会社提示の株価と株主提示の株価が違う場合の考え方

株式の買取り交渉において、会社が提示する株価と株主が提示する株価が大きく異なり、協議が進まないことがあります。同じ会社の株式であるにもかかわらず評価額に差が生じる背景には、いくつかの要因が存在します。以下では、主な要因を整理します。
| 評価の手法の違い | 資産に着目するか、収益に着目するか、配当に着目するか | 会社の収益性と資産の状況によって異なります |
|---|---|---|
| 評価の基準日の違い | どの時点の価値を求めるか | 業績が変動している場合に差が生じます |
| 支配権の反映 | 支配権を伴う株式として評価するか、少数の持分として評価するか | 反映の有無によって差が生じます |
| 将来の見積り | 事業計画の内容と実現の可能性の見方 | 楽観的な見積りは金額を押し上げます |
| 割引率・還元率 | 将来の収益を現在の価値に置き換える際の率 | 率の設定によって大きく変動します |
| 資産の時価 | 不動産、有価証券、保険等の評価 | 含み損益の把握の有無によって差が生じます |
| 負債の把握 | 簿外債務、偶発債務、退職給付に関する債務 | 把握の網羅性によって差が生じます |
| 役員報酬等の調整 | 収益に着目する手法における調整の要否 | 調整の有無によって差が生じます |
| 事業に用いていない資産 | 遊休の不動産、投資有価証券等の取扱い | 取扱いによって差が生じます |
これらのうち、どれが実際に差を生じさせているのかは、双方の算定の内訳を突き合わせなければ分かりません。金額の総額だけを比較しても、議論は進みません。
株主側の算定に多い特徴
株主側から提出される算定においては、将来の収益を高めに見積もる、割引率を低く設定する、支配権を伴う株式として評価する、事業に用いていない資産を高く評価するといった前提が置かれていることがあります。いずれも、それ自体が誤りであるとは限りません。会社の実態に照らして合理的であるかどうかが問題となります。
会社側の算定に多い特徴
他方、会社側の算定においては、税務上の評価をそのまま用いる、直近の一時的な業績の低下をそのまま将来に及ぼす、含み益のある資産を簿価のまま扱うといった前提が置かれていることがあります。これらも、指摘を受ければ説明を求められる点です。
要件と論点
前提条件を可視化します
会社側の作業は、双方の算定を並べて、どこが異なるのかを可視化することから始まります。
表2 突き合わせの項目
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 採用した手法 | 単一の手法か、複数の併用か。併用の場合の重み付け |
| 基準日 | いつの時点を基準としているか |
| 対象株式の性質 | 支配権を伴うものとして扱っているか |
| 収益の基礎 | どの期の数値を用いているか。調整の有無 |
| 将来の見積り | 事業計画の有無、成長率の設定 |
| 率の設定 | 割引率、還元率の水準とその根拠 |
| 資産の評価 | 不動産、有価証券、保険の評価方法 |
| 負債の把握 | 簿外債務、偶発債務の取扱い |
| 非事業資産 | 事業に用いていない資産の取扱い |
差の大きい項目から検討します
すべての項目を同じ密度で検討する必要はありません。金額に対する影響が大きい項目から順に検討することが合理的です。多くの場合、将来の見積り、率の設定、資産の時価のいずれかが、差の大部分を占めています。
会社側の説明責任
会社側が提示する金額には、根拠が求められます。とりわけ、会社が自己株式を取得する場合、他の株主に対する説明が必要となる場面があります。また、裁判所の手続に進んだ場合には、提示額の根拠が検討の対象となります。
したがって、会社側の算定は、「低い金額を導くための算定」ではなく、「会社の実態を反映した算定」として組み立てる必要があります。
会社側の実務
表3 差が判明した場合に会社が行うこと
| 順序 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 相手方の算定書の写しを取得し、前提条件を抽出します |
| 第2 | 自社の算定の前提条件を書面化します |
| 第3 | 双方を項目ごとに並べ、差の原因を特定します |
| 第4 | 金額への影響が大きい項目を選別します |
| 第5 | 自社の前提条件を裏付ける資料を整理します |
| 第6 | 説明の方針を定めます。方針の決定の前に弁護士へご相談ください |
算定書がない場合
株主側が算定書を提出せず、金額のみを主張している場合があります。この場合、会社側としては、自社の算定の根拠を整えたうえで、相手方に対して算定の根拠の明示を求めることが考えられます。もっとも、相手方がこれに応じる義務があるわけではありません。
会計の専門家との連携
評価に関する検討には、会計及び財務に関する専門的な知見が必要です。会社側においても、公認会計士その他の専門家との連携が有用な場合があります。当事務所では、必要に応じて専門家と連携して検討を進めております。
税務上の取扱いとの区別
売買の価格の設定は、税務上の取扱いに影響し得ます。法律上の論点と税務上の論点とは区別して検討する必要があり、税務上の取扱いについては、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。
記録の整備
算定の前提条件、根拠となった資料、社内での検討の経緯は、記録として保存してください。後日、裁判所の手続に進んだ場合に、これらの記録が意味を持ちます。
関連する手続
協議によって折り合わない場合、制度によっては、裁判所に価格の決定を求める手続が用意されています。この手続に進んだ場合、会社側は、自らの主張を裏付ける資料を提出し、相手方の主張の前提を検証することになります。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。
弁護士に相談する意味
第一に、差の原因の特定です。算定書は専門的な体裁で作成されており、前提条件が明示的に記載されていないこともあります。どこが異なるのかを抽出する作業には、経験が必要です。
第二に、指摘の優先順位の判断です。すべての項目を争うことは、労力を分散させ、かえって主張の説得力を損なうことがあります。
第三に、会社側の算定の組立てです。会社の実態を反映した算定を、資料とともに構築する必要があります。会計の専門家との連携が必要となる場合もあります。
第四に、手続への備えです。協議が調わない場合に想定される手続を見通したうえで、現段階の主張を組み立てる必要があります。
なお、具体的な説明の組立てと進め方は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 株主が提示した金額が、会社の純資産を大きく上回っています。あり得ることですか。
将来の収益に着目する手法を用いた場合、純資産の額を上回る評価となることはあり得ます。その評価が合理的であるかどうかは、将来の見積りの根拠と率の設定によって判断されます。
質問2 顧問税理士の算定額をそのまま提示してよいですか。
税務上の評価と、当事者間の売買又は裁判所の手続における価格とは、別の枠組みです。そのまま提示することが適切かどうかは、案件の性質によって異なりますので、提示の前にご相談ください。
質問3 会社側も算定書を取得する必要がありますか。
案件の規模と進行の見通しによって異なります。協議の段階で必要となる場合と、手続に進んでから準備する場合とがあります。費用と時期を含めてご相談ください。
質問4 相手方の算定書の開示を求めることはできますか。
任意にお求めいただくことは差し支えありません。相手方がこれに応じる義務があるわけではありませんが、裁判所の手続に進んだ場合には、主張の根拠として提出されることが通常です。
質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、株主名簿、直近3期から5期分の計算書類と勘定科目内訳明細書、不動産その他の主要な資産の一覧、借入金の一覧、相手方が提出した算定書がある場合はその写し、自社で作成した算定の資料をご持参ください。
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