取締役会の議事録の閲覧謄写を請求されたときの会社の判断

株主から、取締役会の議事録の閲覧謄写を求める書面が届いたが、株主総会の議事録の閲覧請求とは扱いが異なると聞き、何がどう違うのか分からないという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、株主総会の議事録は原則として株主が自由に閲覧謄写を請求できるのに対し、取締役会の議事録については、会社の種類によっては裁判所の許可を要する場合があり、この違いを見落とすと会社側の対応を誤ってしまうという点です。

以下では、両者の間にこの違いが設けられている理由、及び会社の側が確認すべき事項を御説明します。

この違いは、取締役会において会社の業務執行に関する具体的な事項が審議されるため、その内容が外部に流出することによる会社の不利益に配慮したものと理解されております。

会社の側が確認すべき事項

 自社が監査役設置会社等に当たるか

会社法上の「監査役設置会社」とは、監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除きます)等をいうものとされております(会社法第2条第9号)。

ここが実務上の落とし穴です。同族会社では、監査役を置きながら、定款によりその監査の範囲を会計に関するものに限定している例が少なくありません。この場合、会社法上の監査役設置会社には当たりませんので、株主は裁判所の許可を得ることなく、権利を行使するため必要があるときに請求をすることができることとなります(会社法第371条第2項)。

したがって、会社の側は、まず現に効力を有する定款を確認し、監査役の監査の範囲に関する定めの有無を確かめる必要があります。登記事項証明書にも、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨が記録されていることがあります。

 請求の理由

株主が請求をすることができるのは、「その権利を行使するため必要があるとき」です。株主の権利としては、議決権、剰余金の配当を受ける権利、取締役の責任を追及する訴えの提起の請求(会社法第847条第1項)、取締役の行為の差止めの請求(会社法第360条第1項)等が考えられます。

会社の側としては、請求書に記載された理由が、株主の権利の行使との関連を有するかを検討することになります。もっとも、裁判所の許可を要する場合には、この点は裁判所が判断いたしますので、会社の側はその手続において意見を述べることになります。

 対象となる議事録の範囲

請求の対象が特定されているかを確認いたします。「全ての取締役会の議事録」という請求について、権利を行使するため必要があるといえるかは、株主が主張する権利の内容との関係で検討されることになります。

裁判所の許可の手続における会社の対応

 許可がされない場合

会社法は、裁判所は、閲覧又は謄写をすることにより当該会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、許可をすることができない旨を定めております。会社の側は、この点を主張することになります。

「著しい損害を及ぼすおそれ」として主張され得る事情としては、次のようなものが考えられます。

  • 議事録に営業上の秘密に属する情報が記載されていること
  • 請求をした株主が会社と競争関係にある事業を営んでいること
  • 記載されている取引の相手方に対する守秘義務があること
  • 記載されている情報が外部に流出した場合に会社の信用が損なわれること

もっとも、抽象的に「秘密が含まれている」と述べるだけでは足りず、どの記載がどのような損害に結び付くのかを具体的に示す必要があります。

 一部の開示という選択

議事録の全体に営業上の秘密が含まれているという例は多くありません。実務上は、対象となる期間を限定する、特定の議案に関する部分に限る、といった整理により、争点を絞ることが考えられます。会社の側から積極的に開示の範囲を提案することが、結果として会社の負担を軽減することもあります。

 手続の管轄

この種の申立てに係る事件は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属します(会社法第868条第1項)。

開示に応じる場合の実務

 備置きの義務の履行

会社は、取締役会の日から10年間、議事録又は書面決議に係る書面等を本店に備え置かなければならないとされております(会社法第371条第1項)。備置きを怠った場合には、過料に処せられることがあります(会社法第976条)。

「見当たらない」という回答は、備置きの義務を果たしていないことを自ら示すことになりますので、まず所在を確認することが必要です。

 謄写の方法及び費用

謄写の請求に応じる場合の複写の費用については、請求者の負担とする取扱いが一般的です。日時及び場所については、営業時間内において、会社の業務に支障のない範囲で調整することになります。

 開示の記録

いつ、誰に、どの範囲の議事録を開示したかを記録しておくことが有用です。後に、開示した情報の使途が問題となる場合の資料となります。

 書面決議の記録

取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案について議決に加わることができる取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除きます)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができます(会社法第370条)。この場合の同意書等も、備置き及び閲覧の対象となります。

会社の側が採り得る対応の選択肢

選択肢 内容 留意点
請求に応じる 対象を確認の上、閲覧又は謄写に応じます 開示の範囲と日時を記録いたします
対象の限定を求める 期間又は議案を限定するよう求めます 協議の経過を書面で残します
権利の行使との関連を確認する 請求の理由の補充を求めます 過剰な要求は引き延ばしと評価され得ます
裁判所の許可の手続で争う 著しい損害を及ぼすおそれを具体的に主張いたします 抽象的な主張では足りません
一部を開示し一部を争う 争点を限定いたします 開示した部分の範囲を明確にいたします

いずれを選ぶかは、議事録の記載の内容、請求をした株主との関係、他に係属している紛争の有無等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

確認すべき期限と資料

 期限

事項 期限 根拠条文
取締役会の議事録の備置き 取締役会の日から10年間 会社法第371条第1項
株主総会の議事録の備置き 株主総会の日から10年間 会社法第318条第2項
取締役会の招集の通知 会日の1週間前まで(定款で短縮可) 会社法第368条第1項
決議の取消しの訴え 決議の日から3か月以内 会社法第831条第1項

 会社の側でご準備いただきたい資料

  • 株主から届いた請求の書面及びその封筒
  • 現に効力を有する定款(監査役の監査の範囲に関する定めを確認いたします)
  • 登記事項証明書
  • 対象となる期間の取締役会の議事録
  • 書面による決議に係る同意書
  • 株主名簿

弁護士にご相談いただく意味

この場面で会社が誤りやすいのは、自社が監査役設置会社に当たるかどうかの判断です。監査役を置いていれば裁判所の許可が必要であると考え、株主の請求を拒んだところ、定款により監査役の監査の範囲が会計に関するものに限定されていたため、裁判所の許可を要しない会社であったという例があります。この誤りは、会社が不当に開示を拒んだという評価につながりかねません。

また、取締役会の議事録の閲覧謄写の請求は、取締役の責任を追及する訴えの提起の請求(会社法第847条第1項)、会計帳簿の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)の前段階として行われることが多いところです。目の前の請求だけを見るのではなく、その後に何が続くかを想定した対応が必要となります。当事務所は、会社の側のお立場でご相談をお受けしております。

よくあるご質問

質問1 当社には監査役がおります。裁判所の許可がなければ応じなくてよいですか。

定款により監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定している場合、会社法上の監査役設置会社には当たりません(会社法第2条第9号)。この場合、株主は裁判所の許可を得ることなく、権利を行使するため必要があるときに請求をすることができます(会社法第371条第2項)。まず定款をご確認ください。

質問2 「権利を行使するため必要があるとき」に当たらないと考えます。

株主の権利の行使との関連が認められない請求については、その旨を述べることが考えられます。裁判所の許可を要する会社においては、この点も含めて裁判所が判断いたします。会社の側は、その手続において意見を述べることになります。

質問3 議事録に取引先の名称が記載されております。

閲覧又は謄写により会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認められる場合には、裁判所の許可がされないこととされております。取引先に対する守秘義務の内容、記載されている情報の性質、流出した場合の具体的な影響を示すことになります。抽象的な主張では足りません。

質問4 株主が競業者です。それを理由に拒めますか。

取締役会の議事録の閲覧謄写については、会計帳簿の閲覧等の請求(会社法第433条第2項第3号)のような明文の拒絶の事由は定められておりません。もっとも、競業関係にあることは、著しい損害を及ぼすおそれを基礎付ける事情として主張し得ます。

質問5 議事録を作成していない取締役会があります。

取締役会の議事については、法務省令の定めるところにより議事録を作成し、出席した取締役及び監査役がこれに署名し、又は記名押印しなければならないとされております(会社法第369条第3項)。作成していない場合、備置きの義務との関係で問題が生じ得ます。今後の対応と併せて検討する必要があります。

本記事の根拠条文

会社法

  • 第2条第9号(監査役設置会社の定義)
  • 第318条第2項・第4項(株主総会の議事録の備置き及び閲覧等)
  • 第360条第1項(株主による取締役の行為の差止めの請求)
  • 第368条第1項(取締役会の招集の通知)
  • 第369条第3項(取締役会の議事録の署名又は記名押印)
  • 第370条(取締役会の決議の省略)
  • 第371条第1項から第3項まで(取締役会の議事録の備置き、株主及び債権者による閲覧等の請求、裁判所の許可)
  • 第433条第1項・第2項第3号(会計帳簿の閲覧等の請求及び拒絶事由)
  • 第847条第1項(責任追及等の訴えの提起の請求)
  • 第868条第1項(非訟事件の管轄)
  • 第831条第1項(決議の取消しの訴え)
  • 第976条(過料に処すべき行為)

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、株主から取締役会の議事録の閲覧謄写を請求された会社の側からのご相談をお受けしております。自社の機関設計の確認、請求の要件の検討、開示の範囲の整理、裁判所の許可の手続における会社の意見の陳述まで、会社の側の代理人としてお引き受けいたします。

詳しくは、議事録の内容を争われた会社の方に向けたご案内のページ(/gijiroku_hanron/)をご覧ください。同ページでは、当事務所が行うこと、費用の目安、ご相談から受任までの流れをご説明しております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします

ご相談の際に、株主から届いた請求の書面、現に効力を有する定款、登記事項証明書、対象となる期間の取締役会の議事録をご用意いただけますと検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

本記事は一般的な制度の説明であり、結論は事案ごとに異なります。同種の事案において同じ結果となることを保証するものではありません。個別の事情については、弁護士にご相談ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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