裁判所の許可を得て招集された株主総会への会社の備え

株主総会の招集の請求に会社が応じなかったところ、株主が裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集いたしました。招集の通知が株主のもとから発せられ、日時も場所も会社の関与しないところで決められております。取締役の解任や役員報酬の減額が議題に挙がっております。会社としては、どのように臨めばよいのでしょうか。
先に結論を申し上げます。裁判所の許可を得て株主が招集した株主総会も、会社の株主総会です。そこで成立した決議は、会社の意思決定として効力を有し得ます。したがって、会社が欠席することによって決議を防ぐことはできませんし、むしろ、説明義務との関係でも、決議の成否との関係でも、不利益を招くことが多いところです。会社の側は、この総会を会社の総会として位置付け、出席し、記録を残し、必要があれば決議の効力を争うという流れで備えることになります。本記事では、その備えを整理いたします。
どのような場合に株主による招集が可能となるか
株主が招集の請求をした場合において、請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は請求があった日から8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)以内の日を会日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合には、請求をした株主は、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができます(会社法第297条第4項)。
裁判所は、この許可の申立てについて、会社法第297条第1項の要件が満たされているか、同条第4項各号の事由があるかを審査いたします。この手続は非訟事件として審理され、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属します(会社法第868条第1項)。
許可がされますと、招集の権限は当該株主に帰属いたします。株主は、招集の通知の発送、会場の確保、議事の準備を自ら行うことになります。
会社の側の備え
議長を誰が務めるかを確認いたします
定款には、株主総会の議長は代表取締役が務める旨の定めが置かれていることが多いところです。もっとも、株主が裁判所の許可を得て招集した株主総会において、この定款の定めがそのまま適用されるかについては、議論があります。会社の側で招集の手続を執らなかった結果として開かれる総会について、会社の代表者が議長として議事を主宰することが制度の趣旨に沿うかという問題が生じるためです。
実務上は、当日の冒頭に、株主総会において議長を選任する旨の動議が提出されることがあります。会社の側としては、定款の定めの内容を正確に把握した上で、当日の議事の展開を想定しておく必要があります。
役員は出席することが原則です
取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならないとされております(会社法第314条)。欠席した場合、この説明義務との関係が問題となり得ます。
また、欠席は決議の成否に直接の影響を及ぼします。役員が株主である場合、その議決権が行使されなければ、議案が可決される可能性が高まります。会社の側にとって不利な議案が付議されている場合には、出席して議決権を行使することが基本となります。
株主名簿の取扱い
招集をする株主は、招集の通知を発するために株主の氏名及び住所を知る必要があります。株主は、会社の営業時間内はいつでも、請求の理由を明らかにして、株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)。会社は、一定の事由があるときはこれを拒むことができるとされておりますが(同条第3項)、裁判所の許可を得て招集をするための請求について、拒絶の事由があるといえるかは慎重な検討を要します。
会社が株主名簿の提供を不当に拒んだ場合、招集の通知が一部の株主に到達しないという事態が生じ、かえって決議の瑕疵をめぐる紛争を複雑にすることがあります。
総会検査役の選任を検討いたします
株式会社又は総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができます(会社法第306条第1項)。
会社の側から申し立てることも可能です。検査役が選任されますと、招集の手続及び決議の方法について客観的な調査の結果が裁判所に報告されますので、後に決議の効力を争う場合の資料となります。紛争が激しく、当日の混乱が予想される場面では、検討に値する手段です。
当日の記録
議事録の作成は、会社の義務です(会社法第318条第1項)。株主が招集した総会であっても、会社の株主総会である以上、議事録の作成及び備置きの義務は会社にあると考えられます。もっとも、会社の側が議事を把握していない場合には、正確な議事録の作成が困難となります。
会社の側としては、出席者の氏名、議決権の数、動議の内容、質疑の要旨、採決の方法及び結果を、当日その場で記録しておくことになります。録音の可否については、議事の秩序の維持との関係で議長の判断に委ねられる部分がありますので、当日の対応を事前に整理しておく必要があります。
議題ごとの想定
| 想定される議題 | 会社の側の検討事項 |
|---|---|
| 取締役の解任 | 定足数(会社法第341条)、決議が成立した場合の解任の効力と損害賠償(会社法第339条第2項) |
| 取締役の選任 | 現在の取締役の員数、定款所定の員数、新任者の適格性 |
| 役員報酬の減額 | 既に具体的に定まった報酬の減額の可否(会社法第361条第1項) |
| 剰余金の配当 | 分配可能額(会社法第461条第1項)、財源規制違反の帰結 |
| 定款の変更 | 特別決議の要件(会社法第309条第2項第11号) |
| 会計帳簿等に関する事項 | 株主総会の決議事項として適切かどうか |
| 取締役の責任の追及に関する事項 | 責任の免除には要件があります(会社法第424条から第426条まで) |
議題によっては、可決されても直ちに効力を生じないもの、他の手続を経なければ実行し得ないものがあります。会社の側としては、可決された場合に何が起こるかを議題ごとに整理しておくことが有用です。
具体的な当日の対応の順序及び方法は、株主構成、議題の内容、他に係属している紛争の有無等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
決議が成立した場合の対応
登記が必要となる場合
役員の解任又は選任の決議が成立した場合、登記の申請が必要となります。登記の申請は会社が行うものですので、会社が申請をしない場合には、株主の側から会社に対して登記手続を求める訴え等が提起されることがあります。
決議の効力を争う手続
株主総会の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき、決議の内容が定款に違反するとき、特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたときは、株主等は、決議の日から3か月以内に、決議の取消しの訴えを提起することができます(会社法第831条第1項)。
決議の内容が法令に違反する場合には、決議の無効の確認の訴えを、決議が存在しない場合には、決議の不存在の確認の訴えを提起し得ます(会社法第830条第1項、第2項)。これらの訴えには、決議の取消しの訴えのような提訴期間の制限は設けられておりません。
争い得る瑕疵として実務上問題となりやすいのは、次のような点です。
- 招集の通知が一部の株主に発せられていないこと(会社法第299条第1項)
- 招集の通知に記載された議題以外の事項について決議がされたこと(会社法第309条第5項)
- 議決権の数の計算に誤りがあること
- 議決権を行使することができない株主が議決権を行使したこと
- 裁判所の許可の範囲を超える事項について決議がされたこと
決議の効力を停止する仮処分
決議の効力を争うとともに、その執行を暫定的に止める必要がある場合には、仮の地位を定める仮処分(民事保全法第23条第2項)の申立てを検討することになります。役員の職務の執行を停止し、職務代行者を選任する仮処分がされたときは、その旨の登記がされます(会社法第917条)。
確認すべき期限と資料
期限
| 事項 | 期限 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 総会検査役の選任の申立て | 株主総会に先立って | 会社法第306条第1項 |
| 決議の取消しの訴え | 決議の日から3か月以内 | 会社法第831条第1項 |
| 決議の無効又は不存在の確認の訴え | 期間の制限はありません | 会社法第830条第1項・第2項 |
| 議事録の備置き | 株主総会の日から10年間 | 会社法第318条第2項 |
| 役員の変更の登記 | 変更の生じた日から2週間以内 | 会社法第915条第1項 |
会社の側でご準備いただきたい資料
- 株主から届いた招集の通知及びその封筒
- 裁判所の許可に関する書面(写しが送付されている場合)
- 現に効力を有する定款(議長に関する定め、定足数に関する定めを確認いたします)
- 株主名簿及び議決権の数の一覧
- 過去の株主総会の議事録
- 登記事項証明書
弁護士にご相談いただく意味
裁判所の許可を得て招集された株主総会は、会社にとって最も準備の難しい場面の一つです。日時も場所も議題も会社が決めていない一方で、そこで成立した決議は会社の意思決定として扱われ得ます。当日の対応の巧拙が、その後の紛争の全体を左右いたします。
特に重要なのは、当日の記録です。決議の効力を争う場合、争点となるのは当日に何が起きたかという事実ですが、これを後から立証することは容易ではありません。総会検査役の選任、出席者による記録、議事録の作成といった手段を、当日までにどのように組み合わせるかを設計しておく必要があります。当事務所は、会社の側のお立場で、当日の準備から決議後の対応までをご一緒に行っております。
よくあるご質問
質問1 会社が欠席すれば、株主総会は成立しませんか。
成立し得ます。株主総会の成否は、議決権を有する株主の出席の状況によって判断されます。役員が株主でない場合、役員の欠席は定足数に影響いたしません。役員が株主である場合には、欠席により議決権が行使されず、議案が可決される可能性が高まります。
質問2 議長は当社の代表取締役が務めることになりますか。
定款に議長に関する定めがある場合であっても、株主が裁判所の許可を得て招集した株主総会にその定めがそのまま適用されるかについては議論があります。当日、総会において議長を選任する旨の動議が提出されることがありますので、想定しておく必要があります。
質問3 株主名簿の写しを求められました。応じなければなりませんか。
株主は、請求の理由を明らかにして、株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)。会社は一定の事由があるときはこれを拒むことができますが(同条第3項)、正当な権利の行使を妨げる対応は、後の紛争を拡大させることがあります。個別に検討する必要があります。
質問4 招集の通知に記載されていない事項について決議がされました。
株主総会においては、招集の通知に記載され、又は記録された事項以外の事項については、決議をすることができないとされております(会社法第309条第5項本文。取締役会を設置していない会社を除きます)。この点に反する決議は、決議の取消しの訴えの対象となり得ます(会社法第831条第1項第1号)。
質問5 決議の取消しの訴えを提起すれば、決議の効力は止まりますか。
訴えの提起のみによって決議の効力が当然に止まるわけではありません。効力を暫定的に止める必要がある場合には、仮の地位を定める仮処分(民事保全法第23条第2項)の申立てを併せて検討することになります。
本記事の根拠条文
会社法
- 第125条第2項・第3項(株主名簿の閲覧等の請求及び拒絶事由)
- 第297条第1項・第4項(株主による株主総会の招集の請求、裁判所の許可を得た招集)
- 第299条第1項(招集の通知)
- 第306条第1項(総会検査役の選任)
- 第309条第2項第11号・第5項(特別決議、招集の通知に記載のない事項の決議の制限)
- 第314条(取締役等の説明義務)
- 第318条第1項・第2項(株主総会の議事録の作成及び備置き)
- 第339条第2項(解任について正当な理由がない場合の損害賠償)
- 第341条(役員の選任及び解任の決議の定足数)
- 第361条第1項(取締役の報酬等)
- 第424条から第426条まで(役員等の責任の免除)
- 第461条第1項(剰余金の配当等に関する財源規制)
- 第830条第1項・第2項(決議の不存在又は無効の確認の訴え)
- 第831条第1項(決議の取消しの訴え)
- 第868条第1項(非訟事件の管轄)
- 第915条第1項(変更の登記)
- 第917条(職務の執行の停止等の仮処分の登記)
民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令)
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、少数株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集した場面において、会社の側からのご相談をお受けしております。当日の議事の想定と準備、総会検査役の選任の申立て、当日の出席及び記録、決議が成立した場合の効力を争う手続まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。
詳しくは、少数株主から株主総会の招集を請求された会社の方に向けたご案内のページ(/soukai_shoushuu_seikyu_taiou/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします
ご相談の際に、株主から届いた招集の通知とその封筒、現に効力を有する定款、株主名簿、登記事項証明書、過去の株主総会の議事録をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。
本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、株主総会をめぐる対応に関する解説のうち、「裁判所の許可を得て招集された株主総会への会社の備え」という論点を扱うページです。株主総会をめぐる対応の全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
▶ 少数株主から株主総会の招集を請求されたときの会社の対応手順
同じ主題を扱う関連ページ
具体的な御相談をお考えの会社の皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。


