株主に税務申告書や月次試算表を見せる必要があるか

株主から、法人税の確定申告書一式と、直近の月次試算表を見せるよう求められた。請求書には、会計帳簿閲覧謄写請求と記載されている。経理責任者、法務責任者の方から、「これらは見せなければならないのですか」というご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。税務申告書及び月次試算表が会計帳簿閲覧謄写請求の対象となるかどうかについては、実務上、議論のある論点です。一律に対象となるとも、対象とならないとも申し上げることはできません。したがって、株主から求められたというだけで直ちに開示することも、直ちに拒むことも、いずれも適切ではありません。

会社側としては、その資料が会計帳簿の記載とどのような関係にあるのか、株主が述べた請求の理由との関係でどのような意味を持つのかを検討したうえで、根拠を示して回答することになります。

なぜ議論があるのか

 会計帳簿とこれに関する資料

会社法が定める会計帳簿閲覧謄写請求権の対象は、会計帳簿及びこれに関する資料です。会社が保有するすべての資料が対象となるわけではありません。

税務申告書及び月次試算表は、いずれも会計帳簿そのものではありません。したがって、「これに関する資料」に当たるかどうかが問題となります。

 税務申告書について

税務申告書は、税務の法令に従って作成される書類であり、会計上の数値を基礎としつつ、税務上の調整を加えた内容となります。すなわち、会計帳簿の記載を基礎として作成される側面がある一方で、会計帳簿とは別の目的で作成される書類でもあります。

この二面性のために、会計帳簿に関する資料に当たるかどうかについて、見解が分かれています。

表1 税務申告書をめぐる整理

観点 内容
対象となるとする見方 会計帳簿の記載を基礎として作成されており、会社の財産の状況を理解するために有用であるという点に着目します
対象とならないとする見方 税務の法令に基づき、課税関係の確定のために作成される書類であり、会計帳簿の記載を裏付ける資料とは性質が異なるという点に着目します
実務上の扱い 事案ごとに判断されており、一律の結論を述べることはできません

なお、確定申告書に添付される勘定科目内訳明細書については、会計帳簿の記載との対応関係が比較的明確であることから、別に検討されることがあります。

 月次試算表について

月次試算表は、各月の時点における残高を集計した資料です。会計帳簿の記載から作成されるものであり、その意味では会計帳簿と密接な関係を有します。

他方で、法令によって作成が義務付けられている資料ではなく、会社が内部の管理のために作成しているものです。作成の有無、内容の詳しさも、会社によって異なります。

表2 月次試算表をめぐる整理

観点 内容
対象となるとする見方 会計帳簿の記載から作成される資料であり、実質的に会計帳簿の一部と評価し得るという点に着目します
対象とならないとする見方 法令上の作成義務がなく、内部管理のための資料であるという点に着目します
実務上の扱い 会社における作成の実態、内容、請求の理由との関係により判断されます

例外及び注意点

 請求の理由との関係を確認します

株主は、請求にあたって理由を明らかにする必要があります。会社側としては、述べられた理由と、求められた資料との関係を検討することになります。

たとえば、特定の期間における特定の取引について疑義があるという理由が述べられている場合と、会社の状況を全般的に把握したいという理由が述べられている場合とでは、検討の内容が異なります。

 資料の存在の確認

月次試算表については、そもそも作成していない会社もあります。作成していない資料について開示を求められた場合には、その旨を明らかにすることになります。

 「税務の書類だから」という理由だけでは足りません

税務に関する書類であるという理由のみで、当然に対象外となるわけではありません。会社側が拒む場合には、その根拠を示す必要があります。

 他の請求と併せて求められている場合

税務申告書及び月次試算表は、総勘定元帳その他の資料と併せて請求されることが通常です。資料ごとに検討し、それぞれについて回答することになります。一括して応じ、又は一括して拒むという対応は適切ではありません。

 期限の管理

対応すべき期間については、手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

次に確認すること

表3 確認の順序

順序 行うこと
第1 請求書の到達日を記録し、原本を保管します
第2 請求の根拠として述べられている制度を特定します
第3 請求の理由として述べられている内容を書き出します
第4 請求された資料の一覧を作成し、存在の有無を確認します
第5 資料ごとに、会計帳簿の記載との関係を検討します
第6 回答の方針を定めます。方針の決定の前に弁護士へご相談ください

弁護士に相談する意味

第一に、この論点は議論のある領域であり、会社が独自に結論を出して回答することには危険が伴います。回答の内容は、その後の手続における会社側の主張の土台となります。

第二に、税務申告書及び月次試算表のみが問題となることは少なく、多数の資料の請求の一部として求められることが通常です。全体を見通した検討が必要となります。

第三に、株主が述べた理由の評価には、会社の実情と従前の経緯を踏まえた検討が必要です。

第四に、対応すべき期間の管理です。検討に時間を要する場合の対応についても、あらかじめ方針を定めておく必要があります。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 顧問税理士に相談すればよいですか。

税務の内容については税理士にご確認いただくことが適切です。もっとも、株主に対して開示する義務があるかどうかは会社法上の問題ですので、法律の観点からの検討が別途必要となります。

質問2 勘定科目内訳明細書だけを開示することはできますか。

資料ごとに検討し、それぞれについて回答することは、あり得る対応です。もっとも、どの資料をどのように扱うかは、請求の全体を踏まえて判断すべき事柄ですので、回答の前にご相談ください。

質問3 開示すると、取引先の名称が株主に知られてしまいます。

第三者に関する情報を含む場合、営業秘密の保護等の観点からの検討が必要となります。もっとも、そのことのみを理由として一律に拒むことができるわけではありません。

質問4 相談の際には何を持参すればよいですか。

株主から受領した請求書の原本又は写しと封筒、定款、株主名簿、直近3期分の計算書類、請求された資料の一覧、月次試算表を作成している場合はその見本をご持参ください。

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株主から資料の開示を求められた会社の方は、会計帳簿閲覧謄写請求を受けた会社へをご覧ください。請求を受けた会社の初動、要件の検討、対象となる資料の範囲、裁判手続への備えを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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