取締役会の決議に瑕疵があると少数株主から指摘された会社の対応
この記事の位置付け
取締役会の決議に瑕疵があると指摘される場面は、招集の手続に不備がある場面と、決議に加わることができない取締役が加わっている場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。
少数株主から会計帳簿又は取締役会の議事録の閲覧を受けた後、「あの取締役会の決議は無効である」という指摘を受けることがあります。株主総会の決議と異なり、取締役会の決議については、取消しの訴えという制度が用意されていません。効力を争う方法と会社の反論の組立ては、株主総会の場合とは別に理解しておく必要があります。
本記事では、発行会社の側の立場から、取締役会の決議の瑕疵の類型、効力に関する考え方、会社が確認すべき資料、そして今後の運営の是正を御説明します。
株主総会の決議との違い
株主総会の決議については、決議の取消しの訴え(会社法第831条)、無効の確認の訴え(同法第830条第2項)、不存在の確認の訴え(同条第1項)が定められ、出訴の期間及び判決の効力についても規律があります。これに対し、取締役会の決議については、これらに相当する制度が置かれていません。
そのため、取締役会の決議に瑕疵がある場合には、一般原則により、決議は無効であると解されています。出訴の期間の制限はなく、また、決議の無効を前提として、当該決議に基づいて行われた行為の効力が個別に争われることとなります。すなわち、争い方が広く、時期の制限もありません。この点で、株主総会の決議よりも扱いが難しい面があります。
瑕疵の類型
招集の手続の瑕疵
取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間前までに、各取締役及び各監査役に対して通知を発しなければなりません(会社法第368条第1項)。定款によりこの期間を短縮することができます。一部の取締役に対する通知を欠いた場合、当該決議は原則として無効となります。もっとも、通知を受けなかった取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、決議は有効であると解されています。会社の側としては、この特段の事情の有無を主張することとなります。
なお、取締役及び監査役の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく取締役会を開催することができます(会社法第368条第2項)。全員が出席して異議なく議事を行った場合には、この同意があったものと評価される余地があります。
特別の利害関係を有する取締役の参加
決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(会社法第369条第2項)。この取締役が議決に加わった場合、当該決議は原則として無効となります。ただし、当該取締役を除外して計算しても決議の結果に影響がない場合には、決議は有効であると解する考え方が有力です。
特別の利害関係が問題となる典型は、利益相反取引の承認(会社法第356条第1項、第365条第1項)、代表取締役の解職、当該取締役に対する競業の承認です。少数株主との紛争においては、支配株主である取締役が関与した取引の承認の決議が、この観点から争われます。
定足数及び決議の要件
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行います(会社法第369条第1項)。定款によりこれらの割合を上回る割合を定めることができます。特別の利害関係を有する取締役は、定足数の計算からも除外されます。この計算を誤る例が少なくありませんので、議事録に計算の過程を残してください。
議事録の不備
議事録には、開催の日時及び場所、議事の経過の要領及びその結果、決議を要する事項について特別の利害関係を有する取締役があるときはその氏名等を記載します(会社法施行規則第101条第3項)。出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければなりません(会社法第369条第3項)。議事録の不備は、それ自体が直ちに決議を無効とするものではありませんが、決議の存在及び内容を立証する手段を失わせます。
会社が確認すべき資料
| 確認事項 | 用いる資料 |
|---|---|
| 招集の通知 | 通知の控え、発送の記録、電子メールの送信の記録、定款の招集の期間に関する定め |
| 出席者 | 議事録の記載、署名又は記名押印、当日の記録 |
| 利害関係 | 議案の内容、取引の相手方と取締役との関係が分かる資料、登記事項証明書 |
| 定足数と賛否 | 議事録の記載、当時の取締役の員数が分かる登記事項証明書 |
| 決議に基づく行為 | 契約書、登記、送金の記録、稟議書 |
指摘を受けた決議については、これらを1件ずつ整理し、瑕疵の有無と、瑕疵があるとした場合に決議の結果に影響したかどうかを、書面により整理してください。
会社の反論の組立て
第1に、瑕疵の存在それ自体を争います。招集の通知が発せられていたこと、当該取締役が特別の利害関係を有しないことを、資料により示します。
第2に、瑕疵があるとしても決議の結果に影響がないことを述べます。通知を受けなかった取締役が反対したとしても賛成が過半数に達していたこと、特別の利害関係を有する取締役を除外しても定足数及び賛成の数を満たしていたことを、計算により具体的に示します。
第3に、招集の手続を省略することができる場合に当たることを述べます。取締役及び監査役の全員が出席し、異議なく議事が行われた場合には、招集の手続の省略に同意があったものと評価される余地があります。
第4に、決議に基づいて行われた行為の効力を検討します。代表取締役が行った取引については、取締役会の決議を欠いていても、相手方が決議を欠くことを知り、又は知ることができたときでない限り、その効力は否定されないと解されています。取引の相手方の認識を確認してください。
第5に、必要に応じて改めて決議を行います。既に行われた行為を追認する趣旨の決議を、適法な手続により行うことが有効な場合があります。追認の可否と効果は事案により異なりますので、行為の性質を踏まえて判断してください。
今後の運営の是正
- 招集の通知は、期間を確認したうえで、記録の残る方法により発します。定款で期間を短縮している場合には、その定めを社内で共有してください。
- 議案ごとに、特別の利害関係を有する取締役の有無を事前に確認し、該当する場合には議事録にその氏名と、議決に加わらなかった旨を記載します。
- 定足数及び賛成の数の計算を、議事録に明記します。特別の利害関係を有する取締役を除外した数を示してください。
- 議事録には、審議の経過、判断の理由、反対意見を記載します。議事録に異議をとどめない取締役は決議に賛成したものと推定されます(会社法第369条第5項)。
- 取締役会の決議の省略(会社法第370条)を用いる場合には、定款の定めの有無を確認し、取締役の全員の同意の意思表示を書面又は電磁的記録により取得します。
してはいけない対応
- 指摘を受けた後に、招集の通知を作成し直し、又は議事録を差し替えること。
- 特別の利害関係の有無を確認しないまま、同じ形で決議を重ねること。瑕疵が累積します。
- 取締役会の議事録の閲覧の請求に対し、理由を示さずに拒むこと。裁判所の許可の有無を確認し、根拠を明らかにして対応してください。
- 指摘を受けた決議に基づく取引について、相手方に無断で処理を変更すること。
弁護士に相談する意味
取締役会の決議の瑕疵は、出訴の期間の制限がなく、決議に基づく行為の効力を通じて広く波及します。指摘を受けた段階で、対象となる決議を特定し、瑕疵の有無と結果への影響を整理しておくことが、その後の展開を左右します。
また、指摘は多くの場合、取締役の責任の追及、株主代表訴訟の前段階として行われます。決議の効力に関する検討と、責任の追及に対する備えとを、一体として進める必要があります。
なお、追認の決議を行うかどうかの判断、反論の書面の組立てについては、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立って御依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある御質問
質問1 取締役会の決議にも取消しの訴えがありますか。
取締役会の決議については、株主総会の決議の取消しの訴えに相当する制度が定められていません。一般原則により無効と解され、出訴の期間の制限もありません。
質問2 一部の取締役に通知を出し忘れました。
原則として無効となりますが、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、有効と解されています。計算により示してください。
質問3 特別の利害関係を有する取締役とは誰ですか。
利益相反取引の当事者となる取締役、解職の対象となる代表取締役等が典型です。議案ごとに判断してください。
質問4 決議が無効であれば、契約も無効になりますか。
相手方が決議を欠くことを知り、又は知ることができたときでない限り、取引の効力は否定されないと解されています。相手方の認識が問題となります。
質問5 改めて決議をやり直せばよいですか。
有効な場合があります。もっとも、追認の可否と効果は行為の性質により異なりますので、個別に検討する必要があります。
質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。
定款、登記事項証明書、指摘された決議に係る招集の通知及び議事録、当該決議に基づく契約書その他の資料、株主から受領した書面を御持参ください。
まとめ
取締役会の決議に瑕疵があると指摘された場合、会社が行うべき事項は次の5点に整理されます。
- 株主総会の決議と異なり取消しの訴えの制度がなく、出訴の期間の制限もないことを理解します。
- 瑕疵を、招集の手続、特別の利害関係、定足数及び決議の要件、議事録の不備の各類型に分けて特定します。
- 招集の通知、出席者、利害関係、賛否の計算、決議に基づく行為の5点について資料を整理します。
- 瑕疵の不存在、結果への影響がないこと、招集の手続の省略に当たること、取引の相手方の認識を、順に主張します。
- 今後の運営について、通知の方法、利害関係の事前の確認、計算の明記、議事録の記載を是正します。
指摘は責任の追及の前段階として行われることが多い類型です。早期にご相談ください。
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