全部取得条項付種類株式によるスクイーズアウト

少数株主を会社から退出させる方法の一つに、全部取得条項付種類株式を用いる手法があります。この手法は、種類株式の制度を活用し、複数の手続を経ることで少数株主の保有する株式を対価と引き換えに取得するというものです。以下では、その手続の流れを整理します。

第1 種類株式を発行することができる旨の定款の定めを置きます 直接の効果はありません
第2 既存の株式に全部取得条項を付する定款の変更を行います 保有する株式が全部取得条項付種類株式となります
第3 株主総会の決議により、会社が当該株式の全部を取得します 株式を失い、対価を受けることになります
第4 対価として交付する株式の割当ての比率を設定します 少数株主については端数のみが生じるように設定されます
第5 端数について金銭を交付します 金銭を受け、株主でなくなります

要するに、対価として交付する株式について、支配株主には1株以上が割り当てられ、少数株主には1株に満たない端数のみが生じるように比率を設定することにより、少数株主が金銭の交付を受けて離脱するという構造です。

 なぜ現在は用いられる場面が限られるのか

表2 主な手法の比較

観点 全部取得条項付種類株式 株式の併合 特別支配株主の株式等売渡請求
必要となる持株比率 株主総会の特別決議の要件によります 株主総会の特別決議の要件によります 高い比率の保有が要件とされています
株主総会の要否 必要です 必要です 不要とされています
定款の変更 複数回の変更を要します 原則として不要です 不要です
手続の分量 多くなります 比較的少なくなります 比較的少なくなります
少数株主の対抗手段 用意されています 用意されています 用意されています

株式の併合による方法は、定款の変更を要しない点で手続が簡潔です。特別支配株主の株式等売渡請求による方法は、株主総会を経ないという点で、対立が予想される事案において検討されることがあります。

これに対し、全部取得条項付種類株式による方法は、定款の変更を複数回行う必要があり、手続の分量が多くなります。これが、現在の実務において選択される場面が限られる主な理由です。

 それでもこの手法が検討される場面

もっとも、この手法が検討されなくなったわけではありません。種類株式の設計を伴う資本政策の一環として行う場合、複数の目的を同時に達成しようとする場合には、なお検討の対象となり得ます。

いずれの手法によるべきかは、株主構成、定款の内容、想定される対立の程度、時間的な制約、費用によって異なります。

要件と論点

 定款の変更に必要な決議

種類株式を発行することができる旨の定めを置く定款の変更、既存の株式に全部取得条項を付する定款の変更のいずれについても、株主総会の決議を要します。

既存の株式に全部取得条項を付する定款の変更は、株主にとって重大な影響を及ぼすものであるため、通常の定款の変更に加えて、種類株主による決議その他の手続が必要となる場合があります。会社の株式の種類の構成によって、必要な手続が異なります。

 取得の決議において定めるべき事項

会社が全部取得条項付種類株式を取得する場合、株主総会の決議によって、取得の対価、その割当てに関する事項、取得する日を定めることになります。

対価として何を交付するかについては、株式、金銭その他の財産が考えられます。少数株主の排除を目的とする場合には、株式を対価とし、端数について金銭を交付するという構成が用いられます。

 取得の対価の相当性

取得の対価が相当であるかどうかは、この手法における中心的な争点です。対価に不服がある株主は、裁判所に対して価格の決定を申し立てることができます。

会社側としては、対価の算定の根拠を、資料に基づいて説明できるようにしておく必要があります。この点については、株価の算定に関する記事、株式売買価格決定申立に関する記事をご参照ください。

 事前及び事後の情報の開示

この手続においては、株主に対して一定の事項を開示することが求められます。開示すべき事項、備え置くべき書類、その期間については、制度上の定めがあります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

開示に不備がある場合、手続の適法性が争われる原因となります。

 少数株主が採り得る対応

少数株主の側には、取得の差止めを求める方法、株主総会の決議の効力を争う方法、対価について裁判所に価格の決定を求める方法が用意されています。

会社側としては、これらが行われることを前提として、手続の記録を整えておく必要があります。この点については、スクイーズアウトで少数株主から訴えられるリスクに関する記事において整理しております。

 端数の処理

端数が生じた場合の処理については、制度上の定めがあります。端数の合計に相当する非上場株式を売却し、その代金を交付するという方法が採られます。売却の方法についても定めがあります。

会社側としては、この処理に要する期間と手続を、全体の日程に織り込んでおく必要があります。

会社側の実務

表3 この手法を検討する場合の手順

順序 行うこと
第1 現在の定款と登記の内容を確認します
第2 株主名簿を整備し、株主構成と議決権の数を確定します
第3 他の手法との比較を行い、この手法を選ぶ理由を整理します
第4 対価の水準を検討し、算定の根拠を整えます
第5 必要となる決議と、決議の順序を確定します
第6 開示すべき事項と備え置くべき書類を準備します
第7 株主総会の招集手続を行います
第8 決議の後、取得と端数の処理の手続を行います
第9 登記その他の事後の手続を行います

 定款と登記の確認を最初に行います

現在の定款に種類株式に関する定めがあるか、発行可能株式総数はいくらか、譲渡制限の定めがどうなっているかを確認してください。定款の変更を複数回行うことになりますので、変更の内容と順序を事前に確定させておく必要があります。

 株主名簿の整備を先に行います

株主名簿が現在の状態を反映していない場合、招集通知の宛先、議決権の数、対価の交付の相手方のいずれについても支障が生じます。相続の発生、名義株式、所在不明株主については、この手続に着手する前に方針を決めてください。

 対価の算定の根拠を整えます

対価の算定について、会社側の考え方と根拠となる資料を整えてください。この作業は、後に価格が争われた場合の主張の基礎となります。

 手続の記録を残します

各段階における決定の過程、開示の内容、招集通知の発送の記録、株主総会の議事の経過を、記録として残してください。

 日程に余裕を持たせます

定款の変更、開示の期間、株主総会の招集の期間、端数の処理を通算すると、相応の期間を要します。M&Aのクロージング、事業承継の時期といった外部の日程に合わせる場合には、余裕を持った計画が必要です。

関連する手続

少数株主の排除の手法としては、このほか、株式の併合による方法、特別支配株主の株式等売渡請求による方法、現金を対価とする株式交換による方法があります。それぞれの手法については、既存の解説記事をご参照ください。

また、いずれの手法による場合であっても、対価の額について裁判所の判断を求める手続が用意されています。この点については、株式売買価格決定申立に関する記事をご参照ください。

なお、排除という方法によらず、任意の合意によって株式を取得する方法もあります。この点については、任意の買取りに関する記事をご参照ください。

弁護士に相談する意味

この手法を検討する場合、まず必要となるのは、他の手法との比較です。手続の分量、要する期間、争われた場合のリスク、費用を比較したうえで、なおこの手法を選ぶ理由があるかを検討することになります。

次に、定款の変更の内容と順序の設計です。会社の現在の定款の内容によって、必要となる決議と手続が異なります。設計を誤ると、手続をやり直すことになります。

さらに、対価の算定です。対価の相当性は、この手法における中心的な争点です。算定の根拠を早期に整えておく必要があります。

なお、いずれの手法を選択すべきかという判断、日程の組立て、対立が予想される場合の進め方は、株主構成、財務状況、従前の経緯によって異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 現在でもこの手法を使えますか。

制度として用いることは可能です。もっとも、他の手法と比べて手続の分量が多くなりますので、選択の理由を整理したうえで進めることをお勧めいたします。

質問2 定款に種類株式の定めがありません。

その場合、定款の変更から始めることになります。変更の内容と順序の設計が必要です。

質問3 少数株主が反対した場合、手続は進みますか。

株主総会の決議の要件を満たすかどうかによります。あわせて、決議の効力を争う手続、対価の額を争う手続が用意されていることを前提とした準備が必要です。

質問4 対価はどのように決めればよいですか。

算定の根拠を資料に基づいて整えることになります。株価の算定に関する記事をご参照のうえ、ご相談ください。

質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の計算書類、株式の種類と発行の経緯が分かる資料、少数株主との従前のやり取りが分かる資料をご持参ください。

関連するご案内

少数株主の排除の手法を検討している会社の方は、少数株主排除・スクイーズアウトをご覧ください。手法の比較、対価の算定、手続の日程、争われた場合の備えまでを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。


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