株主総会の招集の請求が要件を満たしていない場合の会社の対応

株主から株主総会の招集を請求する書面が届いたものの、記載された持株数や招集の目的である事項が会社法上の要件を満たしていないと思われる場合、会社はどのように対応すればよいかが問題となります。要件を満たしていない請求に安易に応じる必要はありませんが、対応を誤りますと、後の紛争を招くおそれもあります。

これらの場合に、会社が形式のみを理由として権利の行使を拒むことは、後に紛争を拡大させる要因ともなります。特に、一般承継人による名義書換の請求に会社が応じないまま権利の行使を拒むという対応は、正当な取扱いといえるかが問題となり得ます。

 持株の要件を満たしているか

第2の視点は、総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の議決権を有しているかという点です(会社法第297条第1項)。

計算に当たっての留意点は次のとおりです。

  • 自己株式については議決権がありません(会社法第308条第2項)ので、分母から除きます。
  • 単元株式数の定めがある場合には、単元未満株式には議決権がありません(会社法第189条第1項)。
  • 相互保有株式については議決権が制限されることがあります(会社法第308条第1項括弧書)。
  • 複数の株主が共同して請求をした場合には、合算した議決権により判断いたします。
  • 公開会社でない株式会社においては、6か月の保有期間の要件は適用されません(会社法第297条第2項)。

会社の側でしばしば見受けられるのは、自己株式を分母に含めたまま計算して要件を満たさないと判断してしまうという誤りです。この誤りは、株主に有利な方向にも不利な方向にも働き得ます。

 目的である事項及び理由が示されているか

第3の視点は、株主総会の目的である事項及び招集の理由が示されているかという点です(会社法第297条第1項)。

目的である事項とは、株主総会において決議し、又は報告する事項、すなわち議題を指します。「取締役○○の解任の件」「剰余金の配当の件」といった記載であれば、議題として特定されているといえます。他方、「会社の経営について協議する件」といった記載は、決議の対象を特定しているといえるかが問題となります。

招集の理由については、株主が総会の開催を求める事情を示すものですが、その詳細さの程度について条文は定めておりません。理由の記載が全くない場合には要件を欠くと考えられますが、簡略であることのみをもって直ちに要件を欠くとまでいえるかは、慎重な検討を要します。

 議題が決議し得る事項であるか

第4の視点は、請求された議題が株主総会において決議し得る事項であるかという点です。

取締役会設置会社においては、株主総会は、会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができます(会社法第295条第2項)。したがって、取締役会の権限に属する業務執行の決定に係る事項を議題とする請求については、その取扱いを検討する必要があります。

また、法令又は定款に違反する内容の議案、実現し得ない内容の議案についても、同様の検討が必要です。

会社が採り得る対応

対応 内容 留意点
補正を求める 期間を定めて記載の補正を求めます 補正を求めたこと自体が、会社が誠実に対応した事実として残ります
資料の提出を求める 株主としての地位を証する資料の提出を求めます 過剰な資料の要求は、引き延ばしと評価される可能性があります
一部について応じる 要件を満たす議題についてのみ招集いたします 応じない部分の理由を明示いたします
応じない旨を回答する 理由を明示して書面で回答いたします 裁判所の許可の手続における会社の主張の基礎となります
応じた上で議事において対応する 要件の当否を争わず、総会において審議いたします 手続の主導権を保つことができます

要件に疑義がある場合であっても、会社が招集して主導権を保つという判断は十分に合理的です。要件の充足を争うことと、株主の主張を実質的に受け入れることとは、別の事柄です。

具体的にどの対応を選ぶかは、株主構成、請求された議題の内容、他に係属している紛争の有無、会社の日程等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

回答書を作成する際の要点

 事実と評価を分けて記載いたします

回答書には、会社が確認した事実(株主名簿の記載、議決権の数、請求書の記載内容)と、それに基づく会社の判断とを、区別して記載いたします。感情的な表現や、株主の人格に関する言及は避けます。

 根拠を明示いたします

会社法第297条第1項のどの要件を欠くと考えるのかを、条文に即して明示いたします。「請求には応じられません」とのみ記載された回答書は、裁判所の許可の手続において会社の主張を裏付ける資料としての価値が乏しくなります。

 補正の余地を示すかどうかを検討いたします

記載の不備が形式的なものである場合、補正を求める旨を記載することが考えられます。他方、持株の要件を欠く場合のように、補正によって是正し得ない事由である場合には、その旨を明確にいたします。

 到達を確認し得る方法で送付いたします

回答書は、内容証明郵便その他到達を確認し得る方法で送付いたします。会社が回答した日付は、「請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合」(会社法第297条第4項第1号)に該当するかどうかの判断にも影響し得ます。

裁判所の許可の手続において会社が述べ得ること

株主が裁判所の許可を求める申立てをした場合、この手続は非訟事件として審理されます。会社法は、この種の申立てに係る事件について、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する旨を定めております(会社法第868条第1項)。

会社の側としては、次のような点を述べることが考えられます。

  • 請求をした者が株主としての権利を行使し得る地位にないこと
  • 持株の要件を満たしていないこと
  • 目的である事項が特定されていないこと
  • 請求の後遅滞なく招集の手続に着手していること、又は既に招集の通知を発していること
  • 請求された議題が株主総会において決議し得る事項でないこと

なお、会社が既に招集の手続を執っている場合には、株主が許可を求める前提を欠くことになります。会社の側が対応を進めていること自体が、有力な主張となります。

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限 根拠条文
請求の後の招集の手続への着手 遅滞なく 会社法第297条第4項第1号
招集の通知に係る会日 請求があった日から8週間以内 会社法第297条第4項第2号
招集の通知の発送 公開会社は2週間前、公開会社でない会社は1週間前 会社法第299条第1項
決議の取消しの訴え 決議の日から3か月以内 会社法第831条第1項

 会社の側でご準備いただきたい資料

  • 株主から届いた請求の書面及びその封筒
  • 現に効力を有する定款(招集の請求に関する定めの有無を確認いたします)
  • 株主名簿(自己株式の数を含みます)
  • 議決権の数の計算の根拠となる資料
  • 株式の取得の経緯に関する資料(譲渡承認の記録、相続に関する書面等)
  • 過去の株主総会の招集の通知及び議事録

弁護士にご相談いただく意味

要件を満たしていないという判断は、会社にとって最も採りやすい判断であると同時に、最も危険な判断でもあります。判断が誤っていた場合、株主は裁判所の許可を得て自ら総会を招集することができ、その時点で会社は手続の主導権を失います。加えて、会社が不当に請求を拒んだという事実が、その後の紛争において不利に働くことがあります。

他方、要件を満たしていない請求に無条件に応じることは、株主の側の請求の基準を実質的に引き下げることにもなります。会社としては、要件の充足を精査した上で、応じるか応じないかにかかわらず、その判断の過程を記録として残しておくことが要点です。当事務所は、会社の側のお立場で、この判断と記録の設計をご一緒に行っております。

よくあるご質問

質問1 株主名簿に記載のない相続人からの請求です。応じる必要はありますか。

相続その他の一般承継により株式を取得した者は、株主名簿上の株主又はその一般承継人と共同することなく、単独で株主名簿記載事項の記載又は記録を請求することができるとされております(会社法第133条第2項及びこれに関する法務省令)。名義書換が未了であることのみを理由として一律に請求を拒む取扱いは、慎重な検討を要します。

質問2 理由の記載が「経営に問題があるため」の一行だけです。

招集の理由の記載の程度について、条文は具体的な定めを置いておりません。記載が全くない場合には要件を欠くと考えられますが、簡略であることのみをもって直ちに要件を欠くとまでいえるかは、議題の内容との関係で検討する必要があります。補正を求めることが穏当な場合が多いところです。

質問3 請求をした株主が競業者です。それを理由に拒めますか。

株主総会の招集の請求について、会社法第297条は、競業関係にあることを拒絶の事由として定めておりません。これに対し、会計帳簿の閲覧等の請求については、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営むこと等が拒絶の事由として定められております(会社法第433条第2項第3号)。制度ごとに要件が異なりますので、混同しないよう留意が必要です。

質問4 いったん応じない旨を回答した後で、応じることはできますか。

できます。回答の後に、改めて招集の手続を執ることは妨げられません。ただし、「請求の後遅滞なく」(会社法第297条第4項第1号)といえるかについては、経過した期間が考慮され得ます。

質問5 要件を欠く請求に応じた場合、決議の効力に影響しますか。

会社が任意に株主総会を招集すること自体は妨げられません。招集の決定及び通知の手続が会社法の定めに従って行われている限り、株主からの請求の要件の充足の有無が直ちに決議の効力に影響するものではないと考えられます。もっとも、招集の手続に別の瑕疵がある場合には、決議の取消しの訴えの対象となり得ます(会社法第831条第1項第1号)。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第106条(共有者による権利の行使)
  • 第107条第1項第1号(譲渡制限株式)
  • 第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)
  • 第131条第1項(株券の占有者の権利の推定)
  • 第133条第2項(株主名簿記載事項の記載等の請求)
  • 第136条以下(譲渡等承認請求)
  • 第189条第1項(単元未満株式の議決権)
  • 第295条第2項(取締役会設置会社における株主総会の権限)
  • 第297条第1項・第2項・第4項(株主による株主総会の招集の請求)
  • 第299条第1項(招集の通知)
  • 第308条第1項・第2項(議決権の数)
  • 第433条第2項第3号(会計帳簿の閲覧等の請求の拒絶事由)
  • 第831条第1項第1号(決議の取消しの訴え)
  • 第868条第1項(非訟事件の管轄)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、少数株主から届いた株主総会の招集の請求について、要件の充足を検討し、回答書を作成する段階からご相談をお受けしております。株主としての地位の確認、議決権の数の精査、回答書の作成、裁判所の許可の手続における会社の意見の陳述まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、少数株主から株主総会の招集を請求された会社の方に向けたご案内のページ(/soukai_shoushuu_seikyu_taiou/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします

ご相談の際に、株主から届いた請求の書面とその封筒、現に効力を有する定款、株主名簿、株式の取得の経緯が分かる資料をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

請求を受けた会社が管理すべき期限と、応じない場合の帰結

株主総会の招集の請求を受けた会社が最も注意すべきは、社内の検討に時間を要している間に、株主が裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集し得る状態に至ることです。この状態に至りますと、議長、議事の運営、議事録の作成といった、会社が本来有していた主導権が失われます。

局面 会社側が行うこと 行わなかった場合に生じること
請求書の受領 到達の日を記録し、封筒を保存いたします 起算点を争えなくなります
要件の審査 請求者が株主であること、議決権の数と割合、保有の期間、定款の定めを確認いたします 要件を満たさない請求に応じ、又は要件を満たす請求を拒絶するという誤りが生じます
招集の手続 招集の通知を発し、議題を株主総会の目的として記載いたします 株主が裁判所の許可を得て自ら招集し得る状態となります
議案の準備 取締役会の意見、想定される質問への回答を準備いたします 当日の議事運営が混乱いたします
議事録の作成 決議の内容と経過を正確に記録いたします 決議の効力を争われた場合の立証が困難となります

裁判所の許可による招集となった場合の不利益

株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集した場合、招集の手続は当該株主が行い、議長についても定款の定めに従うことになりますが、議事の進行の主導権は事実上失われます。また、裁判所の許可がされたという事実は、会社が正当な理由なく請求に応じなかったことの一応の徴表として、後の手続において援用される可能性がございます。

招集に応じることと、議案に賛成することとは別です

会社が招集の請求に応じることは、株主の提案する議案に賛成することを意味いたしません。取締役会は、議案に対する意見を表明することができます。招集に応じたうえで、議案について反対の意見を述べ、株主に判断を求めるという対応は、会社にとって不利益なものではありません。請求に応じるかどうかと、議案の当否とを混同しないことが重要です。

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