株式売渡請求を弁護士に依頼するとき 相続人等に対する請求と特別支配株主による請求の使い分け

株主であった方が亡くなり、面識のない相続人が株主名簿に載ることになったという会社の経営者の方から御相談をいただきます。手元の書籍や検索の結果には「株式売渡請求」という言葉が並んでいるものの、条文が2か所に分かれており、どちらの制度を使う話なのかが判然としないという状態で御来所になる例が少なくありません。本記事は、会社の側が株式等売渡請求を弁護士に依頼するという場面について、相続人等に対する請求と特別支配株主による請求とをどのように使い分けるのかを整理したものです。

この2つは、名前が似ているだけで、要件も、買主も、期限も、資金の出どころも異なります。相続人等に対する売渡しの請求は会社が自社株式を買い取る手続であり、定款の定め、株主総会の特別決議、そして分配可能額の枠を必要とします。特別支配株主の株式等売渡請求は、議決権の10分の9以上を有する株主が自ら買い取る手続であり、会社の分配可能額とは無関係に進みます。どちらを選べるかは、相談の時点で既に半分は決まっています。

以下では、切り分けの基準、期限の管理、財源の設計、相手方の反応、そして依頼の範囲と費用の考え方を、具体的な日付を挙げて御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

同じ株式等売渡請求であっても、会社が請求する側に立つ場面と、会社が請求される危険にさらされる場面とでは、検討すべき事項が正反対になりますので、次のとおり整理しております。

Contents
  1. 「株式等売渡請求」という言葉が指す2つの制度を、最初に切り分けます
    1. 相続その他の一般承継を原因とする請求
    2. 議決権の10分の9以上を前提とする請求
    3. 買主が会社か、株主かという決定的な違い
  2. どちらを選ぶかは、3つの事実で決まります
    1. 相続その他の一般承継から1年が経過していないか
    2. 定款に売渡しの請求の定めがあるか
    3. 議決権の10分の9以上を1名で確保できるか
  3. 相続人等に対する請求を選ぶ場合の日程を、日付で組みます
    1. 知った日から1年という期限の数え方
    2. 株主総会の特別決議と、相続人の議決権の排除
    3. 請求の日から20日という期限
    4. 撤回できる場面と、撤回の判断
  4. 特別支配株主による請求を選ぶ場合の日程を、日付で組みます
    1. 請求の内容の決定と、対象会社の承認
    2. 取得日の20日前という期限
    3. 通知の記録が、後の争いの成否を決めます
  5. 財源規制の有無が、支払の設計を分けます
    1. 会社が買う場合には分配可能額の枠があります
    2. 枠を超えたときの責任
    3. 特別支配株主が買う場合の資金の手当て
  6. なぜ相続人は、売渡しの請求に強く反発するのか
    1. 第1 相続税の申告と同時期に通知が届くため
    2. 第2 価格の根拠が示されていないため
    3. 第3 会社との関係が断たれることへの抵抗があるため
  7. 依頼の時期と、任せられる範囲、費用の考え方
    1. 依頼の時期
    2. 任せられる範囲
    3. 費用の考え方
  8. いま確認していただきたいこと
  9. よくあるご質問
    1. 定款に売渡しの請求の定めがない場合、いまから追加しても間に合いますか
    2. 相続人が複数いて、遺産分割が終わっていない場合はどうなりますか
    3. 1年の期限を過ぎてしまいました。もう方法はありませんか
    4. 価格について合意できないまま20日が過ぎるとどうなりますか
  10. おわりに
  11. 出典

「株式等売渡請求」という言葉が指す2つの制度を、最初に切り分けます

相談の冒頭で、まずこの切り分けを行います。取り違えたまま準備を進めますと、作成した書類がすべて無駄になります。

相続その他の一般承継を原因とする請求

株式会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を、定款で定めることができます(会社法第174条)。この定めがある場合、会社は、請求のたびに、株主総会の決議によって、請求をする株式の数と、その株式を有する者の氏名又は名称を定めます(会社法第175条第1項第1号及び第2号)。買主は会社です。

議決権の10分の9以上を前提とする請求

これに対し、株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する株主は、他の株主の全員に対し、その株式の全部を自己に売り渡すことを請求することができます(会社法第179条第1項)。定款の定めも株主総会の決議も不要です。対象会社の承認は必要であり、取締役会設置会社では取締役会の決議によります(会社法第179条の3第1項及び第3項)。買主は特別支配株主であって、会社ではありません。

買主が会社か、株主かという決定的な違い

買主が誰かという点は、資金と責任の所在を分けます。会社が買う場合、それは自己株式の取得ですから(会社法第155条第6号)、株主に交付する金銭の帳簿価額の総額は、効力を生ずる日における分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第5号)。特別支配株主が買う場合には、この制限はかかりません。

どちらを選ぶかは、3つの事実で決まります

選択の余地があるように見えて、実際には次の3つの事実でほとんど決まります。定款と株主名簿と戸籍を見れば、その日のうちに判定できます。

相続その他の一般承継から1年が経過していないか

相続人等に対する売渡しの請求は、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、することができません(会社法第176条第1項ただし書)。この期限は、相続の開始の日ではなく、会社が知った日から起算します。既に1年を経過している場合、この手段は選択肢から外れます。

定款に売渡しの請求の定めがあるか

定款に会社法第174条の定めがなければ、相続人等に対する請求はできません。相続が発生した後に定款を変更して定めを設け、その相続について請求することができるかについては議論があり、避けるべき進め方です。最初に定款の原本を確認します。

議決権の10分の9以上を1名で確保できるか

特別支配株主の株式等売渡請求は、1名の株主が10分の9以上を有していることが前提です(会社法第179条第1項)。複数の親族の合計で10分の9を超えていても、要件は満たしません。持株会社に集約してこの要件を作り出す方法がありますが、集約それ自体に時間を要します。

比較の観点 相続人等に対する請求 特別支配株主による請求
買主 会社 特別支配株主
定款の定め 必要(会社法第174条) 不要
機関決定 株主総会の特別決議 対象会社の承認(取締役会)
対象となる株主 一般承継により取得した者 特別支配株主以外の全員
分配可能額の制限 かかる(会社法第461条第1項第5号) かからない
期限 知った日から1年 法定の期限はない

相続人等に対する請求を選ぶ場合の日程を、日付で組みます

会社が相続の事実を令和8年9月1日に知った場合を例に、日程を御説明します。

知った日から1年という期限の数え方

会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、請求をすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。令和8年9月1日に知ったのであれば、令和9年9月1日の経過までに請求を到達させる必要があります。会社が「いつ知ったか」を証明する資料として、相続人からの連絡文書、名義書換請求書、戸籍謄本の受領日が分かる記録を保存してください。

株主総会の特別決議と、相続人の議決権の排除

売渡しの請求をするには、そのたびに株主総会の決議によって、請求の対象となる株式の数と、その株式を有する者を定めます(会社法第175条第1項)。この決議は特別決議です(会社法第309条第2項第3号)。そして、請求の相手方となる者は、その株主総会において議決権を行使することができません(会社法第175条第2項)。この議決権の排除は、会社にとって有利にはたらく場面と、後継者にとって危険にはたらく場面の双方があります。

請求の日から20日という期限

請求の後、売買価格は会社と相手方との協議によって定めます(会社法第177条第1項)。協議が調わない場合、会社又は相手方は、請求があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条第2項)。請求の到達日が令和9年1月20日であれば、令和9年2月9日までが申立ての期間です。この20日以内にいずれからも申立てがなく、協議も調わなかった場合には、売渡しの請求は効力を失います(会社法第177条第5項)。やり直すには再度の株主総会が必要となり、しかも1年の期限は進行し続けます。

撤回できる場面と、撤回の判断

会社は、いつでも売渡しの請求を撤回することができます(会社法第176条第3項)。相手方の主張する価格が想定を大きく超える場合、あるいは分配可能額の枠に収まらないことが判明した場合には、撤回して別の方法に切り替える判断があり得ます。

特別支配株主による請求を選ぶ場合の日程を、日付で組みます

取得日を令和9年6月1日と定めた場合を例にします。

請求の内容の決定と、対象会社の承認

特別支配株主は、売渡株主に対して交付する金銭の額又はその算定方法、割当てに関する事項、取得日その他の事項を定めて請求をします(会社法第179条の2第1項)。この請求をするには対象会社の承認を受けなければならず、取締役会設置会社においては取締役会の決議によります(会社法第179条の3第1項及び第3項)。承認をするかどうかを判断するのは対象会社の取締役ですから、承認に至る検討の過程を議事録に残します。

取得日の20日前という期限

対象会社は、取得日の20日前までに、売渡株主に対し、承認をした旨その他の事項を通知しなければなりません(会社法第179条の4第1項第1号)。取得日が令和9年6月1日であれば、令和9年5月12日までに通知を発します。売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日まで、すなわち令和9年5月12日から同月31日までの間に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第179条の8第1項)。この20日間に何通の申立てが届くかで、その後の作業量が決まります。

通知の記録が、後の争いの成否を決めます

対象会社が通知等の規定に違反した場合には、売渡株主から取得をやめることを請求される余地があります(会社法第179条の7第1項)。手続の適法性は後から補うことができませんので、通知の発送記録と議事録の整備が要点となります。

財源規制の有無が、支払の設計を分けます

2つの制度の実務上の差が最も大きく現れるのが、この点です。

会社が買う場合には分配可能額の枠があります

相続人等に対する売渡しの請求により会社が株式を買い取る場合、交付する金銭の帳簿価額の総額は、その行為が効力を生ずる日における分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第5号)。分配可能額は、剰余金の額を基礎として、自己株式の帳簿価額その他の額を控除して算定します(会社法第461条第2項)。純資産が厚い会社であっても、剰余金が薄ければ枠は小さくなります。

枠を超えたときの責任

分配可能額を超えて交付がされた場合、金銭の交付を受けた者と、その行為に関する職務を行った業務執行者等は、会社に対し、連帯して、交付を受けた金銭の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法第462条第1項)。また、その事業年度に係る計算書類の承認の時に欠損が生じているときは、業務執行者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合を除き、欠損の額を支払う義務を負います(会社法第465条第1項)。買取りの金額を先に決めるのではなく、枠を先に確認してから金額を検討します。

特別支配株主が買う場合の資金の手当て

特別支配株主が買う場合には会社の分配可能額の制限はかかりませんが、代わりに個人又は持株会社が資金を用意しなければなりません。金融機関からの借入れを予定する場合、取得日は融資の実行日から逆算して定めます。取得日を先に通知してしまうと、資金が間に合わない事態が生じます。

なぜ相続人は、売渡しの請求に強く反発するのか

相続人からの反発には、3つの事情があります。相手方の立場の理解は、通知書の文面を決めるうえで意味があります。

第1 相続税の申告と同時期に通知が届くため

知った日から1年という期限がありますので、通知は相続税の申告期限の前後に届くことが多くなります。相続人にとっては、財産の全体像を把握し切れていない時期に、株式だけを手放すよう求められる形になります。通知の時期を選べる場合には、この点を考慮します。

第2 価格の根拠が示されていないため

通知書に金額だけが書かれ、算定の方法が示されていない場合、相続人には検証の手がかりがありません。裁判所に価格の決定を申し立てること自体が、情報を得る手段となります。裁判所は、譲渡制限株式を取得した時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(会社法第177条第3項)。算定の考え方をあらかじめ示すことで、申立てを避けられる例があります。

第3 会社との関係が断たれることへの抵抗があるため

被相続人が長年勤めた会社であり、相続人にとっても縁のある存在であることが少なくありません。買取りの提案と併せて、弔慰の意を示す対応を検討することで、協議が進む例があります。

依頼の時期と、任せられる範囲、費用の考え方

株式等売渡請求は、期限に支配された手続です。依頼の時期が結論を左右します。

依頼の時期

相続人等に対する請求を検討する場合には、相続の事実を知った時点で御相談ください。1年という期限から、株主総会の招集手続、価格の算定、協議の期間を差し引くと、判断に使える時間は数か月しかありません。特別支配株主による請求の場合には、株式の集約から始める必要があるかどうかで、期間が大きく変わります。

任せられる範囲

定款と株主名簿の確認、制度の選択、株主総会の招集通知と議案の作成、議決権を行使できない株主の特定、請求書の作成と送達、価格の協議、分配可能額の確認の補助、裁判所に対する申立て及び申立てを受けた場合の対応が、弁護士の業務です。登記の申請は司法書士が、課税関係の検討は税理士が、株式の価値の算定は評価の専門家が担当します。

費用の考え方

費用は、対象となる株主の人数よりも、価格の争いに至るかどうかによって変わります。定款と株主構成の確認から請求書の送付までを一つの範囲とし、株式売買価格決定の申立てに関する対応を別の範囲として定めるのが通例です。登記及び算定に要する費用と申立ての手数料は、実費として別に必要となります。

いま確認していただきたいこと

本日のうちに、次の事項を御確認ください。

第1に、定款の原本を開き、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対する売渡しの請求に関する定めがあるかどうかを御確認ください。あるかないかで、進み方が完全に変わります。

第2に、会社が相続の事実を知った日を特定し、その日から本日までの月数を書き出してください。12か月に近づいている場合には、急ぐ必要があります。

第3に、株主名簿を取り出し、1名の株主が議決権の10分の9以上を有しているかどうかを計算してください。

第4に、直近の計算書類から剰余金の額と自己株式の帳簿価額を確認し、分配可能額のおおよその水準を把握してください。会社が買主となる方法を選べるかどうかの前提となります。

第5に、相続人から届いた書面と会社から送った書面を時系列に並べてください。会社が知った日を証明する資料になります。

よくあるご質問

定款に売渡しの請求の定めがない場合、いまから追加しても間に合いますか

定款の変更それ自体は、株主総会の特別決議によって行うことができます(会社法第466条、第309条第2項第11号)。もっとも、既に発生している相続について、後から設けた定めに基づいて請求することができるかについては議論があり、争いを招く進め方です。定款の変更は、将来の相続に備える手当てとして位置付け、既に発生している相続については、任意の買取りその他の方法を検討することをお勧めします。

相続人が複数いて、遺産分割が終わっていない場合はどうなりますか

遺産分割が終わるまで、株式は相続人の共有に属します。株式が2以上の者の共有に属するときは、共有者は権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ、その株式についての権利を行使することができません。ただし、会社が権利の行使に同意した場合はこの限りではありません(会社法第106条)。請求の相手方をどのように特定し、通知をどこに宛てるかは、共有の状態を踏まえて設計します。

1年の期限を過ぎてしまいました。もう方法はありませんか

相続人等に対する売渡しの請求はできませんが、他の方法が残ります。任意の買取りの交渉、株主総会の特別決議による特定の株主からの自己株式の取得(会社法第160条第1項)、10分の9以上を確保したうえでの特別支配株主の株式等売渡請求です。期限を過ぎたことは、諦める理由にはなりません。

価格について合意できないまま20日が過ぎるとどうなりますか

相続人等に対する売渡しの請求については、20日以内に裁判所への申立てがなく、かつ協議も調わなかった場合には、請求は効力を失います(会社法第177条第5項)。会社の側から申立てをするという選択肢もありますので、20日という期間を漫然と経過させないことが重要です。特別支配株主の株式等売渡請求については、価格の争いがあっても取得日に効力が生じ、価格の決定はその後に進みます。

おわりに

株式等売渡請求は、要件を満たしていれば相手方の同意がなくても完了する手続です。難しいのは完了させることではなく、2つの制度のうち自社が使える方を正しく選び、1年と20日という期限を落とさずに運ぶことです。いずれも着手前の確認によって解決できます。

定款に売渡しの請求の定めがあるか、相続を知った日から何か月が経過しているか、1名で議決権の10分の9以上を確保できるかという3点が分かれば、その日のうちに使える制度を申し上げます。定款と株主名簿、直近の計算書類をお手元に御用意のうえ、お電話をください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

株式等売渡請求に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

法令

会社法第106条(共有者による権利の行使)、第155条第6号(自己株式を取得することができる場合)、第160条第1項(特定の株主からの取得)、第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)、第175条第1項第1号及び第2号並びに第2項(売渡しの請求の決定及び議決権の制限)、第176条第1項ただし書、第2項及び第3項(売渡しの請求及びその撤回)、第177条第1項、第2項、第3項及び第5項(売買価格の決定)、第179条第1項(株式等売渡請求)、第179条の2第1項(株式等売渡請求の方法)、第179条の3第1項及び第3項(対象会社の承認)、第179条の4第1項第1号(売渡株主等に対する通知)、第179条の7第1項(売渡株式等の取得をやめることの請求)、第179条の8第1項(売買価格の決定の申立て)、第309条第2項第3号及び第11号(株主総会の特別決議)、第461条第1項第5号及び第2項(配当等の制限及び分配可能額)、第462条第1項(剰余金の配当等に関する責任)、第465条第1項(欠損が生じた場合の責任)、第466条(定款の変更)

国家行政組織法第14条第2項(訓令及び通達)

付記

税法上の評価と、会社法上の「売買価格」とは、目的も算定方法も異なります。財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いであって、裁判所を拘束するものではありません。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。