株主総会の定足数を満たすことができない場合の対応

創業から数十年が経過し、株主名簿に記載された株主のうち相当数と連絡が取れません。相続が繰り返され、誰が権利を行使し得るのか分からない株式もあります。対立する株主が意図的に欠席いたします。このような事情から、株主総会を招集しても定足数を満たすことができず、必要な決議ができないという会社があります。

先に結論を申し上げます。定足数を満たせない状態への対応は、原因ごとに異なります。定款の定めにより定足数を軽減又は排除し得る場合があり、所在が不明な株主については会社法に手当てが置かれており、相続により準共有となっている株式については権利行使者に関する規律があります。そして、株主全員の同意が得られる事項については、株主総会そのものを開かずに決議があったものとみなす制度もあります。本記事では、これらを整理し、どの手段が使えるかを判断するための視点をお示しいたします。

定足数の規律を正確に把握いたします

 普通決議

株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行うこととされております(会社法第309条第1項)。

ここで重要なのは「定款に別段の定めがある場合を除き」という文言です。すなわち、普通決議の定足数は、定款によって軽減し、又は排除することができます。多くの会社の定款には、「株主総会の決議は、法令又は定款に別段の定めがある場合を除き、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う」といった定めが置かれており、実質的に定足数が排除されております。

 役員の選任及び解任の決議

役員の選任及び解任の決議については、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行わなければならないとされております(会社法第341条)。

すなわち、役員の選任及び解任については、定款によっても定足数を3分の1未満に引き下げることができません。この点が、普通決議一般との大きな違いです。定款に「定足数を要しない」旨の定めがあっても、役員の選任及び解任にはこの定めが及ばないと解されます。

 特別決議

特別決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上に当たる多数をもって行うこととされております(会社法第309条第2項)。

定足数は定款により3分の1まで軽減することができますが、それ未満とすることはできません。

 整理

決議の種類 法定の定足数 定款による軽減 根拠条文
普通決議(一般) 議決権の過半数 排除も可能です 会社法第309条第1項
役員の選任及び解任 議決権の過半数 3分の1まで 会社法第341条
特別決議 議決権の過半数 3分の1まで 会社法第309条第2項
会社法第309条第4項の決議 総株主の半数以上 加重のみ 会社法第309条第4項

原因ごとの対応

 所在が不明な株主がいる場合

会社が株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達しない場合には、会社は、当該株主に対する通知又は催告をすることを要しないとされております(会社法第196条第1項)。この場合、当該株主に対して招集の通知を発する必要がなくなります。

もっとも、通知を要しないこととなっても、その株主が議決権を失うわけではありません。定足数の計算においては、なお議決権を行使することができる株主として扱われるのが原則です。したがって、この規定のみでは定足数の問題は解決いたしません。

これに対し、会社法第197条第1項は、株主に対する通知又は催告が5年以上継続して到達せず、かつ、当該株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったときは、会社は当該株主の有する株式を競売し、その代金を当該株主に交付することができる旨を定めております。競売に代えて、市場価格のない株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却することもでき(同条第2項)、会社が買い取ることもできます(同条第3項)。

この手続を経ることにより、所在が不明な株主の株式を整理することが可能となります。ただし、5年という要件、公告及び通知の手続(会社法第198条)を要しますので、相応の期間を見込む必要があります。

 相続により準共有となっている場合

株式が2人以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条本文)。ただし、会社が当該権利の行使に同意した場合は、この限りでないとされております(同条ただし書)。

権利行使者の指定がされない限り、当該株式については議決権を行使することができません。この場合、定足数の計算においてどのように扱うかが問題となりますが、議決権を行使することができない株式として扱われるかについては議論があります。

会社としては、相続人に対して権利行使者の指定及び通知を促すこと、遺産分割の進捗を確認することが、実務上の対応となります。

 対立する株主が欠席する場合

在籍しており連絡も取れる株主が、意図的に欠席することにより定足数を満たせないという場合があります。この場合、所在不明株主に関する制度は使えません。

対応としては、定款による定足数の軽減又は排除を検討することになります。もっとも、定款の変更自体が特別決議を要しますので(会社法第466条、第309条第2項第11号)、定足数を満たせない状態では定款の変更もできないという循環に陥ります。

このような場合には、議決権を有する株式を集約すること、株主との協議により出席を得ることを検討せざるを得ません。具体的な進め方は、株主構成、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

 自己株式を保有している場合

会社が有する自己株式については、議決権を有しません(会社法第308条第2項)。したがって、自己株式は定足数の計算における分母から除かれます。自己株式の割合が高い会社では、この点を正確に計算することにより、定足数を満たし得る場合があります。

株主総会の決議の省略

取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限ります)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。

この制度は、定足数の問題を回避する有力な手段です。もっとも、「全員」の同意を要しますので、所在が不明な株主がいる場合や、対立する株主がいる場合には用いることができません。株主の数が少なく、全員の協力が得られる会社において有効な方法です。

同意の意思表示に係る書面等は、決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置くこととされております(会社法第319条第2項)。

また、株主全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく株主総会を開催することができます(会社法第300条本文。書面による議決権の行使等を定めた場合を除きます)。

解決の順序

段階 検討事項
第1 現に効力を有する定款における定足数の定めを確認いたします
第2 議決権を有する株式の数を正確に計算いたします(自己株式、単元未満株式、準共有の株式を整理いたします)
第3 決議しようとする事項が役員の選任若しくは解任又は特別決議事項に当たるかを確認いたします
第4 株主全員の同意により決議の省略が可能かを検討いたします
第5 所在が不明な株主について、会社法第197条の手続の要件を満たすかを確認いたします
第6 準共有の株式について、権利行使者の指定を促します
第7 以上によっても解決しない場合、株式の集約その他の方策を検討いたします

この状態を放置した場合の影響

 役員の任期の満了

取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされております(会社法第332条第1項)。公開会社でない株式会社においては、定款により、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます(同条第2項)。

定足数を満たせないために役員を選任できない状態が続きますと、任期の満了により役員が退任し、権利義務を有する役員の問題(会社法第346条第1項)が生じます。

 計算書類の承認

株式会社は、各事業年度に係る計算書類及び事業報告について、定時株主総会の承認を受けなければならないのが原則です(会社法第438条第2項)。会計監査人設置会社における特則(会社法第439条)がありますが、多くの同族会社には適用がありません。承認ができない状態は、決算の確定に影響いたします。

 定時株主総会の開催義務

定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないとされております(会社法第296条第1項)。開催しないこと自体が、法令上の義務の不履行となります。

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限又は要件 根拠条文
通知又は催告を要しないこととなる期間 5年以上継続して到達しないこと 会社法第196条第1項
所在不明株主の株式の競売等 5年以上の不到達かつ5年間の配当の不受領 会社法第197条第1項
決議の省略に係る同意書の備置き みなされた日から10年間 会社法第319条第2項
取締役の任期 原則2年、公開会社でない会社は定款により10年まで 会社法第332条第1項・第2項
決議の取消しの訴え 決議の日から3か月以内 会社法第831条第1項

 会社の側でご準備いただきたい資料

  • 現に効力を有する定款(定足数に関する定めを確認いたします)
  • 株主名簿(自己株式の数を含みます)
  • 過去5年分の招集の通知の発送及び返戻の記録
  • 剰余金の配当の支払の記録
  • 相続が生じた株主に関する資料
  • 過去の株主総会の議事録

弁護士にご相談いただく意味

定足数の問題は、計算を誤ることによって生じている場合が少なくありません。自己株式を分母に含めている、単元未満株式を議決権のある株式として数えている、準共有の株式の扱いを誤っているといった例です。まず正確に計算し直すことにより、実は定足数を満たしているという結論に至ることがあります。

他方、真に定足数を満たせない場合には、所在不明株主に関する手続、株式の集約、定款の変更といった方策を、順序立てて進める必要があります。これらは相互に関連しており、どこから着手するかによって所要の期間が大きく変わります。当事務所は、会社の側のお立場で、この設計と手続の実行をご一緒に行っております。

よくあるご質問

質問1 定款で定足数を排除していれば、何人出席しなくても決議できますか。

普通決議については、定款により定足数を排除することができます(会社法第309条第1項)。もっとも、役員の選任及び解任の決議については、定款によっても3分の1未満に引き下げることができません(会社法第341条)。特別決議についても3分の1が下限です(会社法第309条第2項)。

質問2 連絡の取れない株主がいます。招集の通知を出さなくてよいですか。

会社が株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達しない場合には、通知又は催告をすることを要しないとされております(会社法第196条第1項)。ただし、この要件を満たさない段階で通知を省略することは、招集の手続の瑕疵となり得ます。

質問3 所在不明株主の株式を会社が買い取ることはできますか。

会社法第197条第1項の要件を満たす場合、会社は当該株式を競売することができ、市場価格のない株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却することができ(同条第2項)、この場合において会社が買い取ることもできます(同条第3項)。公告及び通知の手続を要します(会社法第198条)。

質問4 相続人が複数いる株式について、議決権は誰が行使しますか。

株式が2人以上の者の共有に属するときは、共有者は権利を行使する者1人を定め、会社に通知しなければ権利を行使することができません(会社法第106条本文)。ただし、会社が同意した場合はこの限りでないとされております(同条ただし書)。

質問5 株主総会を開かずに決議したことにできますか。

議決権を行使することができる株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。全員の同意が要件ですので、所在が不明な株主や反対する株主がいる場合には用いることができません。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第106条(共有者による権利の行使)
  • 第196条第1項(通知又は催告を要しない場合)
  • 第197条第1項から第3項まで、第198条(所在が不明な株主の株式の競売等)
  • 第296条第1項(定時株主総会)
  • 第300条(招集手続の省略)
  • 第308条第2項(自己株式の議決権)
  • 第309条第1項・第2項・第4項(決議の要件)
  • 第319条第1項・第2項(株主総会の決議の省略及び同意書の備置き)
  • 第332条第1項・第2項(取締役の任期)
  • 第341条(役員の選任及び解任の決議の定足数)
  • 第346条第1項(役員の権利義務を有する者)
  • 第438条第2項、第439条(計算書類の承認)
  • 第466条(定款の変更)
  • 第831条第1項(決議の取消しの訴え)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、株主総会の定足数を満たすことができない会社からのご相談をお受けしております。定款の点検、議決権の数の再計算、所在が不明な株主に関する手続、準共有の株式への対応、株式の集約まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、取締役会や株主総会が開けずお困りの方に向けたご案内のページ(/kikan_mahi/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします

ご相談の際に、現に効力を有する定款、株主名簿、過去の招集の通知の発送及び返戻の記録、配当の支払の記録、過去の株主総会の議事録をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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