スクイーズアウトで少数株主から訴えられるリスク

スクイーズアウトの手続を進めようとしているが、少数株主から後日訴えを提起されるのではないかと不安に感じている非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、争われる事案において最も多く指摘されるのが株主名簿の不備であり、相続による名義書換の未了や所在の分からない株主の存在が、通知の宛先、議決権の数、対価の算定に影響を及ぼしてしまうという点です。

以下では、手続を始める前に確認すべき事項、及び訴えられるリスクを下げるための留意点を御説明します。

6 手続に要する期間 選択する手法、日程の制約
7 過去の株式の移転の経緯 売買、贈与、相続の記録
8 資金の手当て 対価の支払に充てる資金

 株主名簿の状態を最初に確認してください

争われる事案において最も多く指摘されるのは、株主名簿の不備です。相続が発生しているのに名義書換がされていない、名義株式が残っている、所在の分からない株主がいるという状態のまま手続を進めると、通知の宛先、議決権の数、対価の交付の相手方のすべてに影響します。

株主名簿の整備は、手続に着手する前に完了させておくべき事項です。相応の時間を要しますので、早期の着手が必要です。

 対立の程度を見極めます

すべての株主が争うわけではありません。もっとも、既に弁護士から通知が届いている、会計帳簿閲覧謄写請求がされている、株主総会において反対の意見が述べられているといった事情がある場合には、争われる可能性を前提とした準備が必要です。

 対価の水準の見当を早期に立てます

対価の額が争われた場合、裁判所が価格を定めることになります。会社側としては、その場合にどの程度の幅があり得るかを、手続に着手する前に把握しておく必要があります。

会社側の法的な立場

 問われる事項は2つに整理できます

表2 後日問われる事項と、その時点で示すもの

問われる事項 会社側が示すもの 準備すべき時期
手続が定められたとおりに行われたか 各段階の記録、通知の発送と到達、開示の内容 手続の各段階において
対価の額が相当であったか 算定の根拠、基礎とした資料 対価を決定する時点において

このほか、手続の目的が正当であったかという点が問題とされることもあります。もっとも、少数株主の整理そのものは、それ自体として否定されるものではありません。問題とされるのは、手続と対価です。

 手続の適正について

手続の適正は、次の各項目について記録によって示すことになります。

招集の決定、招集の通知の相手方と方法と時期、開示すべき事項の開示、備え置くべき書類の備置き、株主総会の議事の経過、決議の方法、決議の結果、事後の手続。

これらは、いずれも当該時点で記録しなければ、後から作成することができません。

 対価の相当性について

対価の相当性は、算定の根拠と、基礎とした資料によって示すことになります。決定の時点における会社の財務内容、資産の状況、収益の状況が資料として必要となります。

手続の後に作成した資料は、その作成の経緯が問われます。決定の時点における資料を、その時点で整えておく必要があります。

 支配株主が当事者となる場合

特別支配株主の株式等売渡請求による場合など、会社ではなく支配株主が当事者となる場面があります。この場合、会社と支配株主のいずれが記録を保管するのか、いずれが対応するのかを整理しておく必要があります。

会社側が検討し得る選択肢

表3 争われる可能性への備え方

選択肢 内容 検討事項
手続を厳格に履行し、記録を整える すべての段階について記録を残します 手間と費用を要しますが、備えとしては最も厚くなります
手続に先立って任意の協議を行う 合意による取得を試みたうえで、応じない株主について手続を行います 時間を要しますが、対象が減ります
手法を変更する 争われにくい手法を選択します 持株比率、定款の内容による制約があります
時期を改める 株主名簿の整備、資料の準備を先に完了させます 外部の日程との調整が必要です

これらは排他的なものではありません。実務上は、任意の協議を先行させ、応じない株主について手続を行い、その過程の記録を整えるという組合せが検討されることが多くなります。

 任意の協議を先行させる意味

任意の協議によって取得できる株式があれば、手続の対象となる株主が減ります。対象が減れば、争われる可能性も相対的に低下します。

また、協議の経緯そのものが、会社が一方的に排除したのではないことを示す記録となります。

 手法の選択

手法によって、手続の分量、株主総会の要否、争われ得る点が異なります。持株比率、定款の内容、日程の制約を踏まえて選択することになります。各手法の内容については、それぞれの解説記事をご参照ください。

 時期の選択

M&Aのクロージング、事業承継の時期といった外部の日程がある場合、日程に追われて手続を急ぐことになりがちです。この状態が、手続の不備を生む最大の原因です。

してはいけない対応

表4 避けるべき対応

避けるべき対応 理由
株主名簿を整備しないまま着手する 通知、議決権、対価の交付のすべてに影響します
対価の算定の根拠を残さない 後から相当性を示すことができません
開示すべき書類の備置きを省略する 手続の適法性が争われる原因となります
通知を到達の確認できない方法で行う 発送の事実を示すことができません
議事の経過を簡略にしか記録しない 決議の方法の適法性を示すことができません
日程に追われて手続を圧縮する 期間の要件を欠く原因となります
対立している株主にのみ不利な取扱いをする 手続の公正が問題とされます
手続の後に資料を作成する 作成の経緯が問われます

とりわけ注意を要するのは、日程に追われて手続を圧縮することです。期間の要件を欠いた手続は、後から補うことができません。

案件として確認すべき事項

表5 ご相談の際に整理していただく事項

項目 内容
株主構成 株主名簿、各株主の議決権の数と割合
名簿の状態 相続、名義株式、所在不明株主の有無
定款 種類株式、譲渡制限、機関設計に関する定め
対立の状況 弁護士からの通知、権利行使の履歴
財務 直近3期分の計算書類、勘定科目内訳明細書
資産 不動産、有価証券、事業に用いていない資産の一覧
目的 M&A、事業承継、経営の安定その他
日程 完了させたい時期とその理由
資金 対価の支払に充てる資金の見込み

弁護士に相談する意味

少数株主の排除の手続において、会社側が最も損をしやすいのは、手続を実行した後に相談をいただく場合です。実行後に指摘された不備は、補うことができません。

反対に、着手の前にご相談をいただければ、株主名簿の整備、定款の点検、対価の算定の根拠の整備、日程の設計といった準備を、順序立てて進めることができます。この準備が、後日争われた場合の会社側の立場を決めます。

また、任意の協議を先行させるか、直ちに手続に入るか、いずれの手法を選択するかという判断は、株主構成、対立の程度、日程の制約によって異なります。事案ごとの検討が必要です。

なお、対立が予想される事案における進め方、任意の協議と手続の組合せの設計は、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 訴えられないようにする方法はありますか。

株主が手続を利用することを止めることはできません。会社側にできるのは、争われた場合に手続の適正と対価の相当性を示せる状態を作っておくことです。結果を保証する説明はいたしません。

質問2 少数株主が数名だけです。それでも記録が必要ですか。

必要です。株主の数の多寡にかかわらず、手続の要件は同じです。

質問3 対価を高めにしておけば安全ですか。

対価の水準は、会社の資金、他の株主との均衡、税務上の取扱いにも関係します。高くすれば足りるというものではありません。

質問4 手続を既に実行してしまいました。

その段階でも、記録の確認と整理は有用です。早期にご相談ください。

質問5 どの手法が最も争われにくいですか。

一般的にいずれとは申し上げられません。株主構成、定款の内容、対立の程度によって異なります。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、株主名簿、株式の移転の経緯が分かる資料、直近3期分の計算書類、少数株主との従前のやり取りが分かる資料、完了させたい時期が分かる資料をご持参ください。

関連するご案内

少数株主の排除を検討している会社の方は、少数株主排除・スクイーズアウトをご覧ください。手法の比較、対価の算定、手続の日程、争われた場合の備えまでを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。


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