少数株主から会社資料を大量に要求された場合の整理方法

少数株主から、会計帳簿や株主名簿、取締役会議事録など、複数の資料の開示を同時に求める書面が届き、どこから手を付ければよいか分からないという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。
この場面で問題となるのは、複数の請求権が1通の書面に混在している場合、それぞれの請求について要件や回答の期限が異なるにもかかわらず、一括して処理しようとすると対応を誤りやすいという点です。
以下では、請求の到達後に会社が行うべき整理の手順を、確認すべき事項に沿って御説明します。
| 6 | 請求の理由の記載 | 具体的に記載されているか |
|---|---|---|
| 7 | 回答の期限として指定された日 | 会社側の準備に要する期間との関係 |
| 8 | 代理人の有無 | 弁護士その他の代理人が付いているか |
| 9 | 並行する権利行使 | 他の請求の有無 |
到達の日を記録してください
複数の請求権が含まれている場合、それぞれについて対応の時期が問題となります。到達の日、封筒、受領の記録を保存してください。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。
求められている資料を一覧にします
書面に記載された資料を、そのまま一覧として書き出してください。この一覧が、その後の分類の基礎となります。
根拠が明示されているかを確認します
書面に請求の根拠となる制度が明示されている場合と、単に資料の一覧が記載されているだけの場合があります。明示されていない場合、会社側で根拠を推定して分類することになります。
保有する議決権の割合を確認します
請求権によっては、持株比率の要件があるものがあります。要件を満たさない請求については、その旨を整理することになります。
会社側の法的な立場
請求権ごとに要件と効果が異なります
表2 資料に関する主な請求権の分類
| 資料の類型 | 根拠となる制度の性質 | 請求の要件 | 会社が拒み得る場合 |
|---|---|---|---|
| 計算書類、事業報告及びこれらの附属明細書 | 備置きと閲覧等に関する制度 | 株主であること | 限定的です |
| 会計帳簿及びこれに関する資料 | 会計帳簿閲覧謄写請求 | 持株比率の要件、理由の明示 | 拒絶事由が定められています |
| 株主名簿 | 備置きと閲覧等に関する制度 | 株主であること、理由の明示 | 拒絶事由が定められています |
| 株主総会の議事録 | 備置きと閲覧等に関する制度 | 株主であること | 限定的です |
| 取締役会の議事録 | 備置きと閲覧等に関する制度 | 株主であること、場合により裁判所の許可 | 制度の内容によります |
| 定款 | 備置きと閲覧等に関する制度 | 株主であること | 限定的です |
| 上記のいずれにも当たらない資料 | 制度上の根拠がありません | ― | 応じる義務はありません |
この分類が、対応の出発点です。同じ「資料の開示」であっても、根拠が異なれば、要件も、拒むことができる場合も、対応の方法も異なります。
制度上の根拠がない資料
求められている資料の中には、いずれの制度にも当たらないものが含まれていることがあります。個別の契約書、通帳の写し、稟議の書類、電子メールといったものです。
これらについては、会社が開示に応じる義務を負うものではありません。もっとも、会計帳簿に関する資料に当たると主張される余地がある場合には、その点の検討が必要です。この点については、対象となる資料の範囲に関する記事をご参照ください。
持株比率の要件
会計帳簿閲覧謄写請求については、持株比率の要件が定められています。要件を満たさない株主による請求については、その点を整理することになります。
他方で、計算書類の閲覧等については、持株比率の要件がありません。したがって、要件を満たさない株主からの請求であっても、一部については応じることになります。
理由の明示
会計帳簿閲覧謄写請求、株主名簿の閲覧等については、請求の理由を明らかにすることが求められています。理由の記載が具体性を備えているかどうかは、会社の対応を左右します。
拒絶事由
会計帳簿閲覧謄写請求、株主名簿の閲覧等については、会社が拒むことができる事由が定められています。事由の内容と、これを示すことができるかどうかを検討することになります。この点については、拒絶事由に関する既存の記事をご参照ください。
会社側が検討し得る選択肢
表3 分類の後に採り得る対応
| 資料の類型 | 対応の方向 |
|---|---|
| 制度上の根拠があり、要件を満たすもの | 対象を特定して応じます |
| 制度上の根拠はあるが、要件を満たさないもの | 要件を満たさない旨を整理します |
| 制度上の根拠はあるが、拒絶事由があるもの | 事由を示して拒みます |
| 制度上の根拠がないもの | 応じる義務がない旨を整理します |
| 該当するかどうかが不明確なもの | 個別に検討します |
応じる部分から先に整理します
一覧の全体について結論が出るまで回答を保留するという対応は、避けてください。応じる部分と応じない部分を分け、応じる部分については速やかに準備を進めることが望まれます。
対象の特定について協議する
求められている資料が広範である場合、対象の特定について相手方と協議することがあります。もっとも、協議を理由として対応が長期化することは避けてください。
実施の方法を定めます
閲覧に応じる場合、日時、場所、立会いの方法、謄写の可否と方法を定めることになります。多数の資料について実施する場合、複数回に分けることも検討します。
記録を作成します
提示した資料の一覧、実施の日時、立ち会った者を記録として残してください。
してはいけない対応
表4 避けるべき対応
| 避けるべき対応 | 理由 |
|---|---|
| 一覧の全体を一括して拒む | 根拠のある請求まで拒むことになります |
| 一覧の全体に応じる | 義務のない資料まで開示することになります |
| 結論が出るまで回答を保留する | 対応の遅れが問題とされます |
| 分類をしないまま判断する | 判断の基準が定まりません |
| 抽象的な懸念のみで拒絶する | 拒絶事由を示す必要があります |
| 担当者が個別に対応する | 会社としての対応が一貫しません |
| 開示した資料の記録を残さない | 後日、対応の適否を示すことができません |
| 資料を廃棄又は改変する | 重大な不利益となります |
とりわけ、資料の廃棄又は改変があったと疑われる事態は、会社側にとって重大な不利益となります。請求を受けた時点で、対象となり得る資料の保全を行ってください。
案件として確認すべき事項
表5 ご相談の際に整理していただく事項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 請求書 | 原本又は写し、封筒、到達の日 |
| 資料の一覧 | 求められている資料をそのまま書き出したもの |
| 請求者 | 株主名簿上の記載、保有する株式数と割合 |
| 代理人 | 弁護士その他の代理人の有無 |
| 理由 | 書面に記載された理由 |
| 資料の状況 | 該当する資料の所在と整備の状況 |
| 経緯 | 当該株主との従前のやり取り |
| 並行する請求 | 他の権利行使の有無 |
| 定款等 | 定款、登記事項証明書、株主名簿 |
弁護士に相談する意味
多数の資料の開示を求められた場合、会社側は分量に圧倒されがちです。もっとも、実際に必要な作業は、分類と、それぞれについての要件の確認です。この作業を行えば、対応すべき範囲は想定より限定されることが少なくありません。
反対に、分類をしないまま対応すると、義務のない資料まで開示する、あるいは根拠のある請求まで拒むという結果になります。いずれも、その後の展開に影響します。
また、多数の資料の開示を求める請求は、多くの場合、単独では行われません。株式の買取りの要求、株主総会をめぐる権利行使、役員の責任の追及と結び付いていることがあります。全体を見たうえで方針を定める必要があります。
さらに、この請求は、資料の整備の状況を明らかにします。整備が不十分である場合、その点自体が別の問題となり得ます。
なお、対応の順序、対象の特定に関する協議の進め方については、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 全部出さなければなりませんか。
求められている資料を根拠となる権利ごとに分類したうえで、それぞれについて判断することになります。分類を経ずに結論を出すことはできません。
質問2 通帳や契約書まで求められています。
制度上の根拠がない資料については、応じる義務を負うものではありません。もっとも、会計帳簿に関する資料に当たると主張される余地がある場合には、検討が必要です。
質問3 指定された期限までに準備が間に合いません。
相手方が指定した期限が、そのまま法律上の期限となるわけではありません。もっとも、対応の遅れが問題とされることがありますので、早期にご相談ください。
質問4 持株比率が低い株主です。拒めますか。
請求権によって要件が異なります。持株比率の要件がない請求権もありますので、分類が必要です。
質問5 目的は嫌がらせだと思います。
そのように考えられる場合であっても、抽象的な懸念のみでは拒絶の理由となりません。事由を示すことができるかを検討します。
質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。
受領した請求書の原本又は写し、封筒、定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の計算書類、当該株主とのやり取りが分かる資料をご持参ください。
関連するご案内
株主から資料の開示を求められた会社の方は、会計帳簿閲覧謄写請求を受けた会社へをご覧ください。請求の受領から要件の確認、対象の特定、実施までを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。
- 会計帳簿閲覧謄写請求の対象となる資料はどこまでか
- 株主に税務申告書や月次試算表を見せる必要があるか
- 会計帳簿閲覧謄写請求への回答期限はあるか
- 競業関係にある株主から会計帳簿閲覧謄写請求を受けた場合
- 退任した取締役から会計帳簿閲覧謄写請求を受けた場合
- 会計帳簿の閲覧謄写を請求されたときの会社の初動
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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