自社株対策を弁護士に依頼するとき 議決権を確保し分散を防ぐための設計と手順

創業から40年が経ち、株主名簿を開いたところ、創業者の親族、退職した元役員、その相続人と、面識のない名前が並んでいたという非上場会社の経営者の方から御相談をいただきます。事業承継の相談をしたところ「まず自社株対策を」と言われたものの、何から手を付ければよいのかが分からない、という状態で御来所になる例が少なくありません。本記事は、会社の側が自社株対策を弁護士に依頼するという場面について、議決権をどこまで確保するのか、分散の入口をどう塞ぐのか、そしてどの順序で手続を踏むのかを整理したものです。

自社株対策という言葉は、税負担を軽くするという意味で用いられることが多いのですが、会社の側の実務では別の意味を持ちます。誰が議決権の何割を握るかという設計であり、その設計を実現するための決議と手続の順序の問題です。順序を誤ると、途中で必要な決議が通らなくなり、設計そのものが実行不能になります。

以下では、到達点の決め方、分散の入口、定款の手当て、既に外に出た株式の取り戻し方、期限の管理、そして依頼の範囲と費用の考え方を、具体的な日付を挙げて御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

自社株対策は複数の手続の組合せですので、個々の手続の詳細は別のページに分けて整理しております。

Contents
  1. 自社株対策とは、議決権の到達点を決めることです
    1. 「何パーセントを、いつまでに、誰に」を先に決めます
    2. 割合ごとに何ができるのかを、数字で確認します
    3. 現状の議決権を、名簿ではなく実態で数えます
  2. 分散はどこから起きるのか、入口を特定します
    1. 相続
    2. 離婚と財産分与
    3. 退職と第三者への譲渡
  3. 入口を塞ぐ定款の手当てを、先に済ませます
    1. 譲渡制限の定めと、承認機関の確認
    2. 相続その他の一般承継に備える定め
    3. 属人的な定め
    4. 種類株式
  4. 既に外に出た株式を取り戻す手順
    1. 任意の買取り
    2. 特定の株主からの自己株式の取得
    3. 募集株式の発行による議決権の確保
  5. 期限のある場面を、日付で管理します
    1. 譲渡の承認の請求に対する2週間
    2. 株主提案の8週間
    3. 定時株主総会からの逆算
  6. なぜ分散した株主は、集約に応じないのか
    1. 第1 価格の根拠が示されていないため
    2. 第2 これまで配当を受け取っていないため
    3. 第3 自分だけが不利に扱われていると考えるため
  7. 依頼の時期と、任せられる範囲、費用の考え方
    1. 依頼の時期
    2. 任せられる範囲
    3. 費用の考え方
  8. いま確認していただきたいこと
  9. よくあるご質問
    1. 株式を移さずに議決権だけを確保する方法はありますか
    2. 後継者に新株を発行して比率を上げることはできますか
    3. 名義株が混じっている場合、どこから手を付けるべきですか
    4. 持株会社を作る方法は有効ですか
  10. おわりに
  11. 出典

自社株対策とは、議決権の到達点を決めることです

手段の話に入る前に、到達点を決めます。ここが決まらないまま個別の手続を始めますと、費用だけがかかります。

「何パーセントを、いつまでに、誰に」を先に決めます

後継者が単独で3分の2を持つのか、後継者と持株会社の合計で10分の9を目指すのか、当面は過半数で足りるとするのかによって、必要な手続も費用も期間も変わります。M&Aによる譲渡を予定しているのであれば、買主が求める水準から逆算します。到達点を1行で書けるようにすることが、最初の作業です。

割合ごとに何ができるのかを、数字で確認します

議決権の割合 できること 根拠
10分の9以上 特別支配株主の株式等売渡請求 会社法第179条第1項
4分の3以上 属人的な定めの新設(総株主の半数以上の賛成も必要) 会社法第309条第4項
3分の2以上 定款の変更、株式の併合その他の特別決議 会社法第309条第2項
過半数 取締役の選任及び解任、計算書類の承認 会社法第341条、第309条第1項
3分の1超 特別決議を単独で阻止すること 会社法第309条第2項
100分の3以上 会計帳簿の閲覧謄写請求、株主総会の招集の請求 会社法第433条第1項、第297条第1項
100分の1以上 株主総会の議題の提案(取締役会設置会社) 会社法第303条第2項

現状の議決権を、名簿ではなく実態で数えます

株主名簿の記載が実態と一致していない会社は珍しくありません。設立時の名義貸し、贈与の未処理、相続の未了、失念された譲渡があります。自己株式は議決権を有しませんので(会社法第308条第2項)、分母から外します。株式が2以上の者の共有に属する場合には、権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ権利を行使することができません(会社法第106条)。この整理を終えてはじめて、現在の議決権の割合が確定します。

分散はどこから起きるのか、入口を特定します

対策を組む前に、自社にとっての入口を特定します。入口は会社ごとに違います。

相続

最も多い入口です。少数株主に相続が発生すれば、面識のない相続人が株主になります。後継者への承継それ自体も、相続によれば別の危険を生みます。遺産分割が終わるまで株式は共有の状態に置かれ、議決権の行使に支障が生じます。

離婚と財産分与

経営者の離婚に伴い、自社株式が財産分与の対象とされる例があります。分与が実行されれば、経営に関与しない元配偶者が議決権を持つことになります。譲渡制限の定めがあっても、承認の手続の場面で対応するほかありません。

退職と第三者への譲渡

役員又は従業員が在職中に株式を保有し、退職後もそのまま保有し続けているという状態です。買取りの約束が書面になっていないことが通例で、退職から年数が経つほど回収が難しくなります。その後に株式買取業者へ譲渡される例もあります。

入口を塞ぐ定款の手当てを、先に済ませます

株式を動かす前に、定款を整えます。定款の変更には特別決議が必要ですから(会社法第466条、第309条第2項第11号)、議決権を確保しているうちに済ませておく必要があります。

譲渡制限の定めと、承認機関の確認

すべての株式について譲渡による取得に会社の承認を要する旨を定款で定めることができます(会社法第107条第1項第1号)。承認をするかどうかの決定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によりますが、定款に別段の定めを置くこともできます(会社法第139条第1項)。承認機関が実態に合っているかを確認します。

相続その他の一般承継に備える定め

相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対する売渡しの請求の定めを置くことができます(会社法第174条)。少数株主の相続人を整理する手段として有効ですが、後継者が相続で株式を取得した場面では、逆にこの定めが後継者に向けられます。導入するかどうかは、後継者への承継を相続によらない方法で終えられるかどうかと併せて判断します。

属人的な定め

公開会社でない株式会社は、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利及び株主総会における議決権に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます(会社法第109条第2項、第105条第1項)。この定款の変更には、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上に当たる多数による決議が必要です(会社法第309条第4項)。株式の移動を伴わずに議決権を確保できる点が特徴です。

種類株式

議決権を行使することができる事項について制限のある株式(会社法第108条第1項第3号)、特定の事項について種類株主総会の決議を必要とする株式(同項第8号)、取締役又は監査役の選任について定めのある株式(同項第9号)を用いることができます。後継者に拒否権付種類株式を1株だけ持たせ、他の株式を配当優先の議決権制限株式とする組合せが用いられます。

既に外に出た株式を取り戻す手順

定款の手当ての後に、株式そのものを動かします。順序が逆になると、承認の手続や決議の要件で行き詰まります。

任意の買取り

最も費用がかからず、最も確実です。後継者又は持株会社が買主となる場合と、会社が買主となる場合とで、資金の出どころと制限が異なります。価格の根拠を示す資料を先に用意し、同一の考え方をすべての株主に適用することが、後の紛争を防ぎます。

特定の株主からの自己株式の取得

会社が買主となる場合、株主総会の決議によって取得する株式の数、交付する金銭の内容及び総額並びに取得することができる期間(1年を超えることができません)を定めます(会社法第156条第1項)。特定の株主から取得する場合には、その旨を併せて決議する必要があり(会社法第160条第1項)、この決議は特別決議です(会社法第309条第2項第2号)。他の株主が自己をも売主に加えることを請求できる仕組みがあり、これを見落とすと想定外の株主が名乗り出ます。交付する金銭の総額は、分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第3号)。

募集株式の発行による議決権の確保

後継者に募集株式を割り当てて持株比率を高める方法があります。公開会社でない株式会社では、募集事項の決定は株主総会の特別決議によります(会社法第199条第2項、第309条第2項第5号)。もっとも、募集株式の発行等が法令若しくは定款に違反する場合又は著しく不公正な方法により行われる場合において株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に対しその発行等をやめることを請求することができます(会社法第210条)。支配権の維持のみを目的とする発行は争いを招きますので、資金使途の合理性を説明できるかどうかが分かれ目になります。

期限のある場面を、日付で管理します

自社株対策には、こちらが守るべき期限と、相手方に与えられた期限の双方があります。

譲渡の承認の請求に対する2週間

株主から譲渡の承認の請求があった場合、会社が請求の日から2週間以内にその決定の内容を通知しなかったときは、承認をする旨の決定をしたものとみなされます(会社法第145条第1号、第139条第2項)。請求書が令和9年2月10日に到達したのであれば、令和9年2月24日までに通知を発する必要があります。机の上に置いたままにするだけで、望まない株主が生まれます。承認しない場合には、会社が買い取るか指定買取人を指定するかを決め、承認をしない旨の通知の日から40日以内に会社が買い取る旨の通知をしなければなりません(会社法第145条第2号、第141条第1項)。

株主提案の8週間

取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、株主総会の日の8週間前までに、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができます(会社法第303条第2項)。公開会社でない株式会社では、この6か月という保有期間の要件はありません(同条第3項)。定時株主総会を令和9年5月28日に開催する予定であれば、令和9年4月2日までがその期限です。この日を過ぎるまでは、議題が追加される可能性が残ります。

定時株主総会からの逆算

定款の変更、種類株式の導入、自己株式の取得は、いずれも株主総会の決議を要します。決議を1つの総会にまとめるのか、複数回に分けるのかによって、必要な期間が変わります。到達点から逆算して、どの総会で何を決議するかを一覧にすることが、設計の中心的な作業です。

なぜ分散した株主は、集約に応じないのか

買取りの申入れを断られる背景には、3つの事情があります。

第1 価格の根拠が示されていないため

提示された金額が額面に近い水準であり、算定の方法が示されていない場合、株主の側には検証の手がかりがありません。断ることが唯一の対抗手段になります。算定の考え方を示すことで、協議が進む例があります。

第2 これまで配当を受け取っていないため

剰余金の配当が長年行われていない会社では、株主は保有期間中に経済的な利益を得ていません。手放す局面が唯一の回収の機会になりますので、価格に対する態度が硬くなります。

第3 自分だけが不利に扱われていると考えるため

他の株主に先に高い価格が支払われたという情報が伝わっている場合、条件の均衡が争点になります。集約の順序と、各株主に示す条件の考え方をそろえておくことが、実務上の要点です。

依頼の時期と、任せられる範囲、費用の考え方

自社株対策は、議決権を確保している間にしか実行できません。

依頼の時期

定款の変更に必要な3分の2、属人的な定めに必要な4分の3を確保している段階が、最も選択肢の多い時期です。既にこの水準を割っている場合には、まず任意の買取りによって議決権を積み上げる作業が先行します。M&Aを予定している場合には、最終契約の締結予定日から少なくとも1年前を目安に着手してください。

任せられる範囲

株主名簿と定款の精査、議決権の実態の確定、到達点の設計、定款変更及び種類株式の設計、株主総会の招集手続と議事運営、買取りの交渉と契約書の作成、譲渡の承認の手続、自己株式の取得の手続、裁判所に対する申立て及び申立てを受けた場合の対応が、弁護士の業務です。登記の申請は司法書士が、課税関係の検討は税理士が、株式の価値の算定は評価の専門家が担当します。

費用の考え方

費用は、株主の人数と、実行する手続の数によって変わります。診断と設計の提案までを一つの範囲とし、定款の変更、買取りの交渉、自己株式の取得の手続をそれぞれ別の範囲として定めるのが通例です。登記及び算定に要する費用は、実費として別に必要となります。委任契約書に範囲と金額を明記したうえで着手します。

いま確認していただきたいこと

本日のうちに、次の事項を御確認ください。

第1に、株主名簿を取り出し、自己株式を除いた議決権の総数と、後継者及びその同族関係者が確保できる議決権の割合を計算してください。

第2に、その割合が、3分の2、4分の3のいずれに届いているかを確認してください。届いている決議までが、いま実行できる手当てです。

第3に、定款の原本を開き、譲渡制限の定め、承認の機関、相続その他の一般承継に関する定め、種類株式に関する定めの有無を御確認ください。

第4に、株主のうち、80歳以上の方、既に相続が発生している方、退職済みの元役員及び従業員に印を付けてください。次に動く入口がそこにあります。

第5に、到達点を1行で書いてください。「令和何年何月までに、誰が議決権の何パーセントを持つ」という形です。

よくあるご質問

株式を移さずに議決権だけを確保する方法はありますか

あります。公開会社でない株式会社であれば、株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款の定めによって、特定の株主の議決権を加重することができます(会社法第109条第2項)。ただし、この定款の変更には総株主の半数以上であって総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です(会社法第309条第4項)。人数の要件と議決権の要件の両方を満たす必要がある点に注意してください。

後継者に新株を発行して比率を上げることはできますか

公開会社でない株式会社では、募集事項の決定は株主総会の特別決議によります(会社法第199条第2項、第309条第2項第5号)。決議を通せる議決権があることが前提です。加えて、著しく不公正な方法による発行と評価されれば、差止めを請求される可能性があります(会社法第210条第2号)。資金使途と払込金額の合理性を説明できる状態にしてから実行します。

名義株が混じっている場合、どこから手を付けるべきですか

名義株の整理が先です。誰が真の株主であるかが確定していない状態では、決議の有効性そのものが後から争われます。関係者の記憶が残っているうちに、出資の払込みの経緯と、その後の配当の受領状況を書面で確認しておくことが有効です。

持株会社を作る方法は有効ですか

後継者が設立した会社に株式を集約すれば、1名の株主として議決権を数えることができ、10分の9以上を確保できれば特別支配株主の株式等売渡請求を用いる道も開けます(会社法第179条第1項)。もっとも、集約には各株主との個別の交渉が必要であり、資金の手当ても要します。到達点と期間を確認したうえで判断します。

おわりに

自社株対策は、個々の手続の巧拙よりも、順序で決まります。定款を整えてから株式を動かす、議決権を確保しているうちに決議を通す、期限のある場面を日付で管理する。この3つを守れば、多くの会社で到達点にたどり着きます。

いまの議決権の割合、定款に置かれている定め、到達したい水準という3点が分かれば、その日のうちに手続の順序と要する期間の見当を申し上げます。定款と株主名簿、直近の計算書類をお手元に御用意のうえ、お電話をください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

自社株対策に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

法令

会社法第105条第1項(株主の権利)、第106条(共有者による権利の行使)、第107条第1項第1号(株式の内容についての特別の定め)、第108条第1項第3号、第8号及び第9号(種類株式)、第109条第2項(株主ごとに異なる取扱い)、第139条第1項及び第2項(譲渡等の承認の決定及び通知)、第141条第1項(会社による買取りの通知)、第145条第1号及び第2号(承認をしたものとみなされる場合)、第156条第1項(株式の取得に関する事項の決定)、第160条第1項(特定の株主からの取得)、第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)、第179条第1項(株式等売渡請求)、第199条第2項(募集事項の決定)、第210条(募集株式の発行等をやめることの請求)、第297条第1項(株主による招集の請求)、第303条第2項及び第3項(株主提案権)、第308条第2項(自己株式の議決権)、第309条第1項、第2項第2号、第5号及び第11号並びに第4項(株主総会の決議)、第341条(役員の選任及び解任の決議)、第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)、第461条第1項第3号(配当等の制限)、第466条(定款の変更)

付記

税法上の評価と、会社法上の「公正な価格」又は「売買価格」とは、目的も算定方法も異なります。財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いであって、裁判所を拘束するものではありません(国家行政組織法第14条第2項)。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

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