会計帳簿の閲覧謄写を請求されたときの会社の初動

株主から、会計帳簿の閲覧謄写を求める書面が届いたが、会社として初動でどのような対応を採ればよいのかという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、会計帳簿等の閲覧謄写の請求は、株主が請求し得る資料の中で最も詳細な情報に及ぶものであるため、他の資料の請求と比べて要件が最も厳格に定められており、自社が監査役設置会社に当たるかどうかなど、確認すべき事項が多岐にわたるという点です。

以下では、会社が負う保存の義務の内容、及び初動で確認すべき事項を御説明します。

取締役会の議事録 なし 必要 裁判所の許可の制度 会社法第371条第2項・第3項
会計帳簿等 100分の3以上 必要 あります 会社法第433条第1項・第2項

会計帳簿等の閲覧謄写の請求は、株主が請求し得る資料の中で最も詳細な情報に及ぶものですので、要件も最も厳格に定められております。

 保存の義務

会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならず(会社法第432条第1項)、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならないとされております(同条第2項)。

初動で確認すべき事項

 到達の日と記録

書面の到達の日、封筒、配達の記録を保存いたします。以後の対応の起点となります。

 請求をした者が株主であるか

株式の譲渡は、株主名簿に記載又は記録をしなければ会社に対抗することができません(会社法第130条第1項)。相続により取得した者が名義書換を了していない場合、遺産分割が未了で準共有となっている場合(会社法第106条)等について、権利を行使し得る地位にあるかを確認いたします。

 持株の要件

100分の3の計算においては、次の点に留意いたします。

  • 議決権による基準では、自己株式に議決権がないこと(会社法第308条第2項)を踏まえて分母を計算いたします。
  • 株式数による基準では、発行済株式から自己株式を除いて分母を計算いたします。
  • 複数の株主が共同して請求をした場合には、合算して判断いたします。
  • 定款により100分の3を下回る割合が定められている場合には、その割合によります。
  • 会計帳簿等の閲覧謄写の請求には、6か月の保有期間の要件はありません。

 請求の理由の記載

請求の理由は明らかにされなければなりません(会社法第433条第1項後段)。裁判所の判断としては、請求の理由は具体的に記載することを要するものの、その理由を基礎付ける事実が客観的に存在することまでを立証する必要はないという考え方が示されております。

したがって、「株主として会社の状況を知りたい」といった抽象的な記載であれば理由の記載として不十分である可能性がありますが、「役員報酬の水準が適正であるかを検討するため」「特定の取引について取締役の責任の有無を検討するため」といった記載であれば、理由として具体性を備えていると評価される可能性があります。

 対象の特定

請求書に記載された対象が特定されているかを確認いたします。会社法第433条第1項は「会計帳簿又はこれに関する資料」を対象としております。「会計帳簿」に当たるものとしては、総勘定元帳、仕訳帳、補助簿等が挙げられます。「これに関する資料」の範囲については、会計帳簿の記載の基礎となった資料に限られるとする見解と、より広く会社の経理に関する資料を含むとする見解があり、実務上、争いの生じやすい部分です。

契約書、領収書、請求書、預金通帳、税務の申告書等が対象となるかは、この点の理解によって結論が分かれ得ます。

 請求の理由との関連

請求の理由として示された事項と、対象として挙げられた資料との間に関連があるかを確認いたします。理由に照らして関連を有しない資料についてまで閲覧謄写に応じる必要があるかは、検討の余地があります。

拒絶の事由の有無の検討

会社は、次のいずれかに該当する場合を除き、請求を拒むことができないとされております(会社法第433条第2項)。すなわち、次の事由がある場合には拒むことができます。

拒絶の事由
第1号 請求を行う株主がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき
第2号 請求者が会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき
第3号 請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき
第4号 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき
第5号 請求者が、過去2年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき

拒絶の事由の存在は、会社の側が主張立証すべき事柄です。抽象的な疑いを述べるだけでは足りません。この点は、次の記事において詳しく整理いたします。

初動における対応の選択肢

選択肢 内容 留意点
要件の確認を通知する 持株の要件、理由の記載について確認を求めます 引き延ばしと評価されない範囲で行います
対象の特定を求める 対象となる資料の範囲の明示を求めます 会社の側から候補を示すことも考えられます
一部について応じる 理由と関連を有する資料について応じます 応じない部分の理由を明示いたします
全部について応じる 早期に応じることで紛争の拡大を避けます 開示の記録を残します
拒絶の事由を主張する 会社法第433条第2項各号に該当する旨を通知いたします 具体的な事実を示す必要があります
資料を保全する 対象となり得る資料の所在を確認し、保全いたします 廃棄や改変は重大な問題を生じさせます

 回答は書面で行います

口頭のやり取りのみで進めることは、お勧めできません。理由は次のとおりです。会社がいつ、どのような理由で応じ、又は応じなかったかは、その後の訴訟又は仮処分の手続において争点となり得る事実であり、書面が残っていなければ、会社の対応が誠実なものであったことを示すことができないからです。

 資料の廃棄及び改変は重大な問題を生じさせます

請求を受けた後に対象となり得る資料を廃棄し、又は改変することは、会社法上の保存の義務(会社法第432条第2項)に違反するのみならず、その後の手続において会社の主張全体の信用性を失わせます。

 閲覧の場所及び方法

閲覧に応じる場合には、日時、場所、立会いの有無、謄写の方法及び費用の負担について、あらかじめ書面により取り決めておくことが有用です。

この請求の後に続くこと

会計帳簿の閲覧謄写の請求は、それ自体が目的であることは少なく、次の手続の準備として行われることが通常です。会社としては、その後の展開を想定しておく必要があります。

想定される次の手続 根拠条文
取締役の責任を追及する訴えの提起の請求 会社法第847条第1項
取締役の行為の差止めの請求 会社法第360条第1項
株主総会の招集の請求 会社法第297条第1項
取締役の解任の訴え 会社法第854条第1項
業務の執行に関する検査役の選任の申立て 会社法第358条第1項
株式の売買価格をめぐる手続 事案によります

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限 根拠条文
会計帳簿及び重要な資料の保存 会計帳簿の閉鎖の時から10年間 会社法第432条第2項
計算書類等の保存 作成した時から10年間 会社法第435条第4項
計算書類等の備置き 定時株主総会の日の1週間前(取締役会設置会社は2週間前)から5年間 会社法第442条第1項
取締役会の議事録の備置き 取締役会の日から10年間 会社法第371条第1項
株主総会の議事録の備置き 株主総会の日から10年間 会社法第318条第2項

 会社の側でご準備いただきたい資料

  • 株主から届いた請求の書面及びその封筒
  • 現に効力を有する定款(100分の3を下回る割合の定めの有無を確認いたします)
  • 株主名簿及び議決権の数の一覧(自己株式の数を含みます)
  • 発行済株式の総数が分かる登記事項証明書
  • 対象となり得る会計の資料の所在の一覧
  • 請求をした株主との従前のやり取りの記録

弁護士にご相談いただく意味

この場面で会社が陥りやすいのは、二つの極端な対応です。第1は、感情的に一切を拒むという対応です。拒絶の事由がないにもかかわらず拒めば、訴訟又は仮処分の手続を招き、結局は開示することになり、その間の対応が不誠実であったと評価されます。第2は、要件を検討することなく全面的に応じるという対応です。この場合、本来は開示を要しない資料まで開示することになり、その情報がその後の紛争において用いられます。

適切な対応は、要件を精査した上で、応じる部分と争う部分を明確に区別し、その理由を書面により示すことです。この整理は、その後に想定される手続を見通した上で行う必要があります。当事務所は、会社の側のお立場でご相談をお受けしております。

よくあるご質問

質問1 持株の割合が100分の3に満たない株主からの請求です。

会社法第433条第1項の要件を満たさない請求については、その旨を回答することが考えられます。ただし、定款により100分の3を下回る割合が定められていないか、複数の株主が共同して請求していないか、株式数による基準では要件を満たさないかを確認する必要があります。

質問2 請求の理由が「経営の状況を確認するため」とだけ書かれています。

請求の理由は具体的に記載することを要すると解されております。記載が抽象的である場合には、補充を求めることが考えられます。もっとも、その理由を基礎付ける事実が客観的に存在することまでを株主が立証する必要はないという考え方が示されておりますので、事実の裏付けがないことを理由に拒むことは適当でありません。

質問3 契約書や領収書も開示しなければなりませんか。

会社法第433条第1項は「会計帳簿又はこれに関する資料」を対象としております。「これに関する資料」の範囲については見解が分かれており、実務上、争いの生じやすい部分です。請求の理由との関連を踏まえた個別の検討が必要です。

質問4 全部を見せるのではなく、一部だけ見せることはできますか。

請求の理由と関連を有する範囲に限定するという整理は、実務上、行われております。応じない部分については、その理由を明示することになります。

質問5 請求を受けた後に、古い資料を廃棄しても差し支えありませんか。

差し支えありません、とは申し上げられません。会社は、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならないとされております(会社法第432条第2項)。また、請求を受けた後の廃棄は、その後の手続において会社の主張の信用性を著しく損ないます。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第31条第2項(定款の閲覧等)
  • 第106条(共有者による権利の行使)
  • 第125条第2項・第3項(株主名簿の閲覧等及び拒絶事由)
  • 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
  • 第297条第1項(株主総会の招集の請求)
  • 第308条第2項(自己株式の議決権)
  • 第318条第2項・第4項(株主総会の議事録)
  • 第358条第1項(業務の執行に関する検査役の選任)
  • 第360条第1項(取締役の行為の差止めの請求)
  • 第371条第1項・第2項・第3項(取締役会の議事録)
  • 第432条第1項・第2項(会計帳簿の作成及び保存)
  • 第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧等の請求及び拒絶事由)
  • 第435条第4項(計算書類等の保存)
  • 第442条第1項・第3項(計算書類等の備置き及び閲覧等)
  • 第847条第1項(責任追及等の訴えの提起の請求)
  • 第854条第1項(役員の解任の訴え)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、株主から会計帳簿の閲覧謄写を請求された会社の側からのご相談をお受けしております。要件の精査、対象の特定、回答書の作成、開示の範囲の設計、訴訟又は仮処分の手続への対応まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、会計帳簿の閲覧謄写を請求された会社の方に向けたご案内のページ(/choboetsuran_taiou/)をご覧ください。同ページでは、請求を受けた時点から手続が終了するまでの間に当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします

ご相談の際に、株主から届いた請求の書面とその封筒、現に効力を有する定款、株主名簿、登記事項証明書、対象となり得る資料の所在の一覧をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

請求の内容に応じた会社側の判断の分岐

会計帳簿の閲覧謄写の請求に対する会社側の対応は、全部に応じるか全部を拒絶するかの二択ではありません。請求の内容ごとに、次のように分岐いたします。

請求の状態 会社側の判断 留意点
持株の要件を満たしていない 応じる義務はありません 会社法第433条第1項の要件です。定款で要件を緩和している場合がありますので、定款を確認いたします
請求の理由が具体的に記載されていない 補正を求めることが考えられます 理由の記載は請求の要件です。記載が抽象的である場合、対象の範囲を画することができません
理由は具体的だが対象が広範に過ぎる 理由との関連が認められる範囲に限って応じるという整理が考えられます 一部について応じるという対応は、全部を拒絶する場合より会社の負担が小さくなることがあります
拒絶事由に該当する事情がある 理由を示して拒絶いたします 会社法第433条第2項各号の該当性は、会社の側が主張し、立証することになります
要件を満たし拒絶事由もない 応じます 閲覧の場所、日時、方法及び立会いを書面で定めます

回答書に記載する事項

応じる場合であっても拒絶する場合であっても、回答は書面により行い、次の事項を記載いたします。請求書を受領した日、請求の内容の確認、判断の結論、判断の理由(拒絶する場合は該当する号を明示いたします)、応じる場合は閲覧の日時、場所、方法及び対象の範囲、並びに連絡の窓口です。

この請求の後に続く手続への備え

会計帳簿の閲覧は、それ自体が目的であることは多くありません。取得された資料は、役員の責任の追及、非上場株式の価格の主張、又は株主総会における質問の準備に用いられます。したがって、閲覧に応じる範囲を検討する際には、開示する資料が次にどの手続で用いられ得るかを併せて検討することになります。

手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。


具体的な御相談をお考えの会社の皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。