配当還元法による少数株式評価の考え方

税務上の評価については、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。本記事は、株式の売買価格の算定における手法を中心に整理いたします。
税務上の配当還元方式
税務上の評価においては、株式を取得する者が会社の経営を支配する立場にあるかどうかによって、用いる方式が異なる場合があります。支配する立場にない株主が取得する場合には、配当に着目した方式が用いられることがあります。
これは、課税関係を画一的に処理するための算式であり、当事者間の売買における価格を定めるためのものではありません。したがって、この方式による金額をそのまま売買価格とすべき法律上の根拠はありません。
実質的配当還元法
株式の売買価格の算定においては、支配権を有しない株主が保有する株式について、その株主が現実に受け取ることが見込まれる配当に着目して価値を推定するという考え方があります。
この考え方の基礎にあるのは、支配権を有しない株主は、会社の資産を処分することも、配当の額を決定することもできず、株主として受け取る経済的な利益は配当に限られるという見方です。
実務上、「実質的配当還元法」と呼ばれるのは、会社が現に支払った配当の額のみによるのではなく、会社の収益の状況に照らして支払い得る配当の水準を検討する手法を指すことがあります。名称の用いられ方には幅がありますので、算定書を読む際には、その内容を確認する必要があります。
要件と論点
どの場面で問題となるか
この手法は、対象となる株式が支配権を伴わないものである場合に、選択肢として検討されます。他方、支配権を伴う株式の評価においては、通常、この手法は適合しません。
したがって、会社側としては、当該株式が会社の経営に対してどのような意味を持つかを整理することが出発点となります。
無配である場合の扱い
多くの非上場会社は、配当を行っていません。この場合、現に支払われた配当の額を基礎とすると、価値がないという結論に至ることになります。
表2 無配である場合の主な論点
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 現実の配当を基礎とするか | 現に支払われた配当の額のみを基礎とするかどうか |
| 支払い得る配当を検討するか | 会社の収益の状況に照らして支払い得る配当の水準を検討するかどうか |
| 無配の理由 | 収益が乏しいためか、方針としてのものか、内部留保の必要によるものか |
| 内部留保の使途 | 設備投資、借入金の返済、将来の事業のためか |
| 役員報酬との関係 | 配当を行わず役員報酬として支出しているかどうか |
会社側としては、無配であることの理由を、資料とともに説明できる状態を整えておく必要があります。単に「配当をしていない」という事実のみでは、説明として足りません。
配当の方針をめぐる主張
株主側からは、会社が意図的に配当を抑制しているという主張がなされることがあります。会社側としては、配当の方針が、資金の需要、借入金の返済、設備投資の予定その他の経営上の必要に基づくものであることを説明することになります。
なお、配当の方針そのものについて、株主から別の形で問題とされることがあります。これは価格の算定とは別の論点として整理する必要があります。両者を同じ場で論じると、議論が拡散し、いずれについても十分な整理ができないまま時間を要することになります。会社側としては、価格に関する協議と、配当の方針に関する説明とを、意識して切り分けて進めることが適切です。
他の手法との関係
会社の実態によっては、この手法のみによるのではなく、他の手法と併用し、又は他の手法を主として用いることが適切な場合があります。とりわけ、資産を多く保有する会社については、資産に着目する手法との関係を検討する必要があります。
減価との関係
この手法は、支配権を有しない株主の立場を前提とした算定であるという整理が可能です。この場合、さらに支配権の有無を理由とする減価を行うことが、二重の調整に当たらないかが論点となります。この点については、少数株式の評価に関する記事において整理しております。
会社側の実務
表3 会社側が準備する資料
| 区分 | 資料 |
|---|---|
| 配当関係 | 過去の配当の実績、配当に関する決議の記録 |
| 計算関係 | 直近3期から5期分の計算書類、勘定科目内訳明細書 |
| 資金関係 | 借入金の一覧、返済の予定、資金繰りが分かる資料 |
| 投資関係 | 設備投資の実績と予定、事業計画 |
| 役員関係 | 役員報酬の推移 |
| 株式関係 | 定款、株主名簿、種類株式の有無 |
配当の方針を文書として整理します
配当を行わないという方針が、経営上の必要に基づくものであることを、資料とともに説明できる状態を整えてください。取締役会の議事録、資金繰りの資料、設備投資の計画などが、根拠となり得ます。
有事となってから理由を後付けすることは、説得力を持ちません。平時から記録を残しておくことが有用です。
自社に有利な手法を先に選ばないでください
配当を行っていない会社にとって、この手法は金額が低くなりやすいという性質があります。しかし、その理由のみでこの手法を選択することは、相手方の指摘によって崩れます。会社の実態と、当該株式の性質に照らして、適合するかどうかという順序で検討してください。
名称の混同を避けます
社内の資料及び相手方への説明において、税務上の配当還元方式と、売買価格の算定における手法とを、明確に区別して記載してください。名称が似ているため、混同が生じやすい領域です。
種類株式を発行している場合の確認
配当について異なる定めのある種類株式を発行している場合には、対象となる株式がどの種類のものであるかによって、検討すべき事項が異なります。定款の定めと登記の記載を照合し、実際の配当の取扱いが定めに沿って行われてきたかどうかを確認してください。
定めと実際の取扱いとが一致していない場合、その点自体が別の紛争の原因となり得ます。早期に整理しておくことが望まれます。
記録の整備
算定の前提条件、参照した資料、社内での検討の経緯は、記録として保存してください。とりわけ、配当を行わないという判断がなされた各期について、その理由が分かる資料を整えておくことが有用です。
関連する手続
協議によって折り合わない場合、制度によっては、裁判所に価格の決定を求める手続が用意されています。この手続においては、どの手法を用いるかを含めて検討の対象となります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。
弁護士に相談する意味
第一に、二つの「配当還元」の区別です。税務上の評価と売買価格の算定とを混同したまま交渉を進めると、議論がかみ合いません。
第二に、手法の適合性の検討です。当該株式の性質と会社の実態に照らして、この手法が適合するかどうかを判断する必要があります。
第三に、無配であることの説明の組立てです。会社側にとって重要な論点であり、資料による裏付けが求められます。
第四に、税務上の論点との切り分けです。売買の価格の設定が税務上どのように取り扱われるかは、別途の検討を要します。税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。
なお、具体的な主張の組立てと進め方は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 配当をしていない会社の株式は、価値がないということになりますか。
そのような結論にはなりません。配当に着目する手法は複数ある評価の手法の一つであり、他の手法によって評価される場合があります。また、この手法においても、支払い得る配当の水準を検討する考え方があります。
質問2 税務上の配当還元方式による金額を、そのまま提示してよいですか。
税務上の評価と当事者間の売買における価格とは、別の枠組みです。そのまま提示することが適切かどうかは、案件の性質によって異なりますので、提示の前にご相談ください。
質問3 株主から「配当を出さないのは不当だ」と主張されています。
配当の方針については、価格の算定とは別の論点として整理する必要があります。会社としては、方針の経営上の必要を説明できる資料を整えておくことが有用です。
質問4 配当を行えば、株式の評価額は上がりますか。
配当に着目する手法においては、配当の水準が評価に影響します。もっとも、配当の実施は、資金繰り、税務上の取扱い、他の株主との関係を含めて判断すべき事柄であり、評価額のみを理由として決定すべきものではありません。
質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、株主名簿、直近3期から5期分の計算書類、過去の配当の実績が分かる資料、借入金の一覧と返済の予定、設備投資の計画、相手方が提出した算定書がある場合はその写しをご持参ください。
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