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株主代表訴訟で問われた不正会計と代表取締役の監視義務・内部統制システム構築義務―東京地方裁判所平成30年3月29日判決

公開 2018年3月29日

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学習塾を経営する上場会社で、従業員が売上げを過大に計上する不正会計が行われ、会社が金融庁長官から課徴金納付命令を受けた後に、株主が、創業者である代表取締役に監視義務違反、内部統制システム構築義務違反及び違法配当等の責任があるとして、約49億円を会社に支払うよう求めた株主代表訴訟の判例です。東京地方裁判所平成30年3月29日判決は、代表取締役が不正会計の事実又はその兆候を知っていたとは認められず、整備していた内部統制システムも通常想定される不正行為を防止し得る程度の機能を備えていたとして、株主の請求をいずれも棄却しました。

判決は、代表取締役が、過去の不正会計の発覚の際に事情聴取、関与者の処分、再発防止委員会の設置、授業の実施数を管理するシステムの導入などの対策を講じていたこと、その後の不正会計は幹部役員の指示ないし黙認の下で、そのシステムでは対処できない別の手法によって行われたこと、内部告発についても幹部役員が虚偽の報告をして情報を遮断していたことを重視しました。また、会社側が主張した「株主の訴えは不当な目的によるもので却下されるべきである」との主張は採用されませんでした。

本記事では、判決が認定した事実と判断の枠組みを整理し、株主から代表訴訟で監視義務・内部統制の義務違反を問われた会社と役員の側が、判決本文から何を読み取れるかを確認します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 創業者である代表取締役が、既存事業と管理業務を2人の役員に委ねていた
    2. 平成19年以前から、監査役会と規程類による体制が整備されていた
    3. 監査法人の指摘で平成19年に売上げの不正計上が発覚し、再発防止策が講じられた
    4. 会計監査人が交代した
    5. 幹部役員の指示ないし黙認の下で、別の手法による不正会計が行われた
    6. 内部告発は、管理担当役員の虚偽の報告によって遮断された
    7. 後任の監査法人の指導は、現場を担う役員らが対応していた
    8. 不正会計の発覚、課徴金、第三者委員会、役員への責任追及
    9. 株主が提訴請求をし、代表訴訟を提起した
  4. 事案の経緯の時系列
  5. 当事者の請求と主要な主張
    1. 株主PRSの請求
    2. 判決が整理した5つの争点
    3. 主な主張の対立
  6. 結論を左右した争点
  7. 裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み
    1. 認定された重要な事実
    2. 内部統制システム構築義務の判断の枠組み
    3. 判断の枠組みの整理
  8. 各主張を採用し又は排斥した理由
    1. 訴えの目的―株価急落後の株式取得や意見書と異なる主張だけでは、不当な目的は推認されない
    2. 監視義務違反―平成17年・18年の指摘は代表取締役に伝わっていなかった
    3. 監視義務違反―後任の監査法人の指導には現場の役員が対応していた
    4. 監視義務違反―内部告発は虚偽の報告によって遮断されていた
    5. 監視義務違反―不正に加担する動機もない
    6. 内部統制システム構築義務違反―平成19年当時に想定された不正を防止する機能を有していた
    7. 内部統制システム構築義務違反―内部監査室長1名の体制も直ちに不十分とはいえない
    8. 監査法人への直接のヒアリングをすべきであったとの主張―前提を欠く
    9. ノルマと人事考課制度―経営上の広い裁量の範囲内
    10. 違法配当等の責任―配当等は分配可能額を超えていたと推認されるが、注意を怠らなかった
  9. 主文及び結論
  10. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 代表訴訟で監視・内部統制の義務違反を問われた会社・役員が確認しておきたいこと
  11. よくあるご質問
    1. 代表取締役であれば、社内の不正会計を知っていたと推認されてしまうのですか。
    2. 不正会計が起きた以上、内部統制システムの構築義務違反になるのではありませんか。
    3. 内部監査部門が1名しかいない体制は、それだけで不十分とされますか。
    4. 粉飾された決算に基づいて配当を決議した取締役は、必ず責任を負いますか。
    5. 不正会計の報道の後に株式を取得した株主の代表訴訟は、不当な目的として却下されますか。
  12. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

裁判所 東京地方裁判所民事第8部
裁判日 平成30年3月29日
事件番号 平成28年(ワ)第30606号
裁判の形式 判決
審級 第一審
訴訟の種類 株主代表訴訟(会社法第423条第1項に基づく損害賠償請求と、同法第462条第1項に基づく支払請求。客観的予備的併合)
結論 株主の請求をいずれも棄却。訴訟費用は株主の負担
上訴の状況 控訴の有無及び確定は、判決本文からは確認できていません

この表は、判決本文の冒頭、主文及び事案の概要の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた「原告」「被告」及び英字の符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、その旨を示しています(主文の引用を除きます)。

本記事の表記 立場
学習塾運営会社GKJ 代表訴訟で責任追及の対象となった損害を受けたとされる会社です(訴訟の当事者ではなく、株主が支払先として求めた会社)。学習塾の経営等を目的とし、1対1の個別指導を主体とした学習塾を展開しています。会社法上の大会社で、取締役会、監査役会及び会計監査人を設置する上場会社です
家庭教師派遣会社KTH 学習塾運営会社GKJの連結子会社で、家庭教師派遣教育事業を営んでいます
幼児教育会社YJK 学習塾運営会社GKJの連結子会社で、幼児教育事業を営んでいます
創業者MNT氏 被告。学習塾運営会社GKJの創業者で、設立当初から平成27年10月1日まで代表取締役を務めました(その後は代表権のない取締役相談役)
株主PRS 原告。提訴請求の6か月前から継続して学習塾運営会社GKJの株式100株を保有する株主です
既存事業担当役員HYS氏 学習塾運営会社GKJの取締役副社長として、講師の管理や教室の運営等の既存事業の経営を委ねられていた役員です。平成20年4月に代表取締役社長に就任し、平成24年6月20日に急死しました。訴訟の当事者ではありません
管理担当役員NKG氏 学習塾運営会社GKJの専務取締役として、財務会計を含む管理業務を委ねられていた役員です。平成25年9月2日に代表取締役社長に就任し、不正会計の発覚に伴い平成26年2月14日に辞任しました。訴訟の当事者ではありません
常務取締役WKB氏 学習塾運営会社GKJの常務取締役であった役員です。訴訟の当事者ではありません
前任の監査法人MTH 平成19年2月期まで学習塾運営会社GKJの会計監査人であった監査法人です
後任の監査法人BRT 平成20年2月期から学習塾運営会社GKJの会計監査人となった監査法人です。それ以前に、再発防止委員会の委員となり、授業管理システムの設計にも助言していました

判決は、平成20年2月期から平成26年2月期第2四半期にかけての売上げの不適切な計上を「本件不正会計」と呼んでおり、本記事でも同じく「本件不正会計」と呼びます。また、判決が英字の符号を付けて呼ぶ、授業の実施数を管理・集計するコンピュータ・システムを、本記事では「授業管理システム」と表記します。判決が「本件剰余金の配当等」と呼ぶ剰余金の配当と自己株式の取得、「本件報告書」と呼ぶ第三者委員会の報告書、「本件意見書」と呼ぶ外部の弁護士らの意見書(監査役会版)も、判決と同じ呼び方をします。会社が意見を照会した法律事務所の名称は記載しません。

事案の概要

創業者である代表取締役が、既存事業と管理業務を2人の役員に委ねていた

判決の認定によれば、創業者MNT氏は昭和60年に学習塾運営会社GKJを設立し、代表取締役社長として学習塾の運営等を行っていましたが、平成16年頃から、講師の管理や教室の運営等の既存事業の経営を既存事業担当役員HYS氏に、財務会計を含む管理業務を管理担当役員NKG氏にそれぞれ委ね、自らは新規事業の立ち上げに注力するようになりました。

その後、創業者MNT氏は、平成20年4月に既存事業担当役員HYS氏が代表取締役社長に就任したため代表取締役会長となり、平成24年6月20日に既存事業担当役員HYS氏が急死したため再び社長を兼任し、平成25年9月2日に管理担当役員NKG氏が代表取締役社長に就任したため再び代表取締役会長となりました。

平成19年以前から、監査役会と規程類による体制が整備されていた

判決の認定によれば、学習塾運営会社GKJでは、平成19年以前から、少なくとも3名の社外監査役を含む4名の監査役が選任されており、そのうち1名は公認会計士の資格を、2名は税理士の資格を有していました。また、就業規則、個人情報保護規程、内部者取引規程等の企業倫理に関する諸規程を行動規範として定め、文書管理規程等に従って取締役の職務執行に係る情報を記録・保存し、取締役及び監査役が常時閲覧できることなどを定めていました。

監査法人の指摘で平成19年に売上げの不正計上が発覚し、再発防止策が講じられた

判決の認定によれば、前任の監査法人MTHは、平成17年6月期(第20期。判決本文の表記によります)の監査に当たり、講習会に関して消化されていない授業の売上げが11億1600万円存在することを把握して業績予想の修正を指摘し、平成18年8月期(第22期中間期)の監査では、通常授業の売上高のうち当日欠席が25パーセントを占めていたことから資料の提出を求め、提出されなかったため売上計上を否認しました。これらの指摘や会社の対応は、いずれも創業者MNT氏には報告されていませんでした。

前任の監査法人MTHは、平成19年2月期(第22期)の監査で、次期に実施する予定の授業の売上げを先取りして計上するなどの方法により、約6億円の売上げが不正に計上されていると指摘しました。創業者MNT氏は、平成19年4月11日、前任の監査法人MTHから直接同様の指摘を受けて不正計上を知り、既存事業担当役員HYS氏、管理担当役員NKG氏及び8ブロックのブロック長らから事情を聴取しました。ブロック長らは2人の役員からの指示は受けておらず現場レベルの判断で行った旨を説明し、2人の役員も関与を否定しました。前任の監査法人MTHからも、ブロック長限りで2人の役員の知らないところで行われたものである旨の報告を受けたため、創業者MNT氏は、2人の役員は関与していないと判断し、関与したブロック長に子会社への異動を含む降格ないし減給の処分をしました。

そのうえで、創業者MNT氏は、再発防止委員会を設置させ(既存事業担当役員HYS氏が委員長、管理担当役員NKG氏が副委員長、後任の監査法人BRTの公認会計士らが委員)、授業の実施数を紙の管理簿で管理していたことが原因であり、実施データを一元管理するコンピュータ・システムの導入が有効であるとの報告を受けて、授業の実施数と講師への給与の支払を紐付けて売上計上の基礎となる実施数を管理集計する授業管理システムの導入を決定しました。あわせて、内部監査室の体制を強化して内部監査室長1名を配置し、従業員研修で平成19年の不適切な会計処理に言及し、目安箱を設置するなどの対応を講じました。ただし、内部監査室長は人事事務等を掛け持ちしており、内部監査に充てられる時間や労力は限られていたと認定されています。

会計監査人が交代した

前任の監査法人MTHは、監査報酬等の引上げに応じてもらえなければ監査業務を継続できない旨を申し入れましたが、応じてもらえなかったため、平成19年2月期の監査終了をもって監査契約を継続しないことを決めました。学習塾運営会社GKJは、再発防止委員会の委員となり授業管理システムの設計にも助言していた後任の監査法人BRTと、平成20年2月期の監査から監査契約を締結しました。

幹部役員の指示ないし黙認の下で、別の手法による不正会計が行われた

授業管理システムの下では、次期に実施予定の授業を先取りして売上げを計上することは不可能になりました。しかし、当日欠席、社員授業(講師料の支払を要しない従業員による授業)及び「ご祝儀」(生徒が未消化授業を残して退会した場合などに、保護者から前受金の返還は不要との了解を得て売上げを計上するもの)は、現場で作成する帳票を照合して管理されており、授業管理システムによる管理と必ずしも連動していませんでした。また、役員や幹部従業員らの指示ないし黙認があれば虚偽の数値を打ち込むことが可能で、契約書の偽造などにも対応できるものではありませんでした。

判決の認定によれば、平成20年2月期以降、少なくとも管理担当役員NKG氏及び常務取締役WKB氏の指示ないし黙認の下で、当日欠席、社員授業及びご祝儀を仮装して未消化コマ数を減らし、売上げを不正に計上する会計処理が行われるようになりました。平成21年2月期以降は、映像講座の契約について、契約書の日付を遡らせる、契約成立の見込みがないのに契約書を作成する、保護者の押印が不要な仮伝票を作成するといった方法も用いられました。

内部告発は、管理担当役員の虚偽の報告によって遮断された

創業者MNT氏は、平成25年2月頃、売上げの不適切な計上を告発する匿名の手紙を受領し、管理担当役員NKG氏に調査を命じました。管理担当役員NKG氏が常務取締役WKB氏に調査させたところ、不適切計上の事実が確認され、手紙の内容は事実である旨の報告書が提出されましたが、管理担当役員NKG氏は、これを創業者MNT氏に提出せず、調査したが問題はなかった旨の報告をしました。

後任の監査法人の指導は、現場を担う役員らが対応していた

後任の監査法人BRTは、平成19年8月の中間監査で、契約書の日付を書き直す形で2700万円の売上げが不適切に計上されていることを発見して指摘し、平成21年2月期から平成24年2月期にかけては、消化コマ数が契約コマ数を超える状態が多い教室について既存事業担当役員HYS氏らに説明を求めて管理の徹底を指導し、平成25年2月期の監査では、ご祝儀による売上計上が多かったため一定の場合にこれを認めない方針を採り、約1億9000万円の減額修正を指導しました。判決は、これらの指導には現場で教室運営や財務会計を担う2人の役員が対応していたことがうかがわれるとしています。

不正会計の発覚、課徴金、第三者委員会、役員への責任追及

平成25年11月26日、証券取引等監視委員会の調査により本件不正会計が発覚しました。学習塾運営会社GKJは第三者委員会を設置し、第三者委員会は、平成26年2月10日付けの本件報告書で、学習塾運営会社GKJ、家庭教師派遣会社KTH及び幼児教育会社YJKにおいて、平成20年2月期から平成26年2月期第2四半期にかけて合計83億8000万円の売上げが不適切に計上されていたとしました。学習塾運営会社GKJは、平成26年4月18日、金融庁長官から4億1477万円の課徴金納付命令を受け、同年6月19日に納付しました。

学習塾運営会社GKJは、外部の弁護士らに役員等への責任追及の方針を照会し、弁護士らは平成27年3月11日付けの本件意見書で、管理担当役員NKG氏及び常務取締役WKB氏には責任追及をすべきであるが、創業者MNT氏については内部統制システムの構築・運用の義務違反を認めることはできず、法的責任の追及は難しいとの意見を述べました。学習塾運営会社GKJは、平成27年5月8日、この2人に連帯して3億円の支払を求める訴訟(判決は「前件責任追及訴訟」と呼んでいます)を提起し、2人は平成28年3月23日に請求を認諾しました。

株主が提訴請求をし、代表訴訟を提起した

株主PRSは、平成27年10月1日、学習塾運営会社GKJの監査役に対し、創業者MNT氏の任務懈怠責任及び違法配当等に係る責任を追及する訴えを提起するよう請求しました。その後、株主PRSは本件の株主代表訴訟を提起しました(訴状送達の日の翌日は平成28年9月17日です)。

事案の経緯の時系列

時期 出来事(判決本文の前提事実及び認定事実による)
昭和60年 創業者MNT氏が学習塾運営会社GKJを設立
平成16年頃 創業者MNT氏が既存事業の経営を既存事業担当役員HYS氏に、管理業務を管理担当役員NKG氏に委ね、新規事業に注力
平成17年6月期・平成18年8月期 前任の監査法人MTHが講習会の未消化授業の売上げや当日欠席の売上計上を指摘・否認。創業者MNT氏には報告されず
平成19年4月11日 創業者MNT氏が前任の監査法人MTHから直接、約6億円の売上げの不正計上の指摘を受ける。事情聴取、ブロック長の処分、再発防止委員会の設置、授業管理システムの導入へ
平成19年4月 前任の監査法人MTHが監査契約を継続しない旨を伝える。平成20年2月期から後任の監査法人BRTが会計監査人に
平成20年2月期以降 管理担当役員NKG氏及び常務取締役WKB氏の指示ないし黙認の下で、本件不正会計が行われる
平成20年4月 既存事業担当役員HYS氏が代表取締役社長に就任。創業者MNT氏は代表取締役会長に
平成21年2月期~平成26年2月期 取締役会が合計47億709万6310円の配当を決議(創業者MNT氏は賛成)
平成21年11月13日~平成22年10月20日 取締役会が4回にわたり自己株式の取得を決議(上限合計7.5億円。創業者MNT氏は賛成)
平成24年6月20日 既存事業担当役員HYS氏が急死。創業者MNT氏が社長を兼任
平成25年2月頃 匿名の告発の手紙。管理担当役員NKG氏が「問題はなかった」と報告
平成25年9月2日 管理担当役員NKG氏が代表取締役社長に就任
平成25年11月26日 証券取引等監視委員会の調査で本件不正会計が発覚
平成26年2月10日 第三者委員会が本件報告書を提出(不適切計上の合計83億8000万円)
平成26年2月14日 管理担当役員NKG氏が代表取締役社長を辞任。創業者MNT氏が社長を兼任
平成26年4月18日 金融庁長官による課徴金納付命令(4億1477万円)。同年6月19日に納付
平成27年3月11日 外部の弁護士らが本件意見書を監査役会に提出
平成27年5月8日 会社が管理担当役員NKG氏及び常務取締役WKB氏に3億円の支払を求めて提訴(平成28年3月23日に請求認諾)
平成27年10月1日 創業者MNT氏が会長兼社長を退任し、代表権のない取締役相談役に。同日、株主PRSが監査役に提訴請求
平成28年8月8日 株主PRSが会社に、前件責任追及訴訟に関する費用の負担の検討を依頼
平成30年3月29日 東京地方裁判所が株主の請求をいずれも棄却する判決

株主PRSが株式を取得した時期について、創業者MNT氏は、本件不正会計が報道され株価が急落した後の平成26年2月20日に、取引最小単位の100株を代金2万円程度で取得したと主張しましたが、判決はこの事実を認定せず、「仮に」そうであったとしても結論は変わらないとして判断しています。

当事者の請求と主要な主張

株主PRSの請求

株主PRSは、創業者MNT氏に対し、学習塾運営会社GKJに次の金員を支払うよう求めました。

  • 会社法第423条第1項に基づき、課徴金の支払に係る損害及び違法配当等に係る支払額等の合計49億1237万4523円
  • 同法第462条第1項に基づき、上記合計額の一部である42億3396万5000円(上記の請求と客観的予備的併合の関係にあります)
  • これらに対する平成28年9月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(平成29年の民法改正前の法定利率によるものです)

株主PRSが主張した損害の内訳は、分配可能額を超える配当等の総額51億5526万4000円から一部の株主から返還を受けた9億2129万9000円を控除した42億3396万5000円、課徴金4億1477万円、訂正監査報酬5040万1890円と各種調査費用2億1323万7633円の合計2億6363万9523円です。これらは株主PRSの主張であり、判決は損害の争点を判断していません。

判決が整理した5つの争点

  • 本件訴えが、株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は会社に損害を加えることを目的とする場合(会社法第847条第1項ただし書)に当たるか(本案前の主張)
  • 創業者MNT氏が本件不正会計を認識しながら黙認したといえるか(監視義務違反)
  • 創業者MNT氏に内部統制システム構築義務違反があるか
  • 剰余金の配当等の議案に賛成するに当たり、「その職務を行うについて注意を怠らなかった」(会社法第462条第2項)といえるか
  • 損害

主な主張の対立

争点 株主PRSの主張 創業者MNT氏の主張
訴えの目的(第847条第1項ただし書) 提訴請求の費用、記録の閲覧・謄写費用及び弁護士報酬は訴訟費用に当たらないため訴訟費用額確定手続を経ずに会社に請求した。共同訴訟参加の印紙・郵券費用は誤って請求した。本件報告書と本件意見書は、代表取締役の認識の可能性を検証せずに責任を否定しており信頼できない 株主PRSは株価急落後に最小単位の株式を取得し、前件責任追及訴訟に共同訴訟参加したがほとんど助力せず、根拠資料も示さずに会社に金員を請求し、それが奏功しないため本訴を提起した。本件意見書を根拠なく無視・曲解している。訴訟対応で会社経営に支障が生じるおそれがある
監視義務違反 代表取締役社長であった以上、平成17年からの不適切な会計処理や後任の監査法人の指摘・指導を認識していたはずである。平成25年2月の内部告発を放置した。筆頭株主として、粉飾により配当を得て面目を保つ動機があった 合理的な内部統制システムが構築されていれば、違法な業務執行を疑わせる特段の事情がない限り、システムを通じて報告される情報を信頼すればよい。担当役員らは情報を遮断し、内部告発についても虚偽の報告をした。監査法人の指摘は直接伝えられず、内部監査でも兆候は発見されなかった
内部統制システム構築義務違反 平成19年の不正の実態解明のため、ブロック長と監査法人へのヒアリングが不可欠であり、それによりノルマと人事考課制度が動機の原因であることや役員らの隠蔽を把握できた。人事・経営方針の改定、職務分掌の明確化、内部監査部門の強化、内部通報制度、会長自らのチェック体制、役員人事の見直し、システムへのアクセス制限を内容とする体制を構築すべきであった 構築すべき体制の内容は経営判断の問題で、広い裁量がある。判断過程に著しく不合理な点があるか、通常想定される不正行為を防止し得る体制が構築されていたかで判断すべきである。平成19年の発覚後、事情聴取と処分、再発防止委員会、システムの導入、研修、内部監査室の強化、目安箱、会計監査人の変更を行った。本件不正会計の巧妙な手法は当時存在せず、想定してシステムを構築することは不可能であった
違法配当等の責任(第462条) 架空売上を修正すると、平成21年2月期(第24期)以降、分配可能額を超えて配当等が行われたことになり、議案に賛成した創業者MNT氏は支払義務を負う 不正が生じない対策を講じており、監査法人のチェックと監査役会・担当役員の審査を経て上程された議案に経理上の不正があることを見抜くことは困難であった

上の表は、判決本文に記載された当事者の主張を当事務所が要約したものであり、裁判所が認めた事実ではありません。

結論を左右した争点

判決は、本案前の主張(訴えの目的)を退けたうえで、監視義務違反、内部統制システム構築義務違反、剰余金の配当等についての責任の3つをいずれも否定し、損害については判断するまでもないとして請求を棄却しました。結論を分けたのは、次の点でした。

  • 代表取締役が、業務を委ねた役員らのもとで行われた不正会計の事実又はその兆候を知っていたといえるか
  • 過去の監査法人の指摘、内部告発、配当による利益という事情から、認識や黙認の動機が推認できるか
  • 整備した内部統制システムが、会社の事業の内容・規模等に照らして通常想定される不正行為を防止し得る程度のものであったか
  • 本件不正会計が、平成19年の不正とは異なる、幹部役員の指示ないし黙認による別の手法で行われたものであったか
  • 監査役会や監査法人の監査を経た財務諸表等に基づく配当議案について、不正を発見することが困難であったか

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

裁判所が認定した重要な事実と判断の枠組み

認定された重要な事実

  • 創業者MNT氏は、平成16年頃から既存事業と管理業務を2人の役員に委ね、新規事業に注力していた
  • 平成17年・平成18年の前任の監査法人MTHの指摘や否認は、創業者MNT氏に報告されていなかった
  • 平成19年4月11日に直接指摘を受けた後、創業者MNT氏は事情聴取、関与者の処分、再発防止委員会の設置、授業管理システムの導入、内部監査室長の配置、研修、目安箱の設置を行った
  • 授業管理システムの導入後、平成19年の不正の手法(次期の授業の売上げの先取り計上)は不可能になった
  • 本件不正会計は、当日欠席・社員授業・ご祝儀の仮装などの手法により、幹部役員の指示ないし黙認の下で行われた。この手法による不正が平成19年以前から行われていたことを認める証拠はない
  • 平成25年2月頃の内部告発は、管理担当役員NKG氏の虚偽の報告によって創業者MNT氏に伝わらなかった
  • 教室別の経営分析会議で創業者MNT氏に報告された売上高等の数値は改ざんされたものであった
  • 創業者MNT氏は、後任の監査法人BRTから監査に問題があるなどの報告を受けたことがなかった

内部統制システム構築義務の判断の枠組み

判決は、大会社である取締役会設置会社の取締役会は、取締役及び使用人の不正行為を防止するため内部統制システムの大綱を決定することを要し(会社法第362条第5項、同条第4項第6号、会社法施行規則第100条第1項)、業務執行を担当する代表取締役は、その大綱を踏まえ、内部統制システムを具体的に決定すべき義務を負うとしたうえで、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「整備すべき内部統制システムの内容については、当該会社の規模、事業内容その他の事情によって左右されるものであるから、会社経営の専門家である取締役に広い裁量が与えられているというべきであり、代表取締役は、原則として、通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整えれば足り、不正行為が通常容易に想定し難い方法によるものであった場合には、代表取締役において、不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情がない限り、当該代表取締役に、不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできないものと解するのが相当である」

判決は、この判断にあたり、最高裁判所平成21年7月9日第一小法廷判決を参照しています。同判決の本文は本記事の素材としていないため、その内容の説明は控えます。

判断の枠組みの整理

判決が示した判断の枠組みは、当事務所の整理では次のとおりです。

  • 監視義務違反については、代表取締役が不正の事実又はその兆候を知っていたかを、監査法人の指摘が誰に伝えられ誰が対応していたか、業務の分担、内部告発がどのように処理されたか、不正に加担する動機があったかなどから認定し、知っていたと認められなければ、知りながら黙認したという主張は前提を欠くとしました。
  • 内部統制システム構築義務違反については、会社の規模・事業内容に応じた広い裁量を前提に、通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制が整えられていたか、不正が通常容易に想定し難い方法によるものであった場合に予見すべき特別な事情があったかを検討しました。
  • 違法配当等の責任(会社法第462条)については、配当等が分配可能額を超えていたと推認しつつ、内部統制システムの整備、不正の不知、監査役会・監査法人の監査の状況などから、注意を怠らなかったかを判断しました。

各主張を採用し又は排斥した理由

訴えの目的―株価急落後の株式取得や意見書と異なる主張だけでは、不当な目的は推認されない

創業者MNT氏は、株主PRSが株価急落後に最小単位の株式を取得したこと、本件意見書が責任を否定しているのに訴えを提起したこと、前件責任追及訴訟に関する費用を会社に請求し、それが奏功しないため本訴を提起したことを挙げて、訴えの却下を求めました。判決は、株式の取得について次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「仮に、株主PRSが、創業者MNT氏の主張するとおり、本件不正会計が発覚し株価が急落した後に、学習塾運営会社GKJの株式を取引最小単位である100株取得したとしても、これをもって直ちに、株主PRSが自己の利益を図り又は学習塾運営会社GKJに損害を加えることを目的として本件訴えを提起したということはできない。」

本件意見書については、会社から照会を受けた弁護士が創業者MNT氏の責任の有無について「一つの見解を示したものにすぎず、直ちに創業者MNT氏の責任の不存在を確定するものではない」(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)とし、株主にすぎない株主PRSが本件報告書や本件意見書で明らかにされた事実関係以上の具体的な根拠を示していないことにも無理からぬ面があるとして、意見書の結論に反して訴えを提起したことから不当な目的は推認されないとしました。

費用の請求については、株主PRSの代理人が訴訟費用額確定手続を経ずに請求できると考えて検討を依頼したこと、共同訴訟参加の印紙・郵券費用は本来請求できないものを誤って加えたことが認められるとして、検討依頼が奏功しなかったために訴えを提起したとは認められないとしました。判決は、これらを総合しても、株主PRSが自己の利益を図り又は会社に損害を加える目的で訴えを提起したとは推認できないとして、本案前の主張を採用しませんでした。

監視義務違反―平成17年・18年の指摘は代表取締役に伝わっていなかった

判決は、前任の監査法人MTHが平成17年・平成18年に指摘や否認をしていたことを認めつつ、創業者MNT氏が平成16年頃から既存事業と管理業務を2人の役員に委ねて新規事業に注力していたこと、平成19年4月11日に直接指摘を受けて慌てて事情を聴取したことから、創業者MNT氏が平成17年・平成18年の指摘ないし否認を認識していたということはできないとしました。

監視義務違反―後任の監査法人の指導には現場の役員が対応していた

判決は、後任の監査法人BRTが平成21年2月期から平成25年2月期にかけて指導をしていたことを認めつつ、創業者MNT氏が平成20年4月以降は社長職を譲って代表取締役会長となっていたこと、平成24年6月から平成25年9月までの兼任は既存事業担当役員HYS氏の急死に伴う臨時の措置であったこと、指導には2人の役員が対応していたことがうかがわれることから、代表取締役であったことをもって直ちに本件不正会計の事実又はその兆候を知っていたとは認められないとしました。

監視義務違反―内部告発は虚偽の報告によって遮断されていた

判決は、創業者MNT氏が匿名の告発の手紙を受けて管理担当役員NKG氏に調査を命じたこと、管理担当役員NKG氏が事実である旨の報告書を受けながら創業者MNT氏に提出せず、問題はなかった旨の虚偽の報告を行ったことを認め、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「結局、管理担当役員NKG氏は情報が創業者MNT氏に伝わることを遮断していたのであって、上記内部告発の事実をもって、創業者MNT氏が本件不正会計の事実又はその兆候を知っていたと認めることもできない。」

監視義務違反―不正に加担する動機もない

株主PRSは、筆頭株主であった創業者MNT氏には、粉飾決算によって多額の配当を得て面目を保つ動機があったと主張しました。判決は、不正が行われれば上場会社である学習塾運営会社GKJの株価が下落し、自ら保有する株式の価値が毀損されるばかりか、代表取締役として責任追及を受けるおそれもあるとして、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「創業者MNT氏に本件不正会計に加担し又はこれを黙認する動機があったということもできない。」

判決は、これらを総合しても、創業者MNT氏が本件不正会計の事実又はその兆候を知っていたということはできず、知りながら黙認したとの主張は前提を欠くとして、監視義務違反を否定しました。

内部統制システム構築義務違反―平成19年当時に想定された不正を防止する機能を有していた

判決は、創業者MNT氏が不正計上を知った直後から事情聴取をして関与者を処分し、再発防止委員会に検討させ、監査法人の公認会計士やシステムの技術者の助言を受けて授業管理システムを導入したこと、導入後は平成19年の不正の手法による不正計上ができなくなったこと、本件不正会計は全く異なる手法により、幹部役員が指示ないし黙認するという全く異なる要因に基づいて発生したことを挙げ、授業管理システムの導入当時に本件不正会計の手法による不正が行われることは通常想定されるものではなく、授業管理システムは平成19年の発覚当時に想定された不正行為を防止する程度の機能を有していたとしました。

内部統制システム構築義務違反―内部監査室長1名の体制も直ちに不十分とはいえない

判決は、内部監査室長が人事事務等を掛け持ちしており、内部監査に充てられる時間や労力が限られていたことを認めました。しかし、平成19年版の監査白書によれば、内部監査担当部門の人員が1名の会社は全体の24.1パーセントで、従業員数が500名以下の会社に限れば440社中201社(45.68パーセント)であったことから、人員が1名であったことをもって直ちに措置が不十分であったとは断じられないとしました。

判決は、研修での言及や目安箱の設置、平成19年以前からの社外監査役による監査体制や文書の保存体制、平成20年2月期以降に創業者MNT氏が不正の事実又はその兆候を知ることはできず体制を更に強化すべき状態にあったとはいえないことも併せ考慮して、次のように結論付けました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「創業者MNT氏の整備した内部統制システムは、学習塾運営会社GKJの事業の内容、規模等に照らして、通常想定される不正行為を防止し得る程度の機能ないし有用性を備えていたというべきである。」

監査法人への直接のヒアリングをすべきであったとの主張―前提を欠く

株主PRSは、創業者MNT氏が監査法人に直接ヒアリングをしていれば、2人の役員が監査法人の指摘や証券取引等監視委員会の調査を隠蔽していたことを把握でき、それを前提とした体制を整備すべき義務があったと主張しました。判決は、創業者MNT氏は平成19年の発覚の際に前任の監査法人MTHから直接報告を受けており、およそ直接事情を聞いていなかったわけではないから、主張は前提を欠くとしました。さらに、平成19年以前の不適切な会計処理に2人の役員が関与していたことを認める的確な証拠はなく、仮に監査法人の指摘を報告していなかったことが明らかになったとしても、次のとおりであるとしました(引用中の表記はそのままです)。

「幹部役員が自ら指示ないし黙認して不正会計に関与する場合とは本質的に異なるから、これをもって直ちに幹部役員が不正行為を主導することをも想定したシステムを整備すべき義務が生じるものではない。」

ノルマと人事考課制度―経営上の広い裁量の範囲内

判決は、ノルマとその達成度に応じた人事考課制度が、従業員に業績を向上させなければならないとの圧力として一定程度作用したことは想像に難くないとしつつ、業績向上の方策や人事制度の導入・維持には広い裁量があること、直ちに本件不正会計の原因となるような人事考課制度が採用されていたとは認められないことから、制度の改定を含む体制を構築しなかったことが直ちに裁量を逸脱するとはいえないとしました。

違法配当等の責任―配当等は分配可能額を超えていたと推認されるが、注意を怠らなかった

判決は、合計47億709万6310円の配当と上限合計7.5億円の自己株式の取得の決議、本件報告書で不正計上額が合計83億8000万円とされていることから、本件剰余金の配当等はいずれも分配可能額を超えて行われたものと推認しました。そして、創業者MNT氏が各議案に賛成したことも認めました。

そのうえで、判決は、創業者MNT氏が通常想定される不正行為を防止し得る内部統制システムを整備したこと、本件不正会計は授業管理システムでは対処し得ない手法で幹部役員の指示ないし黙認の下に実行されたこと、内部告発についても情報が遮断されていたことから、創業者MNT氏は本件不正会計の事実を知らなかったとしました。さらに、公認会計士や税理士の資格を有する3名の社外監査役を含む4名の監査役による監査、会計監査人による監査(平成20年2月期からは再発防止委員会の委員を務め授業管理システムの設計にも助力した後任の監査法人BRT)、監査法人間の引継ぎが円滑に行われ監査に問題があるとの報告を受けたことがなかったこと、教室別の経営分析会議で報告された数値が改ざんされていたことを考慮して、次のように述べました(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「財務会計を含む管理業務を管理担当役員NKG氏に委ねて新規事業の立ち上げに注力していた創業者MNT氏が、監査役会や監査法人の監査を経た財務諸表等に基づいて作成された配当議案等に経理上の不正があることを発見することは困難であったというべきであり、創業者MNT氏には、本件剰余金の配当等が分配可能額を超えることについての注意義務違反はなかったものというべきである。」

判決は、これにより創業者MNT氏は「その職務を行うについて注意を怠らなかった」(会社法第462条第2項)といえるとして、同条第1項の責任を否定しました。

主文及び結論

判決の主文は、次のとおりです(「原告」は株主PRSを指します)。

「1 原告の請求をいずれも棄却する。」
「2 訴訟費用は原告の負担とする。」

判決は、結論として、次のように述べています(引用中の当事者の表記は本記事の表記に置き換えています)。

「以上によれば、株主PRSの請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。」

争点 判決の判断
訴えの目的(会社法第847条第1項ただし書) 不当な目的は推認できない(本案前の主張を採用せず)
監視義務違反 否定(不正の事実又はその兆候を知っていたと認められない)
内部統制システム構築義務違反 否定(通常想定される不正行為を防止し得る程度の機能ないし有用性を備えていた)
違法配当等の責任(会社法第462条) 配当等は分配可能額を超えていたと推認されるが、注意を怠らなかったとして否定
損害 判断せず

この表は、判決本文に基づいて当事務所が作成したものです。控訴の有無及び確定は、判決本文からは確認できていません。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。

参考となる点

  • 代表取締役であることだけで、不正の認識は推認されないこと。判決は、業務の分担、監査法人の指摘への対応者、社長職を譲っていた時期などを具体的に認定し、代表取締役であったことをもって直ちに不正の事実又はその兆候を知っていたとは認められないとしました。役員の側では、誰がどの業務を担い、監査法人の指摘を誰が受けて対応していたかが重要な事実となります。
  • 不正の発覚時に講じた対策の具体的な内容が、内部統制システム構築義務の判断の中心となったこと。事情聴取、関与者の処分、外部の専門家を加えた再発防止委員会、原因に対応したシステムの導入、内部監査室の強化、研修、目安箱といった一連の対応が、通常想定される不正行為を防止し得る程度の体制と評価されました。
  • 前回と異なる手法や、幹部役員の主導による不正は、通常想定されるものとは評価されなかったこと。判決は、本件不正会計が平成19年の不正とは全く異なる手法と要因によるものであることを重視し、幹部役員が不正を主導することまで想定したシステムを整備すべき義務は直ちには生じないとしました。
  • 体制の水準は、同規模の会社の実情と比較して評価されたこと。内部監査室長1名という体制について、判決は監査白書の統計を参照し、同規模の会社の状況と比べて直ちに不十分とはいえないとしました。
  • 監査役会と会計監査人の監査を経た配当議案には、一定の信頼が認められたこと。違法配当等の責任について、判決は、社外監査役による監査、会計監査人の監査、監査に問題があるとの報告がなかったことなどから、不正の発見は困難であったとしました。
  • 会社の側からの訴えの却下の主張は、容易には認められないこと。株価急落後の最小単位での株式取得、外部の弁護士の意見書が責任を否定していたこと、費用の請求の経緯を総合しても、不当な目的は推認されませんでした。

一般化できない点

  • 判決は、不正の発覚後に具体的な再発防止策が講じられ、その後の不正が別の手法と幹部役員の関与によるものであったという本件の事情を前提としています。同じ手法の不正が繰り返された場合や、代表取締役が兆候に接していた場合の評価は、本判決からは分かりません。
  • 判決は、内部監査室の体制が限られたものであったことや、授業管理システムで虚偽の数値の入力が可能であったことを認定しています。これらの点について問題がなかったと判断したものではなく、当時において通常想定される不正行為を防止し得る程度の機能を備えていたと評価したものです。
  • 判決は、配当等が分配可能額を超えていたことを推認しています。分配可能額を超える配当等であったこと自体を否定したものではなく、創業者MNT氏が注意を怠らなかったとして責任を否定したものです。
  • 本件では、不正会計に関与した2人の役員は、会社が提起した別の訴訟で請求を認諾しています。本判決は、創業者MNT氏の責任だけを判断したものです。
  • 損害(課徴金、違法配当等の額、調査費用等)については判断されていません。
  • 控訴の有無及び確定は確認できていません。

代表訴訟で監視・内部統制の義務違反を問われた会社・役員が確認しておきたいこと

本判決を踏まえると、株主から代表訴訟で監視義務や内部統制システム構築義務の違反を問われた会社と役員の側では、まず、役員間の業務の分担、監査法人の指摘や内部告発が誰に伝えられ誰が対応したか、過去に不正が発覚した際に講じた対策の内容とその検討の経過(委員会の構成、外部の専門家の助言、システムの導入の経緯)、その後の不正の手法と関与者、監査役会や会計監査人の監査の状況を、議事録、報告書、監査法人とのやり取りの記録などの資料で確認しておくことが大切です。あわせて、会社の規模・事業内容に照らして体制の水準を説明できるよう、同規模の会社の実情に関する資料も整理しておく必要があります。他方で、本判決は体制に問題がなかったと判断したものではありません。不正の兆候に接したときは、担当役員の報告をうのみにせず、独立した立場から事実を確認できる仕組みを整えておくことが、代表訴訟への備えとして重要です。

よくあるご質問

代表取締役であれば、社内の不正会計を知っていたと推認されてしまうのですか。

本判決はそのようには判断していません。判決は、代表取締役が既存事業と管理業務を他の役員に委ねていたこと、監査法人の指摘が報告されていなかったこと、内部告発が担当役員の虚偽の報告によって遮断されていたことなどを認定し、代表取締役であったことをもって直ちに不正の事実又はその兆候を知っていたとは認められないとしました。

不正会計が起きた以上、内部統制システムの構築義務違反になるのではありませんか。

本判決は、代表取締役は原則として通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整えれば足りるとし、不正行為が通常容易に想定し難い方法によるものであった場合には、予見すべき特別な事情がない限り義務違反の過失はないとしました。本件では、過去の不正の発覚後に講じた対策と、その後の不正が別の手法と幹部役員の関与によるものであったことから、義務違反が否定されました。

内部監査部門が1名しかいない体制は、それだけで不十分とされますか。

本判決は、内部監査室長が他の業務を掛け持ちしていたことを認めつつ、同規模の会社の多くで内部監査担当部門の人員が1名であったとする監査白書の統計を参照し、人員が1名であったことをもって直ちに不十分とは断じられないとしました。もっとも、他の事情と併せて総合的に判断されたものであり、1名の体制で常に足りるという趣旨ではありません。

粉飾された決算に基づいて配当を決議した取締役は、必ず責任を負いますか。

本判決は、配当等が分配可能額を超えていたと推認しつつ、代表取締役が不正を知らなかったこと、社外監査役や会計監査人の監査を経た財務諸表等に基づく議案に不正があることの発見は困難であったことなどから、「その職務を行うについて注意を怠らなかった」(会社法第462条第2項)として責任を否定しました。注意を怠らなかったといえるかは、事案ごとの具体的な事情によって判断されます。

不正会計の報道の後に株式を取得した株主の代表訴訟は、不当な目的として却下されますか。

本判決では、株価急落後に最小単位の株式を取得したとしても、そのことから直ちに不当な目的があるとはいえないとされ、外部の弁護士の意見書が責任を否定していたことや費用の請求の経緯を総合しても、却下の主張は採用されませんでした。会社や役員の側では、却下を求めるよりも、責任の有無そのものについて具体的な事実で反論する準備が重要になります。

関連する記事と御相談のご案内

株主から代表訴訟や提訴請求によって役員の監視義務・内部統制の義務違反を問われた場合は、役員間の業務の分担、監査法人の指摘や内部告発の処理の経過、過去の不正の発覚時に講じた対策、監査役会と会計監査人の監査の状況を整理し、責任の有無と訴えの適法性の両面から検討することが大切です。株主との関係を含む株主構成の整理については株主代表訴訟・提訴請求への対応に関する御相談で御案内しています。少数株主対策・スクイーズアウトに関するほかの裁判例は、少数株主対策・スクイーズアウトの裁判例の解説記事一覧をご覧ください。

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この記事の位置付け

上場会社の不正会計の後に、株主が創業者である代表取締役の監視義務違反と内部統制システム構築義務違反を株主代表訴訟で追及した事件の判決を、責任が否定された判断の枠組みに沿って、会社・役員の側に向けて解説します。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

2024年(令和6年)10月に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士です。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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