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株式買取業者からの譲渡承認請求に応答しなかった会社のみなし承認と株主総会決議の取消し―大阪高等裁判所令和7年9月4日判決

公開 2025年9月4日

▶ 株式譲渡承認請求を受けた会社の御相談

株式買取業者から株式の譲渡承認請求を受けた非上場会社が、承認するかどうかを2週間以内に決めず、その後の株主名簿の名義書換請求も拒み、株式買取業者に招集通知を送らないまま定時株主総会を開いた事件の判例です。大阪高等裁判所令和7年9月4日判決は、会社の控訴を棄却し、株式買取業者が7万3,970株を有する株主であることの確認と、定時株主総会の5つの決議の取消しを認めた大阪地方裁判所令和6年12月11日判決を維持しました。

会社は、株式買取業者による株式の買取りは弁護士法第73条と金融商品取引法第29条に違反し、売買は無効であると主張しました。控訴審は、株式買取業者の買取事業は金融商品取引業に当たり登録が必要であると判断して第一審の判断を一部改めましたが、それでも売買は無効にならないとしました。会社が株主に示していた買取価格が1株当たり60円であったことも、判決の中で繰り返し取り上げられています。

本記事では、2つの審級の判断を、株式買取業者から通知や請求を受けた発行会社の立場から順に整理し、会社がどの段階で何をしなかったことが結論につながったのか、会社の主張のうち何が退けられたのかを確認します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 会社は株主に1株60円を示し、株主は株式買取業者に1株500円で売った
    2. 会社は、譲渡承認請求に「応答するつもりがない」と回答した
    3. 株式買取業者は、みなし承認を前提に1株834円での買取りを提案した
    4. 会社は名義書換請求を拒み、株式買取業者に招集通知を送らなかった
    5. 判決が認定した株式買取業者の事業の実態
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 判断の前提となった法律と定款の定め
    1. 定款の定め―取締役会の承認と株主名簿の閉鎖
    2. 譲渡承認請求と、2週間でのみなし承認
    3. 名義書換えの不当拒絶
    4. 招集通知と決議の取消し、裁量棄却
    5. 弁護士法第73条と金融商品取引法第29条
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. RVSの請求
    2. 第一審での主な主張の対立
    3. 控訴審での補充主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審の判断
    1. 形式的には「他人から譲り受けた権利の実行」に当たる
    2. 判断の枠組み―弊害のおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内か
    3. 紛議を助長する面はあるが、「みだりに」とまではいえない
    4. 少数株主にとっての有用性と、価格差の評価
    5. 金融商品取引法については「公衆性」がないとした
    6. みなし承認と、名義書換えの不当拒絶
    7. 招集通知の不実施と、裁量棄却の否定
    8. 判決本文の金額の表記について
  9. 控訴審の判断
    1. 第一審の判断を引用し、金融商品取引法の部分を改めた
    2. 株式買取業者の事業は金融商品取引業に当たる(第一審の判断の変更)
    3. それでも売買は無効にならない
    4. 弁護士法第73条についての会社の補充主張も退けた(第一審の判断の維持)
    5. 裁量棄却についての補足―株式買取業者は経営に関与する意思を表明していた
    6. RVSの補充主張も退けた
    7. 維持・補正・変更の整理
  10. 主文及び結論
    1. 第一審判決の主文
    2. 控訴審判決の主文
    3. 審級ごとの結論の推移
  11. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 株式買取業者から請求を受けた会社が確認しておきたいこと
  12. よくあるご質問
    1. 株式買取業者から譲渡承認請求が届きました。応答しないでおけば、株主になるのを防げますか。
    2. 株式買取業者による株式の買取りは、弁護士法違反で無効だと主張できますか。
    3. 株式買取業者が金融商品取引業の登録を受けていなければ、売買は無効になりますか。
    4. 名義書換請求を拒んで、元の株主に招集通知を送れば足りますか。
    5. 株式買取業者の持株はわずかです。招集通知を送らなくても、決議の結果は変わらないのではありませんか。
    6. 株主から買取りを求められたとき、会社が低い価格を示すことに問題はありますか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所・裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 大阪地方裁判所第4民事部 令和6年12月11日 令和5年(ワ)第7151号 判決 株式買取業者の請求を全部認容(株主であることの確認、定時株主総会の5つの決議の取消し)。訴訟費用は会社の負担
控訴審 大阪高等裁判所第4民事部 令和7年9月4日 令和7年(ネ)第125号 判決 会社の控訴を棄却。控訴費用は会社の負担
請求の内容 株主権の確認と、株主総会決議の取消し(会社法第831条第1項第1号)
控訴した当事者 会社(第一審の被告)
上訴の状況 控訴審判決に対する上告・上告受理申立ての有無及び確定は、確認できていません

この表は、2つの判決本文の冒頭、主文及び事案の概要の記載に基づいて当事務所が作成したものです。控訴審判決は、第一審判決の「事実及び理由」を引用したうえで、一部を補正しています。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた「原告」「被告」「控訴人」「被控訴人」及び英字の符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。

本記事の表記 立場
金属熱処理・鍛造会社GMF(以下「GMF」) 一般金属材料の熱処理及び鍛造等を業とする株式会社で、株式を譲渡するには取締役会の承認を要するとされている会社です。株式買取業者から譲渡承認請求を受けた発行会社であり、第一審の被告、控訴審の控訴人です
株式買取業者RVS(以下「RVS」) 経営コンサルティング等を業とする株式会社で、非上場株式を株主から買い取る事業を行っています。第一審の原告、控訴審の被控訴人です
元株主ARK氏・元株主BNT氏(以下「元株主2名」) GMFの株式をそれぞれ3万6,985株保有していた株主で、GMFに買取りを求めた後、RVSに株式を売却しました
RVSの代表者CHD氏 RVSの代表者で、非上場株式の売却に関する書籍を書いて出版している人物です

RVSが開設している買取りの相談窓口のウェブサイトの名称と、RVSの代表者CHD氏の書籍の名称も判決本文に記載されていますが、本記事では名称を書いていません。判決本文を引用する部分では、当事者の呼称を上記の表記に置き換え、その旨を示しています(主文の引用を除きます)。数字は判決本文の表記のまま引用しています。

事案の概要

会社は株主に1株60円を示し、株主は株式買取業者に1株500円で売った

GMFの発行済み株式総数は164万600株で、定款により、株式を譲渡するには取締役会の承認を要することとされていました。元株主2名は、それぞれGMFの株式3万6,985株を保有していました。

元株主2名は、それぞれGMFに株式の買取りを求めましたが、GMFが提示した買取価格は1株当たり60円にとどまり、合意には至りませんでした。元株主2名は、令和4年9月9日、それぞれ保有株式の全部を1株当たり500円でRVSに譲渡しました。2名分を合わせると7万3,970株で、GMFの発行済み株式総数の約4.5%に当たります。

会社は、譲渡承認請求に「応答するつもりがない」と回答した

RVSは、令和4年9月22日、元株主2名とそれぞれ共同して、GMFに株式譲渡の承認を請求し、あわせて、譲渡を承認しない旨の決定をする場合には、GMF又はGMFの指定する買取人が株式を買い取ることを請求しました。

これに対し、GMFは、同年10月6日、RVSに対し、譲渡承認請求について、GMFとして承認の可否を応答するつもりがない旨を回答しました。第一審でのRVSの主張によれば、GMFの書面には、譲渡は弁護士法第73条及び金融商品取引法第29条に違反する行為で無効であることなども記載されていました。

株式買取業者は、みなし承認を前提に1株834円での買取りを提案した

RVSは、令和5年1月27日、GMFに対し、株式の譲渡が会社法第145条によって承認されたものとみなされたと認識していること、今後は株主名簿の名義書換請求を行うこと、GMFが株式を買い取るのであれば交渉に応じることを伝えました。そのうえで、買取価格については簿価純資産法による1株当たり1,667円が適当であると考えているが、早期解決に向けて歩み寄る意向があるとして、その50%である1株当たり834円での買取りを提案しました。

控訴審判決は、この書面に、GMFが株式を買い取る場合の提案のほか、RVSを株主として迎え入れる場合には経営戦略のサポートや株主提案などでGMFの発展に寄与し、株式配当の向上に貢献するという趣旨の記載があったことを認定しています。

会社は名義書換請求を拒み、株式買取業者に招集通知を送らなかった

RVSと元株主2名は、令和5年3月1日、それぞれ共同して、書面でGMFに株主名簿の名義書換えを請求しました。GMFは、同月28日、RVSに対し、RVSがGMFの株主であることを否定する旨を通知しました。GMFの定款には、定時株主総会で議決権を行使する株主を確定するため、毎決算期(3月31日)の翌日から定時株主総会の終了の日まで株主名簿を閉鎖する旨の定めがありました。

GMFは、令和5年5月25日に定時株主総会を開きましたが、株主総会に先立って、RVSには招集通知を送らず、株主名簿に記載されたままの元株主2名に招集通知を送りました。株主総会では、次の5つの決議がされました。

  • 決算報告書の承認
  • 剰余金処分案の決議
  • 取締役の任期満了による改選
  • 監査役の任期満了による改選
  • 取締役及び監査役の報酬等の総額案の決議

RVSは、同年7月26日、GMFを被告として、株主であることの確認と、5つの決議の取消しを求めて大阪地方裁判所に提訴しました。

判決が認定した株式買取業者の事業の実態

第一審判決は、RVSの事業について、次の事実を認定しました(控訴審判決も、この認定を引用しています)。以下は判決本文の認定事実の要約です。

  • RVSは、平成30年頃から買取りの相談窓口のウェブサイトを開設し、譲渡制限がついていても売却は可能であり、株式の価値を算定して合意価格で買い取るなどと宣伝して、譲渡制限株式を買い取る旨の広告をしています。RVSの代表者CHD氏が書いて出版した書籍には、売買契約の前に株主に代わって会社と買取交渉をすることは弁護士法第72条に違反するおそれがあるので行わないこと、譲渡承認請求は売買契約の締結後にRVSが行うこと、会社が譲渡承認を拒否した場合は株式買取交渉や価格決定の申立て等を行うこと、譲渡承認請求が認められた場合は株主権を行使して会社の現状を把握し、特別背任罪を理由とする告訴や配当増加についての株主提案を行うことなどが記載されています。
  • RVSは、買取りの資金を、銀行からの借入れのほか個人投資家からの借入れで調達しており、令和4年12月末の時点で、15名程度の個人投資家から合計4億2,100万円を借り入れ、同年12月期には利息として約6,200万円(利率年約14.7%)を支払っていました。
  • 相談窓口への問合せは、令和2年が110件、令和3年が285件、令和4年が465件で、令和4年の株式買取りの相談申込みは141件、株式を取得した件数は18件でした。
  • 令和5年5月26日までに、RVSが裁判所に価格決定を申し立てた事例は15件、株主として訴訟を提起した事例は4件(会計帳簿等の閲覧謄写請求、株主代表訴訟、取締役会議事録の閲覧請求、株主総会決議取消等請求)でした。

第一審判決は、GMFの財務についても、令和4年3月31日現在の純資産が20億8,899万円、直前の事業年度の純利益が1億2,332万円、配当額が1株当たり4円、自己株式を除く発行済み株式総数が125万2,988株であると認定しています。純資産の額を自己株式を除く発行済み株式総数で割ると約1,667円となり、RVSが簿価純資産法によるとした1株当たり1,667円と一致します(この計算は当事務所によるもので、判決本文には示されていません)。

事案の経緯の時系列

時期 出来事(判決本文の前提事実等及び認定事実による)
平成30年頃 RVSが買取りの相談窓口のウェブサイトを開設し、譲渡制限株式の買取りの広告を始める
令和4年9月9日以前 元株主2名がGMFに株式の買取りを求めるが、GMFの提示は1株当たり60円にとどまり、合意に至らない
令和4年9月9日 元株主2名が、それぞれ3万6,985株を1株当たり500円でRVSに譲渡
令和4年9月22日 RVSが元株主2名とそれぞれ共同して、GMFに譲渡承認を請求。承認しない場合はGMF又は指定買取人による買取りを請求
令和4年10月6日 GMFが、承認の可否を応答するつもりがない旨を回答
令和5年1月27日 RVSが、みなし承認がされたとの認識を伝え、1株当たり834円での買取りを提案
令和5年3月1日 RVSと元株主2名が、それぞれ共同して書面で名義書換えを請求
令和5年3月28日 GMFが、RVSが株主であることを否定する旨を通知
令和5年3月31日 GMFの決算期。定款により、翌日から定時株主総会の終了の日まで株主名簿を閉鎖
令和5年5月25日 GMFが定時株主総会を開催。RVSには招集通知を送らず、元株主2名に送る。5つの決議がされる
令和5年7月26日 RVSが大阪地方裁判所に提訴(令和5年(ワ)第7151号)
令和6年12月11日 大阪地方裁判所が請求を全部認容する判決
令和6年12月11日以降 GMFが控訴(令和7年(ネ)第125号)
令和7年9月4日 大阪高等裁判所が控訴を棄却する判決

元株主2名とRVSとの株式譲渡契約の条項の文言は、判決本文には記載されていません。判決本文から分かるのは、譲渡の日、株式数及び1株当たりの価格だけです。そのため、本記事では契約条項の引用はしていません。

判断の前提となった法律と定款の定め

判決が判断の前提とした定めを、会社の側から見た順序で整理すると、次のとおりです。条文の説明は当事務所によるものです。

定款の定め―取締役会の承認と株主名簿の閉鎖

判決本文によれば、GMFの定款では、株式を譲渡するには取締役会の承認を要することとされ、また、毎決算期(3月31日)の翌日から定時株主総会の終了の日まで株主名簿を閉鎖する旨が定められていました。

譲渡承認請求と、2週間でのみなし承認

譲渡制限株式を取得した者は、株主名簿上の株主と共同して、会社に対し、取得を承認するかどうかの決定をするよう請求することができ、承認しない旨の決定をする場合には会社又は指定買取人が買い取ることを請求することができます(会社法第137条、第138条)。会社は、請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間)以内に決定の内容を通知しなければ、承認をしたものとみなされます(会社法第145条第1号)。第一審判決は、本件の譲渡承認請求から2週間が経過したことにより、GMFが譲渡を承認したものとみなされると判断しました。

名義書換えの不当拒絶

株式の取得者は、名義書換えをしなければ株式の譲渡を会社に対抗できないのが原則です。もっとも、第一審判決は、最高裁判所昭和42年9月28日判決を参照し、会社が名義書換えの請求を不当に拒絶した場合には、名義書換えがされていないことを理由に取得者を株主として扱わない旨を主張することは許されないとしました。

招集通知と決議の取消し、裁量棄却

株主総会を招集するには、株主に招集通知を発しなければなりません(会社法第299条第1項)。招集の手続が法令に違反するときは、株主等は決議の取消しを請求できます(会社法第831条第1項第1号)。ただし、違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は請求を棄却することができます(会社法第831条第2項。いわゆる裁量棄却)。

弁護士法第73条と金融商品取引法第29条

弁護士法第73条は、何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができないと定めています。金融商品取引法第29条は、金融商品取引業は内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行うことができないと定めています。GMFは、この2つの定めを根拠に、元株主2名からRVSへの株式の売買は無効であると主張しました。

当事者の請求と主要な主張

RVSの請求

RVSは、GMFに対し、RVSがGMFの発行する普通株式7万3,970株を有する株主であることの確認と、令和5年5月25日開催の定時株主総会における5つの決議の取消しを求めました。

第一審での主な主張の対立

争点 GMF(会社)の主張 RVS(株式買取業者)の主張
弁護士法第73条違反による売買の無効 RVSは、不特定多数の者から非上場株式を買い集め、発行会社やその関係者に売り渡すことを反復継続しており、弁護士法第73条に当たる。RVS自身が適正と考える価格の3分の1程度で株式を買い取り、みなし承認を強調するなどして対応を迫っている。売買価格決定手続の公正かつ円滑な営みを妨げ、好ましくない者が株主となることを防ぐ会社の利益を自らの事業利益のために利用するもので、正当な業務とはいえない 譲渡承認請求や買取請求、売買価格決定の申立ては株式取得者の権利であり、他人から譲り受けた権利ではない。元株主2名は、GMFが1株当たり60円という適正な価格と全く乖離した金額に固執したために売却したもので、RVSは必要な資料の提示を受けて1株当たり500円で契約し、代金を支払った。換価困難な譲渡制限株式を適正な金額で買い取る事業で、国民の法律生活上の利益を害しない
金融商品取引法第29条違反による売買の無効 非上場株式は有価証券であり、事業として行う売買は業に当たる。ホームページや書籍で不特定多数の者に勧誘しており、対公衆性もある。RVSは登録を受けていないから売買は無効である 取引の場は極めて限定的で、売却の相手方は発行会社などに限られる。手当たり次第の勧誘はしておらず、広告は関心を持った者にだけ届く性質のもので、対公衆性がない
決議の取消事由 RVSは株主ではなく、原告適格がない。株式譲渡契約書の提示がないなど株主であるかに疑義があったから名義書換えをしなかったのであり、不当拒絶ではない。株主名簿に記載された元株主2名に招集通知を送っており、招集手続に違法はない 会社法所定の手続を踏んで譲渡承認請求と名義書換請求をしたのに、GMFが応じなかったのは不当な拒絶であり、株主であるRVSに招集通知をしなかったことは会社法第299条第1項に違反する
裁量棄却 名義書換請求から基準日まで1か月弱しかなく、RVSの株式は発行済み株式総数の約4.5%にとどまるから、決議の結果に影響はなく、違法の程度は軽微である GMFが弁護士の関与の下で譲渡承認請求と名義書換請求を一貫して無視したことの違法性は甚大であり、裁量棄却される事案ではない

控訴審での補充主張

GMFは、控訴審で、第一審判決の取消しと、決議の取消しを求める部分の訴えの却下及びその余の請求の棄却を求め、次の主張を補充しました。

  • RVSが譲り受けた株式は、買取価格の交渉が成立しなかったという経緯があるもので、紛争性がある。
  • RVSが元株主に支払う代金は将来の売却益を見込んだもので、売却益を譲渡人に還元していると評価すべきである。株式を買い取った後に会社と交渉するのは、弁護士法第72条違反との指摘を回避するためである。
  • RVSは事業開始から令和4年12月頃までに50件の非上場株式を現金化したとしており、うち15件が売買価格決定手続に至っている。買取交渉では法的紛議が不可避であり、RVSはみだりに訴訟を誘発し紛議を助長している。
  • RVSは、閉鎖的な非上場会社に外部者が株主として介入するという圧力を背景に、会社から金銭を収受しようとするもので、法秩序の予定しない不当な行為である。
  • RVSの事業は、売主から株式を安く買い取り、発行会社に高く買い取らせることなしには成立せず、売主との情報の非対称性や交渉力の格差を利用するものであるから、金融商品取引法の業規制を適用する必要がある。ホームページや書籍で不特定多数の者に勧誘しており、対公衆性がある。
  • RVSは株式の売却の意向を当初から明らかにしており、経営に真摯に参加する意思はうかがわれない。RVSの株式は約4.5%にすぎず、議決権を行使しても決議に影響を及ぼした可能性はないから、裁量棄却されるべきである。

RVSも、控訴審で、自己の計算で株式を取得しているもので対公衆性はなく、仮に形式的に金融商品取引業に当たるとしても、同法が防止しようとする弊害のおそれはなく、公序良俗に違反して無効な取引にはならないと補充して主張しました。

以上は、判決本文に記載された当事者の主張を当事務所が要約したものであり、裁判所が認めた事実ではありません。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

結論を左右した争点

第一審判決が整理した争点は、元株主2名からRVSへの株式の売買が弁護士法第73条又は金融商品取引法第29条に違反して無効かどうか、決議に取消事由があるかどうか及び裁量棄却が相当かどうかの2つです。会社の側から見ると、結論を分けたのは次の点でした。

  • 売買が無効であれば、RVSは株主ではなく、譲渡承認請求も名義書換請求も前提を欠くことになります。GMFの対応は、この売買の無効という主張が認められることを前提とするものでした。
  • 売買が有効であるとすると、GMFが2週間以内に承認の可否を決定しなかったことでみなし承認が生じ、その後の名義書換えの拒絶が不当拒絶に当たるかどうかが問題になります。
  • 不当拒絶であれば、RVSに招集通知をしなかったことは招集手続の法令違反となり、RVSの持株が約4.5%にとどまることなどから裁量棄却ができるかどうかが問題になります。

2つの審級は、いずれの点でもRVSの主張を認めました。ただし、金融商品取引法の点については、控訴審が第一審の理由を改めています。

第一審の判断

形式的には「他人から譲り受けた権利の実行」に当たる

第一審判決は、RVSの事業を、非上場株式を株主から買い取り、発行会社に譲渡承認と買取りを請求し(会社法第138条)、承認されない場合には売買価格の協議をし、協議が調わなければ裁判所に売買価格決定の申立てをして(会社法第144条)、株式の売買代金を得て利益をあげることを目的とするものと認定しました。そして、こうした事業は、形式的には、他人から権利を譲り受けて訴訟等の手段によって権利を実行するものであるとしました。

RVSは、譲渡承認請求等は譲渡人の権利ではなく、法が株式の取得者に与えた権利の行使であると主張しましたが、第一審判決は、弁護士法第73条の趣旨から、次のように述べてこの主張を採用しませんでした。

「他人から譲り受けた権利から派生する請求を行うことも「他人から譲り受けた権利の実行」に当たると解される」

判断の枠組み―弊害のおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内か

第一審判決は、最高裁判所平成14年1月22日判決を参照し、形式的に弁護士法第73条に当たる行為であっても、同条の趣旨に照らして弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には、同条に違反しないとの枠組みを示しました。そのうえで、権利の譲受けの方法・態様、権利実行の方法・態様、RVSの業務内容とその実態を順に検討しています。

紛議を助長する面はあるが、「みだりに」とまではいえない

第一審判決は、RVSが株式の長期保有を好ましいとは考えておらず、発行会社等による早期の買取りを目指しているものと考えざるを得ないとし、売買価格決定の申立てや発行会社と役員に対する訴訟を誘発したり、紛議を助長したりする面が一定程度あることは否定できないとしました。

しかし、次の事情から、RVSの事業が「みだりに」訴訟を誘発したり紛議を助長したりするとまでは評価できないとしました。

  • 元株主2名が株式を保有していたことにはGMFとの間で争いがなく、株式の帰属自体に争いのある株式を譲り受けたものではないこと。
  • RVSは譲渡人の意向に従って権利行使をしているとは認められず、売却の利益を譲渡人に還元しているとも認められず、譲渡人から独立した立場で自らの利益のために権利行使をしていること。
  • 株式を譲り受けた後に訴訟を提起した例は少数にとどまり、売買価格決定の申立ても1年当たり数件にとどまること。
  • 不当な要求や、暴力的・反社会的な方法を用いたことをうかがわせる証拠がないこと。

少数株主にとっての有用性と、価格差の評価

第一審判決は、小規模で閉鎖的な会社の少数株主は、配当がないか少額で、株式の譲渡も制限されている場合には、投下資本の回収が制限されていることから、RVSの事業には一定の需要と社会的有用性が認められるとしました。買い取る価格と会社に売却する価格の差については、否定的な評価はあり得るとしながらも、「暴利を得ているとまではいえず」と述べています。

結論として、第一審判決は、次のように述べて、弁護士法第73条違反を否定しました。

「濫訴のおそれや弁護士法72条本文の禁止の潜脱行為として国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内と認められる。」

金融商品取引法については「公衆性」がないとした

第一審判決は、RVSの広告の方法・態様等に照らすと、その事業に「公衆性」があるとは認められず、「業として」金融商品を取引したということはできないとして、金融商品取引法第29条違反も否定しました。そして、売買は公序良俗に違反する取引ともいえず、有効であると判断しました。

みなし承認と、名義書換えの不当拒絶

第一審判決は、売買が有効である以上、譲渡承認請求から2週間が経過したことにより、GMFが譲渡を承認したものとみなされるとしました。

そして、名義書換えについて、GMFは令和5年3月1日の名義書換請求に応じておらず、株主名簿の閉鎖の前日である同月31日までに請求に応じることが困難であったことをうかがわせる事情は認められないとして、GMFが不当に拒絶したと認定し、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「元株主2名からRVSへの株主名簿の名義変更がなされていないことを理由として、GMFが、RVSをGMFの株主として扱わない旨を主張することは許されない」

GMFは、株式譲渡契約書の提示がないなど株主であるかに疑義があったと主張していましたが、第一審判決は、この主張を判断の中で個別には取り上げておらず、名義書換請求から株主名簿の閉鎖までに応じることが困難であった事情がないことをもって、不当拒絶と認定しています。

招集通知の不実施と、裁量棄却の否定

第一審判決は、GMFがRVSに招集通知をしなかったことは会社法第299条第1項に違反し、招集手続に法令違反があるとして、5つの決議に取消事由を認めました。裁量棄却については、次のように述べて否定しています(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「RVSに対する招集通知の不実施は、意図的にRVSを本件株主総会から排除したものといえ、その違法性の程度は重大であって、これを裁量により棄却することが相当であるとは認められない。」

RVSの株式が発行済み株式総数の約4.5%にすぎないという点についても、第一審判決は、次のように述べています(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「ほかの株主の議決権行使の状況は明らかではなく、RVSが議決権を行使したとしても決議に影響を及ぼさないと認めるに足りる証拠もない。」

判決本文の金額の表記について

第一審判決は、前提事実では、RVSが簿価純資産法により1株当たり1,667円が適当であると考えていると伝えたと記載する一方、判断の部分では「1株当たり1663円の半額である1株当たり834円」と記載しています。控訴審判決は1株1,667円と記載しており、本記事では1,667円と表記しています。

控訴審の判断

第一審の判断を引用し、金融商品取引法の部分を改めた

控訴審判決は、RVSの請求はいずれも理由があると判断し、その理由は、第一審判決の「判断」の部分を補正し、GMFとRVSの補充主張に対する判断を加えるほかは、第一審判決のとおりであるとして引用しました。補正されたのは、第一審判決が金融商品取引法第29条違反を否定した部分と、売買の有効性の結論を述べた部分です。弁護士法第73条違反を否定した判断、みなし承認と不当拒絶の判断、招集手続の法令違反と裁量棄却を否定した判断は、維持されています。

株式買取業者の事業は金融商品取引業に当たる(第一審の判断の変更)

控訴審判決は、「業として」に当たるかは、対公衆性のある行為を反復継続性をもって行う場合に当たるかで判断すべきであるとしました。そのうえで、RVSが平成30年頃から相談窓口のウェブサイトや代表者の書籍で非上場株式の買取りを募り、資金を銀行と個人投資家からの借入れで賄い、令和4年には18件の株式を取得していること、本件でも試算した株価1,667円を大きく下回る500円で買い取り、それを上回る834円での買取りをGMFに求めたことを挙げ、次のように判断しました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「不特定多数の者を相手にすることが予定され、そうした不特定多数の求めに応じながら、RVS自身の利益をあげることを目的としたものであって、「対公衆性」のある行為と評価するのが相当である。」

控訴審判決は、反復継続性も認め、RVSの非上場株式の買取事業は金融商品取引業に該当し、内閣総理大臣の登録を受けなければ行うことができないと評価するのが相当であるとしました。この点は、第一審の判断を改めたものです。

それでも売買は無効にならない

控訴審判決は、無登録で金融商品取引業を行った者には罰則があり(金融商品取引法第197条の2第10号の4)、無登録業者が未公開有価証券の売付けを行った場合には原則として契約が無効になると定められている(同法第171条の2第1項本文)一方で、買付けにはそのような定めがないことを指摘し、次のように述べました。

「未公開有価証券を買い付けた契約が当然に公序良俗に違反するなどとして無効になるものとまではいえず、別途検討する必要がある。」

そして、本件の売買について、次の事情を検討しました。

  • GMFの株式の譲渡には取締役会の承認が必要で、保有者が投下資本を回収するための換価には一定の制限があったこと。
  • 元株主2名がGMFに買取りを求めたのに対し、GMFは1株当たり60円での買取りを提示し、合意に至らなかったこと。こうした状況で元株主2名がRVSの広告に応じて譲渡するに至った経緯自体に、不当な点は認められないこと。
  • 1株500円という譲渡価格は、RVSが後に試算した1株1,667円や実際に求めた1株834円よりは低額であるが、次のとおり、GMFの提示額と比べればはるかに高額であること。RVSの業態からすると利益をあげる必要があり、それも踏まえて500円としたことに不当な点があるとまではいえないこと。

「GMFが元株主2名に提示した金額と比較すればはるかに高額であり」

(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています。)

  • GMFが令和4年9月22日の譲渡承認請求から2週間以内に承認するか否かを決定しなかったことから、RVSがみなし承認に当たるとして買取りを提案し、名義書換えを請求したことは、次のとおり、法律の規定に従った手段であること。

「こうしたRVSの行動は法律の規定に従って取るべき手段として行ったものであって、そうした行為自体が非難されるものとはいえない。」

(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています。)

  • 元株主2名が不当な安価での譲渡を求められ、意に反して株式を譲渡するに至ったとは認められないこと。

控訴審判決は、これらの事情から、売買が公序良俗に違反するなどして無効と評価すべきものとまでは認めることはできないとし、売買は有効であるとしました。結論は第一審と同じですが、理由が補正されています。

弁護士法第73条についての会社の補充主張も退けた(第一審の判断の維持)

控訴審判決は、GMFの補充主張を次のとおり退け、弁護士法第73条違反を否定した第一審の判断を維持しました。

  • 株式に紛争性があるとの主張について、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「GMFが主張する紛争等は買取価格に関するものであり、元株主2名の保有自体には争いがなく、紛争性が高い株式をRVSが敢えて取得したと評価することはできず」

  • 売却益を譲渡人に還元しているとの主張について、元株主2名からRVSへの譲渡と、RVSがGMFに買取りを求めることは別個の法律行為であり、株式の取得の原資はRVSが別途調達した資金で、取得した株式が確実に発行会社に買い取られるものでもないから、「本件事業を通じて、譲渡人に対して利益が還元されていると評価することはできない。」としました。株式の取得後に交渉するのは弁護士法違反を回避するためであるとの主張も、RVSが自ら有する権利として交渉しており、譲渡人の意向や利益に従って権利を行使していることをうかがわせる事情もないとして退けました。
  • 法的紛議が不可避で紛議を助長しているとの主張について、譲渡承認の場面で評価額をめぐる紛争が生じることが多いことは認めつつ、価格決定の申立ては1年当たり数件にすぎず、株主としての訴訟も4件にとどまるとしました。そして、本件については、GMFが1株当たり60円にとどめたために合意に至らず、RVSが株式を取得したのであるから、次のとおりであるとしました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「法的紛議の原因が一方的にRVSにあるとするのは相当ではなく」

  • 外部者の介入という圧力を背景に会社から金銭を収受する不当な行為であるとの主張について、控訴審判決は、RVSの代表者CHD氏が別件訴訟の本人尋問で、取得した株式の譲渡がすべて承認されたとすれば投下資本の回収が厳しくなることを認めていることに触れつつ、次のように述べて、RVSの事業を不当な行為と評価することまではできないとしました。

「譲渡制限株式を取得する際に承認を求め、これを拒否された場合には買取りを求めて、最終的には売買価格決定の申立てに至るというのは法律が予定している手続であり」

裁量棄却についての補足―株式買取業者は経営に関与する意思を表明していた

GMFは、RVSには経営に真摯に参加する意思がなく、持株も約4.5%にすぎないと主張しました。控訴審判決は、RVSが令和5年1月27日付けの書面で、GMFが株式を買い取る場合の提案のほか、株主として迎え入れられた場合には経営戦略のサポートや株主提案などでGMFの発展に寄与し、株式配当の向上に貢献するという趣旨を記載し、譲渡が承認された場合には株主として経営に関与していく意思を表明していたことを指摘しました。そのうえで、次のように述べて、裁量棄却を否定した第一審の判断を維持しました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「RVSに対する招集通知の不実施の違法性は重大であり、決議に影響を及ぼした可能性がないとは認められない。」

RVSの補充主張も退けた

控訴審判決は、自らの事業は対公衆性がなく金融商品取引業に当たらないとするRVSの補充主張についても、上記の補正のとおり金融商品取引業に該当するとして採用しませんでした。RVSにとっても、勝訴の結論は維持されたものの、事業が金融商品取引業に当たるとの判断を受けたことになります。

維持・補正・変更の整理

判断事項 第一審 控訴審 控訴審の扱い
弁護士法第73条 形式的には該当するが、弊害のおそれがなく社会的経済的に正当な業務の範囲内であり、違反しない 同じ。GMFの補充主張(紛争性、利益の還元、紛議の助長、不当な行為)をいずれも退けた 維持(補充主張に対する判断を追加)
金融商品取引法第29条 公衆性がなく、業として取引したとはいえないから、違反しない 対公衆性・反復継続性があり、金融商品取引業に該当し、登録が必要 変更
売買の有効性 いずれの法律にも違反せず、公序良俗にも反しないから有効 無登録業者の買付けの契約は当然には無効とならず、本件の経緯に不当な点はないから、公序良俗に反するとまではいえず有効 結論を維持し、理由を補正
みなし承認・名義書換えの不当拒絶 2週間の経過でみなし承認。名簿の閉鎖までに応じられない事情はなく不当拒絶 第一審判決を引用 維持
招集手続の法令違反・裁量棄却 意図的な排除で違法性は重大。決議に影響しないと認める証拠もない 経営関与の意思の表明を加えて、違法性は重大で決議に影響した可能性がないとは認められない 維持(理由を補足)

主文及び結論

第一審判決の主文

第一審判決の主文は、次のとおりです(「原告」はRVSを、「被告」はGMFを指します。別紙決議目録には5つの決議が記載されています)。

「原告が被告の発行する普通株式7万3970株を有する株主であることを確認する。」
「被告の令和5年5月25日開催の定時株主総会における別紙決議目録記載の決議を取り消す。」
「訴訟費用は、被告の負担とする。」

控訴審判決の主文

控訴審判決の主文は、次のとおりです(「控訴人」はGMFを指します)。

「本件控訴を棄却する。」
「控訴費用は控訴人の負担とする。」

審級ごとの結論の推移

審級 株主であることの確認 5つの決議の取消し 売買の有効性の理由
第一審(大阪地方裁判所令和6年12月11日判決) 認容 認容 弁護士法第73条・金融商品取引法第29条のいずれにも違反しない
控訴審(大阪高等裁判所令和7年9月4日判決) 維持(控訴棄却) 維持(控訴棄却) 弁護士法第73条には違反しない。金融商品取引業には当たるが、売買は公序良俗に反するとまではいえない

GMFは、RVSが7万3,970株を有する株主であることを確認され、定時株主総会の5つの決議を取り消されるという結論を、2つの審級を通じて覆すことができませんでした。控訴審判決に対する上告・上告受理申立ての有無及び確定は、確認できていません。

判断の射程

以下は、2つの判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。射程の検討は、最終的な判断である控訴審判決を基準とし、第一審の判断が改められた点はその旨を示しています。

参考となる点

  • 譲渡承認請求に2週間以内に応答しないと、承認したものとみなされること。本件では、GMFが「承認の可否を応答するつもりがない」と回答したことで、承認しない旨の決定の通知がされず、2週間の経過によってみなし承認が生じたと判断されました。株式買取業者を株主として迎えたくない会社であっても、請求を放置したり、応答しないと回答したりすることは、結果として承認と同じ効果を生じさせることになります。
  • 売買の無効を理由に請求を拒む対応は、無効の主張が認められなければ全体が崩れること。GMFは、売買が弁護士法第73条と金融商品取引法第29条に違反して無効であることを前提に、譲渡承認請求にも名義書換請求にも応じず、招集通知も送りませんでした。売買が有効とされたことで、これらの対応はすべて会社に不利に働きました。
  • 名義書換請求を不当に拒絶すると、名義書換えが未了であることを理由に株主として扱わないと主張できなくなること。第一審判決は、名義書換請求から株主名簿の閉鎖までの間に応じることが困難であった事情がないとして不当拒絶を認めました。株主名簿の閉鎖や基準日が近いことは、それだけでは拒絶を正当化しないと考えられます。
  • 招集通知をしないことは、決議の取消しにつながり、持株割合が小さくても裁量棄却は認められにくいこと。2つの判決は、約4.5%の持株であっても、意図的に株主総会から排除したことは違法性が重大であるとし、ほかの株主の議決権行使の状況が明らかでないことなどから、決議に影響しないとはいえないとしました。取り消された決議には、決算報告書の承認、剰余金処分、取締役と監査役の選任、役員の報酬等の総額が含まれていました。
  • 弁護士法第73条違反の主張は、本件の事実関係では売買の無効に結び付かなかったこと。2つの判決は、株式買取業者の事業が形式的には「他人から譲り受けた権利の実行」に当たるとしつつ、譲渡人の意向に従っていないこと、利益を還元していないこと、訴訟等の件数が少数にとどまること、不当な要求や反社会的な方法をうかがわせる証拠がないことなどから、違反を否定しました。
  • 金融商品取引業に当たるとされても、買付けの契約は当然には無効にならないとされたこと。控訴審判決は、株式買取業者の事業が金融商品取引業に当たり登録が必要であるとして第一審の判断を改めましたが、無登録業者の売付けと異なり、買付けの契約を無効とする定めはないとして、売買の無効は認めませんでした。会社にとって、金融商品取引法違反の主張は、株式買取業者を株主から排除する手段にはならなかったことになります。
  • 会社が株主に示した買取価格の低さが、会社に不利な事情として扱われたこと。控訴審判決は、GMFが提示した1株当たり60円と比べて株式買取業者の取得価格500円は「はるかに高額」であるとし、法的紛議の原因が一方的に株式買取業者にあるとするのは相当でないとしました。判決が認定したGMFの純資産額を自己株式を除く株式数で割ると約1,667円であり、60円という提示額との差は大きなものでした。株主からの買取りの求めに対して低い価格を示すことは、株主が株式買取業者に売却するきっかけとなるだけでなく、後の裁判で会社の主張を弱める事情にもなり得ると考えられます。

一般化できない点

  • 2つの判決は、本件の株式買取業者の事業の内容、件数、資金調達の方法、権利行使の態様についての具体的な認定に基づいて弁護士法第73条違反を否定したものです。株式買取業者による株式の取得が常に有効であると一般的に述べたものではありません。訴訟等の件数が多い場合、譲渡人の意向に従って権利を行使している場合、売却の利益を譲渡人に還元している場合、株式の帰属自体に争いがある場合などには、評価が異なる可能性があります。
  • 控訴審判決が、株式買取業者の事業を金融商品取引業に当たるとした点は、売買の無効には結び付きませんでした。登録の要否が、罰則や行政上の対応など売買の効力以外の場面でどのような意味を持つかは、本件では判断の対象になっていません。
  • 本件は、会社が2週間以内に承認の可否を決定しなかった事案です。会社が期間内に承認しない旨の決定を通知し、自ら又は指定買取人によって買い取る手続を進めた場合の帰結は、本件の判断の対象ではありません。
  • 不当拒絶の判断は、名義書換請求(3月1日)から株主名簿の閉鎖(3月31日)まで約1か月があり、その間に応じることが困難な事情がなかったという本件の事実関係を前提とするものです。請求が閉鎖の直前であった場合や、株式の取得を疑うべき具体的な事情があった場合の評価は、本件からは分かりません。
  • 裁量棄却の否定は、会社が意図的に株式買取業者を株主総会から排除したこと、株式買取業者が経営に関与する意思を書面で表明していたこと、ほかの株主の議決権行使の状況が明らかでないことを前提とするものです。
  • 控訴審判決に対する上告・上告受理申立ての有無及び確定は、確認できていません。

株式買取業者から請求を受けた会社が確認しておきたいこと

本判決を踏まえると、株式買取業者から譲渡承認請求を受けた会社は、まず、請求の日から2週間(定款で短縮されている場合はその期間)という期限を確認し、取締役会で承認するかどうかを決定して、期限内に通知することが欠かせません。承認しない場合には、会社自身が買い取るのか、指定買取人を定めるのかを含め、その後の手続の期限と資金の準備を検討しておく必要があります。株式買取業者の事業の適法性に疑問があると考える場合でも、その主張が裁判で認められなかったときに備え、法律が定める手続は期限内に進めておくことが、会社の不利益を避けることにつながります。

また、名義書換請求を受けた場合や株主総会を招集する場合には、株主名簿の閉鎖や基準日との関係を確認し、拒絶する理由があるのかを慎重に検討する必要があります。株主からの買取りの求めにどのような価格を示すかも、株主が株式買取業者に売却するかどうか、後の裁判でどう評価されるかに影響する事情として、根拠をもって検討しておくことが大切です。

よくあるご質問

株式買取業者から譲渡承認請求が届きました。応答しないでおけば、株主になるのを防げますか。

防げません。会社が請求の日から2週間(定款で短縮されている場合はその期間)以内に承認するかどうかの決定を通知しなければ、承認したものとみなされます。本判決では、会社が承認の可否を応答するつもりがない旨を回答しましたが、承認しない旨の決定の通知ではないため、みなし承認が生じたと判断されました。承認したくない場合は、期限内に承認しない旨の決定を通知し、その後の買取りの手続を進める必要があります。

株式買取業者による株式の買取りは、弁護士法違反で無効だと主張できますか。

本判決では認められませんでした。2つの判決は、株式買取業者の事業は形式的には弁護士法第73条の「他人から譲り受けた権利の実行」に当たるとしながら、譲渡人から独立して自らの利益のために権利を行使していること、訴訟等の件数が少数にとどまること、不当な要求や反社会的な方法をうかがわせる証拠がないことなどから、弊害のおそれがなく正当な業務の範囲内であるとして、違反を否定しました。事案によって評価が異なる可能性はありますが、この主張を前提に手続を放置することは危険です。

株式買取業者が金融商品取引業の登録を受けていなければ、売買は無効になりますか。

本判決の控訴審は、株式買取業者の事業は金融商品取引業に当たり、登録が必要であると判断しました。しかし、無登録業者が未公開有価証券を買い付けた契約は当然に無効になるものではないとし、本件の売買の経緯に不当な点はないとして、売買を有効としました。登録がないことだけを理由に、株式買取業者を株主でないと扱うことはできないと考えられます。

名義書換請求を拒んで、元の株主に招集通知を送れば足りますか。

本判決では足りないとされました。名義書換請求から株主名簿の閉鎖までの間に応じることが困難な事情がないのに応じなかったことが不当拒絶とされ、会社は株式買取業者を株主として扱わないと主張することは許されないとされました。その結果、株式買取業者に招集通知を送らなかったことが招集手続の法令違反とされ、株主総会の5つの決議が取り消されました。

株式買取業者の持株はわずかです。招集通知を送らなくても、決議の結果は変わらないのではありませんか。

本判決では、株式買取業者の持株が発行済み株式総数の約4.5%にとどまるという会社の主張は採用されませんでした。意図的に株主総会から排除したことは違法性が重大であり、ほかの株主の議決権行使の状況が明らかでなく、決議に影響しないと認める証拠もないとして、裁量棄却は否定されています。控訴審判決は、株式買取業者が経営に関与する意思を書面で表明していたことも指摘しました。

株主から買取りを求められたとき、会社が低い価格を示すことに問題はありますか。

価格をどう定めるかは会社の判断ですが、本判決では、会社が株主に示した1株当たり60円という価格が、株主が株式買取業者に売却した経緯に不当な点はないとする理由や、法的紛議の原因が一方的に株式買取業者にあるとはいえないとする理由として挙げられました。株主に示す価格は、株主が株式買取業者に売却するかどうかに影響し、後の裁判でも会社に不利な事情として扱われ得ることを踏まえて、根拠をもって検討することが大切です。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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