ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法で非上場株式を評価する場合

この記事の位置付け

ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法による評価に関するメインのページです。本ページは、発行会社の側から、将来の現金の流れを割り引いて株式の価格を求める手順をご説明します。収益還元法は別のページをご参照ください。

▶ 非上場株式の適正価格は誰が決めるのか

同じ主題を扱う関連ページ

本ページが主として支えるご案内のページは、自社株式の株価の算定や株価の紛争でお困りではありませんかです。買い取る義務があるかどうかの判断は「少数株主から株式を買い取れと言われた会社様へ」が、価格が高いと感じられる場合の検討は「少数株主から高額な株式買取価格を要求された会社様へ」が、それぞれ受け持ちます。

少数株主との株式買取交渉において、相手方からディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法による評価額が示されたが、この手法がどのようなものか分からないという非上場会社の経営者の方から、ご相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法は、各期の資金の流れを個別に見積もる手法であるため、収益還元法と比べて前提となる数値が多く、検証すべき対象も広くなり、相手方の主張の当否を検討するには専門的な確認を要するという点です。

以下では、収益還元法との違い、及び評価に当たって確認すべき事項をご説明します。

見積りの期間 何期分を個別に見積もるか 期間の設定の合理性
期間を超える部分 見積りの期間の後についての計算 継続する水準と成長率の設定
割引率 将来の金額を現在の価値に置き換える率 率の水準とその根拠
調整項目 事業に用いていない資産、有利子負債等 加減の内容と根拠

 収益還元法との違い

収益還元法が、一定の収益が継続することを前提として簡便に計算するのに対し、この手法は、各期の資金の流れを個別に見積もる点が異なります。このため、前提の数が多く、検証の対象も広くなります。

表2 両者の比較

観点 収益還元法 ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法
見積りの単位 一定の水準が継続することを前提とします 各期を個別に見積もります
必要となる資料 過去の計算書類が中心となります 事業計画が不可欠です
前提の数 比較的少数です 多数に及びます
検証の負担 比較的軽いといえます 重くなります
適合しやすい会社 収益が安定している会社 事業計画を備え、将来の変動が見込まれる会社

要件と論点

 事業計画の合理性

第一の論点は、算定の基礎とされた事業計画の合理性です。中小企業においては、次のような問題が生じることがあります。

表3 事業計画をめぐる論点

論点 内容
計画の存在 そもそも事業計画が作成されているか
作成の目的 金融機関への提出、補助金の申請等、特定の目的のために作成されたものか
作成の主体 誰が作成し、社内でどのように承認されたか
過去の達成の状況 従前の計画と実績との乖離の程度
前提の妥当性 売上の伸び、費用の水準、投資の予定が実態に即しているか
期間 計画が対象としている期間

会社側にとって重要なのは、金融機関に提出した計画が、算定の基礎として用いられる場合があるという点です。こうした計画は、目標としての性格を含んでいることがあり、そのまま評価の前提とすることが適切でない場合があります。もっとも、会社自らが作成した資料である以上、その内容を否定する説明には、相応の根拠が求められます。

 割引率の設定

第二の論点は、割引率の設定です。この率が高いほど評価額は低くなり、低いほど高くなります。率の設定にあたっては、対象となる会社の事業に伴う不確実性、規模、資本の構成といった要素が考慮されます。

中小企業においては、上場している会社の指標をそのまま用いることが適切でない場合があります。会社側としては、自社の事業に伴う不確実性を具体的に説明できる資料を整えることになります。

もっとも、率の設定は専門的な判断を伴う領域です。会計及び財務に関する専門家との連携が有用な場合があります。

 見積りの期間を超える部分

見積りの期間の後についての計算は、評価額に占める割合が大きくなることがあります。この部分において、どの水準が継続するものとするか、成長率をどのように設定するかは、重要な論点です。

 中小企業における適用の限界

この手法は、事業計画の存在を前提とします。事業計画が作成されていない会社、作成されていても実績との乖離が大きい会社については、この手法の適用そのものに検討を要します。

会社側としては、この手法が適合しないと考える場合、その理由を具体的に説明する必要があります。単に「中小企業だから使えない」という主張では足りません。

 少数株式である場合の扱い

対象となる株式が支配権を伴わないものである場合の扱いについては、少数株式の評価に関する記事において整理しております。

 事業計画の信用性をどのように争うか

ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法は、将来の現金の流れの予測を基礎とする方法ですので、その予測の前提となる事業計画の信用性が最大の争点となります。株主の側が高い価格を主張する根拠として事業計画を援用する場合、会社の側は次の観点から検討してください。

第1に、計画が策定された時期及び目的を確認します。紛争が生じた後に、価格の算定のために作成された計画は、客観性を欠くものと評価される余地があります。他方、金融機関に対する提出、補助金の申請、事業承継の検討等、紛争と無関係の目的のために作成された計画は、相応の信用性を有すると評価されます。作成の日付、決裁の経過、提出先を確認してください。

第2に、過去の計画と実績との乖離を検証します。過年度に策定された計画の数値と、実際に達成された数値とを対照し、乖離の程度と原因を明らかにします。継続して計画が実績を上回っている場合には、当該会社の計画が過大に見積もられる傾向にあることを示す資料となります。5期程度を並べた対照表を作成すると分かりやすくなります。

第3に、計画の前提となる個々の数値を検証します。売上高の伸び率、原価率、人件費の水準、設備投資の額、運転資本の増減について、根拠となる受注の状況、取引先との契約、人員の計画を確認します。特定の大口の取引に依存する計画については、その取引の継続の見込みを裏付ける資料の有無が重要です。

第4に、修正の方法を検討します。計画の全部を排斥することが困難な場合には、達成の見込みに応じて数値を修正する方法、複数の想定を置いて幅により示す方法、割引率に反映させる方法があります。いずれの方法によるかは、修正の理由を説明しやすいかどうかにより選択してください。

会社側の実務

表4 会社側が準備する資料

区分 資料
計画関係 事業計画、作成の経緯が分かる資料、社内での承認の記録
実績関係 過去の計画と実績との対比、乖離の理由が分かる資料
計算関係 直近3期から5期分の計算書類、勘定科目内訳明細書、月次試算表
投資関係 設備投資の実績と予定、修繕の予定
資金関係 借入金の一覧、返済の予定、運転資金の状況
事業関係 主要な取引先との契約、許認可、業界の動向が分かる資料
人的関係 特定の人物への依存の状況、従業員の構成

 過去の計画と実績との対比を整理します

会社側の説明として有効なのは、従前の計画がどの程度実現したかという実績です。乖離がある場合には、その理由を併せて整理してください。

 計画の性格を明らかにします

金融機関に提出した計画、補助金の申請に用いた計画は、その目的に応じた性格を有しています。作成の経緯を記録として残しておくことが有用です。

 相手方の算定の検証

相手方がこの手法を用いている場合、事業計画の出所、見積りの期間、期間を超える部分の計算、割引率の四点を確認してください。とりわけ、期間を超える部分と割引率については、根拠の記載が乏しい場合があります。

 複数の手法との併用

会社の実態によっては、他の手法との併用が適切な場合があります。単一の手法のみに依拠することが会社側に有利な結果をもたらすとは限りません。

表5 相手方の算定を検証する際の着眼点

着眼点 確認する内容
事業計画の出所 会社が作成したものか、相手方が独自に作成したものか
計画の期間 何期分を対象としているか。期間の設定に理由が示されているか
売上の伸び 過去の実績と比べて妥当な水準か。根拠が示されているか
費用の見積り 人件費、原材料費、賃借料等の見積りが実態に即しているか
投資の見積り 設備の更新、修繕の必要が織り込まれているか
運転資金 売掛金、在庫、買掛金の変動が織り込まれているか
期間を超える部分 継続する水準と成長率の設定に根拠が示されているか
割引率 水準と算出の過程が示されているか
調整項目 事業に用いていない資産、有利子負債の扱い

 記録の整備

算定の前提条件、参照した資料、社内での検討の経緯は、記録として保存してください。

関連する手続

協議によって折り合わない場合、制度によっては、裁判所に価格の決定を求める手続が用意されています。この手続においては、鑑定が行われることがあり、事業計画その他の資料の提出が求められます。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

弁護士に相談する意味

第一に、手法の適合性の検討です。自社に事業計画があるか、その計画が評価の前提として用いられ得るものかを判断する必要があります。

第二に、事業計画に関する説明の組立てです。自社が作成した資料である以上、その内容を否定する説明には根拠が求められます。組立てには経験が必要です。

第三に、相手方の算定の検証です。前提の数が多いこの手法においては、どこを検証するかの選別が重要となります。

第四に、会計及び財務の専門家との連携です。割引率その他の専門的な判断については、専門家と連携して検討を進めることが有用です。当事務所では、必要に応じて連携を図っております。

なお、具体的な主張の組立てと進め方は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくあるご質問

質問1 当社には事業計画がありません。この手法は用いられないのですか。

事業計画が存在しない場合、この手法の適用には検討を要します。もっとも、相手方が独自に計画を作成して算定することもあり得ますので、その場合には内容を検証することになります。

質問2 銀行に提出した計画が使われています。撤回できますか。

作成した事実そのものを撤回することはできません。会社としては、その計画がどのような目的で作成され、どのような性格を有するものかを説明することになります。

質問3 割引率はどのように決まるのですか。

対象となる会社の事業に伴う不確実性、規模、資本の構成といった要素を踏まえて設定されます。専門的な判断を伴う領域であり、一般的な数値を申し上げることはできません。

質問4 社長が高齢であることは、評価に影響しますか。

特定の人物への依存は、事業に伴う不確実性に関する要素として検討され得ます。会社側としては、承継の準備の状況を含めて説明することになります。

質問5 この手法による金額が、純資産の額を大きく上回っています。

将来の収益に着目する手法においては、純資産の額を上回る評価となることはあり得ます。その評価が合理的であるかどうかは、事業計画と割引率によって判断されます。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、株主名簿、直近3期から5期分の計算書類と勘定科目内訳明細書、事業計画がある場合はその資料と作成の経緯が分かるもの、過去の計画と実績との対比、借入金の一覧、相手方が提出した算定書がある場合はその写しをご持参ください。

関連するご案内

自社株式の評価が問題となっている会社の方は、非上場株式の株価算定・株価紛争をご覧ください。評価の手法、前提条件の検討、裁判所の手続への備えを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

具体的なご相談をお考えの会社の皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。

執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

平成23年に最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得た弁護士であります。長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件にも関与しております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階/電話番号 03-6435-8418/受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。