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退社した社員・相続人との払戻しの交渉と和解 医療法人が和解書に定めること

公開 2026年11月2日更新 2026年11月5日

▶ 医療法人の出資持分払戻請求権を行使された場合の対策

出資持分の払戻しをめぐる紛争の多くは、判決を待たずに話合いで終わります。裁判には時間と費用がかかり、評価の鑑定が行われれば結論の予測も難しくなるため、双方にとって合意による解決に合理性があるからです。

もっとも、和解の内容を誤ると、後から別の請求を受けたり、他の相続人から同じ請求をされたりします。共同で医療法人を営んできた相手との交渉では、感情の対立が話合いを難しくすることもあります。

本記事では、医療法人の側の立場から、退社した社員や相続人との交渉の進め方と、和解書に定めるべき事項をご説明します。

交渉の相手を確定する

最初に、誰と合意すれば紛争が終わるのかを確定します。

  • 退社・除名の場合は、資格を喪失した社員本人が相手方です。代理人が就いている場合は、代理人を通じて交渉します。
  • 死亡の場合は、払戻しの請求権を承継した相続人が相手方です。相続人が複数いる場合は、遺産分割が済んでいるか、誰が請求権を取得したかを確かめます。
  • 一部の相続人とだけ合意しても、他の相続人の請求は残ります。相続人全員と合意するか、各相続人の請求の範囲を明確にした合意とします。

交渉で示す材料

交渉は、双方の主張の幅の中で落としどころを探る作業です。法人の側は、次の材料を整えて臨みます。

法人の側の算定

払戻額は、資格を喪失した時点の法人の財産の評価額に出資の割合を乗じて算定するのが基本です(最高裁判所平成22年4月8日判決)。相手方の算定のどこに無理があるかを具体的に示し、法人の側の算定を根拠とともに提示すると、交渉の土台が定まります。

支払いの方法と時期

一括払いが難しい場合は、分割払い、支払いの開始時期の調整、一部の先払いを組み合わせた案を示します。法人の資金繰りの見通しを示すことで、案の現実性を相手方に理解してもらいやすくなります。

裁判になった場合の見通し

判決に至るまでの期間、鑑定の費用、遅延損害金の負担を双方の立場から整理すると、早期の合意の利点を具体的に説明できます。期限の定めのない債務は、請求を受けた時から遅滞の責任を負うため(民法第412条第3項)、法人の側にとっても、長期化は負担の増加につながります。

退社した社員・相続人との交渉を含め、払戻しの請求を受けた医療法人の側の対応は、次のページでご案内しています。

和解の効力

和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約する契約です(民法第695条)。和解によって争いの目的である権利の有無や範囲が定まると、後に反対の証拠が見つかっても、その内容で確定します(民法第696条)。この効力があるからこそ、和解書の条項は慎重に定める必要があります。

訴訟が係属している場合は、裁判所での和解(訴訟上の和解)によることもできます。裁判外で合意する場合も、内容を書面で明確にすることが欠かせません。

和解書に定める事項

払戻しの紛争の和解書では、少なくとも次の事項を定めます。

  1. 払戻しの額 支払う総額と、その性質(定款に基づく払戻しであること)を明記します。
  2. 支払いの方法と期限 一括か分割か、各回の額と期日、振込先を定めます。
  3. 期限の利益の喪失 分割払いとする場合に、支払いを怠ったときの取扱いを定めます。法人の側にとって過大な負担とならない回数・額の設定とします。
  4. 持分の消滅と出資者名簿の整理 払戻しにより、相手方が法人に対して出資持分に基づく権利を有しないことを確認し、出資者名簿の整理への協力を定めます。
  5. 清算条項 本件の払戻しのほか、相手方が法人や理事長に対して有する請求権の有無を確認します。対象の範囲(社員の地位に基づくもの、役員・職員としての地位に基づくもの)を具体的に書きます。
  6. 係属中の手続の処理 訴えの取下げ、費用の負担を定めます。
  7. 守秘 合意の内容を第三者に開示しないことを定めます。残る社員や職員への影響を考慮します。

相続人との交渉で注意すること

相続人は、法人の運営に関わってこなかったことが多く、法人の財産の状況や医療の提供の実情を知りません。決算書類に基づいて算定の根拠を丁寧に説明することが、合意への近道です。

また、相続税の申告の期限との関係で、相続人の側が早期の解決を望むことがあります。税務の取扱いは税理士の判断に委ねつつ、双方の事情を踏まえた支払いの時期を検討します。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

してはいけない対応

  • 口頭の合意だけで支払いを始めること。金額と条件は必ず書面で確定します。
  • 相続人の一部とだけ合意し、他の相続人の扱いを決めないまま支払うこと。
  • 清算条項の範囲を確かめず、定型の文言をそのまま用いること。
  • 支払える見込みのない分割の条件を約束すること。
  • 理事会・社員総会での検討を経ずに、理事長の判断だけで合意すること。

株式会社の少数株主との和解の考え方は、敵対的な少数株主との紛争を和解により終わらせる場合に会社が定めることの記事でも扱っています。清算条項の書き方など、共通する部分があります。

弁護士に相談する意味

和解は紛争の終局の局面であり、条項の一語によって結果が変わります。相手方との関係、相続人の構成、法人の資金繰りを踏まえて、実行できる内容で確実に終わらせる設計が必要です。

金額の水準の見極め、条項の具体的な文言、交渉の進め方は、事案ごとに異なり、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示していません。当事務所は、医療法人、理事長及び残る社員の側に立ってご依頼をお受けしています。ご相談は事前予約制です。

よくあるご質問

質問1 分割払いにすると、相手方が応じないのではありませんか。

法人の資金繰りの見通しと、裁判になった場合の期間や費用を示すことで、分割払いの合理性を説明します。一部の先払いを組み合わせる方法もあります。

質問2 和解書は法人と相手方だけで足りますか。

理事長個人への請求が問題となり得る事案では、理事長を当事者に加えることを検討します。相続人が複数いる場合は、全員を当事者とするのが原則です。

質問3 訴訟になってからでも和解できますか。

できます。訴訟上の和解は、裁判所が関与する分、内容が明確になりやすい利点があります。

まとめ

  • 誰と合意すれば紛争が終わるのかを、最初に確定します。
  • 法人の側の算定、支払いの方法と時期、裁判になった場合の見通しを材料に交渉します。
  • 和解書には、額、支払方法、期限の利益の喪失、持分の消滅、清算条項、手続の処理、守秘を定めます。
  • 相続人との交渉では、算定の根拠を丁寧に説明します。

交渉の方針は、最初の回答の段階から一貫させることが大切です。早めにご相談ください。

関連するご案内

出資持分の払戻しの請求を受けた医療法人の方は、次の各ページもご覧ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

この記事の位置付け

本ページは、払戻しの請求をした退社した社員やその相続人と話し合い、和解によって解決する段階を扱います。払戻額の算定の争い方は評価のページで、支払いの資金の手当ては資金繰りのページでご説明します。

▶ 医療法人の出資持分払戻請求権を行使された場合の対策

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本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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