会社の支配権をめぐる紛争を弁護士に依頼するとき 議決権の数え方と、押さえるべき手続

親族間の対立、共同創業者との決別、あるいは退職した元役員が外部の支援を得て動き始めたという事情から、自社の支配権が争われる事態に直面した非上場会社の経営者の方から御相談をいただきます。会計帳簿の閲覧謄写請求が届いた、株主総会の招集を請求された、取締役の解任を議題とする書面が届いたという段階で御来所になることが大半です。本記事は、会社と現経営陣の側が支配権をめぐる紛争を弁護士に依頼するという場面について、議決権をどう数えるのか、そしてどの手続をどの期限までに押さえるのかを整理したものです。
支配権の争いは、株主総会の当日の議論で決まるものではありません。決まるのは、その前の段階です。誰の議決権が分母に入り、誰の議決権が外れるのかという計算と、法定の期限を落とさずに手続を踏めたかどうかで、結論はほぼ確定します。当日の議事運営は、その計算を実現する作業にすぎません。
以下では、議決権の数え方、議案ごとの検算、相手方が打ってくる手とその期限、総会当日の記録、決議後の争い、そして依頼の範囲と費用の考え方を、具体的な日付を挙げて御説明します。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
支配権の争いは、平時の設計と、既に争いが生じた後の対応とで、打つべき手がまったく異なりますので、次のとおり整理しております。
- 既に争いが生じた後の議決権の計算と手続を依頼するという場面……本記事
- 争いが生じる前に株主構成を設計する場面……自社株対策を弁護士に依頼するとき 議決権を確保し分散を防ぐための設計と手順
- 相続を機に後継者が株式を失う危険を扱う場面……相続クーデターに備えて弁護士に依頼するとき 定款の売渡しの請求が会社を奪う仕組みと防ぎ方
支配権の争いは、株主総会の当日ではなく、数え方で決まります
最初の作業は、議決権の総数を確定させることです。株主名簿に記載された株式数を合計するだけでは足りません。
分母から外れるもの
株主は、その有する株式1株につき1個の議決権を有しますが、単元株式数を定款で定めている場合には、1単元の株式につき1個の議決権を有します(会社法第308条第1項)。単元未満株式を有する株主は、その単元未満株式について議決権を行使することができません(会社法第189条第1項)。会社が有する自己株式については、議決権がありません(会社法第308条第2項)。また、会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じてその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主は、議決権を有しません(会社法第308条第1項かっこ書)。子会社が親会社の株式を持っている場合が典型です。
議案ごとに分母が変わる場合があります
議決権の総数は、会社について1つに決まるものではありません。議案によっては、特定の株主が議決権を行使できず、その分だけ分母が小さくなります。特定の株主から自己株式を取得する議案では、その特定の株主は議決権を行使できません(会社法第160条第4項)。相続人等に対する売渡しの請求の議案では、請求の相手方とされた者が議決権を行使できません(会社法第175条第2項)。譲渡の承認をしない場合に会社が買い取る旨の議案では、譲渡等承認請求者が議決権を行使できません(会社法第140条第3項)。議案ごとに分母を計算し直すことが、検算の要点です。
共有株式と名義株
相続が発生し遺産分割が終わっていない株式は、相続人の共有に属します。共有者は、権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ、その株式について権利を行使することができません。ただし、会社が権利の行使に同意した場合はこの限りではありません(会社法第106条)。誰が権利行使者であるかの通知の有無は、必ず書面で確認します。設立時の名義貸しによる株主が残っている場合には、真の株主が誰かという問題が決議の効力に直結します。
定足数と決議要件を、議案ごとに検算します
分母が定まれば、次は議案ごとの要件です。定款の記載を確認せずに一般論で判断してはなりません。
普通決議と、定款による定足数の扱い
株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行います(会社法第309条第1項)。多くの非上場会社の定款は、この定足数を排除しています。定足数が排除されていれば、出席した株主だけで決議が成立します。相手方が出席し、こちらが欠席すれば、それだけで決議が通ります。
特別決議と、属人的な定めの要件
定款の変更、株式の併合、特定の株主からの自己株式の取得その他の重要な事項については、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合を定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行います(会社法第309条第2項)。株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款の定めに関する変更については、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上に当たる多数が必要です(会社法第309条第4項)。人数の要件がある点が特徴です。
役員の選任及び解任
役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行います(会社法第341条)。この議案の定足数は、定款によって3分の1未満に下げることができません。支配権の争いでは、この一点が防御線になる場面があります。定款を開いて、役員の選任及び解任に関する条項を確認してください。
相手方が最初に打ってくる手と、その期限
支配権の争いは、おおむね決まった順序で進みます。それぞれに期限がありますので、日付で管理します。
会計帳簿の閲覧謄写請求
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内は、いつでも、理由を明らかにして会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。会社は、法律の定める事由があるときは、これを拒むことができます。請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき、会社の業務の遂行を妨げ株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み又はこれに従事するものであるときなどです(会社法第433条第2項第1号から第3号まで)。拒絶するかどうかは、書面が届いたその日から検討を始めてください。対応の遅れそのものが後の主張材料になります。
株主総会の招集の請求と、8週間
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法第297条第1項)。公開会社でない株式会社では、この6か月という保有期間の要件はありません(同条第2項)。請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は請求があった日から8週間以内の日を株主総会の日とする招集の通知が発せられない場合には、請求をした株主は、裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集することができます(同条第4項)。請求が令和9年4月10日に到達したのであれば、令和9年6月5日までを会日とする招集の通知を発するかどうかが最初の判断です。
議題及び議案の提案と、8週間
取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、株主総会の日の8週間前までに、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができます(会社法第303条第2項)。公開会社でない株式会社では、6か月という保有期間の要件はありません(同条第3項)。議案の要領を株主に通知することの請求についても、同じ期間の制限があります(会社法第305条第1項)。定時株主総会を令和9年6月26日に開催する予定であれば、令和9年5月1日がその期限です。この日までに何が届いたかによって、招集通知の内容が決まります。
株主総会の当日に決まることと、残すべき記録
当日の作業は、それまでの準備を記録に落とす作業です。
議長の権限と、議事の整理
議長を誰が務めるかは定款で定められているのが通例です。議事の進行、質疑の打切り、退場の命令といった権限の行使は、後に決議の方法が著しく不公正であったと主張される場面で必ず検討されます。進行の台本を事前に作り、想定される動議への回答を用意しておきます。
委任状と議決権行使書
委任状の記載に不備があるまま賛成の数に加えれば、決議の方法が法令に違反することになります。委任者の特定、代理権の範囲、押印の有無を、受付の段階で確認する体制を組みます。誰がどの書面を提出したかを一覧にして残します。
検査役の選任の申立て
会社又は総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、その株主総会に先立ち、裁判所に対して検査役の選任の申立てをすることができます(会社法第306条第1項)。争いが激しい場合には、会社の側から申し立てることで、手続の適正を後に立証しやすくなります。
決議が終わった後の争いと、3つの期限
総会が終わっても、争いは終わりません。期限を先に押さえます。
決議の取消しの訴えは3か月
招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき、決議の内容が定款に違反するとき、及び決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたときは、決議の日から3か月以内に、訴えをもって決議の取消しを請求することができます(会社法第831条第1項第1号から第3号まで)。令和9年6月26日の決議であれば、令和9年9月26日までです。この期間を過ぎれば、取消しを主張することはできなくなります。
不存在及び無効の確認の訴えには期間の制限がありません
株主総会の決議が存在しないこと、又は決議の内容が法令に違反することを理由とする無効については、訴えをもって確認を請求することができ、提訴期間の制限はありません(会社法第830条第1項及び第2項)。招集の手続が全く行われていない、議事録だけが作成されているといった事案では、こちらの類型が問題となります。過去の議事録の整備状況が、そのまま争点になります。
役員の解任の訴えは30日
役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、その役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主等は、その株主総会の日から30日以内に、訴えをもって役員の解任を請求することができます(会社法第854条第1項)。公開会社でない株式会社では、6か月という保有期間の要件はありません(同条第2項)。令和9年6月26日の総会で否決されたのであれば、令和9年7月26日までがその期間です。
なぜ相手方は、支配権の争いに踏み切るのか
背景には、3つの事情があります。
第1 情報から遮断されているため
計算書類の交付を受けていない、質問に回答が得られないという状態が続くと、会社の内部で何が起きているのか分からないという不安が生じます。会計帳簿の閲覧謄写請求は、その不安の表れであることが多く、要求の中身よりも情報の遮断そのものが原因です。
第2 配当も買取りもされていないため
剰余金の配当が長年行われず、買取りの申入れにも応じてもらえないという状態では、株主は保有していても回収の見込みがありません。支配権を取ることが、唯一の打開策として選ばれます。
第3 外部の助言者が付いているため
株式買取業者その他の外部の関与がある場合、手続の期限が正確に管理されており、書面も整っています。相手方の背後に誰がいるのかによって、こちらの対応の速度を変える必要があります。
依頼の時期と、任せられる範囲、費用の考え方
この分野は、1日の遅れが結論を変えます。
依頼の時期
最初の書面が届いた日が、依頼の時期です。会計帳簿の閲覧謄写請求に対する回答、招集の請求に対する招集通知の発送、株主提案に対する取扱いは、いずれも日数で管理される作業です。回答してしまった後に相談をいただいても、撤回できない場面があります。
任せられる範囲
株主名簿と定款の精査、議案ごとの議決権の計算、閲覧謄写請求に対する回答書の作成、招集通知及び議案の作成、株主総会の議事運営の設計と当日の立会い、議事録の作成、検査役の選任の申立て、決議の取消しの訴え及び仮処分の申立てへの対応が、弁護士の業務です。登記の申請は司法書士が、課税関係の検討は税理士が、株式の価値の算定は評価の専門家が担当します。
費用の考え方
費用は、株主総会が1回で終わるか、裁判所の手続に至るかによって大きく変わります。書面への対応と株主総会の準備までを一つの範囲とし、裁判所の手続を別の範囲として定めるのが通例です。申立ての手数料、検査役の報酬、算定に要する費用は、実費として別に必要となります。委任契約書に範囲と金額を明記したうえで着手します。
いま確認していただきたいこと
本日のうちに、次の事項を御確認ください。
第1に、株主名簿から自己株式と単元未満株式を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の総数を確定してください。これがすべての計算の出発点です。
第2に、定款を開き、株主総会の定足数に関する条項と、役員の選任及び解任に関する条項を御確認ください。定足数が排除されているかどうかで、防御の組み方が変わります。
第3に、相手方から届いた書面の到達日を特定し、8週間後、3か月後、30日後の日付をそれぞれ書き出してください。
第4に、相続が発生している株主について、権利を行使する者の通知が会社に届いているかどうかを御確認ください。
第5に、過去3年分の株主総会の議事録と招集通知を並べ、招集の手続が実際に行われた記録が残っているかを御確認ください。
よくあるご質問
会計帳簿の閲覧謄写請求は、拒否できますか
法律の定める事由があるときは拒むことができます(会社法第433条第2項)。請求の理由の記載が具体的でない場合、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営んでいる場合などです。もっとも、拒絶の判断は事案ごとに異なり、誤れば裁判所の手続に移行します。回答書の文面は、後に証拠として提出されることを前提に作成します。
招集の請求を無視するとどうなりますか
請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合等には、請求をした株主が裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集することができます(会社法第297条第4項)。この場合、議事の運営について会社の側の統制が及びません。招集を拒むのではなく、会日と議事の設計をこちらで行う方が有利です。
定款の定足数が排除されていることに、いま気付きました
定款の変更は株主総会の特別決議によります(会社法第466条、第309条第2項第11号)。ただし、争いが表面化した後に定足数を加重すれば、その決議自体が争われます。役員の選任及び解任については、定款によっても定足数を3分の1未満に下げることができませんので(会社法第341条)、まずこの点を確認してください。
相手方の株主が、実は名義だけの株主である可能性があります
真の株主が誰かという問題は、議決権の計算の前提です。出資の払込みの経緯、配当の受領の状況、株主総会への出席の記録が判断の資料となります。総会の直前に主張を始めても間に合いませんので、資料の収集を早い段階で始めます。
おわりに
支配権をめぐる紛争は、当日の弁論の巧拙で決まるものではありません。議決権をどう数えるか、期限をどう管理するかという、地味な作業の積み重ねで決まります。逆にいえば、この2つを最初に押さえてしまえば、見通しは着手の段階で立ちます。
議決権を行使することができる株主の議決権の総数、定款の定足数の定め、相手方の書面が届いた日という3点が分かれば、その日のうちに見通しと打つべき手の順序を申し上げます。定款と株主名簿、届いた書面をお手元に御用意のうえ、お電話をください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
会社の支配権をめぐる紛争に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
法令
会社法第106条(共有者による権利の行使)、第140条第3項(譲渡等承認請求者の議決権)、第160条第4項(特定の株主の議決権)、第175条第2項(売渡しの請求の相手方の議決権)、第189条第1項(単元未満株式の議決権)、第297条第1項、第2項及び第4項(株主による招集の請求)、第303条第2項及び第3項(株主提案権)、第305条第1項(議案の要領の通知の請求)、第306条第1項(株主総会の招集の手続等に関する検査役の選任)、第308条第1項及び第2項(議決権の数)、第309条第1項、第2項及び第4項(株主総会の決議)、第341条(役員の選任及び解任の決議)、第433条第1項及び第2項第1号から第3号まで(会計帳簿の閲覧等の請求)、第466条(定款の変更)、第830条第1項及び第2項(株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)、第831条第1項第1号から第3号まで(株主総会等の決議の取消しの訴え)、第854条第1項及び第2項(役員の解任の訴え)
付記
本記事に掲げた日付は、いずれも期間の計算の考え方を示すための例です。定款に別段の定めがある場合、単元株式数の定めがある場合、議決権制限株式が発行されている場合には、結論が異なります。
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