会計帳簿閲覧謄写請求の対象となる資料はどこまでか

株主から会計帳簿の閲覧謄写を請求され、請求書に多数の資料が列挙されていた。総勘定元帳のほか、契約書、領収書、稟議書、議事録まで求められている。どこまで見せる必要があるのか判断がつかない。発行会社の代表取締役、法務責任者、経理責任者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。会社法が定める会計帳簿閲覧謄写請求権の対象は、会計帳簿及びこれに関する資料です。会社が保有するすべての資料が対象となるわけではありません。したがって、請求書に列挙された資料を一つ一つ検討し、対象となるもの、対象とならないもの、判断を要するものに切り分ける作業が必要となります。

もっとも、対象の範囲は、請求の理由として述べられた内容とも関わります。株主が示した理由と、求めている資料との関係が問われる場面があります。したがって、資料の名称のみを見て機械的に判断することは適切ではありません。

本記事は、資料の類型ごとの整理を主題といたします。請求を受けた場合の初動、拒絶事由の検討については、それぞれ別の記事において解説しております。

制度の意味

 何のための制度か

会社法は、一定の要件を満たす株主に対して、会社の会計帳簿及びこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求する権利を認めています。この制度の趣旨は、株主が、会社の業務及び財産の状況を把握し、株主としての権利を適切に行使できるようにすることにあります。

すなわち、株主が会社の内部を無制限に調査するための制度ではありません。したがって、対象となる資料の範囲にも、制度の趣旨に沿った限界があります。

 計算書類の閲覧との違い

会社法は、計算書類等について、これとは別の閲覧の制度を設けています。両者は、対象となる資料も、要件も異なります。

表1 二つの制度の違い

観点 計算書類等の閲覧 会計帳簿閲覧謄写請求
対象 計算書類、事業報告及びこれらの附属明細書等 会計帳簿及びこれに関する資料
請求できる者 株主及び債権者 一定の要件を満たす株主
理由の記載 求められません 理由を明らかにして行う必要があります
拒絶の可否 制度の枠内で対応します 一定の事由がある場合に拒むことができます

株主からの請求が、いずれの制度に基づくものであるかを、まず確認する必要があります。

 「会計帳簿」と「これに関する資料」

対象は、会計帳簿と、これに関する資料の二つに整理されます。会計帳簿とは、会社の会計に関する記録として作成される帳簿を指します。これに関する資料とは、会計帳簿の記載の基礎となった資料を指すものと理解されています。

問題は、「基礎となった」という関係をどこまで広く捉えるかです。この点について、実務上は、会計帳簿の記載を直接裏付ける資料に限るという考え方と、会計帳簿の記載を理解するために必要な資料を含むという考え方とがあり、事案に応じた判断がなされています。

資料の類型ごとの整理

以下は、実務上、対象となるかどうかが議論されることの多い資料の類型です。いずれについても、最終的な判断は、請求の理由、資料の内容、会社の実情によって異なります。

表2 資料の類型ごとの整理

類型 具体例 検討の観点
主要な会計帳簿 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、預金出納帳 会計帳簿そのものに当たる典型的な資料です
補助簿 売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、在庫の帳簿 会計帳簿に含まれるかどうかが問題となりますが、含まれると整理されることが多い類型です
伝票類 振替伝票、入金伝票、出金伝票 会計帳簿の記載の基礎となる資料に当たるかが問題となります
証憑類 領収書、請求書、納品書、通帳の写し 記載を直接裏付ける資料として、対象となり得ます
契約書 取引先との契約書、賃貸借契約書、金銭消費貸借契約書 会計帳簿の記載との対応関係の有無により判断が分かれます
議事録 取締役会議事録、株主総会議事録 会計帳簿とは別の制度が設けられており、この制度の対象とは区別して検討します
社内の意思決定資料 稟議書、決裁書、社内報告書 会計帳簿の記載の基礎といえるかが問題となります
税務関係 税務申告書、勘定科目内訳明細書 対象となるかについて議論があります。別の記事で扱います
月次の資料 月次試算表、月次の報告資料 対象となるかについて議論があります。別の記事で扱います
人事関係 個人別の賃金台帳、人事の記録 個人に関する情報を含むため、別途の配慮を要します
子会社の資料 子会社の会計帳簿 原則として別法人の資料であり、扱いには検討を要します

 「会計帳簿そのもの」に近いものから検討します

判断に迷う場合には、まず、会計帳簿そのものに当たる資料を特定し、次に、その記載を裏付ける資料を検討し、最後に、それ以外の資料を検討するという順序が有用です。

 請求の理由との関係

株主は、請求にあたって理由を明らかにする必要があります。したがって、請求された資料が、述べられた理由との関係でどのような意味を持つのかという観点からの検討も必要となります。

理由として述べられた事項と関係のない資料まで、当然に対象となるわけではありません。他方で、会社側が理由を狭く解釈して大部分を拒むことも、適切ではありません。

 電磁的な記録による場合

会計帳簿が電磁的な記録によって作成されている場合、閲覧又は謄写の方法についても検討が必要となります。画面上で表示する方法、印刷して交付する方法、電磁的な記録として交付する方法のいずれによるかは、資料の性質と会社の体制によって異なります。

 第三者に関する情報を含む場合

契約書、証憑類には、取引先その他の第三者に関する情報が含まれます。開示にあたっては、営業秘密の保護、第三者との契約における守秘に関する定めとの関係を検討する必要があります。

もっとも、こうした事情があることのみを理由として、対象となる資料の開示を一律に拒むことができるわけではありません。

会社側の実務

表3 請求を受けた場合の資料の整理の手順

順序 行うこと
第1 請求書に列挙された資料を一覧として書き出します
第2 各資料が現に存在するか、どこに保管されているかを確認します
第3 資料の類型ごとに、対象となるか否かの検討を行います
第4 判断を要するものについて、請求の理由との関係を検討します
第5 第三者に関する情報、営業秘密を含むものを特定します
第6 閲覧又は謄写の方法を検討します
第7 回答の方針を定めます。方針の決定の前に弁護士へご相談ください

 存在しない資料について

請求された資料が存在しない場合には、その旨を明らかにすることになります。作成していない資料、保存期間の経過により保存していない資料については、その事情を記録しておいてください。

 資料の改変を行わないでください

請求を受けた後に、資料を改変し、又は廃棄することは、行ってはなりません。後日の手続において重大な問題となります。この点は、会社の内部において明確に周知してください。

 範囲を過度に狭く回答しないでください

対象となる資料について、根拠なく範囲を狭く回答することは、その後の手続において会社側に不利に働きます。検討を経たうえで、根拠を示して回答することが適切です。

 記録の整備

請求書の到達日、社内での検討の経緯、回答の内容と方法は、記録として保存してください。

 期限の管理

対応すべき期間については、手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。検討に時間を要する場合の対応についても、あらかじめ方針を定めておく必要があります。

関連する手続

会社が請求に応じない場合、株主が裁判所に対して手続を求めることがあります。仮の地位を定める手続が申し立てられる場合もあります。この場合、対象となる資料の範囲そのものが、争点として審理されることになります。

したがって、回答の段階における検討の内容と根拠が、その後の手続における会社側の主張の土台となります。

弁護士に相談する意味

第一に、資料の類型ごとの検討です。請求書に列挙された資料を、対象となるもの、ならないもの、判断を要するものに切り分ける作業には、経験が必要です。

第二に、請求の理由との関係の検討です。理由と資料との対応関係をどう評価するかは、事案ごとの判断となります。

第三に、営業秘密及び第三者に関する情報への配慮です。開示の方法を含めて検討する必要があります。

第四に、その後の手続の見通しです。回答の内容は、裁判所の手続に進んだ場合の会社側の主張の土台となります。

なお、どの資料をどのように提示するかという具体的な進め方は、株主構成、請求の経緯、会社の実情等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 総勘定元帳は見せなければなりませんか。

総勘定元帳は、会計帳簿そのものに当たる典型的な資料です。もっとも、閲覧に応じるかどうかは、請求の要件を満たしているか、拒絶することができる事由があるかという別の検討を経て判断されます。

質問2 取引先との契約書まで対象となりますか。

契約書が会計帳簿の記載とどのような対応関係にあるかによって、判断が分かれます。一律に対象となるとも、ならないとも申し上げることはできません。

質問3 子会社の帳簿を見せるよう求められています。

子会社は別の法人であり、その会計帳簿の扱いには検討を要します。請求の内容と、会社と子会社との関係を踏まえて判断することになります。

質問4 紙ではなく会計ソフトのデータで保存しています。

電磁的な記録によって作成されている場合であっても、対象となり得ます。閲覧又は謄写の方法について、別途検討が必要となります。

質問5 資料が膨大で、準備に時間がかかります。

準備に要する期間は、事案によって異なります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。準備の状況についても記録を残してください。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

株主から受領した請求書の原本又は写しと封筒、定款、株主名簿、直近3期分の計算書類、請求された資料の一覧、資料の保管の状況が分かるものをご持参ください。

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株主から会計帳簿の閲覧謄写を請求された会社の方は、会計帳簿閲覧謄写請求を受けた会社へをご覧ください。請求を受けた会社の初動、要件の検討、対象となる資料の範囲、裁判手続への備えを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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