少数株主から株主提案を受けた会社は拒否できるか

株主から、株主総会の議題とすることを求める提案書が届くことがあります。会社としては、提案の内容によっては受け入れ難い場合もあり、拒否することができるかどうかが問題となります。株主提案には複数の類型があり、その類型によって、会社が確認すべき要件や対応すべき時期が異なります。
いずれの類型であるかによって、要件も、会社が対応すべき時期も異なります。提案書の表題ではなく、記載された請求の趣旨によって判断してください。
なぜこの制度が置かれているか
株式会社においては、経営の意思決定は取締役及び取締役会に委ねられ、株主総会は法令及び定款に定められた事項について決議を行います。株主提案権は、株主が株主総会の議題及び議案の形成に関与する機会を確保するために設けられた制度です。
したがって、会社が内容に反対であることは、それ自体では取り上げない理由になりません。反対であれば、取締役会としての反対の意見を述べたうえで、株主総会の決議に委ねるという対応が原則となります。
会社側から見た意味
少数株主による株主提案は、単独で行われることは多くありません。会計帳簿閲覧謄写請求、株主総会招集請求、取締役の解任の請求、株式の買取りの要求といった他の権利行使と前後して行われることが少なくありません。
したがって、提案書1通への対応としてではなく、一連の権利行使の一場面として位置付けたうえで、会社としての方針を整理する必要があります。
要件と論点
提案をした株主の要件
株主提案権の行使については、保有する議決権の割合又は数と、保有の期間について要件が定められています。会社が公開会社であるかどうか、取締役会を設置しているかどうかによって、要件の内容が異なります。
具体的な割合及び期間については、会社の機関設計と定款の定めを確認したうえで判断する必要があります。定款によって要件が緩和されている場合もあります。
提案の時期
株主提案には、株主総会の日から遡って所定の期間より前に行うことが求められています。この期間についても定款による別段の定めが置かれる場合があります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。
会社の側で注意を要するのは、期間の起算点となる株主総会の日が、その時点で確定しているかどうかです。招集の決定が未了である場合には、期間の計算そのものが後から争われることがあります。
提案の内容が株主総会の決議事項に属するか
表2 提案の内容による分類
| 提案の内容 | 会社側の整理 |
|---|---|
| 定款の変更、役員の選任及び解任、剰余金の配当その他株主総会の決議事項 | 原則として取り上げる方向で検討します |
| 業務の執行の具体的な方法など、取締役又は取締役会の権限に属する事項 | 株主総会の決議事項に属するかどうかを検討します |
| 法令に違反する内容を含むもの | 取り上げない理由となり得ます |
| 定款に違反する内容を含むもの | 定款の変更の提案と併せてされているかを確認します |
取締役会設置会社においては、株主総会は法令及び定款に定められた事項に限って決議を行うことができるとされています。したがって、提案された事項が株主総会の権限に属するかどうかは、会社側が最初に検討すべき論点です。
取り上げないことが問題となり得る類型
法令又は定款に違反する場合のほか、実質的に同一の議案について過去の株主総会において一定の割合に満たない賛成しか得られず、かつ所定の期間を経ていない場合には、これを取り上げないことができるとする定めが置かれています。この割合及び期間については、正確な確認を要します。
また、1人の株主が提出することのできる議案の数についても制限が設けられています。制限を超える部分の取扱いは、提案の内容によって判断が分かれ得ます。
権利の濫用が問題となる場合
提案の目的が会社又は他の株主に損害を与えることにある場合、あるいは会社の業務の遂行を著しく妨げることにある場合には、権利の濫用として取り上げないことができるかが問題となります。
もっとも、この判断は事案ごとの評価によるものであり、会社が濫用であると考えたというだけでは足りません。取り上げない場合には、その理由を説明できるだけの記録が必要となります。安易に濫用と評価して取り上げないという判断は、後日の決議の効力に影響し得ます。
会社側の実務
表3 株主提案を受けた場合の手順
| 順序 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 提案書の到達の日を確認し、記録します |
| 第2 | 請求の趣旨を読み、議題の提案、議案の提出、議案の要領の通知請求のいずれであるかを分類します |
| 第3 | 株主名簿により、提案をした株主の議決権の数と保有の期間を確認します |
| 第4 | 定款と登記事項証明書により、機関設計と別段の定めの有無を確認します |
| 第5 | 提案の時期が所定の期間内であるかを確認します。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします |
| 第6 | 提案の内容が株主総会の決議事項に属するかを検討します |
| 第7 | 取り上げる場合の招集通知の記載、取り上げない場合の理由の整理を行います |
| 第8 | 取締役会において方針を決定し、議事録に残します |
到達の日の記録を最初に行ってください
期間の計算は、提案書が会社に到達した日を基準として行われます。封筒、受領の記録、電子的な手段による場合はその受信の記録を保存してください。
株主名簿の記載を確認します
提案をした者が株主名簿に記載された株主であるか、その議決権の数がいくつであるかを確認します。名義書換が未了である場合、共同相続により権利行使者の指定がされていない場合には、そもそも権利行使の適格が問題となります。
取り上げないという判断には理由の記録が必要です
取り上げないという判断をする場合、その理由を取締役会の議事録その他の記録に残してください。後日、招集手続又は決議の方法の適法性が争われた場合、判断の過程が問われます。
回答は窓口を一本化して行ってください
提案をした株主に対する回答は、担当者ごとに異なる内容とならないよう、窓口を一本化してください。口頭でのやり取りは、内容を記録に残してください。
他の権利行使との関係を整理します
同一の株主から、会計帳簿閲覧謄写請求、株主総会招集請求その他の請求が並行して行われている場合には、それぞれの期限と対応方針を一覧にして管理してください。
関連する手続
株主提案が取り上げられなかった場合、提案をした株主が株主総会の招集を請求し、又は裁判所の許可を得て自ら招集するという展開があり得ます。また、株主提案の取扱いに問題があったとして、株主総会の決議の効力が争われることもあります。
さらに、提案の準備として会計帳簿閲覧謄写請求が行われる場合、提案の対象として取締役の解任が挙げられる場合には、それぞれ別の手続への対応が必要となります。
弁護士に相談する意味
株主提案への対応において会社側が誤りやすいのは、内容の当否から検討を始めてしまう点です。検討の順序は、要件の確認、権限の確認、内容の当否の順です。
要件の判断には、機関設計、定款の定め、株主名簿の記載、期間の計算が関係します。いずれか1つを誤ると、招集通知の記載又は総会の運営に影響します。
取り上げないという判断をする場合には、その理由を法的に構成し、記録として残す必要があります。この作業は、株主総会の場における議長の議事運営とも連動します。
また、株主提案は、多くの場合、より大きな紛争の一場面として現れます。提案そのものへの対応と併せて、株主構成をどのように整えるかという方針の検討が必要となります。
なお、株主総会における具体的な議事運営の組立て、想定される質疑への準備の方法は、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 内容が経営の妨げになるので、取り上げたくありません。可能ですか。
内容に賛成できないというだけでは、取り上げない理由にはなりません。まず要件と権限を確認し、それでも取り上げない方針を採る場合には、その法的な理由を整理する必要があります。
質問2 提案書が総会の直前に届きました。どうすればよいですか。
提案には期間の定めがあります。到達の日を記録したうえで、期間内の提案であるかを確認してください。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。
質問3 取締役会の反対意見を招集通知に記載できますか。
会社としての意見を示すことは一般に行われています。記載の方法と分量については、事案に応じた検討が必要です。
質問4 株主名簿に記載のない相続人から提案がありました。
権利行使の適格が問題となります。共同相続の場合には権利行使者の指定と通知の有無を確認してください。
質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。
受領した提案書の原本又は写し、封筒、定款、登記事項証明書、株主名簿、直近の株主総会の議事録、当該株主との従前のやり取りが分かる資料をご持参ください。
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