株主総会決議取消訴訟を避けるための会社側の注意点

実務上、少数株主との紛争において最も多く用いられるのは、決議の取消しを求める手続です。取消しを求める訴えには提訴の期間が定められています。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。
なぜ手続の適正が重視されるのか
株主総会は、株主が議決権を行使する場です。多数派が結論を決めることができる仕組みである以上、少数派に対しては、議案の内容を知り、質問し、議決権を行使する機会が手続として保障されている必要があります。
したがって、多数派の議決権によって結論が変わらない場合であっても、手続に不備があれば決議の効力が問題となり得ます。「どうせ結果は同じである」という考え方は、会社側の防御としては成り立ちません。
会社側から見た意味
決議の効力が争われると、当該決議に基づいて行われた登記、役員の職務執行、株式の併合その他の行為の効力についても、不安定な状態が続きます。事業の遂行、金融機関との取引、M&Aの検討に影響が及ぶことがあります。
会社側にとっての要点は、紛争が起きないようにすることではなく、紛争が起きても手続の適正を記録によって示せる状態を作っておくことです。
要件と論点
招集の手続
表2 招集の手続において確認すべき事項
| 確認事項 | 会社側の留意点 |
|---|---|
| 招集の決定 | 取締役会設置会社においては、招集について所定の決定を経ているかを確認します |
| 招集の通知の相手方 | 株主名簿に記載された株主のすべてに発しているかを確認します |
| 招集の通知の方法 | 書面によるべき場合、電磁的方法による場合の要件を確認します |
| 招集の通知の期間 | 発することを要する時期に定めがあります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします |
| 記載事項 | 日時、場所、議題、書面による議決権行使を認める場合の事項等を確認します |
| 添付書類 | 計算書類、事業報告その他の提供を要する書類を確認します |
対立を抱える事案において最も多く問題となるのは、通知の相手方の漏れです。株主名簿が古いまま更新されていない、相続が発生しているのに名義書換がされていない、所在が不明な株主がいる、といった状態のまま招集通知を発すると、後日、通知漏れが指摘されます。
議決権の数の確定
自己株式、相互保有株式、単元未満株式、共同相続された株式などについて、議決権の数をどのように計算するかは、事前に確定させておく必要があります。共同相続された株式については、権利行使者の指定と会社への通知の有無を確認してください。
議決権の数の計算に誤りがあると、定足数及び賛成の割合の計算に影響し、決議の方法の適法性が問題となります。
特別の利害関係を有する者の議決権
決議について特別の利害関係を有する株主が議決権を行使した結果、著しく不当な決議がされた場合には、決議の取消しの理由となり得ます。少数株主の排除、支配株主との取引の承認といった議案においては、この点が争われることがあります。
会社側としては、当該議案について特別の利害関係が問題となり得るかを事前に検討し、必要な場合には決議の必要性と相当性を説明できる資料を準備しておく必要があります。
議事運営
議長の権限、質疑の取扱い、動議の処理、採決の方法は、いずれも決議の方法の適法性に関係します。
とりわけ、説明を求められた事項について取締役が説明をしなかったと評価される場合、動議が適切に処理されなかったと評価される場合には、決議の方法に問題があったと主張されることがあります。他方で、議事の進行を妨げる行為に対しては、議長として必要な措置を執ることができます。両者の均衡をどのように取るかが実務上の課題となります。
議事録
議事録は、決議が適法に行われたことを示す基本的な資料です。開催の日時及び場所、出席した役員、議事の経過の要領及びその結果、議長の氏名その他の事項を記載します。
争いのある事案においては、議事の経過の要領をどの程度詳細に記載するかが問題となります。簡略に過ぎる記載は、後日の立証において会社側に不利に働くことがあります。
会社側の実務
表3 対立を抱えた状態で株主総会を開催する場合の準備
| 順序 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 株主名簿を現在の状態に整備し、通知の宛先を確定します |
| 第2 | 定款と登記事項証明書により、機関設計、招集の手続、定足数に関する定めを確認します |
| 第3 | 議案ごとに、決議の要件と、特別の利害関係の有無を検討します |
| 第4 | 招集の決定を行い、記録を残します |
| 第5 | 招集の通知を、到達を確認できる方法により発します |
| 第6 | 想定される質疑と動議について、対応の方針を整理します |
| 第7 | 総会の当日、受付、議決権の集計、議事の記録の体制を整えます |
| 第8 | 議事録を作成し、必要な書類とともに保存します |
株主名簿の整備を最優先で行ってください
対立を抱える事案において、株主名簿の不備は最も大きな弱点となります。相続の発生、名義株式、所在不明株主については、総会の招集の前に状況を確認し、対応の方針を決めてください。
通知は到達を確認できる方法によります
招集の通知については、発したことと、いつ発したかを記録によって示せるようにしてください。宛先不明で返送されたものについても、その事実を記録として残してください。
議決権の集計の体制を整えます
出席した株主、委任状による代理人、書面による議決権行使のそれぞれについて、集計の方法と担当を事前に定めてください。当日の集計に混乱が生じると、決議の方法が争われる原因となります。
記録の方法を事前に定めます
議事の経過を記録する方法については、事前に方針を定めてください。録音を行う場合には、その取扱いについても検討が必要です。
登記を要する決議については手続を確認します
役員の選任、定款の変更その他登記を要する決議については、決議の後の手続についても確認しておいてください。
関連する手続
株主総会をめぐっては、決議の効力を争う手続のほか、株主総会の招集を株主が請求する手続、裁判所の許可を得て株主が招集する手続、議決権の行使に関する仮処分の手続などがあります。
また、株式の併合による少数株主の排除を株主総会の決議によって行う場合には、決議の効力が争われることが、当該手続全体のリスクとなります。この点については、スクイーズアウトに関する記事をご参照ください。
弁護士に相談する意味
対立を抱える事案において重要な決議を行う場合、会社側が最も注意すべきなのは、手続の1つ1つを記録によって示せる状態にしておくことです。この作業は、総会の直前に着手して間に合うものではありません。
株主名簿の整備、定款の点検、議案ごとの決議要件の確認、通知の方法の選択は、いずれも早期に着手する必要があります。とりわけ、相続の発生、名義株式、所在不明株主といった事情がある場合には、相応の時間を要します。
また、決議の取消しを求める訴えには提訴の期間が定められています。会社側としては、決議の後、この期間が経過するまでの間、記録を確かに保存しておく必要があります。
なお、想定される質疑への対応の組立て、動議への具体的な対処の方法、議事運営の細目については、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 多数派で可決できるのに、手続を気にする必要がありますか。
必要です。決議の結果が変わらない場合であっても、招集の手続又は決議の方法に問題があれば、決議の効力が争われることがあります。
質問2 所在の分からない株主に招集通知を出せません。
所在不明株主については、通知の取扱いに関する定めがあります。あわせて、株式の整理を検討すべき場合もあります。株主名簿の状態を確認したうえでご相談ください。
質問3 総会で株主が延々と質問を続けた場合、打ち切れますか。
議長には議事を整理する権限があります。もっとも、説明を求められた事項について説明をしなかったと評価されると、決議の方法が争われる原因となります。事前の準備が重要です。
質問4 決議の取消しを求められた場合、決議の効力はどうなりますか。
訴えが提起されたことによって直ちに効力が失われるものではありません。もっとも、不安定な状態が続きますので、早期にご相談ください。
質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、登記事項証明書、株主名簿、直近の株主総会の招集通知及び議事録、今回予定している議案の原案、対立している株主とのやり取りが分かる資料をご持参ください。
関連するご案内
対立を抱えた状態で株主総会を開催する会社の方は、株主総会招集請求・株主提案を受けた会社へをご覧ください。招集請求、株主提案、取締役の解任の要求への対応から、総会の準備と運営までを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。
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- 少数株主が取締役への就任を要求してきた場合
- 相続人が確定するまでの議決権の取扱い
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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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