委任状の勧誘を受けた場合の会社側の弁護士対応 株主総会で経営権を守る

定時株主総会の1か月ほど前に、少数株主のグループから、他の株主あてに委任状の用紙と趣意書が郵送されていることが判明した。会社にも同じ封筒が届き、そこには現在の取締役の再任に反対する旨と、委任状を同封の返信用封筒で返送するよう求める文言が並んでいます。株主からは、どちらに委任すればよいのかという問合せが総務に入り始めます。

委任状の勧誘が起きる会社には、共通した事情があります。創業者の相続により株式が親族に分散したこと、退職した役員や従業員が株式を保有したまま社外に出たこと、株式買取業者が株式を取得して他の株主に接触したことです。議決権の過半数を確保しているつもりでいた会社が、名義の実態を確認した段階で、想定より薄い基盤の上に立っていたと気付く例は少なくありません。

結論から申し上げます。委任状の争いにおいて相手方が最終的に狙うのは議案の否決ではなく、招集の手続又は決議の方法の瑕疵を根拠とする決議の取消しであり、会社が守るべきは票数ではなく手続の完全性です。会社法第831条第1項第1号は、招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときを、取消しの原因として掲げています。以下、順に御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

株主総会をめぐる紛争は、局面ごとに条文も対応も異なりますので、次のとおり切り分けます。

委任状の争いは、招集の通知の前から始まっています

会社法第298条第1項は、株主総会を招集する場合に取締役が定めなければならない事項として、日時及び場所、目的である事項、書面によって議決権を行使することができることとするときはその旨、電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときはその旨、その他法務省令で定める事項を掲げています。取締役会設置会社では、これらの決定は取締役会の決議によります。

この決定の内容が、その後の攻防の枠組みを決めます。書面による議決権の行使を認めれば、来場しない株主の票を会社が取り込むことができる一方、相手方も同じ制度を使います。認めなければ、委任状を集める競争が正面から起きます。いずれを選ぶかは、招集の決定の段階で決めておく必要があります。

会社法第299条第1項は、招集の通知を、株主総会の日の2週間前までに発しなければならないとしています。公開会社でない株式会社であって、書面又は電磁的方法による議決権の行使を定めていない場合には1週間前まで、取締役会設置会社以外の会社が定款でこれを下回る期間を定めたときはその期間までとされています。相手方は、この発送日から逆算して勧誘の山場を作ります。会社の準備は、発送日の少なくとも1か月前から始めるべきです。

誰に議決権があるのかを、基準日で確定します

会社法第124条第1項は、会社が一定の日を基準日と定め、その日に株主名簿に記載され、又は記録されている株主を、権利を行使することができる者と定めることができるとしています。同条第2項は、基準日株主が行使することができる権利は基準日から3か月以内に行使するものに限られる旨を、同条第3項は、基準日を定めたときは当該基準日の2週間前までに基準日及び権利の内容を公告しなければならない旨を、それぞれ定めています。ただし、定款にこれらの定めがあるときは公告を要しません。

実務で問題になるのは、基準日の後に株式が動いた場合です。会社法第124条第4項は、基準日株主が行使することができる権利が議決権である場合には、基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を権利行使者と定めることができるとしつつ、基準日株主の権利を害することはできないとしています。相手方が基準日の直後に株式を買い集めているときは、この定めを置くかどうかが直接に票数へ響きます。

あわせて、議決権の数え方を一覧にしておきます。確認すべきは、名義書換えが未了の株式、共有に属する株式について権利行使者の指定と通知がされているか、自己株式、相互保有の関係にある株式です。この一覧は当日の受付と採決の基礎資料になりますので、通知の発送前に確定させます。

会社の側が株主へ働きかける際の限界

会社の側が株主に対して議案への賛成を求め、委任状を集めること自体は、禁じられていません。むしろ、招集の通知に議決権行使書面を同封し、賛成の意思表示を促すことは、通常の運営です。問題は、その働きかけに費用や便益が伴う場合です。

会社法第120条第1項は、株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならないと定めています。同条第2項は、特定の株主に対して無償で財産上の利益を供与したときは、株主の権利の行使に関して供与したものと推定するとしています。株主を訪問する際の手土産、株主限定の会食、賛成した株主への物品の送付は、この規定に触れる危険があります。委任状を返送した株主に一律に金券を送る取扱いは、避けなければなりません。

もう一つの限界は、情報の与え方の公平性です。賛成が見込まれる株主にだけ資料を提供し、反対の立場の株主には提供しないという取扱いは、決議の方法が著しく不公正であるとの主張を招きます。説明の資料は、内容と配布先を記録してください。

委任状及び議決権行使書面の様式と、その効力

会社法第310条第1項は、株主は代理人によって議決権を行使することができるとし、この場合には株主又は代理人が代理権を証明する書面を会社に提出しなければならないとしています。同条第2項は、代理権の授与は株主総会ごとにしなければならないと定めています。前回の総会のために差し入れられた委任状を、今回の総会に流用することはできません。同条第5項により、会社は、総会に出席することができる代理人の数を制限することができます。

書面による議決権の行使を定めた場合には、会社法第301条第1項により、招集の通知に際して、株主総会参考書類及び議決権行使書面を交付しなければなりません。電磁的方法による議決権の行使を定めた場合には、会社法第302条第1項により、株主総会参考書類を交付します。

賛否の記載がない書面をどう扱うか

議決権行使書面に賛否の記載がない場合の取扱いは、あらかじめ書面上に明記しておきます。記載がないときは賛成として取り扱う旨を印刷しておけば、当日の集計で争いが生じません。この記載を欠いたまま、集計の段階で会社に有利な方向へ処理すると、決議の方法の違法として攻撃されます。

行使された議決権の数え方

会社法第311条第1項は、書面による議決権の行使は、議決権行使書面に必要な事項を記載し、法務省令で定める時までにこれを会社に提出して行うと定め、同条第2項は、こうして行使された議決権の数は出席した株主の議決権の数に算入するとしています。会社法第312条第1項及び第3項は、電磁的方法による行使についても同様に定めています。定足数の計算は、この算入を前提に行います。

総会の当日の運営 受付、点検及び議事の進め方

受付では、来場者の本人確認、委任状の点検、議決権数の確定を、時系列で記録します。点検の要点は、委任状の日付が当該総会のものであること、委任者が基準日における株主名簿上の株主と一致すること、代理人が定款の定める資格を満たすことです。同一の株主から書面による議決権の行使と委任状の双方が提出された場合の優先関係は、事前に基準を定め、受付の担当者に文書で示しておきます。

議事の進行では、会社法第314条が定める説明義務が問題になります。同条は、取締役等は、株主から特定の事項について説明を求められた場合には必要な説明をしなければならないとしつつ、当該事項が総会の目的である事項に関しないものである場合、説明により株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、この限りでないとしています。説明を拒む場合には、拒む理由をその場で述べ、議事録に残します。

会社法第315条第1項は、議長は総会の秩序を維持し議事を整理すると定め、同条第2項は、命令に従わない者その他秩序を乱す者を退場させることができるとしています。退場を命じる場合には、命令に至る経緯、警告の回数、退場の時刻を記録し、その者の議決権を採決からどう扱ったかも明確にします。

検査役の選任を申し立てられた場合の連携

委任状の勧誘が本格化すると、相手方は、会社法第306条第1項に基づき、招集の手続及び決議の方法を調査させるため、総会に先立って裁判所に検査役の選任を申し立てることがあります。申立てがされた場合、会社の担当者は、検査役への資料の提出と、総会の準備の双方を同時に進めることになります。

この局面で会社が意識すべきは、検査役の存在が、委任状の点検と採決の記録の水準を引き上げる点です。受付の手順書、点検の基準、集計の方法を書面にしておけば、そのまま検査役へ提出する資料になります。検査役の手続そのものは、冒頭に掲げた別の記事で御説明しています。

決議の効力を争われたときに備えて残す記録

会社法第310条第6項は、会社は総会の日から3か月間、代理権を証明する書面を本店に備え置かなければならないと定め、同条第7項は、株主が営業時間内はいつでもその閲覧又は謄写を請求することができるとしています。会社法第311条第3項及び第4項は議決権行使書面について、会社法第312条第4項及び第5項は電磁的方法により提供された事項の記録について、それぞれ同様の備置きと閲覧の定めを置いています。備置きの期間を誤って廃棄すると、後の紛争で反証の手段を失います。

会社法第318条第1項は議事録の作成を義務付け、同条第2項は総会の日から10年間これを本店に備え置かなければならないとしています。議事録には、質疑の要旨、動議の提出と処理、採決の方法、賛否の数を記載します。とりわけ、採決を挙手によったのか投票によったのか、議長がどの時点で可決を宣したのかは、後に決議の方法を争われた際の中心の争点になります。

このほか、受付簿、入場者の名簿、委任状の受領の記録、集計の作業記録、会場の座席図を保存します。会社の側でも録音又は録画を行い、保存の期間と管理者を定めておきます。

なぜ相手方は、議案ではなく手続を攻めるのか

理由は単純です。議案の当否は議決権の数で決まりますが、手続の適否は数と関係がないからです。会社法第831条第1項第1号は、招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なときを取消しの原因として掲げています。相手方は、票で負けたとしても、招集の通知の発送日が1日足りない、議決権行使書面の記載が不備である、説明義務を尽くしていないといった点を捉えて、決議の効力を争うことができます。

もっとも、会社法第831条第2項は、招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反する場合であっても、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は請求を棄却することができると定めています。会社の側の防御は、瑕疵が生じなかったことの主張と、仮に瑕疵があったとしても重大でなく決議に影響しないことの主張の、二段構えになります。

なお、この訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません。総会の終了後、この期間が経過するまでは、記録の廃棄を行わないでください。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

弁護士に委ねることができるのは、招集の決定事項の設計、通知及び参考書類の記載の点検、議決権の一覧の確認、委任状及び議決権行使書面の様式の作成、受付の手順書の作成、議事のシナリオと想定問答の作成、当日の会場での助言、記録の保全、決議の取消しの訴えへの応訴です。

依頼の時期は、委任状の勧誘の兆候を把握した時点、遅くとも招集の決定を行う取締役会の1か月前です。招集の通知を発送した後では、記載の不備を是正する手段が限られます。株主名簿の閲覧の請求が届いた段階は、勧誘の準備が始まっている合図ですので、その時点で相談されることをお勧めします。

いま確認していただきたいこと

第一に、定款に定めた基準日と、実際に公告又は定款により確定している基準日が一致しているかを確認してください。第二に、招集の通知の発送予定日が、会社法第299条第1項の期間を満たしているかを、暦の上で数えてください。第三に、書面による議決権の行使を認めるかどうかを、取締役会の決議事項として明記してください。

第四に、名義書換えが未了の株式、共有に属する株式、自己株式を区分した議決権の一覧を作成してください。第五に、議決権行使書面に、賛否の記載がない場合の取扱いを印刷してください。第六に、受付における委任状の点検の基準と、書面による行使と委任状が重複した場合の優先順位を、文書で定めてください。

よくあるご質問

相手方が集めた委任状の内容を、会社は確認することができますか

相手方が保有する委任状を、総会の前に会社が点検する権限はありません。会社に提出された代理権を証明する書面については、会社法第310条第6項により3か月間本店に備え置き、同条第7項により株主の閲覧又は謄写の請求の対象となります。当日の受付で提出を受けた時点で点検を行うことになります。

代理人を株主に限る旨の定款の定めは有効ですか

会社法第310条第5項は、会社が出席することができる代理人の数を制限することができると定めています。これとは別に、代理人の資格を株主に限る旨の定款の定めを置く例があります。そのような定めを設けている場合には、弁護士を代理人とする出席の申出を受けた際の取扱いをあらかじめ決めておく必要があります。

委任状を返送した株主が当日来場した場合はどうなりますか

本人が出席して議決権を行使する意思を示した以上、本人の行使を優先するのが通常の取扱いです。ただし、この取扱いを受付の手順書に明記し、当日に個別の判断で処理しないことが重要です。処理の結果は、受付の記録に残してください。

株主に議案の賛成を依頼する電話をかけても差し支えありませんか

依頼そのものは差し支えありません。留意すべきは、会社法第120条第1項が禁じる財産上の利益の供与に当たる働きかけをしないこと、及び提供する情報の内容が株主によって異ならないようにすることです。通話の記録を残しておくと、後に不公正の主張を受けた際の反証になります。

総会の議事を録画することは可能ですか

会社が会場の秩序の維持と記録の保全のために録画を行うことは可能です。会社法第315条第1項の議事整理の権限の範囲内の措置として、開会の冒頭に録画の実施と目的を告げ、議事録に記載しておきます。株主による撮影を制限する場合も、同様に冒頭で告げてください。

おわりに

委任状の争いに直面した会社が最も陥りやすいのは、票を数えることに意識が集中し、手続の記録が薄くなることです。相手方は、議案が可決された後にこそ動きます。招集の決定から議事録の保存に至るまで、どの段階でどの条文の要件を満たしたのかを、書面の形で残しておくことが、経営権を守る最も確実な方法です。

委任状の用紙が株主に届いている、総会の日程が迫っている、招集の通知の内容に不安があるという段階であれば、まだ間に合います。現に効力を有する定款、株主名簿、前回の招集の通知及び議事録、相手方から届いた書面をお手元に御用意のうえ、御連絡ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

委任状の勧誘及び株主総会の運営に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

法令

会社法第124条第1項から第4項まで(基準日及び基準日後に株式を取得した者の取扱い)、第120条第1項及び第2項(株主の権利の行使に関する利益の供与の禁止及び推定)、第298条第1項(株主総会の招集の決定事項)、第299条第1項(招集の通知の期間)、第301条第1項(株主総会参考書類及び議決権行使書面の交付)、第302条第1項(電磁的方法による議決権の行使を定めた場合の参考書類の交付)、第306条第1項(株主総会の招集手続等に関する検査役の選任の申立て)、第310条第1項、第2項、第5項、第6項及び第7項(議決権の代理行使、授与の単位、代理人の数の制限、書面の備置き及び閲覧)、第311条第1項から第4項まで(書面による議決権の行使、議決権数への算入、備置き及び閲覧)、第312条第1項、第3項、第4項及び第5項(電磁的方法による議決権の行使及び記録の備置き)、第314条(取締役等の説明義務)、第315条第1項及び第2項(議長の権限)、第318条第1項及び第2項(議事録の作成及び備置き)、第831条第1項第1号及び第2項(決議の取消しの訴え及び裁量による棄却)

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