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特例有限会社における相続人等に対する株式売渡請求の決議要件と決議の取消し―広島高等裁判所松江支部平成30年3月14日判決

公開 2018年3月14日

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特例有限会社が、定款の定めに基づいて、亡くなった元代表取締役の相続人らに対し、相続した株式を会社に売り渡すよう請求する株主総会決議を行い、相続人側がその決議の取消しを求めた事件の判例です。鳥取地方裁判所平成29年9月15日判決は、決議が特別決議の要件を満たしていないとしてこれを取り消し、広島高等裁判所松江支部平成30年3月14日判決も、決議の取消しの結論を維持しました。

争点は、特例有限会社の特別決議の要件を定める会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」といいます)14条3項の「総株主」と「当該株主」に、売渡請求の相手方であるために議決権を行使できない相続人が含まれるかどうかでした。両判決は、含まれると判断しました。その結果、賛成した議決権は総株主の議決権6,000個のうち2,520個にとどまり、4分の3以上という要件を満たさないとされています。控訴審は、あわせて、同じ原告が株主の立場と取締役の立場で重ねて起こした訴えのうち後の訴えを二重起訴として却下しました。

本記事では、相続人等に対する株式の売渡請求を検討する会社・支配株主の立場から、両判決が決議要件をどのように読んだのか、決議を準備する段階で何を確認しておくべきかを整理します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 代表取締役の死亡と、相続人4名が準共有する1,800株
    2. 取締役会での可決と、5日後の株主総会
    3. 決議の直後の提訴と、経営陣の交代
  4. 事案の経緯
  5. 判断の前提となった定款の定めと法令の規定
    1. 定款の定め―相続人等に対する売渡請求
    2. 特例有限会社の特別決議の要件(第一審判決の記載)
    3. 整備法14条3項による読替え(控訴審判決が補正で示した記載)
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 原告らの請求
    2. 決議要件をめぐる主張
    3. 原告適格と二重起訴をめぐる主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審の判断
    1. 議決権を行使できない株主にも、決議取消しの訴えの原告適格がある
    2. 頭数要件は満たしている
    3. 「当該株主」は「総株主」と同義であり、議決権を行使できない株主も含まれる
    4. 法務省の記載例と改正前の商法の解釈―会社側の根拠を退けた
    5. 決議が成立し得なくなる不都合―立法政策の問題とした
    6. 多数決要件を満たさず、決議の方法の法令違反として取り消す
  9. 控訴審の判断
    1. 34号事件は二重起訴に当たる―同じ原告の後の訴えを却下
    2. 35号事件は二重起訴に当たらない―原告が異なる
    3. 190号事件の原告適格―取締役としての原告適格で足りるとした
    4. 決議要件―第一審の判断を補正のうえ引用し、補強した
    5. 結論
  10. 審級ごとの結論の推移
  11. 主文及び結論
  12. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 相続人等に対する売渡請求を検討する会社・支配株主が確認しておきたいこと
  13. よくあるご質問
    1. 特例有限会社で相続人に株式の売渡しを請求するには、どのような決議が必要ですか。
    2. 売渡請求の相手方である相続人は議決権を行使できないのに、その議決権も数えるのですか。
    3. 相続人が議決権の4分の1を超える株式を持っている場合、特例有限会社は売渡請求ができないのですか。
    4. 特例有限会社でない株式会社でも、同じ扱いになりますか。
    5. 売渡請求の決議で議決権を行使できない相続人株主でも、決議の取消しを求めることができますか。
    6. 同じ人が株主の立場と取締役の立場で、同じ決議の取消しの訴えを2回起こすことはできますか。
  14. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 鳥取地方裁判所民事部 平成29年9月15日 平成28年(ワ)第190号、平成29年(ワ)第34号、平成29年(ワ)第35号 判決 相続人に対する株式の売渡請求の決議を取り消す(原告らの請求を認容)。補助参加によって生じた費用は補助参加人、その余の訴訟費用は会社の負担
控訴審 広島高等裁判所松江支部 平成30年3月14日 平成29年(ネ)第78号 判決 第一審判決のうち34号事件に関する部分を取り消して、その訴えを却下。その余の控訴を棄却(決議の取消しは維持)

上訴の状況は次のとおりです。第一審判決に対しては、会社側の補助参加人が控訴したことが控訴審判決の本文から確認できます。控訴審判決に対する上告又は上告受理申立ての有無及び判決の確定は、確認できていません。この表は、各判決本文の冒頭、主文及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

第一審は、3つの事件を併合して審理しています。本記事では、判決にならい、相続人株主MRK氏が株主として提起した事件を「190号事件」、同氏が取締役として提起した事件を「34号事件」、取締役SGW氏が取締役として提起した事件を「35号事件」と呼びます。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。なお、第一審判決と控訴審判決とでは、同じ人物に異なる表記が用いられていますが、本記事では審級を通じて同じ表記にそろえています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
製造販売会社NBP 第一審の被告、控訴審の控訴人。製品の製作、販売等を目的とする特例有限会社で、発行済株式の総数は6,000株です。判決本文では、会社の代表者は「会社法353条に基づく代表者」と表示されています
元代表取締役TKS氏 製造販売会社NBPの代表取締役であった人物。平成28年4月19日に死亡し、その時点で会社の株式1,800株を有していました
相続人株主MRK氏 190号事件及び34号事件の原告、控訴審の被控訴人。元代表取締役TKS氏の相続人の一人で、自らも990株を有する株主です。決議の後に取締役に選任され、代表取締役に就任しました
取締役SGW氏 35号事件の原告、控訴審の被控訴人。決議の後に会社の取締役に選任されました
相続人KNE氏、相続人RYT氏、相続人SHO氏 元代表取締役TKS氏の相続人。それぞれ297株、197株、196株を有する株主です。相続人RYT氏は、決議の後に取締役に選任されました
補助参加人DGM氏 490株を有する株主で、決議の当時の取締役。訴訟では会社側に補助参加し、第一審判決に対して控訴しました(控訴審では「控訴人補助参加人」)。決議の後に取締役を解任されています
仮代表取締役VTR氏 弁護士で、元代表取締役TKS氏の死亡後に鳥取地方裁判所によって仮代表取締役に選任された人物。判決本文では「仮取締役」とも表記されています。決議を行った株主総会の議長を務めました
委任状を提出した株主4名 それぞれ580株、580株、580株、290株を有する株主。決議を行った株主総会に、補助参加人DGM氏を代理人とする委任状を提出しました

本記事では、相続人株主MRK氏、相続人KNE氏、相続人RYT氏及び相続人SHO氏の4名をまとめて「相続人4名」と表記します(判決本文の故人の「相続人」として総称された4名に当たります)。

事案の概要

代表取締役の死亡と、相続人4名が準共有する1,800株

製造販売会社NBPは、製品の製作、販売等を目的とする特例有限会社です。発行済株式の総数は6,000株で、議決権制限株式、自己株式、相互保有株式はいずれもありませんでした。定款には、相続その他の一般承継により会社の株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨の定めがありました。

代表取締役であった元代表取締役TKS氏は、平成28年4月19日に死亡しました。同氏が有していた1,800株は、相続人4名が準共有することになりました。同年6月8日には、鳥取地方裁判所が、弁護士である仮代表取締役VTR氏を仮代表取締役に選任しています。

決議を行った株主総会の当時の株主と保有株式数は、次のとおりです(判決本文の前提事実による)。

株主 保有株式数 売渡請求の決議での議決権
相続人4名(準共有) 1,800株 行使できない
相続人株主MRK氏 990株 行使できない
相続人KNE氏 297株 行使できない
相続人RYT氏 197株 行使できない
相続人SHO氏 196株 行使できない
補助参加人DGM氏 490株 行使できる(賛成)
委任状を提出した株主4名 580株、580株、580株、290株(計2,030株) 行使できる(賛成)
合計 6,000株 賛成2,520株

相続人等に対する売渡請求を決める株主総会では、売渡請求の相手方は議決権を行使することができません(会社法175条2項)。判決本文の前提事実でも、この決議との関係で相続人4名はいずれも議決権を行使できないとされています。表の「売渡請求の決議での議決権」の欄は、この前提事実と決議の結果を当事務所が整理したものです。相続人4名は、準共有する1,800株と各自の固有の株式を合わせて3,480株、総株主の議決権の58%を有していたことになります。

取締役会での可決と、5日後の株主総会

決議の当時の取締役は、補助参加人DGM氏と仮代表取締役VTR氏の2名でした。平成28年12月14日に開催された取締役会では、株主である相続人株主MRK氏から請求のあった株主総会招集請求の議案が、補助参加人DGM氏の反対により否決されました。他方、相続人4名に対して1,800株の売渡しを請求する議案は、2名の賛成により可決され、この売渡請求を議題とする株主総会を同月19日に開催することが決まりました。

平成28年12月19日の株主総会(以下「本件総会」といいます)には、総株主9名のうち5名が出席しました。株主として実際に出席したのは補助参加人DGM氏だけで、他の4名は補助参加人DGM氏を代理人とする委任状を提出していました。議長の仮代表取締役VTR氏が、「株主の相続人に対する株主売渡請求の件」として、元代表取締役TKS氏が有していた1,800株について相続人4名に売渡しを請求することの可否を諮ったところ、満場一致で可決されました(以下「本件決議」といいます)。賛成したのは5名で、その議決権の数は2,520個でした。

決議の直後の提訴と、経営陣の交代

相続人株主MRK氏は、平成28年12月21日、株主として本件決議の取消しを求める訴え(190号事件)を提起しました。

平成29年1月29日の株主総会では、相続人株主MRK氏、取締役SGW氏及び相続人RYT氏が取締役に選任され、相続人株主MRK氏が代表取締役に就任しました。これに伴い、仮代表取締役VTR氏はその地位を失いました。同年2月22日の株主総会では、補助参加人DGM氏が取締役を解任されています。

そのうえで、平成29年3月3日、相続人株主MRK氏が取締役として34号事件を、取締役SGW氏が取締役として35号事件を、それぞれ提起しました。なお、会社は、本件決議の後、本件決議に基づく売渡請求をしていません。

事案の経緯

時期 出来事(判決本文の前提事実による)
平成28年4月19日 元代表取締役TKS氏が死亡。同氏の1,800株を相続人4名が準共有
平成28年6月8日 鳥取地方裁判所が、仮代表取締役VTR氏を仮代表取締役に選任
平成28年12月14日 取締役会。相続人株主MRK氏から請求のあった株主総会招集請求の議案を否決し、相続人4名に対する売渡請求の議案を可決。売渡請求を議題とする株主総会を同月19日に開催することを決定
平成28年12月19日 本件総会。株主9名のうち5名(議決権2,520個)が出席し、満場一致で本件決議を可決
平成28年12月21日 相続人株主MRK氏が、株主として190号事件を提起
平成29年1月29日 株主総会で相続人株主MRK氏、取締役SGW氏及び相続人RYT氏が取締役に選任。相続人株主MRK氏が代表取締役に就任し、仮代表取締役VTR氏は地位を喪失
平成29年2月22日 株主総会で補助参加人DGM氏が取締役を解任
平成29年3月3日 相続人株主MRK氏が取締役として34号事件を、取締役SGW氏が取締役として35号事件を提起
平成29年9月15日 鳥取地方裁判所が本件決議を取り消す判決
平成30年3月14日 広島高等裁判所松江支部が、34号事件の訴えを却下し、その余の控訴を棄却する判決

本件決議の後、会社が本件決議に基づく売渡請求をしていないことも、前提事実として認定されています。

判断の前提となった定款の定めと法令の規定

以下は、判決本文に記載された定款の定めと決議要件を、判決本文の文言のまま引用したものです。定款の定めは、判決本文が内容を整理して記載したもので、定款そのものの逐語の引用とは限りません。数字の表記も判決本文のとおりとし、会社の表記は本記事の表記に置き換えています。

定款の定め―相続人等に対する売渡請求

〔製造販売会社NBP〕の定款には、〔製造販売会社NBP〕が相続その他一般承継により〔製造販売会社NBP〕の株式を取得した者に対し、当該株式を〔製造販売会社NBP〕に売り渡すことを請求することができると定められている

会社法174条は、譲渡制限株式について、相続その他の一般承継により取得した者に対し、会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができるとしています。実際に請求をするには、その都度、株主総会の特別決議で、請求する株式の数と、その株式を有する者の氏名又は名称を定めなければなりません(会社法175条1項、309条2項)。

特例有限会社の特別決議の要件(第一審判決の記載)

相続人等に対する株式売渡し請求をするためには、特別決議に関する定款に特別の定めがないときは、総株主の半数以上であって、当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数をもって行わなければならないとされている(会社法175条1項、309条2項、整備法14条3項)

判決本文は、会社の定款に特別決議に関する特別の定めはなかったと認定しています。

整備法14条3項による読替え(控訴審判決が補正で示した記載)

同項柱書の前記文言について、整備法14条3項は、これを「総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の4分の3」と読み替える旨規定している。

ここでいう「同項柱書の前記文言」は、第一審判決が引用した会社法309条2項柱書の「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し」という文言を指すと読めます。つまり、特例有限会社の特別決議では、通常の株式会社のように議決権を行使することができる株主の議決権の過半数の出席を求める定足数の考え方に代えて、「総株主の半数以上」という頭数の要件と、「当該株主の議決権の4分の3以上」という多数決の要件が課されます。この「総株主」「当該株主」に、議決権を行使できない売渡請求の相手方が含まれるかどうかが、本件の中心的な争点になりました。

当事者の請求と主要な主張

原告らの請求

相続人株主MRK氏は株主として(190号事件)、さらに取締役として(34号事件)、取締役SGW氏は取締役として(35号事件)、本件決議が特別決議の要件を満たさないものであったと主張して、会社法831条1項1号(決議の方法の法令違反)に基づき、本件決議の取消しを求めました。

決議要件をめぐる主張

論点 原告ら(相続人株主MRK氏・取締役SGW氏)の主張 会社及び補助参加人DGM氏の主張
条文の書き方 会社法と同法施行規則は、「総株主の議決権」から当該決議との関係で行使できない議決権を除く場合には、その旨を明文で定めている。特例有限会社の売渡請求の特別決議については、そのような除外規定はない 会社法上、総株主とは議決権を有する株主を意味し、議決権を行使できない株式は、一般に、定足数及び議決権数に算入されない
会社法309条3項・4項との比較 整備法14条3項と同じ決議要件を定める会社法309条4項は、同条3項の「当該株主総会において議決権を行使することができる株主」と区別して「総株主」と規定しているから、行使できない議決権を含むと解するほかない (控訴審で補助参加人が付加)旧商法以来、多数決要件の「総株主の議決権」には議題・議案に議決権を行使できないものを含まないとされてきた。会社法309条4項も旧商法348条1項と同一の文言である
読替えの意味 整備法14条3項は、会社法309条2項の「当該株主総会において議決権を行使することができる株主」という除外の趣旨の文言を、あえて「総株主」と読み替えている ―
旧有限会社法との関係 旧有限会社法48条2項は、行使できない議決権を「総社員ノ議決権」から除く旨を明文で定めていたのに、整備法はこれを引き継いでいない 旧有限会社法48条2項の趣旨は、特定の決議事項だけ議決権を有しない場合にも妥当する。実態が同じ旧有限会社と特例有限会社とで、特別決議の要件を加重する必要はなく、加重したと解するのは不合理である
結果の妥当性 特例有限会社で売渡請求ができる場面は、制限的に解されるべきである 行使できない議決権も含めると、その議決権数が4分の1を超えれば決議が成立する可能性が全くなくなり、不都合である
その他の根拠 ― 法務省が作成した株主リストの記載例では、特例有限会社の特別決議の多数決要件が、議題・議案に議決権を行使できる議決権数の4分の3と明記されている。平成17年法律第87号による改正前の商法でも、総株主の議決権数には行使できないものを含まないと解釈されていた

原告適格と二重起訴をめぐる主張

  • 190号事件の原告適格(第一審からの争点)。会社は、株主が決議取消しの訴えの原告となるには、対象となる決議について議決権を行使できなければならず、相続人株主MRK氏は本件決議で議決権を行使できないから原告適格がないと主張しました。相続人株主MRK氏は、自らの株式は議決権制限のない株式で、本件決議との関係で行使を制限されたにすぎず、法令・定款に従った会社経営を求める権利があると反論しました。
  • 34号事件の二重起訴(控訴審で追加された争点)。補助参加人DGM氏は、34号事件は190号事件と当事者が同一人物で、取消事由も同一であるから訴訟物も同一であり、二重起訴(民事訴訟法142条)に当たると主張しました。相続人株主MRK氏は、株主と代表取締役という異なる地位に基づく訴えであり、両事件は当初から併合審理され、会社法837条で併合も担保されているから、二重起訴禁止の趣旨は及ばないと反論しました。
  • 35号事件の二重起訴(控訴審で追加された争点)。補助参加人DGM氏は、決議取消訴訟は類似必要的共同訴訟に当たり、その1人が既に訴えを提起した後に、他の者が同一被告に同趣旨の訴えを提起することは二重起訴に当たると主張しました。取締役SGW氏は、原告が全くの別人であり、会社法837条は異なる当事者による訴えの併合を義務付けたものであると反論しました。

結論を左右した争点

第一審判決は、争点を、190号事件についての相続人株主MRK氏の原告適格と、整備法14条3項の「総株主」「当該株主」に、当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれるかの2つに整理しました。控訴審判決は、これに34号事件と35号事件がそれぞれ二重起訴に当たるかを加え、4つの争点を検討しています。

決議の効力について結論を分けたのは、頭数要件ではなく多数決要件でした。本件総会には株主9名のうち5名が出席していたため、相続人4名を「総株主」に含めるかどうかにかかわらず、「総株主の半数以上」という頭数要件は満たされていました。これに対し、多数決要件の分母に相続人4名の議決権3,480個を含めるかどうかで、結論が逆になります。判決本文の数字を当事務所が当てはめると、次のとおりです。

読み方 分母となる議決権 4分の3に当たる数 賛成2,520個との関係
会社側の読み方(行使できない議決権を除く) 2,520個 1,890個 満たす(議決権を行使できる株主全員が賛成)
両判決の読み方(行使できない議決権も含む) 6,000個 4,500個 満たさない

両判決の読み方によれば、相続人4名が総株主の議決権の4分の1を超える58%を有していた本件では、相続人4名以外の株主全員が賛成しても、売渡請求の決議は成立し得なかったことになります。会社側が不都合として主張した、決議が成立する可能性が全くなくなるという事態が、まさに本件で生じていたといえます。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断

鳥取地方裁判所は、相続人株主MRK氏の原告適格を認めたうえで、整備法14条3項の「総株主」には当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれると判断し、本件決議を取り消しました。

議決権を行使できない株主にも、決議取消しの訴えの原告適格がある

第一審判決は、まず、190号事件の原告適格について、次のように述べました。

「〔相続人株主MRK氏〕は、〔製造販売会社NBP〕の株主であるから、〔製造販売会社NBP〕の株主としての地位に基づき提起した株主総会決議取消しの訴えである190号事件について、原告適格を有するものと認められる(会社法831条1項)。」

株主が決議取消しの訴えの原告となるには対象の決議で議決権を行使できなければならないという会社の主張については、「法的根拠を伴わない独自の見解であって、理由がない。」として退けました。

頭数要件は満たしている

第一審判決は、本件決議の決議要件を、「総株主の半数以上」(頭数要件)と「当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数」(多数決要件)に分けて検討しました。頭数要件については、株主総数9名のうち5名が出席して行われているから、「総株主」に相続人4名を含めるかどうかに関わりなく満たしているとしています。

「当該株主」は「総株主」と同義であり、議決権を行使できない株主も含まれる

多数決要件について、第一審判決は、まず文言の関係を次のように整理しました。

「「総株主の半数以上であって、当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数」という決議要件の文理上、「当該株主」は「総株主」と同義であると認められる。」

そのうえで、会社法309条2項と整備法14条3項には、「総株主」に議決権行使を制限された株主が含まれるかどうかの定めが置かれていないとして、次の3点を検討しています。

  • 会社法の他の規定との比較。会社法297条3項(株主による招集の請求)や303条4項(株主提案権)は、総株主の議決権に、株主総会の目的である事項について議決権を行使できない株主の議決権を算入しない旨を明文で定めている。会社法は、算入しない場合にはその旨を明文で定めている。
  • 読替えの仕方。特例有限会社でない株式会社の売渡請求の特別決議については、会社法309条2項柱書が「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数」の出席と規定し、行使できない株主の議決権を算入しないことを明らかにしている。しかし、整備法14条3項は、この「当該株主総会において議決権を行使することができる株主」という文言を「総株主」と読み替えると規定している。
  • 改正の経過。旧有限会社法48条2項は、持分の売渡請求の特別決議について、議決権を行使できない社員は総社員に算入せず、行使できない議決権は総社員の議決権の数に算入しない旨を定めていたが、整備法はこれを引き継いでいない。

第一審判決は、これらを踏まえて、次のように結論付けました。

「上記イないしエのような会社法及び整備法の規定ぶり及び改正経過を踏まえれば、整備法14条3項にある「総株主」について、当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれるものとして規定されていることが明らかである。」

なお、旧有限会社法は会社法の施行前の法令であり、本件で適用されたのは会社法と整備法です。第一審判決は、旧有限会社法48条2項を、整備法の規定の意味を読み解くための改正の経過として参照しています。

法務省の記載例と改正前の商法の解釈―会社側の根拠を退けた

補助参加人DGM氏が挙げた法務省の株主リストの記載例について、第一審判決は、記載例からうかがえるのは、特例有限会社の定款変更の特別決議について総株主の議決権の数から自己株式の数を除いていることにすぎず、総株主に当該決議との関係で議決権行使を制限された株主を含むかどうかには言及がないとしました。改正前の商法の解釈についても、補助参加人DGM氏が依拠する文献は明文の除外規定があることを述べたにとどまるとして、指摘は失当であるとしています。

決議が成立し得なくなる不都合―立法政策の問題とした

会社側は、行使できない議決権を含めると、その議決権数が4分の1を超えれば決議が成立する可能性が全くなくなり不都合であると主張しました。第一審判決は、この主張を次のように退けています。

「相続人等に対する株式売渡し請求の制度は、売渡し請求をする会社側と相手方となる相続人等側との間に利害関係が対立する状況で行使されたり、その行使をめぐって会社内で内紛が起きたりすること等が本来的に想定できるもので、当該制度について、特例有限会社において株式会社と異なる制限が事実上認められたとしても、そうした事態を許容するかどうかはあくまで立法政策に関することであるというほかない。」

多数決要件を満たさず、決議の方法の法令違反として取り消す

第一審判決は、以上を当てはめて、次のように判断しました。

「本件決議は、総株主(当該株主)の議決権の数6000個のうち、本件決議に賛成した議決権数は2520個にとどまるから、「当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数」という特別決議の成立要件(多数決要件)を満たさないことが明らかである。」

そして、本件決議は、決議の方法が会社法175条1項、309条2項及び整備法14条3項の規定に反することが明らかであるから、会社法831条1項1号に基づき取り消されるべきであるとして、原告らの請求を認容しました。

控訴審の判断

広島高等裁判所松江支部は、本件決議の取消しという結論を維持しました。一方で、34号事件の訴えについては二重起訴に当たるとして、第一審判決を変更し、訴えを却下しました。190号事件の原告適格については、第一審と異なる理由で原告適格を認めています。

34号事件は二重起訴に当たる―同じ原告の後の訴えを却下

控訴審判決は、相続人株主MRK氏が会社を被告として190号事件を提起した後で、同じく会社を被告として34号事件を提起したものであるから、両事件の当事者は同一であり、いずれも本件決議の取消しを求める決議取消訴訟であるから訴訟物も同一であるとしました。そのため、後に提起された34号事件の訴えは民事訴訟法142条の二重起訴に当たり、不適法であると判断しています。

相続人株主MRK氏は、株主と代表取締役という異なる地位に基づく訴えであり、両事件は会社法837条に基づいて併合審理されていると主張しました。控訴審判決は、決議取消訴訟の原告適格の有無は弁論終結時を基準として判断されるから、190号事件においても、訴え提起後に取締役に就任した事実が原告適格を基礎付けることになり、取締役としての地位に基づいて新たに訴えを提起する必要はないとしました。そのうえで、次のように述べています。

「190号事件に係る訴えの提起後に必要性の乏しい34号事件に係る訴えが提起されて新たな事務が生じることによる訴訟上の不経済は不可避であって、二重訴訟禁止の趣旨が及ばない事案であるとはいえない。」

弁論及び裁判の併合が必要的で、矛盾する判決が生じることはないとしても、この判断は左右されないとされました。

35号事件は二重起訴に当たらない―原告が異なる

35号事件の原告は取締役SGW氏であり、先行する190号事件及び34号事件の原告は相続人株主MRK氏であって、当事者が同一ではないから、35号事件の訴えは二重起訴に当たらないとされました。

類似必要的共同訴訟に当たるとの補助参加人DGM氏の指摘については、会社法837条が、同一の決議取消訴訟が複数の者から提起されて数個同時に係属する場合に弁論及び裁判の併合を義務付けていることを挙げ、「法は、同一決議を対象とする株主総会決議取消訴訟が複数の者から提起された場合に後行する訴えを却下せずに併合して審理することが予定されているといえる」として、二重起訴に関する判断を左右しないとしました。

190号事件の原告適格―取締役としての原告適格で足りるとした

控訴審判決は、相続人株主MRK氏が平成29年1月29日に取締役に選任されていることから、議決権を行使できない株主として決議取消訴訟の原告適格を有するかについて判断するまでもなく、190号事件について取締役として原告適格があることは明らかであるとしました。第一審判決が示した、議決権を行使できない株主にも株主としての原告適格があるとの判断については、控訴審は判断を示していません。

決議要件―第一審の判断を補正のうえ引用し、補強した

中心的な争点について、控訴審判決は次のとおり判断しました。

「当裁判所も、整備法14条3項の規定する「当該株主」は同項にいう「総株主」と同義であり、「総株主」には当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれると解され、本件決議は「当該株主」の議決権の4分の3以上という特別決議の成立要件を満たしていないと判断する。」

その理由は、次の補正をしたうえで、第一審判決の該当部分を引用するというものです。

補正の対象 補正の内容
読替えについての判断 整備法14条3項が、会社法309条2項柱書の文言を「総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の4分の3」と読み替えている旨に改める(読替え後の文言を正確に示したもの)
補助参加人DGM氏の控訴審での主張への判断 旧商法以来の解釈と会社法309条4項の文言を根拠とする主張に対する判断を新たに加える(次の項目のとおり)

控訴審判決は補正の箇所を第一審判決の頁と行で示しています。上の表の「補正の対象」は、補正後の文言から当事務所が該当箇所を特定したものです。

補助参加人DGM氏は、控訴審で、旧商法348条1項の「総株主の議決権」には議決権を行使できないものは含まれず、会社法309条4項も同一の文言を使っているから、「当該株主の議決権」を「総株主の議決権」と同義と理解しても、議決権を行使できないものは含まれないと主張しました。控訴審判決は、会社法309条3項が「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上」と規定しているのに対し、同条4項が「総株主の半数以上」と規定していることを対比し、次のように述べました。

「その規定ぶりに照らせば、同項にいう「総株主」には当該株主総会において議決権を行使できない株主も含まれていると解するのが相当である。」

そして、特例有限会社の株主総会の特別決議の要件を定めた整備法14条3項の「総株主」及び「当該株主」についても、議決権を行使できない株主が含まれると解されるとして、補助参加人DGM氏の主張を採用しませんでした。第一審が会社法の他の規定、読替えの仕方及び改正の経過から導いた解釈を、控訴審は会社法309条3項と4項の対比によって補強したものといえます。

結論

控訴審判決は、相続人株主MRK氏の訴えのうち34号事件に係る部分は不適法であるから却下すべきであり、本件決議の取消しについては認容すべきであるとして、主文のとおり判決しました。190号事件と35号事件による本件決議の取消しは、維持されています。

審級ごとの結論の推移

論点・請求 第一審(鳥取地方裁判所平成29年9月15日判決) 控訴審(広島高等裁判所松江支部平成30年3月14日判決)
「総株主」「当該株主」の意味 当該決議との関係で議決権行使を制限された株主を含む(会社法の他の規定、読替えの仕方、改正の経過による) 維持。読替えの記載を補正し、会社法309条3項と4項の対比による理由を付加
本件決議の効力 頭数要件は満たすが、多数決要件(6,000個の4分の3以上)を満たさず、決議の方法の法令違反として取消し 維持
190号事件の原告適格 株主として原告適格あり。議決権を行使できなければならないとの会社の主張は独自の見解 結論は維持。理由は取締役としての原告適格によるとし、株主としての原告適格は判断せず
34号事件(相続人株主MRK氏・取締役として) 請求認容(二重起訴は争点になっていない) 変更。190号事件と当事者・訴訟物が同一の二重起訴として、第一審判決の該当部分を取り消し、訴えを却下
35号事件(取締役SGW氏・取締役として) 請求認容 維持。当事者が異なり二重起訴に当たらない
結論 本件決議を取り消す 34号事件の訴えを却下し、その余の控訴を棄却(本件決議の取消しは維持)

主文及び結論

第一審判決の主文は、会社の平成28年12月19日開催の株主総会における、元代表取締役TKS氏の相続人である相続人4名に対し、同人らが有する会社の株式1,800株を会社に売り渡すことを請求する旨の決議を取り消す、訴訟費用のうち、補助参加によって生じた費用は補助参加人の負担とし、その余は会社の負担とする、というものです(判決本文では各人が氏名で表示されていますが、本記事の表記に置き換えて要約しています)。

控訴審判決の主文は、「原判決中、34号事件に関する部分を取り消す。」、相続人株主MRK氏の34号事件に係る訴えを却下する、「その余の本件控訴を棄却する。」というものです。訴訟費用については、会社と相続人株主MRK氏との間では、第1審と第2審を通じ、補助参加により生じた費用を除く部分を2分してその1を会社、その余を相続人株主MRK氏の負担とし、補助参加により生じた費用は2分してその1を補助参加人、その余を相続人株主MRK氏の負担とするとされました。会社と取締役SGW氏との間の控訴費用は、補助参加により生じた費用を除く部分は会社、補助参加により生じた費用は補助参加人の負担とされています。

この結果、本件決議を取り消すという結論は、190号事件と35号事件によって維持されました。会社が相続人4名に1,800株の売渡しを請求するための決議は、効力を失ったことになります。

判断の射程

以下は、両判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。最終的な判断である控訴審判決(第一審判決を補正のうえ引用したもの)を基準とし、控訴審で改められた点はその旨を示しています。

参考となる点

  • 特例有限会社では、売渡請求の相手方の議決権も分母に数えられたこと。両判決は、整備法14条3項の「総株主」「当該株主」には、売渡請求の相手方として議決権を行使できない株主も含まれると判断しました。特例有限会社で相続人等に対する売渡請求の決議をする場合、会社法175条2項によって相続人が議決権を行使できないとしても、相続人が有する議決権は多数決要件の分母から除かれないことになります。
  • 相続人の議決権が4分の1を超えると、決議は事実上成立しないこと。両判決の読み方では、売渡請求の相手方が総株主の議決権の4分の1を超えて有している場合、他の株主全員が賛成しても4分の3に届きません。第一審判決は、この不都合を認めつつ、立法政策の問題であるとしました。特例有限会社の会社・支配株主にとって、相続人等に対する売渡請求は、相続人の持株比率によっては使えない手段となり得ることを示しています。
  • 通常の株式会社とは扱いが異なること。第一審判決は、特例有限会社でない株式会社の売渡請求の特別決議については、会社法309条2項柱書が議決権を行使できない株主の議決権を算入しないことを明らかにしていると述べています。同じ売渡請求でも、会社が特例有限会社かどうかによって、決議の成否が分かれ得ることになります。
  • 決議要件を満たさない決議は、決議の方法の法令違反として取り消されたこと。本件決議は、議決権を行使できる株主全員の賛成によるものでしたが、多数決要件を満たさないとして、会社法831条1項1号により取り消されました。手続を進める会社としては、決議を準備する段階で、決議要件の分母と分子を条文に即して確認しておくことが不可欠です。
  • 決議の後に経営陣が入れ替わり、相続人側が取締役として訴えを起こしたこと。本件では、決議の約1か月後に、相続人株主MRK氏らが取締役に選任され、決議を推進した側の取締役は解任されています。相続人4名が議決権の過半数を有していたことは、判決本文の株主構成から読み取れます。売渡請求の相手方が多数の議決権を有している場合には、決議の成否だけでなく、その後の会社の支配がどうなるかも見通しておく必要があると考えます。
  • 同じ原告が立場を変えて同じ決議の取消しを重ねて求めても、後の訴えは却下されること。控訴審判決は、原告適格は弁論終結時を基準に判断されるから、株主として訴えた者が後に取締役に就任すれば、先の訴えの中でその事実が原告適格を基礎付けるとし、取締役として改めて起こした訴えを二重起訴として却下しました。他方、別の者が起こした同じ決議の取消しの訴えは二重起訴に当たらず、会社法837条により併合して審理されます。会社の側から見ると、決議取消しの訴えは、複数の株主や取締役から起こされ得るものとして対応を考える必要があります。

一般化できない点

  • 両判決の判断は、特例有限会社の特別決議の要件を定める整備法14条3項の解釈です。通常の株式会社の特別決議(会社法309条2項)について、議決権を行使できない株主の議決権を分母に含めるとしたものではありません。
  • 控訴審判決は、会社法309条4項の「総株主」には議決権を行使できない株主も含まれると述べていますが、これは整備法14条3項の解釈を補強する理由として述べたものです。会社法309条4項の決議が問題となった事案ではありません。
  • 第一審判決は、議決権を行使できない株主にも株主として決議取消しの訴えの原告適格があると判断しましたが、控訴審判決は、取締役としての原告適格で足りるとして、この点の判断を示していません。最終的な判断としては、この点は未確定のままです。
  • 本件では、会社は本件決議に基づく売渡請求をしていません。売渡請求の価格や、売渡請求の期間制限、定款の定めの有効性などは、審理の対象になっていません。
  • 本件決議の取消しは、決議要件という形式的な理由によるものです。売渡請求の目的の当否や、取締役会が株主総会招集請求の議案を否決したことの当否については、両判決は判断していません。
  • 相続人4名が準共有する1,800株について、権利を行使する者の指定などの問題は、両判決では論じられていません。
  • 控訴審判決に対する上告又は上告受理申立ての有無及び判決の確定は、確認できていません。

相続人等に対する売渡請求を検討する会社・支配株主が確認しておきたいこと

本件を踏まえると、相続人等に対する株式の売渡請求を検討する会社では、まず、会社が特例有限会社かどうかを確認し、特例有限会社であれば、売渡請求の相手方となる相続人が、相続した株式と固有の株式を合わせて総株主の議決権の何割を有しているかを計算しておくことが考えられます。両判決の読み方によれば、その割合が4分の1を超えるときは、決議を行っても取り消されるおそれが高いことになります。また、売渡請求は、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過するとできなくなる(会社法176条1項ただし書)ため、決議要件の確認と株主構成の検討は、相続の発生を知った直後から始める必要があります。さらに、相続人の持株比率によっては売渡請求が使えない場合があることを踏まえ、代表者の生前から、株式の承継の方法や会社の株主構成を計画的に検討しておくことが重要です。これらは本件を踏まえた当事務所の着眼点であり、両判決が特定の進め方を求めたものではありません。

相続人等に対する売渡請求の定款の整備や決議の進め方を確かめたい会社の方は、次のページを御覧ください。

よくあるご質問

特例有限会社で相続人に株式の売渡しを請求するには、どのような決議が必要ですか。

定款に相続人等に対する売渡請求の定めがあることを前提に、株主総会の特別決議が必要です。特例有限会社の特別決議は、整備法14条3項により、総株主の半数以上であって、当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数で行わなければなりません(定款で特別の定めがない場合)。本件の両判決は、この「総株主」「当該株主」に、売渡請求の相手方である相続人も含まれると判断しました。

売渡請求の相手方である相続人は議決権を行使できないのに、その議決権も数えるのですか。

本件の両判決は、数えると判断しました。相続人は会社法175条2項により議決権を行使できませんが、特例有限会社の特別決議の要件では、その相続人の議決権も分母に含まれます。本件では、議決権を行使できる株主全員(議決権2,520個)が賛成しましたが、総株主の議決権6,000個の4分の3に届かず、決議は取り消されました。

相続人が議決権の4分の1を超える株式を持っている場合、特例有限会社は売渡請求ができないのですか。

両判決の読み方によれば、他の株主全員が賛成しても4分の3に届かないため、決議は成立しないことになります。会社側はこの不都合を主張しましたが、第一審判決は、特例有限会社で株式会社と異なる制限が事実上認められたとしても、それを許容するかどうかは立法政策の問題であるとしました。

特例有限会社でない株式会社でも、同じ扱いになりますか。

本件は特例有限会社についての判断です。第一審判決は、特例有限会社でない株式会社の売渡請求の特別決議については、会社法309条2項柱書が、議決権を行使できない株主の議決権を算入しないことを明らかにしていると述べています。通常の株式会社について、本件と同じ結論になるわけではありません。

売渡請求の決議で議決権を行使できない相続人株主でも、決議の取消しを求めることができますか。

第一審判決は、株主であれば、その決議で議決権を行使できなくても、株主としての地位に基づいて決議取消しの訴えの原告適格を有すると判断しました。控訴審判決は、その株主が後に取締役に選任されていたことから、取締役としての原告適格があるとして、この点の判断を示していません。

同じ人が株主の立場と取締役の立場で、同じ決議の取消しの訴えを2回起こすことはできますか。

本件の控訴審判決は、後の訴えは当事者と訴訟物が同一の二重起訴に当たるとして却下しました。決議取消訴訟の原告適格は弁論終結時を基準として判断されるため、株主として起こした訴えの中で、その後に取締役に就任した事実を原告適格の根拠とすることができるとされています。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
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