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定足数を緩和する定款変更を経た株式併合決議の取消し―東京高等裁判所令和5年9月28日判決

公開 2023年9月28日

▶ 少数株主の排除・スクイーズアウトに関する会社側の御相談

株式併合によって少数株主を会社から退出させる場面で、支配株主側が段階を踏んで手続を進めた結果、株式併合決議そのものが取り消された判例です。議決権の50%を有する代表取締役が、まず自分だけが出席した株主総会で特別決議の定足数を「過半数」から「3分の1以上」に変更し、その決議の取消しの訴えの提訴期間(3か月)が過ぎた後に、変更後の定款に基づいて、他の株主全員が株主の地位を失う株式併合決議を単独で行いました。

東京地方裁判所令和4年11月28日判決(第一審)は、株式併合決議について「決議の方法が著しく不公正」であるとしてこれを取り消し、定款変更決議などの不存在確認・取消しの請求は棄却しました。東京高等裁判所令和5年9月28日判決(控訴審)は、第一審判決を一部補正したうえで引用し、会社側の控訴と株主側の附帯控訴をいずれも棄却して、第一審の結論を維持しました。控訴審は、株式併合決議を行った株主総会の招集手続や決議だけを取り上げれば法令や定款に違反しないとしても、一連の事情の下では決議の方法が著しく不公正であると述べています。

本記事では、2つの審級の判断を順に整理し、株式併合を計画する会社・支配株主が、手続の公正さを確保し、決議取消しのリスクを避けるために、どの点に注意すべきかを検討します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 2人が50%ずつ出資して設立した飲食店の会社
    2. 従前から、議題の記載のない招集通知が直前に届くだけだった
    3. 令和元年の臨時株主総会で、定足数を緩和する定款変更
    4. 令和2年の臨時株主総会で、30万株を1株とする株式併合
    5. 端数相当株式の売却の連絡で、株主が株式併合を知った
  4. 事案の経緯
  5. 判断の前提となった定款の定めと法令の規定
    1. 定款15条1項―招集通知の発送時期
    2. 定款17条2項(令和元年総会当時は18条2項)―特別決議の定足数
    3. 定款19条―議決権の代理行使
    4. 定款4条―公告方法
    5. 会社法309条2項―特別決議の要件(控訴審が補正で加えた記載)
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 株主RGN氏の請求
    2. 主要な争点についての主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審の判断
    1. 代表取締役の認識と意図についての事実認定
    2. 本件承認決議の不存在確認の利益―会社の失権の主張を退けた
    3. 令和元年総会の各決議の不存在―定足数不足は取消事由にとどまる
    4. 本件定款変更決議の取消し―提訴期間の経過により認められない
    5. 本件株式併合決議―決議の方法が著しく不公正であり取り消す
  9. 控訴審の判断
    1. 第一審判決を補正のうえ引用し、結論を維持した
    2. 補正の箇所
    3. 代表取締役の意図―事業上の目的と排除の意図は併存し得る
    4. 提訴期間の経過による治癒の主張―一連の諸事情の下では著しく不公正
  10. 審級ごとの結論の推移
  11. 主文及び結論
  12. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  13. よくあるご質問
    1. 株式併合を行う株主総会の招集手続が法令や定款に違反していなければ、決議が取り消されることはありませんか。
    2. 定款変更決議の取消しの訴えの提訴期間が過ぎれば、その定款に基づく株式併合決議は安全ですか。
    3. 取締役会を設置していない会社では、招集通知に議題を書かなくてもよいのですか。
    4. 株式併合の後、少数株主には官報公告だけで済ませてよいですか。
    5. 資金調達などの事業上の必要があれば、少数株主を排除する意図は問題になりませんか。
  14. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 東京地方裁判所民事第8部 令和4年11月28日 令和2年(ワ)第18534号 判決 株式併合決議を取り消し、定款変更決議の不存在確認・取消し及び総数引受契約の承認決議の不存在確認の請求は棄却
控訴審 東京高等裁判所第19民事部 令和5年9月28日 令和4年(ネ)第5998号(控訴)、令和5年(ネ)第887号(附帯控訴) 判決 会社側の控訴及び株主側の附帯控訴をいずれも棄却(第一審判決を補正のうえ維持)

上訴の状況について、第一審判決に対して会社側が控訴し、株主側が附帯控訴したことは、控訴審判決の本文で確認できます。控訴審判決の後の上告等の有無及び判決の確定は、判決本文からは確認できていません。この表は、各判決本文の冒頭及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。なお、第一審判決と控訴審判決とでは、同じ人物に異なる符号が付けられていますが、本記事では同じ表記にそろえています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、その旨を示しています。

本記事の表記 立場
飲食店運営会社HNK 第一審の被告、控訴審の控訴人兼附帯被控訴人。飲食店業等を目的とする株式会社で、取締役会を設置しておらず、株式の譲渡に株主総会の承認を要する旨の定款の定めがあります
代表取締役MTS氏 飲食店運営会社HNKの発起人で、設立時から代表取締役。株式の50%を保有していました
共同創業者である株主RGN氏 第一審の原告、控訴審の被控訴人兼附帯控訴人。代表取締役MTS氏と共同で出資して会社を設立した株主で、本件当時は株式の38%を保有し、海外に居住していました
株主TKD氏 株主RGN氏から株式の10%の無償譲渡を受けた株主。海外に多数の店舗を展開するラーメン店の共同経営者です
株主YSM氏 株主RGN氏から株式の2%の無償譲渡を受けた株主。飲食店運営会社HNKの料理長です
株式価値算定会社VLC 飲食店運営会社HNKの依頼により株式価値評価算定書を作成した会社
通知先の会社KRN 株主RGN氏が、株主総会等の通知の送付先として会社に通知した国内の会社

本記事では、株主RGN氏、株主TKD氏及び株主YSM氏の3名をまとめて「RGN氏ら」と表記することがあります(判決本文の「原告ら」「被控訴人ら」に当たります)。

事案の概要

2人が50%ずつ出資して設立した飲食店の会社

飲食店運営会社HNKは、平成19年2月に設立された飲食店業等を目的とする株式会社です。設立に当たり、株主RGN氏と代表取締役MTS氏がそれぞれ3,000万円を出資し、株式を50%ずつ保有することにしました。株主RGN氏は海外に居住して現地で寿司店等を経営していたため、MTS氏が代表取締役として会社の経営を担うことになりました。

株主RGN氏は、平成20年頃までに、自己の株式のうち10%を株主TKD氏に、2%を株主YSM氏にそれぞれ無償で譲渡しました。この結果、本件の各株主総会の基準日における持株比率は、代表取締役MTS氏が50%、株主RGN氏が38%、株主TKD氏が10%、株主YSM氏が2%となっていました。株主RGN氏、株主TKD氏及び株主YSM氏の3名の持株比率の合計は50%で、MTS氏と同じ割合です。

当初、株主RGN氏と代表取締役MTS氏は協力して会社の経営に当たっていましたが、平成29年頃、株主RGN氏が計画したフランス料理店の開店の準備作業等をめぐって関係が悪化しました。

従前から、議題の記載のない招集通知が直前に届くだけだった

判決が認定したところでは、両者の関係が悪化する前から、飲食店運営会社HNKでは、議題の記載されていない招集通知が株主総会の開催日の直前にRGN氏らに送付されていました。RGN氏らが株主総会に出席したことはなく、株主総会後に決議内容が通知されたこともありませんでしたが、RGN氏らが決議内容の確認を会社に求めたこともありませんでした。

令和元年の臨時株主総会で、定足数を緩和する定款変更

令和元年12月16日午後7時頃、会社は、同月20日午前10時から臨時株主総会を開催する旨の招集通知を発しました。株主RGN氏には国際スピード郵便で海外の住所宛に送られています。招集通知には議題及び議案の記載はなく、書面による議決権の行使や電磁的方法による議決権の行使ができる旨の決定もされていませんでした。

この臨時株主総会(以下「令和元年総会」といいます)には、代表取締役MTS氏だけが出席し、3つの議案が可決されました。そのうち、第2号議案は、株主総会の定足数に関する定款の定め(当時の定款18条1項及び2項)を「過半数」から「3分の1以上」に変更するもの(以下「本件定款変更決議」といいます)、第3号議案は、MTS氏との間で募集株式の総数引受契約を締結することの承認を求めるもの(以下「本件承認決議」といいます)でした。RGN氏らは出席せず、代理人による議決権行使もしませんでした。会社は、総会の後、決議が行われたことをRGN氏らに通知しませんでした。

令和2年の臨時株主総会で、30万株を1株とする株式併合

令和2年4月2日、株主RGN氏は、当時の代理人弁護士を通じて、会社法126条1項に基づき、株主総会等の通知を国内の通知先の会社KRN宛に送付するよう会社に求めました。

令和2年4月24日(金曜日)午後3時頃、会社は、同月28日(火曜日)午前9時から株主総会を開催する旨の招集通知を発しました。代表取締役MTS氏、株主RGN氏(通知先の会社KRN宛)及び株主YSM氏は同月25日に、株主TKD氏は同月27日に、それぞれ招集通知を受領しています。この招集通知にも議題及び議案の記載はなく、書面による議決権の行使等ができる旨の決定もされていませんでした。

この臨時株主総会(以下「令和2年総会」といいます)でも、出席したのは代表取締役MTS氏だけでした。会社の発行済株式の総数60万株について、普通株式30万株を1株にする割合で株式を併合し、効力発生日を令和2年5月29日、同日における発行可能株式総数を100株とする議案(以下「本件株式併合決議」といいます)が、MTS氏の賛成により可決されました。

会社は、令和2年5月8日、併合の割合等の事項を官報に掲載する方法で公告しましたが、RGN氏らに個別の通知はしませんでした。令和2年5月29日に株式併合の効力が生じ、代表取締役MTS氏が唯一の株主となりました。なお、会社は、令和2年4月27日頃、株式価値算定会社VLCから、令和2年3月31日時点の修正簿価純資産額がマイナスであることを理由に、修正簿価純資産法による株式価値は0円と算定する株式価値評価算定書を受領していました。

端数相当株式の売却の連絡で、株主が株式併合を知った

会社は、株式併合に伴う変更登記を経たうえで、東京地方裁判所に端数相当株式の任意売却許可を申し立てて許可を得、令和2年7月22日頃、RGN氏らに対し、売却代金の交付先の連絡を求める書面を送付しました。RGN氏らは、この書面を受け取るまで、本件株式併合決議が行われたことを認識していませんでした。株主RGN氏は、令和2年7月27日、本件株式併合決議の取消しを求めて提訴しました。

訴訟の中で、会社は令和3年1月26日に令和元年総会の議事録を書証として提出しました。株主RGN氏は、少なくともこの議事録を受領するまで、令和元年総会の決議を認識していませんでした。株主RGN氏は、その後、本件定款変更決議の不存在確認・取消し、本件株式併合決議の不存在確認、本件承認決議の不存在確認を求める訴えを順次追加しました。

事案の経緯

時期 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成19年2月22日 飲食店運営会社HNKの設立。株主RGN氏と代表取締役MTS氏が各3,000万円を出資し、50%ずつ保有
平成20年頃まで 株主RGN氏が、株主TKD氏に10%、株主YSM氏に2%を無償譲渡
平成29年頃 フランス料理店の開店準備等をめぐり、株主RGN氏と代表取締役MTS氏の関係が悪化
令和元年12月16日午後7時頃 令和元年総会の招集通知を発送(議題の記載なし。開催時刻の約87時間前)
令和元年12月20日 令和元年総会。代表取締役MTS氏のみ出席し、本件定款変更決議(定足数を「過半数」から「3分の1以上」へ)及び本件承認決議を可決。決議後の通知なし
令和2年4月2日 株主RGN氏が、通知を受ける場所を国内の通知先の会社KRNとするよう会社に通知
令和2年4月24日午後3時頃 令和2年総会の招集通知を発送(議題の記載なし。開催時刻の約90時間前)。株主RGN氏側の受領は25日、株主TKD氏は27日
令和2年4月27日頃 株式価値算定会社VLCの株式価値評価算定書を受領(株式価値0円)
令和2年4月28日 令和2年総会。代表取締役MTS氏のみ出席し、本件株式併合決議(30万株を1株に併合)を可決
令和2年5月8日 併合の割合等を官報で公告。RGN氏らへの個別の通知なし
令和2年5月29日 株式併合の効力発生。代表取締役MTS氏が唯一の株主に
令和2年6月12日、同月24日頃 株式併合に伴う変更登記の申請、登記の完了
令和2年7月10日頃から22日頃 端数相当株式の任意売却許可の申立て(17日に許可)。22日頃、RGN氏らに代金の交付先の連絡を求める書面を送付
令和2年7月27日 株主RGN氏が本件株式併合決議の取消しを求めて提訴
令和2年10月5日 会社が株主TKD氏に任意売却の代金として5円を支払う
令和3年1月26日 会社が令和元年総会の議事録を書証として提出し、株主RGN氏が受領
令和3年2月1日、4月7日、12月8日 株主RGN氏が、各決議の不存在確認・取消しを求める訴えを順次追加
令和4年11月28日 東京地方裁判所が本件株式併合決議を取り消し、その余の請求を棄却する判決
令和5年9月28日 東京高等裁判所が控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する判決

判断の前提となった定款の定めと法令の規定

以下は、第一審判決の前提事実に記載された会社の設立時の定款の定めを、判決本文の文言のまま引用したものです。判決本文が定款の内容を整理して記載したもので、定款そのものの逐語の引用とは限りません。令和元年総会当時の定款18条1項及び2項は、設立時の定款17条1項及び2項と同一の文言であったと認定されています。数字の表記も判決本文のとおりとしています。

定款15条1項―招集通知の発送時期

株主総会を招集するには、株主総会の日の3日前までに、議決権を行使することができる株主に対して招集通知を発するものとする(15条1項)。

定款17条2項(令和元年総会当時は18条2項)―特別決議の定足数

会社法309条2項に定める決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う(17条2項)。

本件定款変更決議は、この定めと、普通決議の定足数を定める17条1項(令和元年総会当時は18条1項)について、定足数に係る部分をいずれも「過半数」から「3分の1以上」に変更するものでした。

定款19条―議決権の代理行使

株主が代理人をもって議決権を行使しようとするときは、その代理人は1名とし、被告の議決権を有する株主であることを要する(19条1項)。

前項(上記オ)の場合には、株主又は代理人は代理権を証する書面を株主総会ごとに提出しなければならない(19条2項)。

引用中の「被告」は飲食店運営会社HNKを指し、「前項(上記オ)」は直前の19条1項を指します(「上記オ」は判決本文の項目の記号です)。代理人は会社の株主に限られ、株主総会ごとに代理権を証する書面の提出が必要とされていました。第一審判決は、この定めを、海外に居住する株主RGN氏の議決権の代理行使を事実上困難にする事情の一つとして取り上げています。

定款4条―公告方法

被告の公告方法は、官報に掲載する方法とする(4条)。

会社法309条2項―特別決議の要件(控訴審が補正で加えた記載)

控訴審判決は、第一審判決の前提事実に、本件株式併合決議の決議要件について次の記載を加えています(本件定款変更決議及び本件承認決議についても、会社法309条2項5号、11号を根拠に同様の記載を加えています)。

本件株式併合決議も、株主総会において議決権を行使することができる株主の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行われなければならない(会社法309条2項4号)。

つまり、定款で定めれば特別決議の定足数を3分の1以上まで引き下げることは法令上可能です。本件では、その引下げを行う定款変更決議自体が、当時の定款が求める定足数(過半数)を満たさないまま、50%しか保有しない代表取締役MTS氏の単独出席で行われていました。

当事者の請求と主要な主張

株主RGN氏の請求

株主RGN氏は、次の3つの決議について、不存在確認又は取消しを求めました。

  • 令和元年総会の本件定款変更決議の不存在確認、及び取消し
  • 令和元年総会の本件承認決議の不存在確認
  • 令和2年総会の本件株式併合決議の不存在確認、又は取消し(両者は選択的な請求)

主要な争点についての主張

論点 株主RGN氏の主張 飲食店運営会社HNKの主張
本件承認決議の不存在確認の利益 総数引受契約の契約書が提出されておらず、払込期日を経過したかどうかが不明である 代表取締役MTS氏は払込期日までに払込みをせず失権したから、確認の利益はない
令和元年総会の各決議の不存在 特別決議の定足数を欠き、議題を記載せず、決議後も通知しないで提訴期間を経過させたもので、RGN氏らを排除するために一連のものとして巧妙に計画され、秘密裡に敢行された。法的な瑕疵が著しく、決議が存在すると評価できない 定足数不足は取消事由にすぎない。取締役会非設置会社で書面投票等を定めていない場合は議題の通知は不要である。非上場会社で決議後の通知をする実務慣行はない
本件定款変更決議の取消し 定足数不足の取消事由がある。提訴期間は除斥期間であるが、形式的な適用が著しく正義・公平の理念に反する場合は制限すべきであり、議事録を受領してから3か月以内に訴えを追加した 会社法831条1項には効果が生じないと解する根拠規定がなく、招集通知を発しており、総会の開催を知り得ない状況を殊更に作出したわけでもない
本件株式併合決議の不存在又は取消し 本件定款変更決議は不存在だから定足数不足の取消事由がある。官報公告で通知に代えたこと、新型コロナウイルスによる渡航制限期間中に招集通知の発送から開催まで5日しか設けなかったことなどから、決議不存在事由又は決議の方法の著しい不公正がある。経営権を独占する目的で行われた特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議でもある 変更後の定款では3分の1以上の出席で足りる。公告は会社法181条に基づく適法なもので、官報公告であることは定款・登記で知り得た。海外居住株主を特別扱いする法的根拠はなく、代理人による議決権行使も可能であった。株主RGN氏は株式買取請求権等を行使せず漫然と放置したにすぎない。少数株主排除目的というだけでは著しく不当な決議に当たらない

控訴審判決は、会社側の主張に、株主RGN氏は自ら又は親密な株主を通じて、招集通知を受けた後に電話等で会社に問い合わせたり、電話会議システム等による出席を求めたりすることも可能であったとの記載を補正で加えています。控訴審では、会社側は、さらに次のとおり主張しました(判決本文の当審における控訴人の主張の要約です)。

  • 本件定款変更決議は、会社を存続させるための資本提携や増資の実施、辞任した監査役の後任の選任のため、RGN氏らが株主総会に一切出席せず定足数を満たさない状況を根本的に解決する目的で行ったものである。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響で売上高が減少し、資本業務提携による資金調達を図ったところ、提携先候補の企業から株主構成による法的リスクの解消を求められたため本件株式併合決議を実施したもので、令和元年総会の時点で株式併合を予定していたのではない。そもそも、「議案の目的・動機は、決議の効力には何ら関係のない事由である」。
  • 本件定款変更決議の法的瑕疵は提訴期間の経過により治癒されており、本件株式併合決議についてRGN氏らの議決権行使を著しく困難又は不可能としたような事情はない。

結論を左右した争点

第一審判決は、争点を、(1)本件承認決議の不存在確認の利益の有無、(2)令和元年総会の各決議の不存在事由の有無、(3)本件定款変更決議の取消事由の有無(提訴期間の経過を含みます)、(4)本件株式併合決議の不存在事由又は取消事由の有無の4つに整理しました。

結論を分けたのは、次の2点です。第一に、令和元年総会の決議の瑕疵(定足数不足)は、決議の不存在に当たるほど重大なものか、それとも取消事由にとどまり、3か月の提訴期間の経過によって争えなくなったのか。第二に、令和2年総会の株式併合決議は、その総会の手続だけをみれば大きな違反がないとしても、先行する定款変更決議から続く一連の経緯を踏まえて「決議の方法が著しく不公正」(会社法831条1項1号)と評価されるか、という点です。両審級とも、第一の点では会社側の主張を、第二の点では株主側の主張を採用しました。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断

代表取締役の認識と意図についての事実認定

第一審判決は、代表取締役MTS氏の本人尋問の結果を含む証拠に基づき、次の事実を認定しました(以下は判決本文の認定事実の要約です)。

  • MTS氏は、遅くとも令和元年12月20日までには、合計で50%の株式を有するRGN氏らを会社から排除することを決意し、そのために特別決議を要する株式併合を計画した。しかし、当時の定款では自分だけでは特別決議ができず、定款に違反する決議をすればRGN氏らが取消しの訴えを提起できることを認識していた。
  • MTS氏は、その前段階として定足数を緩和する定款変更を行うこととしたが、RGN氏らに会社の状況や定款変更の必要性等を事前に説明して協力を得ることを目指すのではなく、従前と同じ方法で招集通知を発すればRGN氏らは出席せず、決議後に確認を求められる可能性も低いと予測したうえで、単独で定款変更決議を行い、提訴期間の経過によって取消しの訴えを提起できない状況を作出することを目指した。
  • MTS氏は、RGN氏らの出席の可能性を低下させる意図で、開催日の4日前(開催時刻の約87時間前)に、議題の記載のない招集通知を発した。そして、定足数に関する定款の定めに違反することを認識したうえで、単独で本件定款変更決議と本件承認決議を行った。
  • 提訴期間が経過して取消しの訴えを提起できない状況が生じると、その約1か月後に、同様の意図で、開催日の4日前(開催時刻の約90時間前)に議題の記載のない令和2年総会の招集通知を発し、変更後の定足数を前提に単独で本件株式併合決議を行った。
  • 決議後は、RGN氏らに内容を把握されることを可能な限り遅らせ、取消しの訴え等を提起される可能性を可能な限り低下させる意図で、個別の通知をせず、官報公告によって公告した。

第一審判決は、これらの認識・意図を推認する理由として、MTS氏自身が定款違反の認識や取消しの訴えが可能であることの認識を明確に供述していること、定款変更決議がMTS氏単独での株式併合決議を可能にする内容であったこと、株式併合決議が定款変更決議の約4か月後(提訴期間の経過から約1か月後)という近接した時期に行われたこと、個別に通知することに支障があった事情がないのに官報公告をあえて利用し、その理由について合理的な説明をしていないことなどを挙げ、これに反するMTS氏の供述は信用できないとしました。

本件承認決議の不存在確認の利益―会社の失権の主張を退けた

会社は、代表取締役MTS氏が払込期日までに払込みをせず失権したから確認の利益はないと主張しましたが、第一審判決は、会社が払込期日さえ特定せず、総数引受契約の契約書も提出しておらず、失権を認めるに足りる他の証拠もないとして、この主張を採用しませんでした。

令和元年総会の各決議の不存在―定足数不足は取消事由にとどまる

第一審判決は、本件定款変更決議と本件承認決議に特別決議の定足数不足の瑕疵があったことを認めつつ、「当該瑕疵は決議の方法の法令・定款違反であるから、決議取消事由(会社法831条1項1号)を構成するにすぎないものと解される。」としました。

招集通知に議題を記載しなかった点については、各総会の招集決定に際して書面投票又は電子投票を可能とする旨の決定がされていなかった以上、取締役会を設置していない会社において、議題を株主に通知することが法令上必要であったとはいえない(会社法299条2項、4項参照)として、法的な瑕疵を否定しました。決議後の通知をしなかった点についても、「株主総会後に決議の内容を株主に通知することを要すると解すべき法令上の根拠は見当たらない」としています。

そのうえで、MTS氏がその後に株式併合決議を予定していたことや、定足数不足の瑕疵を認識していたことを考慮しても、本件各決議について「法的な瑕疵が著しいために決議が存在すると評価することができないとまでいうことはできない。」と判断しました。

本件定款変更決議の取消し―提訴期間の経過により認められない

令和元年12月20日の本件定款変更決議について、取消しの訴えが追加されたのは令和3年4月7日であり、決議の日から3か月以内という提訴期間を経過していたことは明らかであるとされました。第一審判決は、仮に著しく正義・公平の理念に反する事情がある場合に提訴期間の適用を排除する余地があると解したとしても、会社が令和元年総会に先立って招集通知を発していたことなどに照らせば、本件で提訴期間の適用を排除すべき事情があったとまでは認め難いとして、取消しの請求を退けました。

本件株式併合決議―決議の方法が著しく不公正であり取り消す

第一審判決は、代表取締役MTS氏が、RGN氏らを排除する目的で、当初から意図的に法令・定款に違反する本件定款変更決議を行い、提訴期間の経過によって自分が単独で株式併合決議を行える状況を作出し、その約1か月後に株式併合決議を行ったと認めました。あわせて、その状況を作出するために、RGN氏らが総会への出席が事実上困難となる開催日の直前に受領するよう、議題の記載のない招集通知を発したと認めています。

特に、38%を保有する株主RGN氏については、出席すれば出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な特別決議ができなくなる可能性があったため、本人の出席だけでなく、日本に居住する他の株主に代理権を証する書面を送付する必要がある代理行使も事実上困難にすることを意図していたと認定しました。

そのうえで、第一審判決は次のとおり判断しました(引用中の代表取締役を指す符号を、本記事の表記に置き換えています)。

そうすると、本件定款変更決議による変更後の定足数を前提として代表取締役MTS氏が単独で行った本件株式併合決議は、上記の経緯等に照らせば、決議の方法が著しく不公正なものであったというべきであるから、決議取消事由(会社法831条1項1号)があると認めるのが相当である。

会社は、決議に至るまでの個々の手続に法的な瑕疵がないことを強調しましたが、第一審判決は、一連の手続の起点となった本件定款変更決議に定足数不足の瑕疵があり、MTS氏がこれを認識しながら意図的に単独で決議し、提訴期間の経過によって単独での株式併合決議を可能にする方策を講じたことを踏まえて決議の方法の公正さを評価すべきであるとし、「決議に至るまでの個々の手続に法的な瑕疵がないことは、本件株式併合決議に係る決議の方法が著しく不公正なものであったとの上記判断を左右するものではない。」としました。

また、株主RGN氏が株主としての権利を行使しなかった結果であるとの会社の主張についても、「原告が株主としての権利を行使しなかったからといって、そのことによって被告が行った著しく不公正な決議の方法が公正なものとなるわけではない」(「原告」は株主RGN氏、「被告」は飲食店運営会社HNKを指します)と述べ、むしろMTS氏が従前の総会の運用状況等を利用して、RGN氏らが権利を行使しない状況を意図的に作出したとみるべきであるとしました。

第一審判決は、本件株式併合決議の取消しを認容したため、選択的に求められた不存在確認については判断を要しないとしました。株主RGN氏が主張した特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(会社法831条1項3号)についても、判決本文には判断が示されていません。

控訴審の判断

第一審判決を補正のうえ引用し、結論を維持した

控訴審判決は、株主RGN氏の請求は本件株式併合決議の取消しを求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がないと判断しました。その理由は、第一審判決の「当裁判所の判断」の1から5までを、次の補正をしたうえで引用し、当審における会社側の主張に対する判断を付加するというものです。結論は第一審判決と同じで、判断の枠組みも維持されています。

補正の箇所

控訴審判決は、第一審判決の前提事実・当事者の主張の部分と、判断の部分の双方に補正を加えています。主なものは次のとおりです(引用中の「控訴人」「被控訴人ら」等の符号は、本記事の表記に置き換えています)。

補正の対象 補正の内容
前提事実(決議要件) 本件各決議及び本件株式併合決議が、会社法309条2項(5号、11号、4号)の特別決議の要件によらなければならない旨の記載を追加
前提事実(日付) 第一審判決2頁22行目の「令和2年4月28日」を「令和2年5月29日」に改める
株主側の主張 本件承認決議について「したがって、本件承認決議の不存在確認の利益はある。」との記載を追加。株式併合決議の主張中、「通知に代えて」の次に「官報に掲載する方法による」を追加
会社側の主張 「民法724条後段」を「平成29年法律第44号による改正前の民法724条後段」に改める。電話等で問い合わせたり電話会議システム等による出席を求めたりすることも可能であったとの記載を追加
認定事実 「提訴期間」の次に「(3箇月)」を追加。令和元年総会について、MTS氏の「自己が保有する株式が過半数を下回る50パーセントであったため、」単独で決議した旨を追加
認識・意図の推認(補足説明) 株式併合決議を「単独で行うことも」を「定款変更決議を経ることなく単独で行うことも」に改める。株式併合決議の内容について、30万株を1株にする割合の併合で、当時の持株数からしてRGN氏らの株主の地位を失わせMTS氏のみを株主にとどまらせる内容であったこと、及び「RGN氏らの株主権を喪失せしめるという重大な結果を生じさせるものであるにもかかわらず、飲食店運営会社HNKは、RGN氏らに対し、事前にその決議事項を知らせていないこと」を推認の根拠として明記。官報公告の利用について「合理性に欠ける」との表現を削除
提訴期間の適用排除の判断 招集通知を発していたことに加えて、「RGN氏らは、令和元年総会の後、飲食店運営会社HNK又は代表取締役MTS氏に対し、同総会における決議事項を確認するような行動は一切取っていないこと」を、提訴期間の適用を排除すべき事情がない理由として追加

このうち、推認の根拠に関する補正は、株式併合決議が株主の地位を失わせる重大な結果を生じさせるのに、事前に決議事項を知らせていないことを明示した点で、会社側にとって重い意味を持ちます。一方、提訴期間に関する補正は、RGN氏らが決議事項を確認する行動を取らなかったことを、本件定款変更決議の取消しを認めない理由の側に加えたもので、株主側の附帯控訴を退ける方向の補強といえます。

代表取締役の意図―事業上の目的と排除の意図は併存し得る

会社は、本件定款変更決議は資本提携・増資や監査役の選任のためであり、令和元年総会の時点では株式併合を予定していなかったと主張しました。控訴審判決は、次の事情から、MTS氏が令和元年総会の招集通知を発する時点から、本件株式併合決議によりRGN氏らを株主から排除する意図を有していたことは明らかであるとしました。

  • 本件定款変更決議が定款の定めに違反するとの認識を有しながら実施したこと
  • 本件定款変更決議は、MTS氏が単独で株式併合決議をすることを可能にするものであったこと
  • 株式併合決議が定款変更決議の4か月後という近接した時期に行われたこと
  • 両総会とも、議題を記載しない招集通知を開催日の直前に発送することで、事実上、RGN氏らが出席し議決権を行使することを困難にしていたこと
  • 株主RGN氏は共同出資して会社を設立した者で、令和元年当時も38%を保有し、MTS氏の議決権だけでは特別決議ができないほどの株式を有して会社の組織や経営に重大な利害関係を有していたのに、MTS氏は、総会の事前にも事後にも、株主の地位を失うことについて何ら具体的な通知をしていないこと

そして、仮にMTS氏が資本提携や増資の実現、監査役の選任を可能にする意図を有していたとしても、「これらはRGN氏らを飲食店運営会社HNKの株主から排除する意図と併存し得るものであり、代表取締役MTS氏においてこうした意図を有していたことを否定する根拠となるものではない。」と述べました(引用中の「被控訴人ら」「控訴人」及び代表取締役を指す符号を、本記事の表記に置き換えています)。

提訴期間の経過による治癒の主張―一連の諸事情の下では著しく不公正

会社は、本件定款変更決議の瑕疵は提訴期間の経過により治癒されており、株式併合決議について議決権行使を著しく困難又は不可能にした事情もないと主張しました。控訴審判決は、「確かに、本件定款変更決議に係る取消訴訟の提訴期間は経過している。」と認めたうえで、MTS氏が、RGN氏らが総会に出席せず決議内容の確認も求めなかったことを奇貨として、排除の意図の下、定足数を充足しないことを認識しながらあえて本件定款変更決議を行い、提訴期間の経過後に、当時の定款に反して変更された定款の規定に則って株式併合決議を実現させたと指摘しました。そのうえで、次のとおり判断しています(引用中の「控訴人」を本記事の表記に置き換えています)。

飲食店運営会社HNKが主張するとおり、令和2年総会の招集手続や決議のみを取り上げれば、当時の定款の規定や法令に違反するものではないとしても、以上に検討した一連の諸事情の下では、本件株式併合決議の方法は、著しく不公正なものであるというべきである。

控訴審判決は、以上により第一審判決は相当であるとし、本件株式併合決議の不存在確認は取消しとの選択的な請求であるから判断を要しないと付記して、控訴及び附帯控訴をいずれも棄却しました。附帯控訴で株主RGN氏が求めた本件定款変更決議の不存在確認・取消し及び本件承認決議の不存在確認は、第一審判決の判断(補正後のもの)を引用して退けられています。

審級ごとの結論の推移

請求 第一審(東京地方裁判所令和4年11月28日判決) 控訴審(東京高等裁判所令和5年9月28日判決)
本件株式併合決議の取消し 認容(決議の方法の著しい不公正) 維持(会社側の控訴を棄却)
本件株式併合決議の不存在確認 選択的請求のため判断せず 同じく判断を要しないとした
本件定款変更決議の不存在確認 棄却(定足数不足は取消事由にとどまる) 維持(附帯控訴を棄却)
本件定款変更決議の取消し 棄却(提訴期間の経過) 維持(理由を補強する補正あり)
本件承認決議の不存在確認 棄却(確認の利益は肯定したが、不存在事由はない) 維持(附帯控訴を棄却)
費用の負担 訴訟費用の3分の2を株主RGN氏、3分の1を会社の負担 控訴費用は会社、附帯控訴費用は株主RGN氏の負担

主文及び結論

第一審判決の主文は、「被告の令和2年4月28日付けの臨時株主総会における株式を併合する旨の決議を取り消す。」、令和元年総会の第2号議案(定款変更の件)の決議の不存在確認及び取消し並びに第3号議案(募集株式の総数引受契約締結の承認の件)の決議の不存在確認に係る請求をいずれも棄却する、訴訟費用はこれを3分し、その2を原告の負担とし、その余を被告の負担とする、というものです(「被告」は飲食店運営会社HNK、「原告」は株主RGN氏を指します)。

控訴審判決の主文は、「本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。」「控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。」というものです(「控訴人」は飲食店運営会社HNK、「被控訴人」は株主RGN氏を指します)。この結果、本件株式併合決議を取り消す第一審判決の結論が維持されました。

判断の射程

以下は、両判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。射程は、最終的な判断である控訴審判決(第一審判決を補正のうえ引用したもの)を基準として整理しています。

参考となる点

  • 株式併合決議の公正さは、その総会だけでなく一連の経緯で評価されること。控訴審判決は、令和2年総会の招集手続や決議だけを取り上げれば法令や定款に違反しないとしても、先行する定款変更決議から続く一連の諸事情の下では、決議の方法が著しく不公正であるとしました。株式併合を計画する会社・支配株主は、併合決議を行う総会の手続だけを整えれば足りるとは考えず、準備段階の定款変更や株主への情報提供を含めた全体の経過が、後に評価の対象になることを前提に計画を立てる必要があります。
  • 提訴期間の経過で先行決議の瑕疵が争えなくなっても、後の決議は守られないこと。本件定款変更決議そのものは、提訴期間の経過により取り消されませんでした。しかし、その瑕疵を意図的に作り出し、提訴期間の経過を待って利用したことが、株式併合決議の取消しの理由となりました。提訴期間の経過を見込んだ段階的な手続は、かえって後続の決議の取消しにつながるおそれがあります。
  • 招集通知の記載と送付時期は、法令上の最低限を満たすだけでは足りない場合があること。第一審判決は、取締役会を設置していない会社で書面投票等を定めていない場合、議題の記載がないこと自体は法的な瑕疵に当たらないとしました。それでも、議題の記載のない招集通知を開催日の直前に送付したことは、株主の出席や議決権行使を事実上困難にした事情として、著しい不公正の判断の中心に置かれました。株主の地位を失わせる議案を扱う場合には、議題・議案を明示し、海外居住の株主も含めて出席や代理行使の準備ができる期間を確保することが、決議取消しのリスクを下げる手当てになると考えます。
  • 事前・事後の個別の説明や通知の欠如が重視されたこと。控訴審判決は、補正により、株式併合決議が株主権を喪失させる重大な結果を生じさせるのに、事前に決議事項を知らせていないことを推認の根拠として明記しました。また、併合後に個別の通知をせず官報公告だけで済ませたことも、株主に内容を把握されることを遅らせる意図の表れと認定されています。官報公告は会社法上の方法ですが、これだけに頼ることで、手続の公正さを疑わせる事情になり得ます。
  • 事業上の目的を主張しても、排除の意図は否定されないこと。控訴審判決は、資本提携・増資や監査役の選任という目的があったとしても、少数株主を排除する意図と併存し得るとしました。スクイーズアウトの目的や必要性を説明できることは重要ですが、目的の正当性だけで手続の不公正を補うことはできません。
  • 少数株主が権利を行使しなかったことは、会社側の抗弁になりにくいこと。第一審判決は、株主が総会に出席せず、株式買取請求権等も行使しなかったとしても、著しく不公正な決議の方法が公正になるわけではないとしました。従前、少数株主が総会に出席してこなかった会社であっても、その状況を利用する形の手続は避けるべきです。

一般化できない点

  • 本件では、代表取締役MTS氏本人が、定款違反の認識や取消しの訴えが可能であることの認識を明確に供述しており、その供述を足掛かりに、少数株主を排除する計画と意図が詳細に認定されています。招集通知の記載や送付時期、官報公告の利用といった個々の事情が、それだけで直ちに決議の方法の著しい不公正に当たると判断されたものではありません。
  • 本件では、支配株主の持株比率が50%で、単独では特別決議ができない状況にあり、定足数を満たさない定款変更決議という明確な法令・定款違反が一連の手続の起点になっていました。定款変更や株式併合を適法な定足数・多数で行った事案に、そのまま当てはまるものではありません。
  • 両判決は、本件株式併合決議の取消しを認めたことから、選択的に求められた決議不存在確認については判断しておらず、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(会社法831条1項3号)に当たるかどうかについても判断を示していません。少数株主の排除を目的とすること自体が著しく不当な決議に当たるかについて、本件から結論を導くことはできません。
  • 株式価値を0円とした算定や、端数相当株式の売却代金(株主TKD氏に5円が支払われています)の相当性について、両判決は判断していません。株式併合の対価の公正さに関する判例として読むことはできません。
  • 決議が取り消された後の変更登記や端数相当株式の売却の扱いなど、取消しの効果がどのように処理されるかについても、両判決は判断していません。
  • 控訴審判決の後の上告等の有無及び判決の確定は、判決本文からは確認できていません。

定款の変更を含め、少数株主との紛争に平時から備えたい会社の方は、次のページを御覧ください。

よくあるご質問

株式併合を行う株主総会の招集手続が法令や定款に違反していなければ、決議が取り消されることはありませんか。

取り消されることがあります。本件の控訴審判決は、株式併合決議を行った総会の招集手続や決議だけを取り上げれば法令や定款に違反しないとしても、先行する定款変更決議から続く一連の事情の下では、決議の方法が著しく不公正であるとして、取消しを認めた第一審判決を維持しました。準備段階を含めた手続全体の公正さを確保することが重要です。

定款変更決議の取消しの訴えの提訴期間が過ぎれば、その定款に基づく株式併合決議は安全ですか。

本件では、定款変更決議そのものは提訴期間の経過により取り消されませんでした。しかし、定足数を満たさないことを認識しながら定款変更決議を行い、提訴期間の経過を待って株式併合決議をしたことが、株式併合決議の方法を著しく不公正とする理由になりました。提訴期間の経過は、後続の決議の公正さまで保証するものではありません。

取締役会を設置していない会社では、招集通知に議題を書かなくてもよいのですか。

第一審判決は、書面投票や電子投票を定めていない取締役会非設置会社では、議題の通知は法令上必要とはいえないとしました(会社法299条2項、4項参照)。もっとも、本件では、議題の記載のない招集通知を開催日の直前に送ったことが、株主の出席を事実上困難にする事情として重視されています。株式併合のように株主の地位を失わせる議案では、議題・議案を明示し、十分な期間をおいて通知することをお勧めします。

株式併合の後、少数株主には官報公告だけで済ませてよいですか。

本件では、会社は会社法181条に基づいて官報で公告しましたが、個別に通知することに支障があった事情がないのに官報公告をあえて利用したことが、株主に内容を把握されるのを遅らせる意図の表れと認定されました。法令上の方法であっても、個別の通知を併用するなど、株主が内容を知り得るようにしておくことが、手続の公正さを示すうえで有益です。

資金調達などの事業上の必要があれば、少数株主を排除する意図は問題になりませんか。

本件の控訴審判決は、資本提携・増資や監査役の選任という目的があったとしても、少数株主を排除する意図と併存し得るとして、会社の主張を退けました。事業上の必要性を説明できることに加えて、株主への説明や通知、出席の機会の確保など、手続の進め方そのものが公正であることが求められます。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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