会社と取締役の利害が対立する株主代表訴訟での注意点

会社は当事者ではないものの、訴訟の結果によって権利義務に影響を受けます。そのため、会社が訴訟に関与する方法として、一方の当事者を補助するために参加するという方法が用意されています。

 なぜ利害の対立が生じるのか

会社の損害を回復するという観点からは、会社の利益は原告である株主の主張と一致するように見えます。他方で、被告となった取締役が現に経営を担っている場合、その取締役の責任が認められることは、経営体制、対外的な信用、取引関係に影響を及ぼします。

さらに、被告となった取締役が支配株主でもある場合、あるいは会社と被告との間に補償又は保険の関係がある場合には、利害の構図はより複雑になります。

 会社側から見た意味

会社が採り得る立場は、大きく分けて、訴訟に参加しないという選択、被告となった取締役を補助するために参加するという選択、原告である株主を補助するために参加するという選択があります。

いずれを選ぶかは、提訴請求を受けた段階での調査の結果、当該取締役の行為の内容、会社の被った損害の有無と程度、他の株主の状況によって異なります。会社の方針として最初から決まっているものではありません。

要件と論点

 被告となった取締役を補助するために参加する場合

会社が被告となった取締役を補助するために訴訟に参加することについては、会社の機関において所定の手続を経ることが求められています。この手続は、会社が安易に被告の側に立つことを防ぐために置かれているものです。

会社側としては、この手続を経ずに事実上被告を支援する行為を行うことがないよう、注意する必要があります。

 会社の費用で被告の弁護士費用を負担する場合

被告となった取締役の弁護士費用を会社が負担することについては、補償に関する制度と、役員等を被保険者とする保険の制度があります。いずれについても、会社の機関における決定と、内容についての要件が定められています。

これらの制度によることなく、会社が事実上費用を負担する場合には、その支出の適法性が別途問題とされることがあります。

 同一の弁護士が会社と被告を代理することの可否

表2 受任体制の類型と検討事項

類型 検討事項
同一の弁護士が会社と被告となった取締役の双方に関与する 利害が一致しない場合には、双方を代理することができません
会社と被告とで別々の弁護士が関与する 費用が増加しますが、利害の対立に対応できます
会社は関与せず、被告のみが弁護士に委任する 会社としての判断の記録を別途整える必要があります

利害が一致するかどうかは、訴訟の進行に伴って変化することがあります。当初は一致していたが、事実関係の解明が進むにつれて一致しなくなるという場合があります。受任の体制は、この変化を想定して組み立てる必要があります。

 和解をする場合

株主代表訴訟における和解については、会社の関与に関する定めが置かれています。会社が和解の内容を知らないまま手続が進行することのないよう、制度上の配慮がされています。

会社側としては、和解の内容が会社にとってどのような意味を持つか、他の株主から問題とされる余地がないかを検討する必要があります。

 被告が支配株主でもある場合

被告となった取締役が支配株主でもある場合、会社の意思決定を行う機関の構成員が、実質的に被告と一体であるという状況が生じます。この場合、会社としての判断の中立性が問題とされることがあります。

このような事案においては、判断の過程を記録として整えること、必要に応じて外部の助言を得ることが重要となります。

会社側の実務

表3 利害の対立が想定される場合の整理の手順

順序 行うこと
第1 提訴請求又は訴状の内容を読み、責任が主張されている行為を特定します
第2 当該行為に関する社内の資料を保全します
第3 会社に損害が生じているか、生じているとして原因は何かを整理します
第4 会社の利益と被告の利益が一致する部分と一致しない部分を書き出します
第5 会社としての立場(参加するかどうか、いずれを補助するか)を検討します
第6 受任の体制を決め、必要な場合には会社と被告とで別の弁護士に委任します
第7 会社の機関における決定を行い、議事録に残します
第8 費用の負担に関する制度の適用の有無を確認します

 資料の保全を最初に行ってください

責任が主張されている行為に関する資料は、意思決定の過程、稟議、取締役会の議事録、契約書、支払の記録など多岐にわたります。これらを早期に保全してください。廃棄又は改変があったと疑われる事態は、会社側にとって重大な不利益となります。

 調査の主体を明確にします

会社としての調査を誰が行うかを明確にしてください。被告となった取締役が調査の主体となることは、調査の中立性の観点から問題とされ得ます。

 社内の情報管理を整えます

訴訟に関する情報が社内で無秩序に共有されると、意図しない資料が流出することがあります。他方で、必要な部門に情報が届かないことも支障となります。情報の管理の範囲を明確に定めてください。

 他の株主への対応を整理します

株主代表訴訟が提起された事実について、他の株主から説明を求められることがあります。回答の窓口と内容を一本化してください。

 記録を残します

会社としての判断の過程、その理由、参加した者を記録として残してください。会社の対応そのものが後日問題とされる場合に、この記録が重要となります。

関連する手続

株主代表訴訟の前段階には、株主から会社に対する提訴の請求があります。この請求を受けた会社は、調査を行い、所定の期間内に提訴するかどうかを判断することになります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

また、取締役の行為の差止めを求める手続、会計帳簿閲覧謄写請求による資料の収集、株主総会における取締役の解任の要求が、前後して行われることがあります。

弁護士に相談する意味

利害が対立する場面において最も重要なのは、会社としての判断を、被告となった取締役から独立した過程で行い、それを記録として残すことです。この点が欠けると、会社の対応そのものが新たな紛争の対象となります。

受任の体制についても、早期の検討が必要です。同一の弁護士が会社と被告の双方に関与することができるかどうかは、事案の内容によって異なります。訴訟の途中で体制を変更することは、対応の連続性を損ないます。

また、会社が費用を負担する場合の制度の適用については、要件と手続の確認を要します。要件を欠く支出は、別の責任問題を生じさせ得ます。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。利害の対立が想定される事案においては、受任の可否を含めて、ご相談の初期の段階で整理をいたします。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 会社は被告となった取締役を支援できますか。

支援の方法によります。訴訟に参加する場合、費用を負担する場合のいずれについても、会社の機関における手続と要件があります。事実上の支援を先行させないでください。

質問2 会社と被告で同じ弁護士に依頼できますか。

利害が一致しない場合には、双方を代理することができません。事案の内容を確認したうえで、受任の体制をご説明いたします。

質問3 会社としては何もしないという選択はありますか。

訴訟に参加しないという選択はあり得ます。もっとも、その判断についても理由を整理し、記録として残す必要があります。

質問4 被告の取締役が会社の株式の大半を持っています。

会社の判断の中立性が問題とされやすい構図です。判断の過程を記録として整えることが、通常の事案以上に重要となります。

質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。

提訴請求書又は訴状、責任が主張されている行為に関する取締役会の議事録及び稟議の記録、定款、登記事項証明書、株主名簿、役員等を被保険者とする保険の証券をご持参ください。

関連するご案内

株主代表訴訟への対応を検討している会社の方は、株主代表訴訟・役員責任追及を受けた会社へをご覧ください。提訴請求の受領から訴訟の進行までを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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