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持分なし医療法人への移行と出資持分の払戻し 認定制度を使う前に整理すること

公開 2026年11月2日更新 2026年11月5日

▶ 医療法人の出資持分払戻請求権を行使された場合の対策

出資持分のある医療法人では、社員の退社や死亡のたびに、払戻しの請求を受けるおそれがあります。この状態を根本から解消する方法として、持分の定めのない医療法人(以下「持分なし医療法人」といいます。)への移行があります。

もっとも、移行は、既に生じた請求を消すものではありません。また、移行の過程で持分の放棄に応じない社員がいれば、その社員から払戻しを求められることもあります。移行を検討する際には、払戻しとの関係を整理しておくことが欠かせません。

本記事では、医療法人の側の立場から、移行の仕組み、移行計画の認定制度、払戻しとの関係をご説明します。

持分なし医療法人への移行が払戻しの対策になる理由

払戻しの請求は、定款に持分の定めがあることを前提とする権利です。定款を変更して持分の定めをなくし、残余財産の帰属すべき者を国、地方公共団体、持分の定めのない医療法人等とすれば(医療法第44条第5項、第54条の9第6項、医療法施行規則第31条の2)、その後に資格を喪失する社員から払戻しを求められる原因がなくなります。

定款の変更には社員総会の決議を要し、変更は原則として都道府県知事の認可を受けなければ効力を生じません(医療法第54条の9第1項・第3項)。

移行計画の認定制度

制度の内容

平成19年4月1日より前に設立された社団医療法人、又は同日より前に設立の認可を申請し、同日以後に設立の認可を受けた社団医療法人で、残余財産の帰属すべき者を定めていないもの等(経過措置医療法人。附則第10条第2項・第10条の2)は、持分なし医療法人への移行に関する計画(移行計画)を作成して厚生労働大臣に提出し、その計画が適当である旨の認定を受けることができます(良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)附則第10条の3第1項)。

事項 内容 根拠
認定を受けられる期限 令和11年12月31日まで 附則第10条の3第5項
社員総会の議決 移行計画が社員総会で議決されていること 附則第10条の3第4項第1号
移行の期限 認定の日から5年を超えない範囲 附則第10条の3第4項第3号
運営に関する要件 関係者に特別の利益を与えないこと、役員の報酬等の支給の基準、遊休財産額の上限等 附則第10条の3第4項第4号、医療法施行規則附則第57条の2
期限までに移行しない場合 認定が取り消されます 附則第10条の4第3項

移行計画には、移行の後の医療法人の類型(社会医療法人、特定医療法人、基金拠出型医療法人又はそれ以外の医療法人)、移行に向けた取組の内容、検討の体制、移行の期限等を記載し、定款と出資者名簿を添付します(附則第10条の3第2項・第3項)。

認定を受けられる期限は、令和8年12月31日までとされていましたが、医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号。令和7年12月12日公布)により、令和11年12月31日まで延長されました(附則第10条の3第5項)。延長の後も、移行の期限は認定の日から5年を超えない範囲で定めますので、認定を受ける時期と移行の期限を合わせて検討します。

移行計画に記載する払戻しの見込み

移行計画には、出資者による持分の放棄又は払戻しの見込みも記載します(医療法施行規則附則第56条第3項第2号)。つまり、制度そのものが、社員の一部が持分を放棄せず払戻しを受ける場合があることを前提としています。移行を計画する段階で、各社員の意向と、払戻しが生じた場合の資金を見積もっておく必要があります。

移行の後の認定の効力と報告

認定は、持分なし医療法人に移行した時に終わるのではありません。認定医療法人が持分なし医療法人(新医療法人)になった日から6年を経過したときに、認定は効力を失います(附則第10条の6)。認定医療法人は、厚生労働省令で定めるところにより、認定移行計画の実施状況と運営の状況を厚生労働大臣に報告しなければなりません(附則第10条の8)。移行の後もこの期間は、報告を続ける体制を整えておく必要があります。

税務の取扱い

移行に伴う持分の放棄には、税務上の取扱いが関係します。厚生労働省の案内では、既に相続が発生しており納税猶予等の適用を希望する場合には、相続税の申告期限までに認定を受ける必要があるとされています。

税制上の特例は、租税特別措置法に定められています。医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の納税猶予及び免除(第70条の7の9)、同じく贈与税の税額控除(第70条の7の10)、個人の死亡に伴い贈与又は遺贈があったものとみなされる場合の特例(第70条の7の11)、医療法人の持分についての相続税の納税猶予及び免除(第70条の7の12)、同じく相続税の税額控除(第70条の7の13)、医療法人の持分の放棄があった場合の贈与税の課税の特例(第70条の7の14)です。これらの条文には、令和11年12月31日までの厚生労働大臣の認定に関する定めが置かれています。移行をした日から6年を経過する日までの間に認定が取り消された場合の取扱いも定められています(第70条の7の14第2項)。特例を受けられるか、税額がいくらになるかは、税理士と連携して確かめます。

移行の検討を含め、払戻しの請求を受けた医療法人の側の対応は、次のページでご案内しています。

移行と払戻しの関係で注意すること

既に資格を喪失した社員の請求

払戻しの請求権は、社員の資格を喪失した時に、その時点の定款に基づいて生じると考えられます。そのため、既に退社した社員や死亡した社員の相続人の請求権は、後に定款を変更して持分なし医療法人に移行しても、当然に消えるものではないと考えられます。既に請求を受けている場合は、移行の検討とは別に、その請求への対応を進めます。

持分の放棄に応じない社員

移行には、出資者が持分を放棄することが前提となります。放棄に応じない社員が退社して払戻しを求めれば、移行の過程でまとまった資金が必要になります。移行を社員総会に諮る前に、各社員の意向を確かめ、払戻しが生じる場合の額と資金の手当てを見積もります。

移行の途中で生じた退社・死亡

移行計画の期間中に社員が退社し、又は死亡した場合も、その時点の定款に持分の定めがあれば、払戻しの請求が問題となります。移行の期限を定める際には、社員の年齢構成や後継の体制も考慮します。

払戻しの額を出資額に限る定款の変更

持分なし医療法人への移行のほかに、定款を変更して、払戻しや残余財産の分配を出資した額の範囲に限る医療法人(いわゆる出資額限度法人)とする方法も知られています。厚生労働省の医療法人に関する案内でも、この類型の課税関係に関する国税庁の資料が紹介されています。ただし、この変更も、既に生じた請求権に当然に及ぶものではないと考えられますので、時期と社員の同意の取り方を慎重に検討します。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

弁護士に相談する意味

移行は、定款の変更、社員総会の運営、各社員との交渉、税務、資金の手当てが組み合わさる手続です。既に払戻しの請求を受けている場合は、請求への対応と移行の計画を同時に設計する必要があります。

社員の意向の確かめ方、放棄の合意の取り付け方、払戻しが生じた場合の交渉の進め方は、事案ごとに異なり、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示していません。税務の判断は税理士と連携して進めます。ご相談は事前予約制です。

よくあるご質問

質問1 移行すれば、退社した社員からの請求を断れますか。

既に資格を喪失した社員の請求権は、移行によって当然に消えるものではないと考えられます。請求への対応は別に進めます。

質問2 認定はいつまで受けられますか。

令和11年12月31日までです。移行の期限は、認定の日から5年を超えない範囲で定めます。

質問3 社員の全員が持分を放棄しないと移行できませんか。

放棄に応じない社員がいる場合は、その社員への払戻しを含めた計画が必要になります。移行計画には、持分の放棄又は払戻しの見込みを記載します。

まとめ

  • 持分なし医療法人への移行は、将来の払戻しの請求の原因をなくす方法です。
  • 移行計画の認定は令和11年12月31日まで受けられ、移行の期限は認定の日から5年以内です。
  • 既に資格を喪失した社員の請求権は、移行によって当然に消えるものではないと考えられます。
  • 持分の放棄に応じない社員への払戻しの資金も見積もっておきます。

移行と払戻しの対応は、同時に設計することで負担を抑えられます。早めにご相談ください。

関連するご案内

出資持分の払戻しの請求を受けた医療法人の方は、次の各ページもご覧ください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

この記事の位置付け

本ページは、持分の定めのない医療法人への移行が出資持分の払戻しとどう関係するかを、移行計画の認定制度に沿ってご説明します。既に届いた請求への初動や金額の争い方は、それぞれ初動のページと評価のページで扱います。

▶ 医療法人の出資持分払戻請求権を行使された場合の対策

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本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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