相続税評価額と非上場株式の売買価格はなぜ違うのか

税務上の評価は、多数の事案を公平かつ画一的に処理するために、定められた算式によって計算されます。個別の事情を細かく反映させる仕組みではありません。他方、売買における価格は、当事者が置かれた状況を反映して定まります。

 同じ会社の株式でも、株主によって税務上の評価が異なり得ます

税務上の評価においては、株式を取得する者が会社の経営を支配する立場にあるかどうかによって、用いる方式が異なる場合があります。すなわち、同じ会社の株式であっても、誰が取得するかによって評価額が異なり得ます。

このため、株主が示した金額が、どの方式によって算定されたものであるかを確認することが必要です。方式の違いによって、金額は大きく異なります。

 評価の時点が異なります

相続税の申告における評価は、相続が開始した時点を基準として行われます。他方、売買における価格は、取引を行う時点の状況を踏まえて検討されます。相続の開始から時間が経過している場合、会社の状況は変化しています。

会社側が説明すべき論点

 「相続税評価額が上限である」とも「下限である」とも言えません

相続税評価額が売買価格の上限であるとも、下限であるとも、一般的に述べることはできません。会社の資産の構成、収益の状況、株式の性質によって、税務上の評価が当事者間の価格を上回る場合も、下回る場合もあります。

会社側として、「相続税評価額よりも低い金額でなければならない」と主張することも、「相続税評価額が妥当である」と主張することも、それ自体では根拠となりません。会社の実態に即した算定を別途行う必要があります。

 税務上の取扱いへの影響は別途検討します

売買の価格の設定は、税務上の取扱いに影響し得ます。とりわけ、同族関係者間の取引においては、価格の設定について税務上の検討が必要となります。この点については、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。

会社側としては、法律上の論点と税務上の論点とを区別したうえで、双方の観点から検討を進めることになります。

 株主が示した資料の性質を確認します

株主が相続税の申告書の写しを示してきた場合、その申告がどのような前提でなされたものかを確認する必要があります。申告は、株主側の税理士が、株主の立場から作成したものです。会社が内容を検証したものではありません。

表2 株主が示した資料について確認する事項

確認事項 内容
評価の方式 どの方式によって算定されているか
基準となる時点 いつの時点を基準としているか
用いられた数値 どの期の計算書類に基づいているか
資産の評価 不動産その他の資産がどのように評価されているか
作成者 誰が作成した資料であるか
会社の関与 会社が資料を提供したか、内容を確認したか

会社側の実務

 まず自社の算定を整えます

相手方の主張に反論する前に、会社側として説明できる算定を整えることが先決です。会社の資産の構成、収益の状況、株式の性質を踏まえた算定がなければ、議論は「相続税評価額であるかどうか」という一点に収束してしまいます。

 説明の組立て

会社側の説明は、次の順序で組み立てることが分かりやすいといえます。第一に、税務上の評価が何のための計算であるかを述べます。第二に、当事者間の売買における価格が何によって定まるかを述べます。第三に、会社側の算定の前提条件と根拠を示します。

相手方を否定することから始めるのではなく、枠組みの違いを説明することから始めることが適切です。

 過去に相続税評価額で取引した実績がある場合

過去に、会社又は支配株主が、相続税評価額を用いて株式を取得した実績がある場合があります。この場合、その実績が参照される可能性があります。会社側としては、当該取引の経緯と、その金額を用いた理由を確認しておく必要があります。

 相続の場面に特有の事情を把握します

相続によって株主となった方は、株式を保有し続ける意思がないことが多く、他方で相続税の納付のための資金を必要としていることがあります。会社側としては、こうした事情を把握することが、検討すべき選択肢を絞り込むうえで有用です。

もっとも、相手方の事情を交渉上の材料として用いることは適切ではありません。会社側の検討は、株主構成の整理という目的と、価格の根拠の説明という二点に置くべきです。

なお、定款に相続人等に対する売渡しの請求に関する定めが置かれている場合には、会社が検討し得る手続があります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

 記録の整備

株主から示された資料、会社側の算定の前提条件、社内での検討の経緯は、記録として保存してください。

関連する手続

協議によって折り合わない場合、制度によっては、裁判所に価格の決定を求める手続が用意されています。この手続においては、税務上の評価がそのまま採用されるわけではなく、提出された資料と主張に基づいて判断されます。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

弁護士に相談する意味

第一に、枠組みの整理です。税務上の評価と当事者間の価格とを混同したまま交渉を進めると、議論がかみ合わず、時間を浪費することになります。

第二に、会社側の算定の組立てです。会社の実態を反映した算定を、資料とともに構築する必要があります。

第三に、税務上の論点との切り分けです。売買の価格の設定が税務上どのように取り扱われるかは、別途の検討を要します。当事務所では、法律上の論点と税務上の論点とを区別してご説明し、必要に応じて税務の専門家との連携を図っております。

第四に、他の株主への波及の検討です。相続税評価額を用いて取得した実績を作ることは、他の株主との関係にも影響します。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 相続税評価額で買い取れば、税務上の問題は生じませんか。

税務上の取扱いは、取引の当事者の関係、株式の性質、価格の設定の経緯によって異なります。一律に問題が生じないと申し上げることはできません。税理士その他の税務専門家にご確認ください。

質問2 株主が示した相続税評価額が、会社の想定より高額です。

税務上の評価が高額となる要因としては、資産の評価の方法、用いられた方式、基準とした時点などが考えられます。まず、どの方式によって算定されたものであるかを確認してください。

質問3 会社は株主に対して、相続税の申告の内容を開示するよう求められますか。

任意にお求めいただくことは差し支えありませんが、株主がこれに応じる義務があるわけではありません。株主が自ら根拠として提出してきた場合には、その内容を検討することになります。

質問4 会社が保有する不動産の評価が争点になっています。

不動産の評価は、税務上の評価と、取引における時価とで方法が異なります。争点となる場合には、不動産鑑定を含めた検討が必要となることがあります。

質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、株主名簿、直近3期から5期分の計算書類と勘定科目内訳明細書、不動産その他の主要な資産の一覧、株主から示された資料の写し、過去に株式の売買がある場合はその資料をご持参ください。

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