対立する株主がいる会社が株主総会を書面又はオンラインで行えるか

この記事の位置付け

株主が現に一堂に会さない株主総会の運営は、株主の全員の同意により書面のみで決議を成立させる場面と、現実の総会を開いたうえで通信の手段を用いる場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。

対立する株主がいる会社から、「株主総会を書面で済ませることはできませんか」「株主が遠方にいるので、通信の手段により出席させてもよいですか」というご相談をいただくことがあります。いずれも制度としては用意されていますが、対立する株主がいる場合には、用いることができる場面が限られます。

本記事では、発行会社の側の立場から、書面による決議、書面による議決権の行使、通信の手段による出席の3つを区別したうえで、対立する株主がいる会社が現実に採り得る運営を御説明します。

3つの制度を区別します

制度 根拠となる条文 総会の開催 対立する株主がいる場合
書面による決議(決議の省略) 会社法第319条 開催しません 株主の全員の同意を要するため、用いることができません
書面による議決権の行使 会社法第298条第1項第3号、第311条 開催します 用いることができます。招集の決定において定めます
通信の手段による出席 会社法第298条第1項第1号(場所の定め)ほか 開催します 用いることができます。即時性及び双方向性の確保が要件となります

相談の場面では、これらが「書面でよい」「オンラインでよい」と一括りに語られがちです。制度が異なれば要件も効果も異なりますので、まずどれを用いるのかを確定してください。

書面による決議(会社法第319条)

 要件

取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき議決権を行使することができる株主の全員が、書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の決議があったものとみなされます。すなわち、1人でも同意しない株主がいれば成立しません。

 対立する株主がいる場合の評価

対立する少数株主がいる会社においては、この方法によることはできません。にもかかわらず、従前の慣行により、議事録のみを作成して決議があったものとして処理してしまう例が見られます。同意の書面を取得していない場合、当該決議は存在しないものと評価される余地があります。

 同意の書面の保存

同意の書面又は電磁的記録は、決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置かなければなりません(会社法第319条第2項)。株主及び債権者は、営業時間内はいつでもその閲覧又は謄写を請求することができます(同条第3項)。少数株主から閲覧を請求された場合に、書面が存在しないことが明らかになりますと、過去の決議の効力が一挙に争われることとなります。

書面による議決権の行使

 制度の内容

株主総会を現実に開催したうえで、出席しない株主が書面により議決権を行使することを認める制度です。招集の決定において、書面によって議決権を行使することができる旨を定め(会社法第298条第1項第3号)、招集の通知に際して議決権行使書面及び株主総会参考書類を交付します。株主が総会の日時までに提出した議決権行使書面は、出席した株主の議決権の数に算入されます(同法第311条第2項)。

 対立する株主がいる場合の実益

この制度には、定足数を確保することができるという実益があります。対立する株主が欠席する見込みであっても、賛成する株主から書面による行使を得ておけば、決議を成立させることができます。定足数を満たすことができない事態が生じやすい会社においては、あらかじめ定款及び招集の運用を整えておく価値があります。

 留意点

  • 議決権行使書面の様式、記載事項、提出の期限を明確に定めます。賛否の記載がない書面の取扱いをあらかじめ定めておくことが必要です。
  • 提出された書面は、総会の日から3箇月間、本店に備え置かなければなりません(会社法第311条第3項)。株主から閲覧を請求される場面がありますので、保存を怠らないでください。
  • 書面による行使を認めた場合、総会の当日に議案を修正することが困難となります。修正の可能性がある議案については、慎重に判断してください。

通信の手段による出席

 現実の場所を定めたうえで併用する方法

株主総会を招集する場合には、開催の場所を定めなければなりません(会社法第298条第1項第1号)。現実の場所を定めたうえで、遠隔地の株主が音声及び映像により参加する運営は、従前から行われています。この場合、株主が議事の状況を即時に把握し、質問及び議決権の行使を即時に行うことができる状態、すなわち即時性及び双方向性が確保されていることが必要と解されています。

 対立する株主がいる場合の留意点

通信の手段による出席については、次の点が後に争われます。

  • 接続が不安定となり、又は途切れた場合の取扱い。開会に先立ち、接続が困難となった場合の議事の進め方を告げておいてください。
  • 本人であることの確認の方法。株主名簿上の株主であることを、事前に登録した情報により確認する運用が必要です。
  • 議決権の行使の方法。通信の手段による出席者について、賛否をどのように確認し、記録するかを定めます。
  • 発言の機会。質問及び動議の取扱いを、現実に出席した株主との間で不均衡が生じないように運営します。

これらについて準備を欠いたまま運営しますと、決議の方法が法令に違反し、又は著しく不公正であるとして、決議の取消しの原因となります(会社法第831条第1項第1号)。当日の記録を担当する者を定め、接続の状況、発言、賛否の確認を時刻とともに記録してください。

定款の点検

いずれの方法についても、まず定款を確認してください。確認する事項は次のとおりです。

  • 株主総会の招集の通知の期間。公開会社でない会社においては原則として1週間前までであり、書面による議決権の行使を認める場合には2週間前までとなります(会社法第299条第1項)。
  • 議決権の代理行使をする者を株主に限る旨の定めの有無。
  • 定足数に関する定め。取締役の選任及び解任の決議については、定款によっても議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1未満とすることができません(会社法第341条)。
  • 開催の場所に関する定めの有無。

定款の定めが現在の運営に適合していない場合には、定款の変更を検討します。もっとも、定款の変更には株主総会の特別決議が必要ですので、対立が生じる前に整えておくことが望まれます。

してはいけない対応

  • 株主の全員の同意を得ないまま、書面による決議があったものとして議事録を作成すること。
  • 同意の書面及び議決権行使書面を保存しないこと。備置きの義務があります。
  • 対立する株主にのみ通信の手段による出席を求め、他の株主は現実に出席させること。取扱いの不均衡は決議の取消しの原因となります。
  • 接続が途切れた状態のまま採決を行うこと。
  • 書面による議決権の行使を認めながら、総会の当日に議案を大きく修正すること。

弁護士に相談する意味

対立する株主がいる会社の株主総会は、その運営の一つ一つが後の訴訟における争点となります。書面による決議の要件を満たさない状態で処理を続けている場合、過去に遡って決議の効力が争われますので、早期に運用を改めることが有効です。

また、書面による議決権の行使と通信の手段による出席は、いずれも準備が結果を左右します。招集の決定の内容、交付する書類の様式、当日の運営の手順を、あらかじめ設計しておく必要があります。

なお、当日の議事の進め方、質問及び動議への対応の組立てについては、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立って御依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある御質問

質問1 対立する株主がいますが、書面だけで決議できますか。

会社法第319条の方法は株主の全員の同意を要しますので、用いることができません。総会を現実に開催したうえで、書面による議決権の行使を認める方法を検討してください。

質問2 同意の書面はどのくらい保存しますか。

決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置きます。株主及び債権者から閲覧を請求される場合があります。

質問3 通信の手段のみにより開催できますか。

開催の場所を定めることが必要です。現実の場所を定めたうえで、通信の手段を併用する運営が基本となります。

質問4 接続が途切れた株主がいる場合はどうしますか。

開会に先立ち取扱いを告げておき、当日の記録に接続の状況を時刻とともに残してください。

質問5 議決権行使書面に賛否の記載がない場合は。

取扱いを招集の決定においてあらかじめ定め、株主総会参考書類に記載しておいてください。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、株主名簿、過去3期分の招集の通知及び議事録、書面による決議を行った場合の同意の書面を御持参ください。

まとめ

対立する株主がいる会社が株主総会を書面又は通信の手段により行う場合、確認すべき事項は次の5点に整理されます。

  • 書面による決議、書面による議決権の行使、通信の手段による出席の3つを区別します。
  • 書面による決議は株主の全員の同意を要しますので、対立する株主がいる場合には用いることができません。
  • 書面による議決権の行使は、定足数の確保に実益があります。招集の決定において定め、書面を保存します。
  • 通信の手段による出席については、即時性及び双方向性を確保し、接続の状況を記録します。
  • 定款の招集の通知の期間、定足数、代理人の資格に関する定めを、あらかじめ点検します。

運営の一つ一つが後の争点となります。招集の決定の前に、早期にご相談ください。

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