける事情は認められないとしました。

判決は、まとめの部分で、株式併合が不法行為に当たらないことから請求2及び請求3はいずれも理由がないとしています。請求2は、期待権が法律上保護される利益に当たらないという理由と、株式併合が不法行為に当たらないという理由の2つで退けられたことになります。

請求4(不当利得)―損失も利得も認められない

判決は、事案に鑑み、損害等(争点4)より先に不当利得返還請求権の成否(争点5)を判断しました。

まず損失について、判決は、元株主は株式併合により1株未満の端数を有することになったが、それに対しては端数相当株式の任意売却の対価として公開買付価格と同額の1株当たりの金額の支払を受けるのであるから、損失を被ったとは認められないとしました。元株主はその対価の支払を受けていないとも主張しましたが、判決は、「原告が受領の手続をとっていないにすぎないのであって、上記判断に影響することはない。」と述べました(「原告」は元株主である会社KWRを指します)。

さらに判決は、付言として、元株主が1株当たりの金額に不満なのであれば、その金額は臨時株主総会の参考資料にも記載されていたのであるから、「本件株式併合に反対した上で株式買取請求権を行使し、株式買取価格決定の申立てをすべきであった」と指摘しています。

次に利得について、判決は、「被告が本件株式併合により利得を得たと認めるに足りる証拠はない。」としました(「被告」は買収目的会社JMNを指します)。株主権を消滅させられて損失を被る一方、買収目的会社JMNがこれに相当する金額を利得として取得したという元株主の主張も、「独自の見解にすぎず、採用できない。」として退けられ、不当利得返還請求権は成立しないと判断されました。

争点4(損害等)―判断されていない

判決は、元株主の各請求は、争点4(損害等)について判断するまでもなく、いずれも理由がないとしました。そのため、公開買付価格が公開買付者に有利な価格であったか、株価純資産倍率1倍を下回ってはならないか、といった元株主の主張については、判決は判断していません。

主文及び結論

判決の主文は、「原告の請求をいずれも棄却する。」「訴訟費用は原告の負担とする。」というものです(「原告」は元株主である会社KWRを指します)。

請求 判決の判断
請求1(株式買取請求権に基づく買取代金) 株式買取請求権を有しないから理由がない
請求2(期待権の侵害による損害賠償) 期待は権利又は法律上保護される利益に当たらず、株式併合も不法行為に当たらないから理由がない
請求3(株主権の行使を阻まれたことによる損害賠償) 株式併合は不法行為に当たらないから理由がない
請求4(不当利得の返還) 損失も利得も認められず、不当利得返還請求権は成立しないから理由がない

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 反対株主の救済方法は、会社法の手続に限られるとされたこと。本判決は、株式併合に反対する株主が会社に株式の買取りを求め、裁判所に買取価格の決定を求めることができるのは、会社法182条の4及び182条の5の定めによる場合に限られるとしました。法定の期間を過ぎた後に、通常の訴訟で買取代金を請求する道を否定したものです。
  • 不法行為や不当利得への構成の替えも退けられたこと。元株主は、買取請求が認められない場合に備えて、不法行為と不当利得の請求を予備的に組み合わせていました。判決は、一定の手続を踏めば事由を問わず株式の併合を行うことができるという現行会社法の考え方を前提に、株式併合で端数株主となること自体は会社法が想定する結果であるとし、これらの請求もいずれも退けました。
  • 端数の処理の対価の支払が、損失の否定につながったこと。判決は、端数相当株式の売却代金として公開買付価格と同額の支払を受けることを理由に、元株主に損失はないとしました。元株主が受領の手続をとっていないことも、この判断を左右しないとされています。
  • 対価の金額が事前に開示されていたことが指摘されたこと。判決は、1株当たりの金額が臨時株主総会の参考資料に記載されていたことを挙げ、金額に不満がある株主は株式買取請求と価格決定の申立てをすべきであったと付言しました。会社側からみると、株主総会の資料で対価の金額を明示しておくことが、法定の手続による争い方を株主に示すことにもなります。
  • フェアネス・オピニオンの不取得だけでは不法行為にならないとされたこと。判決は、公開買付けでフェアネス・オピニオンが取得されていないことから直ちに株式併合が不法行為に当たるとはいえないとしました。

一般化できない点

  • 本判決は、元株主が株式買取請求も価格決定の申立てもしなかった事案についての判断です。株主総会決議の取消しの訴えや、株式併合の差止請求(会社法182条の3)など、会社法が定める別の手続が争われた事案ではありません。
  • 判決は、損害等(争点4)について判断していません。公開買付価格や端数の処理の対価が公正であったかどうか、元株主の主張した算定方法が相当かどうかについては、何も述べていません。対価の公正さが争われる場合には、価格決定の手続で別途判断されることになります。
  • 判決は、「本件株式併合が不法行為に当たることを基礎付ける事情は認められない」としたものであり、どのような事情があっても株式併合が不法行為に当たらないと述べたものではありません。手続に違法がある場合や、他の事情が主張・立証された場合の判断は、本判決からは分かりません。
  • 判決は、合併による存続会社が株式買取請求に関する義務を承継するかどうかについて判断していません。
  • 本件は上場会社に対する公開買付けの後の株式併合の事案です。非上場の同族会社などで株式併合を行う場合に、本判決の判断がそのまま当てはまるかどうかは、事案ごとに検討が必要です。
  • 上訴の有無及び確定は確認できていません。

株式併合を計画する会社・支配株主が確認しておきたいこと

以下は、本判決を踏まえた当事務所の考え方です。本判決が直接判断した事項ではありません。

  • 反対株主の株式買取請求の期間を正確に把握し、通知・公告を適正に行うこと。本判決は、効力発生日を基準として株式買取請求の期間と価格決定の申立ての期間を示し、期間内の行使がないことを理由に請求を退けました。会社側では、効力発生日から逆算した期間を確認し、法定の通知・公告を期限内に行っておくことが前提となります。
  • 端数の処理による交付額を株主総会の資料で明示すること。本判決は、1株当たりの金額が臨時株主総会の参考資料に記載されていたことを指摘しました。対価の金額と算定の考え方を事前に開示しておくことは、手続の公正さを示すとともに、金額を争う株主を法定の手続に向かわせることにつながります。
  • 端数相当株式の売却と代金の支払の手続を完了させること。本判決では、裁判所の許可決定を得た任意売却と、売却代金の株主への支払が行われていたことが、損失の否定の前提となりました。受領の手続をとらない株主がいる場合も、会社として支払の準備を整え、その経過を記録しておくことが大切です。
  • 決議の取消しなど、別の争い方への備えも怠らないこと。本判決は株式買取請求の期間経過後の訴訟に関するものであり、株主総会決議の方法や手続の公正さが争われる場合には、別の観点からの検討が必要です。株式併合の目的、事前開示書面の内容、株主総会での説明を一体として準備しておくことが、決議取消しのリスクの回避につながります。

よくあるご質問

株式併合で端数株主となった株主が、期間を過ぎてから会社に株式の買取りを求めてきた場合、応じなければなりませんか。

本判決は、株式併合に反対する株主が会社に株式の買取りを請求し、裁判所に買取価格の決定を申し立てることができるのは、会社法182条の4及び182条の5の定めによる場合に限られるとしました。そして、効力発生日の20日前の日から前日までの間に株式買取請求をせず、効力発生日から30日経過後の30日以内に価格決定の申立てもしなかった元株主について、株式買取請求権はないと判断しています。

株式併合によって株主の地位を失わせることは、不法行為になりませんか。

本判決は、現行会社法の下では、株式会社は一定の手続を踏めば事由を問わず株式の併合を行うことができるとし、株式併合で1株未満の端数を有するに至った者が株主でなくなることは会社法が想定するものであるとして、不法行為に当たるとはいえないと判断しました。ただし、判決は、不法行為に当たることを基礎付ける事情が認められないとしたものであり、手続に問題がある場合まで一般的に不法行為を否定したものではありません。

株主が株価の値上がりへの期待を侵害されたと主張して損害賠償を求めてきた場合、どう考えればよいですか。

本判決は、自己が有する株式の株価上昇に対する期待権という権利は認められず、これを法律上保護される利益と解する根拠もないとしました。株主が株式の値上がりを期待して株式を取得したとしても、その期待が法律上保護される利益に当たるとはいえないとされています。

端数の処理の代金を受け取っていない株主から、損失を被ったと主張された場合はどうですか。

本判決では、端数相当株式の売却代金として公開買付価格と同額の支払を受けられる以上、元株主に損失はないとされ、元株主が受領の手続をとっていないにすぎないことは、その判断に影響しないとされました。会社側としては、売却代金の支払の手続を整え、株主に案内しておくことが重要です。

公開買付けでフェアネス・オピニオンを取得していないと、株式併合が違法になりますか。

本判決は、フェアネス・オピニオンが取得されていないことから直ちに株式併合が不法行為に当たるとはいえないとしました。もっとも、判決は、対価の公正さそのものについては判断していません。対価の公正さは、価格決定の手続などで争われ得るものであり、算定の根拠を整えておくことは引き続き重要です。

合併で消滅した会社の株式併合について、存続会社が訴えられることはありますか。

本件では、株式併合を行った会社を吸収合併した存続会社が被告とされました。判決は、株式買取請求権が存在しないことなどを理由に請求を退けており、存続会社が株式買取請求に関する義務を承継するかどうかについては判断していません。

関連する記事と御相談のご案内

株式併合によるスクイーズアウトを計画する場合は、株式併合の比率と効力発生日、反対株主の株式買取請求の期間、通知・公告の時期、事前開示書面と株主総会の資料に記載する端数の処理の対価、端数相当株式の売却と代金の支払の手順を、一体として設計します。スクイーズアウトの全体像は少数株主排除・スクイーズアウトの総合案内で、弁護士に依頼する場合の進め方はスクイーズアウトによる少数株主の排除を弁護士に依頼するときで解説しています。議決権の90%以上を有する特別支配株主となる場合の別の手法については、株式等売渡請求の要件・手続・注意点をご覧ください。少数株主の排除に関する当事務所の対応は少数株主の排除・スクイーズアウトに関する御相談で御案内しています。少数株主対策・スクイーズアウトに関するほかの裁判例は、少数株主対策・スクイーズアウトの裁判例の解説記事一覧をご覧ください。

少数株主対策・スクイーズアウトに関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所
03-6435-8418
受付時間 8:00~21:00(土日祝含む)

資料がすべてそろっていない段階でも御相談いただけます。御相談は事前予約制です。秘密は厳守します。

この記事の位置付け

公開買付けに続く株式併合で端数株主となった株主が、法定の期間を過ぎてから会社に株式の買取りや損害賠償を求めた場面の判例を、会社・支配株主の側から、法定の手続を履践しておくことの意味の観点から解説します。

株式併合などによる少数株主の排除に関する当事務所の対応は、少数株主の排除・スクイーズアウトに関する御相談のページで御案内しています。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

公開買付けや株式併合などによるスクイーズアウト・株式の集約を、反対株主の株式買取請求や端数の処理の手続を含めて会社・支配株主の側から設計する場合の当事務所の取扱内容及び対応の進め方は、次のご案内をご覧ください。

スクイーズアウト・株式の集約に関する御相談

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
03-6435-8418受付 8:00〜21:00(土日祝含む)フォームLINE
スクイーズアウトのご相談03-6435-8418受付 8:00〜21:00(土日祝含む)フォームLINE