非上場株式の適正価格は誰が決めるのか

少数株主から株式の買取りを求められた場合や、会社が株式を取得しようとする場合、その株式をいくらで評価すべきかが問題となります。しかし、非上場株式には取引所における市場価格が存在しないため、適正な価格を一義的に定めることは容易ではなく、誰がどのような基準で価格を決定するのかを整理しておく必要があります。

税務上の評価については、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。本記事では、法律上の枠組みを中心に整理いたします。

 価格が一つに定まらない理由

第一に、非上場株式には市場がありません。上場株式であれば市場における取引価格が存在しますが、非上場株式にはこれがなく、価値を推定する作業が必要となります。

第二に、推定の方法が複数存在します。会社が保有する資産に着目する方法、将来生み出す収益に着目する方法、株主が受け取る配当に着目する方法、類似する会社の指標を用いる方法などがあり、いずれも合理性を有し得ます。

第三に、前提条件の置き方によって結果が変わります。評価の基準日、将来の収益の見積り、割引率、資産の時価、対象となる株式が支配権を伴うものであるかどうかといった前提が異なれば、同じ手法であっても結論は異なります。

表2 結果を左右する主な前提条件

前提条件 内容 会社側の関心
評価の基準日 いつの時点の価値を求めるのか 直近の業績の変動、特別な損益の取扱い
対象となる株式の性質 支配権を伴うものか、少数の持分か 支配権の有無を価格に反映させるかどうか
評価の手法 資産、収益、配当、類似会社のいずれに着目するか 会社の実態に適合する手法の選択
将来の見積り 事業計画の内容と実現の可能性 計画の合理性、根拠となる資料
資産の時価 不動産、有価証券、保険その他の資産の評価 鑑定の要否、簿価との差
負債の把握 簿外債務、偶発債務、退職給付に関する債務 把握の網羅性、資料の整備

 会社側の関心は「払い過ぎない」ことに尽きません

会社側の関心は、支払う金額を抑えることのみではありません。第一に、支払った金額は他の株主に対する説明の前提となり、将来の取得の際の先例として扱われることがあります。第二に、会社が取得する場合には財源に関する規制があり、金額が財源を超えることは許されません。第三に、価格の設定は税務上の取扱いにも影響し得ます。第四に、価格をめぐる紛争が長期化すること自体が、会社の経営に負担を生じさせます。

したがって、会社側が目指すべきは、単に低い価格ではなく、根拠を説明でき、他の株主との関係でも整合し、財源の範囲に収まる価格です。

会社法上の制度における価格

 当事者間の合意による場合

任意の取得においては、価格は当事者間の合意によって定まります。法律が特定の金額を定めているわけではありません。したがって、会社側は、自らが提示する金額の根拠を説明できる状態を整えることになります。

合意による解決には、手続が簡明であること、期間が短くて済むこと、条件を柔軟に設計できることという利点があります。他方で、相手方が応じなければ成立しないという限界があります。

 裁判所が価格を決定する場合

会社法は、一定の場面において、当事者間で価格の協議が調わないときに、裁判所に価格の決定を求めることができる旨を定めています。譲渡を承認しない場合の買取り、一定の組織上の行為に反対した株主による株式買取請求、株式の併合に関連する場面などがこれに当たります。

これらの手続においては、裁判所が、提出された資料と主張に基づいて価格を決定します。会社側としては、自らの主張を裏付ける資料を提出し、相手方の主張の前提を検証することになります。

なお、これらの手続には申立ての期間が定められているものがあります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

表3 合意による場合と裁判所の手続による場合の違い

観点 当事者間の合意 裁判所の手続
決定する主体 当事者 裁判所
要する期間 合意に至れば短期間で済みます 相当の期間を要することが通常です
費用 交渉に要する費用 手続の費用、鑑定の費用、代理人の費用
結果の予測 交渉の経過により見通しが立ちます 確定するまで金額は定まりません
条件の柔軟性 支払の時期、分割等を設計できます 制度の枠内に限られます
会社側の準備 価格の根拠の整理 主張立証、資料の提出、鑑定への対応

 鑑定が行われる場合

裁判所の手続においては、専門家による鑑定が行われることがあります。鑑定が行われる場合、その前提となる資料と、会社の実態に関する説明が結論に影響します。

会社側としては、鑑定が開始する前の段階における主張と資料の整備が重要となります。この点は、価格決定の手続に関する記事において詳しく解説しております。

 会社側が選び得る進め方

価格が問題となっている局面において、会社側が採り得る進め方には、次のようなものがあります。いずれを採るかは、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なります。

表4 価格をめぐる局面における会社側の進め方

進め方 内容 適する局面
根拠を整えて協議する 会社側の算定の根拠を整理したうえで、合意による解決を図ります 相手方に売却の意向があり、条件の折り合いが見込まれる局面
相手方の算定を検証する 相手方が提出した算定の前提条件を検証し、指摘します 相手方から算定書が提出された局面
取得の主体を変更する 会社ではなく支配株主その他の者が取得することを検討します 財源に制約がある局面
条件を分解する 価格のほか、支払の時期、分割、清算の範囲を含めて設計します 総額では折り合わないが条件で調整の余地がある局面
手続における主張立証を進める 裁判所の手続において、資料に基づく主張を行います 申立てがなされた局面
取得しない判断をする 取得を見送り、株主としての権利行使への対応に備えます 財源、価格の見通しから取得が適切でない局面

具体的な進め方の選択と組立ては、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

評価の手法

評価の手法には複数のものがあり、会社の規模、業種、資産の構成、収益の状況によって、適合するものが異なります。本記事では概要のみを示し、それぞれの詳細は個別の記事において解説しております。

表5 主な評価の手法

手法 着目する点 会社側から見た主な論点 詳細
時価純資産法 会社が保有する資産と負債の時価 不動産等の評価、簿外債務の把握、含み損益の取扱い 時価純資産法の記事
収益還元法 将来生み出す収益 収益の見積りの根拠、還元率の設定 収益還元法の記事
ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法 将来の資金の流れを現在の価値に割り引いた額 事業計画の合理性、割引率の設定、中小企業における適用の限界 同法の記事
配当還元法 株主が受け取る配当 配当の実績、実質的配当還元法と税務上の方式との区別 配当還元法の記事
類似会社比較法 類似する会社の指標 比較対象の選定、規模の差の調整 株価算定に関する案内
取引事例法 過去の売買の実績 事例の性質、当事者の関係、時点の相違 株価算定に関する案内

これらの手法は、いずれか一つのみが正しいというものではありません。複数の手法を併用し、又は重み付けを行うこともあります。どの手法をどのように用いるかは、会社の実態と、当該案件がどの枠組みにあるかによって異なります。

 支配権の有無をどう反映させるか

対象となる株式が支配権を伴うものであるか、それとも少数の持分にとどまるかによって、価格の考え方が異なり得ます。この点は、会社側と株主側とで主張が対立する典型的な論点です。裁判実務における取扱いは、制度と事案の性質によって異なります。具体的な率を一般化して述べることはできません。この点は、少数株式の評価に関する記事において整理しております。

 過去の売買の実績の意味

過去に会社が株式を取得した実績がある場合、その価格が参照されることがあります。もっとも、その取引が親族間のものであったか、税務上の評価に基づくものであったか、当事者間に特別の事情があったかによって、参照の可否と程度は異なります。

会社側としては、過去の取引の経緯と価格の根拠を確認しておく必要があります。この確認を怠ると、意図しない金額が前提とされることがあります。

 手法の選択において会社側が誤りやすい点

第一に、自社にとって金額が低くなる手法を先に選び、その後に理由を付けるという順序です。この順序で組み立てられた主張は、相手方の指摘によって容易に崩れます。会社の実態に照らして、どの手法が適合するのかという順序で検討する必要があります。

第二に、単一の手法のみに依拠することです。会社の実態によっては、資産に着目する手法と収益に着目する手法とを併用することが適切な場合があります。

第三に、算定書を取得すれば足りると考えることです。算定書は前提条件の上に成り立っており、その前提の合理性を説明できなければ、手続において十分な意味を持ちません。

第四に、会計上の数値をそのまま用いることです。資産の時価、簿外の債務、事業に用いていない資産の有無については、別途の検討が必要です。

価格をめぐる争いが有事化した場合の進行

 交渉から手続への移行

価格について合意に至らない場合、制度によっては、当事者の一方が裁判所に対して価格の決定を申し立てることができます。申立てがなされた後は、進行の主導権が当事者から裁判所に移ります。

会社側としては、申立てがなされた段階で、次の事項を確認する必要があります。

表6 申立てを受けた場合に確認する事項

確認事項 内容
制度の特定 どの制度に基づく申立てであるか
申立ての期間 申立てが所定の期間内になされているか。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします
対象となる株式 株式数、種類、株主名簿の記載との一致
基準となる時点 価格を判断する時点として、どの時点が問題となるか
相手方の主張 相手方が用いている手法と前提条件
会社側の資料 提出できる資料の範囲と、整備に要する期間

 資料の提出をめぐる問題

裁判所の手続においては、会社の内部の資料が提出の対象となり得ます。会社側としては、提出すべき資料の範囲、営業秘密に関する配慮、取引先との関係への影響を検討する必要があります。

また、株主側が、価格の算定に必要であるとして、会計帳簿の閲覧謄写を並行して請求することがあります。この場合、価格の手続と資料の開示の手続とが並行して進むことになり、双方を見通した対応が必要となります。

 期間と費用の見通し

裁判所の手続は、相当の期間を要することが通常です。鑑定が行われる場合には、さらに期間が延びます。費用としては、手続の費用、鑑定の費用、代理人の費用が生じます。

会社側としては、期間と費用の見通しを踏まえて、手続を進めることと、途中で合意による解決を図ることとを比較検討することになります。この比較は、金額のみではなく、経営に生じる負担、他の株主への波及、社内の体制を含めて行うべき事柄です。

 他の株主への波及

一人の株主との間で価格が確定した場合、その金額は、他の株主との関係においても意味を持ちます。他の株主が同様の申出を行うことが見込まれる場合には、全体を見通した方針を定めておく必要があります。

案件として確認すべき事項

表7 価格の検討に必要な資料

区分 資料
計算関係 直近3期から5期分の計算書類、勘定科目内訳明細書、月次試算表
資産関係 不動産の一覧と登記事項証明書、有価証券の明細、保険契約の一覧、固定資産台帳
負債関係 借入金の一覧、保証債務の状況、退職給付に関する資料、係争中の事件の有無
事業関係 事業計画、予算と実績の対比、主要な取引先との契約
株式関係 定款、株主名簿、過去の売買の資料、株価算定書の有無
手続関係 受領した書面、相手方の主張の内容、期限

資料の整備は、価格の検討の前提です。とりわけ、資産の時価と負債の網羅的な把握は、時間を要する作業となります。有事となってから着手すると、期限に追われることになります。

表8 会社側が事前に整理しておくべき事項

事項 内容
過去の取得の実績 いつ、誰から、いくらで取得したか。その根拠は何か
配当の方針 配当の実績と、その方針の説明
役員報酬の水準 収益に着目する手法において論点となり得ます
資産の実態 事業に用いていない資産の有無とその評価
将来の見通し 事業計画の有無と、その根拠となる資料

弁護士に相談する意味

第一に、枠組みの特定です。当事者間の合意によるのか、裁判所の手続に進むのか、税務上の評価が問題となるのかによって、検討すべき事項が異なります。枠組みを取り違えたまま検討を進めることは、労力の浪費にとどまらず、期限の徒過につながります。

第二に、相手方の主張の検証です。株主側から株価算定書が提出された場合、その前提条件を検証する必要があります。手法の選択、基準日、将来の見積り、資産の評価のいずれについても、検討すべき点があります。

第三に、会社側の主張の構築です。会社側が価格の根拠を持たないまま交渉又は手続に臨むことは、会社にとって不利益となり得ます。会計の専門家との連携を含め、主張を組み立てる必要があります。

第四に、法律上の論点と税務上の論点の区別です。両者は別の枠組みであり、混同すると誤った判断につながります。税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。当事務所では、両者を区別してご説明いたします。

第五に、他の株主への影響の検討です。一人の株主との間で成立した価格は、他の株主との関係にも影響します。全体を見通した判断が必要です。

なお、価格に関する具体的な交渉の進め方は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 顧問税理士が算定した株価をそのまま提示してよいですか。

税務上の評価と、当事者間の売買又は裁判所の手続における価格とは、別の枠組みです。税務上の評価額をそのまま提示することが適切であるかどうかは、案件の性質によって異なります。提示の前にご相談ください。

質問2 株主が提出してきた株価算定書に反論できますか。

算定書は、前提条件の上に成り立っています。手法の選択、基準日、将来の見積り、資産の評価といった前提について検討することになります。反論の可否と内容は、算定書の内容によって異なります。

質問3 会社に払える金額の上限はありますか。

会社が自己株式を取得する場合には、分配可能額による財源の規制があります。また、資金繰りへの影響も検討する必要があります。上限の確認は、方針の決定の前に行うべき事項です。

質問4 過去に別の株主から取得した価格と同じ金額で提示してよいですか。

過去の取引が参照されることはありますが、その取引の性質、時点、当事者の関係によって、参照の可否と程度は異なります。同一の金額とすることが適切であるかどうかは、個別に検討する必要があります。

質問5 裁判所の手続に進んだ場合、どのくらいの期間がかかりますか。

期間は事案の内容、資料の整備の状況、鑑定の要否によって大きく異なります。一般的な期間を申し上げることはできません。見通しについては、資料を拝見したうえでご説明いたします。

質問6 株主から会計帳簿の閲覧謄写を請求されています。価格の話と関係がありますか。

株主が価格の算定に必要であるとして資料の開示を求めることがあります。両者は別の制度ですが、実務上は並行して進むことが少なくありません。それぞれについて要件を検討したうえで、全体を見通した対応を行う必要があります。

質問7 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、株主名簿、直近3期から5期分の計算書類と勘定科目内訳明細書、不動産その他の主要な資産の一覧、借入金の一覧、株主から受領した書面、相手方が提出した株価算定書がある場合はその写しをご持参ください。

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