株主総会の議事録の記載を争われたときの会社の側の反論の組立て

株式が分散した同族会社において、経営に関与していない株主から、「そのような株主総会は開かれていない」「私は招集の通知を受け取っていない」「議事録に記載された決議は存在しない」といった主張がされることがあります。会社の側としては、確かに正式な招集の手続を経ていない時期があったかもしれないが、当時は全株主が了解していたはずだ、という感覚をお持ちのことが少なくありません。
先に結論を申し上げます。議事録は、決議があったことを証する有力な資料ではありますが、議事録が存在することによって決議の効力が生じるわけではありません。逆に、議事録の記載に不備があるからといって、直ちに決議が存在しないことになるわけでもありません。会社の側の反論は、議事録という一点に依拠するのではなく、その前後の事実、すなわち招集の経過、出席者の状況、決議の内容が実際に実行されてきた事実といった周辺の資料によって、決議の存在と内容を裏付けるという形で組み立てることになります。本記事では、その組立てを整理いたします。
議事録の法的な位置付け
作成及び備置きの義務
株主総会の議事については、法務省令の定めるところにより、議事録を作成しなければならないとされております(会社法第318条第1項)。会社は、株主総会の日から10年間、議事録を本店に備え置かなければなりません(同条第2項)。支店には、株主総会の日から5年間、議事録の写しを備え置くこととされております(同条第3項。電磁的記録をもって作成されている場合等の例外があります)。
株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、議事録の閲覧又は謄写を請求することができます(同条第4項)。親会社社員については、権利を行使するため必要があるときに、裁判所の許可を得て請求することができます(同条第5項)。
議事録は決議の効力の要件ではありません
会社法は、議事録の作成を義務付けておりますが、議事録の作成を決議の効力の発生要件とはしておりません。したがって、議事録が作成されていない決議が当然に無効となるわけではありません。他方、議事録に記載があることによって、実際には行われていない決議が有効になるわけでもありません。
この点は、取締役会の議事録が、出席した取締役及び監査役の署名又は記名押印を要するとされていること(会社法第369条第3項)、異議をとどめない取締役は決議に賛成したものと推定されること(同条第5項)と対比すると、理解しやすいところです。株主総会の議事録については、このような推定の規定は置かれておりません。
議事録に記載すべき事項
議事録の記載事項は法務省令に定められており、開催の日時及び場所、議事の経過の要領及びその結果、出席した取締役等の氏名、議長の氏名、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名等が含まれます。記載を欠く事項があることは、議事録の証拠としての価値に影響し得ますが、それのみによって決議が存在しないことになるわけではありません。
株主が用い得る争い方
株主が議事録の記載を争う場合、その主張は法的には次のいずれかに整理されるのが通常です。
| 争い方 | 内容 | 提訴期間 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 決議の不存在の確認の訴え | 決議が事実として存在しないこと | 制限はありません | 会社法第830条第1項 |
| 決議の無効の確認の訴え | 決議の内容が法令に違反すること | 制限はありません | 会社法第830条第2項 |
| 決議の取消しの訴え | 招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正であること等 | 決議の日から3か月以内 | 会社法第831条第1項 |
| 登記に関する争い | 決議を前提とする登記の抹消等 | 事案によります | 商業登記に関する規律 |
会社の側にとって重要なのは、決議の取消しの訴えには決議の日から3か月という提訴期間があるのに対し、決議の不存在の確認の訴えには期間の制限がないという点です。招集の手続に瑕疵があるという主張であれば取消しの訴えとなり3か月の制限がかかりますが、瑕疵の程度が著しく、決議が存在するとは評価し得ない場合には、不存在の確認の訴えとして期間の制限なく争われ得ます。
したがって、会社の側の反論としては、主張されている瑕疵が「取消しの事由」の範囲にとどまるものであることを示すという方向が、実務上、重要な意味を持ちます。
会社の側が示すべき周辺の資料
議事録そのものの記載を争われている以上、議事録の記載を繰り返すだけでは反論となりません。会社の側は、次のような資料により、決議の存在と内容を裏付けることになります。
招集の経過に関する資料
招集の通知の控え、発送の記録、郵便物受領証、電子メールの送信の記録等です。招集の通知は、公開会社にあっては株主総会の日の2週間前まで、公開会社でない株式会社にあっては1週間前までに発することとされております(会社法第299条第1項)。取締役会を設置していない会社においては、定款でこれを下回る期間を定めることができます。
出席の状況に関する資料
出席票、委任状(会社法第310条第1項の議決権の代理行使に係るもの)、議決権行使書面、当日の写真、会場の予約の記録、交通費の精算の記録等です。
決議の内容が実行された事実
決議に基づいて登記がされている、役員報酬が変更されている、配当が支払われている、決議に基づく契約が締結されているといった事実です。これらは、決議が存在したことを推認させる間接的な事実となります。
当時の関係者の認識を示す資料
当時のやり取りの記録、税務の申告の内容、金融機関に提出した資料、株主に対する報告の書面等です。争っている株主自身が、当時、決議の存在を前提とする行動をとっていた事実があれば、有力な資料となります。
書面による決議に関する資料
取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。この規定により決議があったものとみなされた場合、会社は、その同意の意思表示に係る書面等を、決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置くこととされております(同条第2項)。
小規模な会社では、実際には総会を開かずに書面で処理していたという例が少なくありません。当時の同意書が保存されていれば、これが決議の存在を裏付ける資料となります。
会社の側の反論の組立て
| 反論の類型 | 内容 |
|---|---|
| 決議は存在すること | 招集、出席、採決の各段階について周辺の資料により裏付けます |
| 瑕疵は取消しの事由にとどまること | 決議の不存在ではなく取消しの事由であると位置付け、3か月の提訴期間の経過を主張いたします |
| 招集の手続の省略が有効であること | 株主全員の同意があった場合の招集手続の省略(会社法第300条本文) |
| 書面による決議があったこと | 株主全員の同意による決議のみなし(会社法第319条第1項) |
| 決議の取消しの訴えについての裁量による棄却 | 違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであるとき(会社法第831条第2項) |
| 原告が株主でないこと | 株主名簿の記載、株式の取得の経緯 |
会社法第831条第2項は、決議の取消しの訴えの提起があった場合において、招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、その請求を棄却することができる旨を定めております。会社の側の反論として、実務上、重要な位置を占める規定です。
具体的にどの反論をどの順序で述べるかは、争われている決議の内容、経過した期間、他に係属している紛争の有無等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
行ってはならないこと
議事録を後から作成し直すこと
議事録の記載が争われた後に、記載を修正した議事録を作成することは、お勧めできません。理由は次のとおりです。第1に、修正の事実が明らかになった場合、会社の主張全体の信用性が損なわれます。第2に、内容によっては、私文書に関する刑事上の問題を生じ得ます。第3に、登記の申請に用いた場合には、登記に関する規律の問題も生じます。
備置きの義務を怠ること
議事録の備置きの義務に違反した場合には、過料に処せられることがあります(会社法第976条)。閲覧の請求を受けた際に「見当たらない」と回答することは、備置きの義務を果たしていないことを自ら示すことにもなります。
閲覧の請求を理由なく拒むこと
株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、議事録の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。この請求について、会計帳簿の閲覧等の請求(会社法第433条第2項)のような拒絶の事由は定められておりません。理由なく拒むことは、紛争を拡大させます。
確認すべき期限と資料
期限
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 議事録の備置き(本店) | 株主総会の日から10年間 | 会社法第318条第2項 |
| 議事録の写しの備置き(支店) | 株主総会の日から5年間 | 会社法第318条第3項 |
| 書面による決議に係る同意書の備置き | みなされた日から10年間 | 会社法第319条第2項 |
| 決議の取消しの訴え | 決議の日から3か月以内 | 会社法第831条第1項 |
| 決議の不存在又は無効の確認の訴え | 期間の制限はありません | 会社法第830条第1項・第2項 |
会社の側でご準備いただきたい資料
- 争われている株主総会の議事録の原本
- 招集の通知の控え及び発送の記録
- 委任状、議決権行使書面、出席票
- 書面による決議に係る同意書
- 当該決議に基づいて行われた登記の申請書及び添付書面の控え
- 当時の会計の記録、税務の申告書、金融機関に提出した資料
- 株主名簿及びその改訂の履歴
弁護士にご相談いただく意味
この類型の紛争は、10年、20年前の事実が問題となることが少なくありません。当時の担当者が既に退職している、資料が散逸している、記憶が曖昧であるという状況の中で、決議の存在を裏付けなければならないという難しさがあります。
会社の側にとって重要なのは、資料を「探す」だけでなく、どの資料が何を裏付けるかという設計を先に行うことです。手当たり次第に資料を提出すれば、かえって不利な事実が明らかになることもあります。また、株主の主張が決議の不存在の確認なのか取消しなのかによって、争点も期間の制限も異なりますので、主張の法的な性質を正確に把握することが出発点となります。当事務所は、会社の側のお立場でこの類型の案件を取り扱っております。
よくあるご質問
質問1 議事録はありますが、実際には総会を開いていませんでした。
株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしていた場合には、決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。同意書が保存されていれば、これを示すことになります。同意がない場合には、決議の不存在が問題となり得ますので、当時の経過を精査した上で方針を検討する必要があります。
質問2 20年前の決議について争われております。時効はありませんか。
決議の不存在の確認の訴え及び無効の確認の訴えには、提訴期間の制限が設けられておりません(会社法第830条)。他方、決議の取消しの訴えは決議の日から3か月以内に提起する必要があります(会社法第831条第1項)。争われている主張がどちらに当たるかを見極めることが重要です。
質問3 招集の通知を出していない株主がおります。
株主全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく株主総会を開催することができます(会社法第300条本文)。同意がない場合、招集の通知を欠くことは招集の手続の法令違反として決議の取消しの事由となり得ます。もっとも、違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないと認められるときは、請求が棄却されることがあります(会社法第831条第2項)。
質問4 議事録の閲覧の請求を拒むことはできますか。
株主総会の議事録の閲覧又は謄写の請求について、会社法第318条第4項は拒絶の事由を定めておりません。会計帳簿の閲覧等の請求(会社法第433条第2項)とは制度が異なります。理由なく拒むことはお勧めできません。
質問5 議事録に押印がありません。効力に影響しますか。
株主総会の議事録については、出席者の署名又は記名押印を要する旨の定めは会社法に置かれておりません。この点は、取締役会の議事録(会社法第369条第3項)とは異なります。押印がないことのみをもって決議の存在が否定されるものではありませんが、証拠としての価値には影響し得ます。
本記事の根拠条文
会社法
- 第299条第1項(招集の通知)
- 第300条(招集手続の省略)
- 第310条第1項(議決権の代理行使)
- 第318条第1項から第5項まで(株主総会の議事録の作成、備置き、閲覧等)
- 第319条第1項・第2項(株主総会の決議の省略及び同意書の備置き)
- 第369条第3項・第5項(取締役会の議事録の署名等、賛成の推定)
- 第433条第2項(会計帳簿の閲覧等の請求の拒絶事由)
- 第830条第1項・第2項(決議の不存在又は無効の確認の訴え)
- 第831条第1項・第2項(決議の取消しの訴え、裁量による棄却)
- 第976条(過料に処すべき行為)
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、過去の株主総会の議事録の記載を株主から争われた会社の側からのご相談をお受けしております。主張の法的な性質の見極め、周辺の資料の収集と整理、決議の不存在の確認の訴え及び取消しの訴えへの応訴まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。
詳しくは、議事録の内容を争われた会社の方に向けたご案内のページ(/gijiroku_hanron/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
ご相談の際に、争われている議事録の原本、招集の通知の控え、書面による決議に係る同意書、当該決議に基づく登記の申請の控え、株主名簿をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。
本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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