出資持分の払戻額はどう算定されるか 医療法人の側から評価を争う着眼点

出資持分の払戻しの請求で最も争いになりやすいのは、払戻額です。相手方は、法人の財産を高く評価した算定を示してくることが多く、法人の側から見ると、手元の資金とかけ離れた額になることがあります。
もっとも、払戻額は、相手方の言い値で決まるものではありません。算定の基本となる考え方を押さえたうえで、財産の評価、負債の計上、出資の割合を一つずつ確かめると、争うべき点が具体的に見えてきます。
本記事では、医療法人の側の立場から、払戻額の算定の仕組みと、相手方の算定を検証する着眼点をご説明します。
算定の基本となる考え方
多くの医療法人の定款は、「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる」と定めています。最高裁判所平成22年4月8日判決は、この定めについて、社員の資格を喪失した時点における法人の財産の評価額に、同時点における総出資額中の当該社員の出資額の割合を乗じて算定される額の払戻しを請求できるものと解しました。
この考え方を式にすると、次のとおりです。
| 要素 | 内容 | 争点となりやすい点 |
|---|---|---|
| 基準の時点 | 社員の資格を喪失した時点 | 退社・除名の効力が生じた日、死亡の日 |
| 法人の財産の評価額 | 資産から負債を差し引いた額を、どの方法で評価するか | 不動産・医療機器の評価、負債の計上の漏れ |
| 出資の割合 | 総出資額中の当該社員の出資額の割合 | 出資の事実と額、増資や持分の移転の経過 |
払戻額は「評価額×出資の割合」で計算されます。たとえば、評価額をいくらと見るかが変わるだけで、払戻額は同じ割合で増減します。法人の側の検証は、この3つの要素のそれぞれについて行います。
基準の時点を確かめる
算定の基準となるのは、社員の資格を喪失した時点です。退社であれば退社の効力が生じた日、除名であれば除名の効力が生じた日、死亡であれば死亡の日が基準となります。基準の時点がずれると、用いる決算書類も、財産の評価も変わります。
相手方が、請求の時点や最新の決算期の数字で算定していることがあります。基準の時点を確定させることが、検証の出発点です。
法人の財産の評価額を検証する
帳簿の価額のままでよいか
決算書類の貸借対照表に記載された価額は、取得した時の価額を基礎とするものが多く、評価の時点の価値とは一致しないことがあります。払戻額の算定で、帳簿の価額をそのまま用いるか、時価に引き直すかは、事案の事情に即して検討される事項であり、双方の主張が分かれやすい点です。
資産の側の着眼点
- 土地・建物:病院や診療所の敷地・建物は、評価の方法によって額が大きく変わります。医療の用に供している不動産の性質や、売却を前提としない利用の実態をどう評価に反映させるかを検討します。
- 医療機器・設備:使用に伴う価値の減少や、更新の時期が近いことを確かめます。
- 未収の診療報酬、貸付金:回収の見込みを確かめます。
負債の側の着眼点
- 借入金、未払金、職員の退職給付に備えるべき額など、算定に含めるべき負債が漏れていないかを確かめます。
- 評価の基準の時点で既に生じていた債務が、後の決算期に計上されていることがあります。
- 不動産等を時価に引き直す場合に、売却したと仮定したときに生じる負担をどう扱うかも、議論の対象となります。
評価の方法の考え方は、株式会社の非上場株式の評価と共通する部分があります。時価純資産法による評価の考え方は、時価純資産法による非上場株式評価の記事も参考になります。もっとも、医療法人は剰余金の配当をすることができず(医療法第54条)、事業の性質も株式会社と異なりますので、株式会社の評価の方法をそのまま当てはめることはできません。
払戻額の算定を含め、払戻しの請求を受けた医療法人の側の対応は、次のページでご案内しています。
出資の割合を検証する
出資の割合は、総出資額中の当該社員の出資額の割合です。次の点を確かめます。
- 出資の事実と額を裏付ける資料(出資者名簿、払込みの記録、設立時の書類)。
- 設立の後に出資した社員がいる場合の扱い。出資の時期が異なる社員の間の公平をどう図るかが争われることがあります。
- 持分の譲渡や相続による移転の経過と、出資者名簿の記載との一致。
出資者名簿の記載が実態と合っていないと、割合の計算そのものが争いになります。古い資料を早めに集めておくことが大切です。
請求の額が大きすぎる場合の主張
払戻しの請求が、法人の財産の形成の経緯や請求する者の関与の程度、医療の提供への影響などに照らして著しく不当な場合には、権利の濫用(民法第1条第3項)に当たるかが問題となる余地があります。もっとも、権利の濫用として請求が退けられるのは例外的な場合と考えられますので、まずは算定の各要素を検証し、そのうえで支払いの方法と時期の調整を求めるのが現実的な進め方です。
お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。
法人の側が準備しておく資料
- 基準の時点を含む事業年度の決算書類(貸借対照表、損益計算書、財産目録)。
- 不動産の登記事項証明書、固定資産の評価に関する資料。
- 主な医療機器の取得の時期と価額が分かる資料。
- 借入金の契約書、職員の退職金の規程。
- 出資者名簿、出資の払込みの記録、定款とその変更の経過。
裁判になった場合には、評価について鑑定が行われることもあります。鑑定の前提となる資料をどのように示すかによって結論が左右されることがあるため、早い段階から資料を整理しておきます。
弁護士に相談する意味
払戻額の争いは、法律の解釈と財産の評価の双方にまたがります。相手方の算定のどこに無理があるかを特定し、法人の側の算定を根拠とともに示すことで、交渉の土台が定まります。
評価の方法の選び方、主張の組立て、鑑定への備えは、事案ごとに異なり、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示していません。必要に応じて、公認会計士・不動産鑑定士と連携して検討します。ご相談は事前予約制です。
よくあるご質問
質問1 払戻額は出資した額と同じではないのですか。
「出資額に応じて」と定める定款では、資格を喪失した時点の財産の評価額に出資の割合を乗じた額によるとした最高裁判所の判決があります。出資した額と同じとは限りません。
質問2 相手方が示した評価の資料を見せてもらえますか。
算定の根拠となる資料の提出を求めることは、交渉の基本です。根拠が示されない算定は、そのまま受け入れないでください。
質問3 法人の側で評価をし直す必要がありますか。
相手方の算定を検証するだけでなく、法人の側の算定の幅を示すことで、交渉が具体的になります。
まとめ
- 払戻額は、資格を喪失した時点の法人の財産の評価額に、出資の割合を乗じて算定するのが基本です。
- 基準の時点、財産の評価額、出資の割合の3つの要素を、それぞれ検証します。
- 資産の評価だけでなく、負債の計上の漏れにも注意します。
- 請求の額が著しく不当な場合には、権利の濫用に当たるかも検討します。
- 資料を早めに整え、法人の側の算定を根拠とともに示します。
払戻額の算定に疑問があるときは、回答する前にご相談ください。
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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
この記事の位置付け
本ページは、出資持分の払戻額がどのように算定されるかと、医療法人の側が相手方の算定のどこを確かめて争うかに焦点を当てます。請求を受けた直後の確認の順序は初動のページで、合意の結び方は和解のページでご説明します。
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