敵対的な少数株主との紛争を和解により終わらせる場合に会社が定めること

この記事の位置付け

少数株主との紛争を合意により終わらせる場面は、裁判所の手続の中で和解として合意する場面と、裁判外の交渉により合意する場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。

少数株主との訴訟、非訟又は交渉が進み、手続の見通しが立ってくると、判決又は決定によらずに解決することを検討する段階に至ります。和解は、期間と費用を抑え、事業への影響を最小限にとどめる有力な選択肢です。他方、条項の設計を誤りますと、他の株主から同一の条件を求められ、あるいは同じ主張が蒸し返されます。

本記事では、発行会社の側の立場から、和解の類型ごとの手続上の制約、他の株主への波及を防ぐ条項、蒸し返しを防ぐ清算条項の書き方、そして利益の供与に当たらないための整理を、順を追って御説明します。

和解の3つの類型

少数株主との紛争における和解は、次の3つに整理されます。手続上の制約が異なりますので、まず自社の局面がどれに当たるかを確定してください。

類型 典型的な局面 固有の制約
訴訟上の和解 株主代表訴訟、決議の取消しの訴え、責任の追及の訴え 株主代表訴訟については、会社が当事者でない場合に通知及び催告の手続を要します(会社法第850条)
非訟における合意 株式売買価格の決定の申立て、取得の価格の決定の申立て 価格について協議が調えば申立てを取り下げる形により処理されます
裁判外の和解 任意の買取りの交渉、請求を受けた段階での合意 自己株式を取得する場合には、決議、売主追加請求権及び財源規制の制約が及びます

いずれの類型についても、和解は当事者が互いに譲歩してその間に存する争いをやめることを約する契約であり、当事者の一方が争いの目的である権利を有するものと認められた場合には、その権利は和解によって確定します(民法第695条及び第696条)。すなわち、後になって「実は自分の主張が正しかった」という理由により争いを再開することはできません。この効力こそが、会社が和解を選ぶ最大の理由です。

株主代表訴訟の和解に固有の手続

 会社が当事者でない場合の通知及び催告

株主代表訴訟は、株主が会社に代わって取締役等の責任を追及する訴訟であり、会社が訴訟の当事者となっていない場合があります。この場合、原告である株主と被告である取締役との間で和解が成立しますと、会社の権利が処分されることとなります。そこで会社法第850条は、裁判所が会社に対し和解の内容を通知し、かつ、和解に異議があるときは2週間以内に異議を述べるべき旨を催告しなければならないと定めています。

会社が2週間以内に書面により異議を述べなかったときは、通知の内容で株主が和解をすることを承認したものとみなされます。したがって、通知を受け取った会社は、期間の管理を厳格に行う必要があります。通知の受領日を記録し、和解の内容を取締役会において検討し、異議を述べるかどうかを決定してください。

 責任の免除に関する規定との関係

取締役の会社に対する責任は、原則として総株主の同意がなければ免除することができません(会社法第424条)。もっとも、責任追及等の訴えに係る訴訟における和解をする場合には、この規定は適用されません(同法第850条第4項)。すなわち、和解によれば、総株主の同意を得ることなく、責任の一部を免れさせる内容の解決が可能となります。この点が、和解による解決の実務上の意義です。

 会社の側の検討事項

会社と被告である取締役との利害が一致しない場合がありますので、会社としての判断は、被告である取締役を除いた取締役により行う必要があります。監査役設置会社においては、会社を代表する者が監査役となる場面がありますので、代表の権限を確認してください。判断の理由は議事録に記録します。

株式売買価格決定の手続における合意による解決

株式売買価格の決定の申立てが係属している場合、価格について当事者の協議が調えば、申立てを取り下げる方法により解決します。会社法第144条は、譲渡等承認請求に係る株式の売買価格について、会社と譲渡等承認請求者との協議により定めることができる旨を定めています。

実務上の留意点は次のとおりです。

  • 取下げには相手方の同意が必要となる場合がありますので、価格の合意と取下げの手順を、書面において一体として定めます。
  • 供託がされている場合には、供託金の取戻し又は還付の手続をどのように行うかを、合意の内容に含めます。
  • 支払いの時期と株券又は株主名簿上の手続との先後関係を明確にします。代金の支払いと株式の移転とを同時に行う設計が安全です。
  • 裁判所の手続において双方が提出した評価の書面は、その後の他の株主との交渉においても参照され得ますので、合意した価格の水準がどのような事情に基づくものかを記録に残してください。

任意の交渉における和解と、自己株式の取得の手続

裁判外の交渉により会社が株式を取得する場合には、会社法上の手続を経る必要があります。合意の内容がこれらの手続と整合していなければ、和解そのものが実行できません。

 決議の要否

会社が自己株式を取得するには、あらかじめ株主総会の決議により、取得する株式の数、対価の内容及び総額、取得することができる期間を定めます(会社法第156条第1項)。特定の株主からの取得については、株主総会の特別決議を要します(同法第160条、第309条第2項第2号)。

 売主追加請求権

特定の株主から取得する場合には、他の株主は、自己をも売主に加えることを請求することができます(会社法第160条第3項)。この請求がされますと、取得の対象となる株式の数が予定を超え、和解の前提が崩れます。定款に売主追加請求権を排除する定めがあるかを確認し、ない場合には、他の株主の意向を事前に把握してください。

 分配可能額

自己株式の取得の対価の総額は、取得の効力が生ずる日における分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項)。直近の計算書類により分配可能額を算定し、和解の金額がこれを超えないことを確認します。超える場合には、支配株主が個人として取得する方法、取得の時期を分ける方法を検討してください。

他の株主への波及を防ぐ条項

1人の株主と和解した条件は、他の株主の知るところとなり、同一の条件を求める根拠として用いられます。次の条項を検討してください。

第1に、守秘義務の条項です。和解の成立の事実、金額、条件を第三者に開示しないことを、双方の義務として定めます。開示が許される例外(法令に基づく場合、税務の申告に必要な場合、専門家への相談)を明示し、違反した場合の取扱いも定めます。もっとも、守秘義務は他の株主が独自に情報を得ることまでを防ぐものではありませんので、次の第2の備えが必要です。

第2に、価格の根拠を記録に残すことです。当該株主に固有の事情(保有する株式の数、取得の経緯、係属していた手続の段階、解決に要する費用の見込み)を、社内の記録に明記します。他の株主から同一の条件を求められた場合に、条件の相違を説明する基礎となります。

第3に、同一の条件を将来にわたって保証しない旨の確認です。本件の解決が個別の事情に基づくものであり、他の場面における会社の判断を拘束しないことを、和解書において確認します。

第4に、和解の内容が計算書類その他の開示の対象となるかを確認します。自己株式の取得は貸借対照表に表れますので、開示を前提とした説明を準備してください。

蒸し返しを防ぐ清算条項の書き方

清算条項は、和解の目的を達成するための中核です。次の点に留意してください。

第1に、条項の及ぶ範囲を明確にします。「本件に関し」という限定を付した場合、何が本件であるかが後に争われます。株主としての地位に基づく一切の請求権を対象とするのか、特定の手続に関する請求権に限るのかを、具体的に記載してください。

第2に、対象となる当事者を特定します。会社と当該株主のみでよいか、代表取締役その他の役員個人を含めるか、株主の相続人及び承継人を含めるかを検討します。責任の追及が役員個人に向けられている事案では、役員を和解の当事者に加える必要があります。

第3に、株式の帰属を確定します。株式の譲渡を伴う和解においては、株主名簿の名義書換え、株券が発行されている場合には株券の交付、譲渡制限株式については会社の承認の手続を、いつ、誰が行うかを定めます。これらが未了のままでは、後に株主としての権利が行使される余地が残ります。

第4に、係属中の手続の処理を定めます。訴えの取下げ、申立ての取下げ、これらに対する同意、訴訟費用の負担について、期限を付して記載してください。

第5に、債務の履行の方法を定めます。支払いの時期、方法、振込先、遅延した場合の取扱いを記載します。分割払いとする場合には、期限の利益の喪失の条項を置きます。

和解が利益の供与に当たらないための整理

会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならないとされています(会社法第120条第1項)。和解による解決が、この規定に触れないよう、次の整理を行ってください。

第1に、支払いの法的な性質を明確にします。株式の売買の代金であるのか、損害賠償であるのか、解決金であるのかを和解書に明記し、それぞれの根拠を社内の記録に残します。性質が不明確なまま金銭が支払われますと、権利の行使に関する供与と評価される危険が生じます。

第2に、対価としての相当性を説明できるようにします。株式の売買であれば価格の算定の根拠を、損害賠償であれば損害の内容と額の算定を、資料により示します。相当性を欠く額の支払いは、取締役の善管注意義務の問題にも波及します。

第3に、株主としての権利の行使を控えることを直接の対価とする条項を置かないよう留意します。株式を譲り受ける結果として、当該株主が株主でなくなることは差し支えありません。他方、株主の地位を維持したまま、権利を行使しないことの対価として金銭を支払う設計は避けてください。

第4に、取締役会において審議し、判断の理由を議事録に記録します。手続を経ていることが、判断の合理性を支えます。

してはいけない対応

次の対応は、和解の効力そのものを危うくします。

  • 口頭の合意のみで手続を進めること。金額と条件は必ず書面により確定します。
  • 自己株式の取得の手続を経ないまま、会社が代金を支払うこと。
  • 分配可能額を確認しないまま金額を合意すること。
  • 株主代表訴訟に関する通知を受領しながら、2週間の期間を徒過すること。
  • 清算条項の範囲を確認せず、定型の文言をそのまま用いること。
  • 支払いの法的な性質を書面に記載しないまま、解決金の名目のみで処理すること。

弁護士に相談する意味

和解は、紛争の終局の局面であり、条項の一語により結果が変わります。とりわけ、清算条項の範囲、株式の帰属を確定する手順、他の株主への波及を防ぐ設計は、事案の全体を把握したうえで組み立てる必要があります。

また、和解の金額は、判決又は決定に至った場合の見通しと、手続に要する期間及び費用とを対照して判断すべきものです。この対照は、係属中の手続の内容と、これまでの主張の経過を踏まえなければ行うことができません。

なお、金額の水準の見極め、条項の具体的な文言、交渉の進め方については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立って御依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある御質問

質問1 和解をすると、他の株主にも同じ条件を求められませんか。

守秘義務の条項を置くとともに、当該株主に固有の事情を記録に残し、条件の相違を説明できる状態にしてください。

質問2 株主代表訴訟の和解には特別の手続が必要と聞きました。

会社が当事者でない場合には、裁判所からの通知及び催告を受け、2週間以内に異議を述べるかどうかを判断します。期間の管理が重要です。

質問3 総株主の同意がなければ取締役の責任を免除できないのではありませんか。

責任追及等の訴えに係る訴訟における和解については、その規定は適用されません(会社法第850条第4項)。

質問4 会社に資金が乏しい場合はどうすればよいですか。

分割払い、支配株主による個人としての取得、取得の時期を分ける方法を検討します。いずれも財源規制と税務上の取扱いを併せて確認します。

質問5 解決金という名目で支払っても差し支えありませんか。

支払いの法的な性質と根拠を書面に明記してください。名目のみでは、後に評価が争われます。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

係属中の手続の記録、株主名簿、定款、直近の計算書類、和解案、過去の株式の売買の実例が分かる資料、これまでのやり取りが分かる資料を御持参ください。

まとめ

敵対的な少数株主との紛争を和解により終わらせる場合、会社が定めるべき事項は次の6点に整理されます。

  • 自社の局面が、訴訟上の和解、非訟における合意、裁判外の和解のいずれに当たるかを確定します。
  • 株主代表訴訟については、通知及び催告に対する2週間の期間を管理します。
  • 会社が株式を取得する場合には、決議、売主追加請求権、分配可能額の3点を確認します。
  • 守秘義務の条項と、価格の根拠の記録により、他の株主への波及に備えます。
  • 清算条項の範囲、当事者、株式の帰属、係属中の手続の処理、履行の方法を具体的に定めます。
  • 支払いの法的な性質と相当性を明らかにし、取締役会の議事録に判断の理由を記録します。

和解の条件は、その後の株主構成の整理の出発点となります。方針を定める段階で、早期にご相談ください。

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