収益還元法による非上場株式評価

どのような会社に適合するか
収益還元法は、収益が比較的安定しており、将来の見通しを立てやすい会社に適合しやすいといえます。他方、業績の変動が大きい会社、創業からの期間が短い会社、資産の保有が事業の中心である会社については、この手法のみによって評価することが適切でない場合があります。
会社側としては、自社の実態に照らして、この手法が適合するかどうかを検討することになります。適合しないと考える場合には、その理由を説明できる必要があります。
類似する手法との違い
将来の収益に着目する手法としては、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法もあります。両者は着目する点が近いものの、収益還元法は一定の収益が継続することを前提として簡便に計算するのに対し、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法は各期の資金の流れを個別に見積もる点が異なります。
表2 主な手法との比較
| 手法 | 着目する点 | 特徴 |
|---|---|---|
| 収益還元法 | 将来の収益の水準 | 計算が簡便です。一定の収益の継続を前提とします |
| ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法 | 各期の資金の流れ | 事業計画を前提とします。前提が多く、検証の対象が広くなります |
| 時価純資産法 | 資産と負債の時価 | 資産の保有が中心の会社に適合しやすいといえます |
| 配当還元法 | 株主が受け取る配当 | 支配権を有しない株主の立場を前提とした算定として整理されます |
要件と論点
基礎となる収益の見積り
第一の論点は、どの数値を基礎とするかです。直近1期の実績を用いるのか、複数期の平均を用いるのか、将来の予測を用いるのかによって、結論は変わります。
表3 基礎となる収益をめぐる論点
| 論点 | 内容 | 会社側の関心 |
|---|---|---|
| 対象期間 | 直近1期か、複数期の平均か、将来の予測か | 一時的な変動をどう扱うか |
| 特別な損益 | 臨時的な収益及び費用の除外の要否 | 除外の基準と根拠 |
| 役員報酬 | 水準が同種の会社と異なる場合の調整の要否 | 調整の根拠と資料 |
| 同族関係者との取引 | 賃借料、外注費等の水準 | 調整の要否と根拠 |
| 事業に用いていない資産に係る損益 | 遊休の不動産、投資有価証券等からの損益 | 除外の要否 |
| 将来の見通し | 業界の状況、取引先の状況、設備投資の予定 | 資料による裏付け |
会社側が主張しやすいのは、直近の業績の低下が構造的なものであるという点です。他方、株主側は、低下が一時的なものであると主張することがあります。いずれの主張についても、資料による裏付けが求められます。
還元率の設定
第二の論点は、還元率の設定です。この率は、収益を現在の価値に置き換える際に用いられ、率が高いほど評価額は低くなり、率が低いほど評価額は高くなります。
率の設定にあたっては、対象となる会社の事業に伴う不確実性の程度が考慮されます。会社側としては、自社の事業に伴う不確実性を具体的に説明できる資料を整えることになります。取引先の集中、特定の人物への依存、許認可の状況、業界の動向などが、説明の材料となり得ます。
もっとも、率の設定は、専門的な判断を伴う領域です。会計及び財務に関する専門家との連携が有用な場合があります。
調整項目
事業に用いていない資産、有利子負債その他の項目について、加減の調整が行われることがあります。どの項目を、どのように扱うかは、案件によって異なります。
とりわけ、事業に用いていない不動産、投資有価証券、生命保険の解約により受け取ることができる金額などは、扱いが論点となりやすい項目です。
少数株式である場合の扱い
対象となる株式が支配権を伴わないものである場合に、減価を行うかどうかという論点があります。この点については、少数株式の評価に関する記事において整理しております。手法の構造の中で既に反映されている要素を、重ねて差し引くことがないよう、整合を確認する必要があります。
会社側の実務
表4 会社側が準備する資料
| 区分 | 資料 |
|---|---|
| 計算関係 | 直近3期から5期分の計算書類、勘定科目内訳明細書、月次試算表 |
| 損益の内訳 | 臨時的な収益及び費用の明細、特別損益の内容が分かる資料 |
| 役員関係 | 役員報酬の推移、役員の職務の内容が分かる資料 |
| 関連当事者 | 同族関係者との取引の内容と条件が分かる資料 |
| 資産関係 | 事業に用いていない資産の一覧、賃貸借契約、有価証券の明細 |
| 事業関係 | 事業計画、予算と実績の対比、主要な取引先との契約、設備投資の予定 |
| 業界関係 | 業界の動向が分かる資料、許認可に関する資料 |
数値だけでなく理由を整えます
算定において重要なのは、数値そのものよりも、その数値を採った理由です。「直近の業績が低下している」という事実だけでは足りず、なぜ低下したのか、その要因が今後も続くのかを説明する必要があります。
自社に有利な前提を先に選ばないでください
自社にとって金額が低くなる前提を先に選び、後から理由を付けるという順序は、相手方の指摘によって崩れます。会社の実態に照らして合理的な前提を選び、その結果として金額が定まるという順序で検討してください。
相手方の算定の検証
相手方が収益還元法を用いている場合、基礎とした収益、還元率、調整項目の三点を確認してください。とりわけ、還元率については、根拠の記載が乏しい場合があります。
複数の手法との併用
会社の実態によっては、収益に着目する手法と資産に着目する手法とを併用することが適切な場合があります。単一の手法のみに依拠することが会社側に有利な結果をもたらすとは限りません。
社内での検討の順序
社内での検討においては、まず自社の事業の性格を整理し、収益の獲得が事業の中心であるのか、資産の保有が中心であるのかを明らかにしてください。そのうえで、直近の業績が過去の水準と比べてどのような位置にあるのか、その要因は何かを整理します。
この整理を経ずに算定に着手すると、後に前提の説明を求められた際に、根拠を示すことができません。とりわけ、複数期の数値のうちどの期を基礎とするかという判断は、金額への影響が大きく、理由の説明が求められます。
表5 社内での検討の順序
| 順序 | 検討する事項 |
|---|---|
| 第1 | 自社の事業の性格。収益の獲得が中心か、資産の保有が中心か |
| 第2 | 過去複数期の収益の推移と、変動の要因 |
| 第3 | 臨時的な収益及び費用の有無と、その内容 |
| 第4 | 役員報酬、同族関係者との取引の水準と、その根拠 |
| 第5 | 事業に用いていない資産の有無と、その損益への影響 |
| 第6 | 手法の適合性の判断と、他の手法との併用の要否 |
関連する手続
協議によって折り合わない場合、制度によっては、裁判所に価格の決定を求める手続が用意されています。この手続においては、鑑定が行われることがあり、その前提となる資料と会社の実態に関する説明が結論に影響します。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。
弁護士に相談する意味
第一に、手法の適合性の検討です。自社の実態に照らして、この手法が適合するかどうか、他の手法との併用が適切かどうかを判断する必要があります。
第二に、前提条件の組立てです。基礎となる収益と還元率のいずれについても、資料による裏付けが求められます。どの資料をどのように整えるかには、手続を見通した検討が必要です。
第三に、相手方の算定の検証です。算定書は専門的な体裁で作成されており、前提が明示されていないこともあります。検証には経験が必要です。
第四に、会計及び財務の専門家との連携です。率の設定その他の専門的な判断については、専門家と連携して検討を進めることが有用です。当事務所では、必要に応じて連携を図っております。
なお、具体的な主張の組立てと進め方は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある質問
質問1 赤字の会社でも収益還元法を用いるのですか。
収益が見込まれないと評価される場合、この手法によって意味のある金額が算定されないことがあります。その場合には、資産に着目する手法その他の手法を検討することになります。
質問2 役員報酬を高く設定していると、評価額は低くなりますか。
役員報酬の水準が同種の会社と異なる場合、算定において調整が行われることがあります。調整の要否と程度は、職務の内容と水準の根拠によって判断されます。会社側としても、水準の根拠を説明できる資料を整えておくことが有用です。
質問3 還元率はどのように決まるのですか。
対象となる会社の事業に伴う不確実性の程度その他の要素を踏まえて設定されます。専門的な判断を伴う領域であり、一般的な数値を申し上げることはできません。
質問4 事業に用いていない不動産がある場合はどうなりますか。
事業から生じる収益とは別に、当該資産の価値を加算する扱いが行われることがあります。加算の要否と方法は、資産の性質と利用の状況によって異なります。
質問5 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、株主名簿、直近3期から5期分の計算書類と勘定科目内訳明細書、役員報酬の推移が分かる資料、事業に用いていない資産の一覧、事業計画がある場合はその資料、相手方が提出した算定書がある場合はその写しをご持参ください。
関連するご案内
自社株式の評価が問題となっている会社の方は、非上場株式の株価算定・株価紛争をご覧ください。評価の手法、前提条件の検討、裁判所の手続への備えを、会社側の立場から整理してご案内しております。ご相談は事前予約制です。
- 非上場株式の適正価格は誰が決めるのか
- ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法で非上場株式を評価する場合
- 時価純資産法による非上場株式評価
- 配当還元法による少数株式評価の考え方
- 少数株式は何パーセントディスカウントされるのか
- 会社提示の株価と株主提示の株価が違う場合の考え方
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、非上場株式の価格及び評価に関する解説のうち、「収益還元法による非上場株式評価」という論点を扱うページです。非上場株式の価格及び評価の全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
同じ主題を扱う関連ページ
具体的な御相談をお考えの会社の皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。


