少数株主から会社の解散の訴えを提起された会社の反論の組立て(会社法第833条第1項)
この記事の位置付け
株主から会社の存続それ自体を争われる場面は、解散の訴えにより終局的な解決を求められる場面と、機関の運営の停滞を個別の申立てにより補う場面とに分かれますので、次のとおり切り分けます。
少数株主から「会社の解散を求める」と記載された内容証明郵便が届いた、あるいは解散を求める訴状が届いたというご相談をいただくことがあります。取締役の解任や株式の買取りを求められる場合と異なり、この請求は会社の存立そのものに向けられます。御担当者が動揺されるのも当然です。
本記事では、会社法第833条第1項の解散の訴えを提起された発行会社の側の立場から、制度の内容、類型ごとの要件、会社が示すべき事実と資料、担保の提供を求める申立て、そして株式の買取り又は集約による解決との関係を、順を追って御説明します。
解散の訴えとはどのような制度か
会社法第833条第1項は、一定の場合において、やむを得ない事由があるときに、少数株主が訴えをもって株式会社の解散を請求することができると定めています。株式会社は多数決により運営される仕組みですので、多数派の意思により会社が存続する限り、少数株主は原則としてこれを覆すことができません。解散の訴えは、その例外として、多数派と少数派の対立が極限に達し、会社が本来の機能を果たし得なくなった場合に、少数株主に与えられた最後の手段です。
申立てをすることができるのは、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除きます。)の10分の1以上の数の株式を有する株主です。定款によりこれを下回る割合を定めることもできます。会社としては、まず株主名簿及び議決権の総数により、この要件が満たされているかを計算してください。
なお、法務大臣の請求等による解散の命令(会社法第824条)は、公益の確保を目的とする別の制度です。株主が原告となる本記事の手続とは区別してください。
2つの類型と、それぞれの要件
会社法第833条第1項は、2つの類型を掲げます。いずれの類型についても、これに加えて「やむを得ない事由があるとき」という要件が課されます。
| 類型 | 条文の定め | 主張される典型的な事実 |
|---|---|---|
| 第1号 | 業務の執行において著しく困難な状況に至り、会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるとき | 株主総会も取締役会も開かれない、取締役の対立により決議が成立しない、持株が二分され意思決定ができない |
| 第2号 | 財産の管理又は処分が著しく失当で、会社の存立を危うくするとき | 支配株主による私的な資産の流用、著しく不相当な条件による取引、事業用資産の処分 |
第1号の「著しく困難な状況」
この要件は、意思決定の機関が現に機能していないことを指します。単に株主の間に対立があること、あるいは少数株主の意見が採用されないことは、これに当たりません。会社としては、株主総会が現に招集され、決議が成立し、事業が継続していることを、招集の通知、議事録、登記の記録により示します。
第2号の「著しく失当」
財産の管理又は処分が著しく失当であることに加えて、それにより会社の存立が危うくなることが必要です。個別の取引に問題があるという主張にとどまる場合には、この要件は満たされません。会社としては、指摘された取引の経緯と根拠を説明するとともに、財務の状況が健全であることを計算書類により示します。
やむを得ない事由の有無を分ける事情
解散は、従業員の雇用、取引先との関係、債権者の利益に重大な影響を及ぼします。そのため「やむを得ない事由」は、解散のほかに株主の利益を回復する方法がない場合に限られると解されています。会社の側の反論の中心は、この点にあります。
第1に、他の手段が存在することを示します。取締役の解任の訴え、責任の追及の訴え、会計帳簿の閲覧謄写の請求、一時取締役の選任の申立て、株主総会の招集の許可の申立てといった手段が用意されており、株主が主張する不利益はこれらにより回復し得ることを述べます。株主がこれらの手段を用いていない場合、その事実自体が重要です。
第2に、会社が株式の買取りを申し出た事実を示します。少数株主が投下資本を回収する道が現に開かれているのであれば、会社を解散させる必要はありません。買取りの申出をした日、提示した価格とその根拠、株主の回答を、書面により記録してください。この記録は、やむを得ない事由の判断において有力な資料となります。
第3に、事業が現に継続していることを示します。売上高、従業員の数、取引先との契約の状況、金融機関との取引の状況は、いずれも会社が機能していることを示す事実です。
会社の側が示すべき事実と資料
機関の運営の実績
過去5期分の株主総会の招集の通知、議事録、取締役会の議事録を整理します。定時株主総会が毎期開催され、計算書類の承認がされていること、役員の任期の満了に伴う選任及び登記が行われていることを、時系列により示してください。招集の通知の発送の記録は、招集が現に行われた事実を裏付けます。
配当及び役員報酬の方針
無配当が続いている場合には、その理由を説明する必要があります。内部留保を必要とした事情を、資金繰りの資料、借入金の返済の計画、設備投資の計画により示します。役員報酬の額が職務の内容及び会社の規模に照らして相当であることも、併せて示してください。配当がない一方で支配株主が報酬により利益を得ているという構図は、株主の主張を支える事情として働きます。
指摘された取引に関する資料
財産の管理又は処分が失当であると指摘された取引については、意思決定の経過、価格の根拠、社内の手続を示す資料を提出します。取引の相手方が役員又はその親族である場合には、利益相反取引に関する承認の手続(会社法第356条及び第365条)を経ているかを確認してください。
和解の提案の記録
訴えの提起の前後を通じて、会社が解決を提案した事実は重要です。提案の内容、日付、相手方の回答を書面により記録し、証拠として提出できる状態にしてください。
担保の提供を求める申立て
会社法第836条は、株主が訴えを提起した場合において、被告である会社の申立てにより、裁判所が株主に対し相当の担保を立てるべきことを命ずることができる旨を定めており、解散の訴えについても準用されています(同条第3項)。申立てをするには、株主の請求が悪意によるものであることを疎明しなければなりません。
ここでいう悪意は、請求に理由がないことを知りながら訴えを提起したこと、又は会社を害する目的で訴えを提起したことを意味すると解されています。疎明は容易ではありませんので、申立てをするかどうかは、次の点を踏まえて判断してください。
- 訴えの提起に先立つ交渉において、株主が株式の買取りの価格の引上げのみを求めていた経緯があるか。
- 主張された事実が、既に他の手続において排斥されているか。
- 他の株主に対する働きかけの内容が、会社の信用を害する態様に及んでいるか。
申立てが認められない場合であっても、会社の主張が記録に残るという意味はあります。他方、申立てが対立を深める要因ともなりますので、和解による解決を目指す方針との整合を確認してください。
株式の買取り又は集約による解決との関係
解散の訴えを提起された事案の多くは、その実質において、少数株主が投下資本を回収する方法を求めているものです。したがって、訴訟における反論と並行して、株式の買取りによる解決を検討することに実益があります。
第1に、買取りの申出は、やむを得ない事由の判断に影響します。前記のとおり、他に方法があることを示す事情となります。
第2に、買取りの主体を検討します。会社が自己株式として取得する場合には、株主総会の決議、売主追加請求権への対応、分配可能額の範囲という3つの制約があります。支配株主が個人として取得する場合には、これらの制約は及びませんが、資金の手当てと税務上の取扱いを検討する必要があります。
第3に、価格の考え方を整理します。訴訟において会社が主張する財務の健全性は、株式の価格を高める方向にも働きます。訴訟上の主張と買取りの交渉における価格の主張とが矛盾しないよう、方針を統一してください。
第4に、交渉の記録を残します。提案の内容と日付、相手方の回答を書面により残すことが、訴訟における主張の裏付けとなります。口頭のみのやり取りは、後に事実として認められません。
認容された場合に何が起きるか
請求を認容する判決が確定した場合、会社は解散します(会社法第471条第6号)。解散により会社が直ちに消滅するわけではなく、清算の手続に入り、清算の目的の範囲内において存続します。
清算においては、清算人が現務を結了し、債権を取り立て、債務を弁済し、残余財産を株主に分配します(会社法第475条以下)。事業は継続されませんので、従業員の雇用、取引先との契約、許認可は、いずれも終了に向けて処理されることとなります。株主に分配される財産は、資産を処分して負債を弁済した後の残余に限られますので、事業を継続する場合の株式の価値を下回ることが通例です。
この帰結は、少数株主にとっても必ずしも有利ではありません。和解による解決の余地は、この点を双方が理解することにより生まれます。
してはいけない対応
次の対応は、いずれも会社の立場を著しく不利にします。
- 訴状を受領したまま放置し、答弁書を提出しないこと。主張がないまま判断がされます。
- 訴えの提起を理由として、株主総会の招集を取りやめ、又は計算書類の承認を先送りすること。第1号の要件を自ら基礎付けることになります。
- 指摘された取引に関する資料を廃棄し、又は作成し直すこと。
- 株主に対し、訴えの取下げと引換えに個別の利益を提供すること。株主の権利の行使に関する利益の供与(会社法第120条)の問題を生じます。
- 従業員又は取引先に対し、株主を非難する内容の説明を行うこと。信用の毀損として別の紛争を招きます。
弁護士に相談する意味
解散の訴えは、会社の存立に関わる請求である一方、その実質は多数派と少数派の対立の帰結です。したがって、訴訟における反論と、株式の買取りその他の解決の道とを、同時に組み立てる必要があります。いずれか一方のみを進めますと、他方の選択肢が失われます。
また、この手続で問われるのは、過去数年にわたる会社の運営の実績です。訴えを受けてから記録を整えることはできませんので、資料の所在を早期に把握し、提出の順序を設計することが重要となります。
なお、答弁の組立て、担保の提供を求める申立ての要否、和解の進め方については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立って御依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。
よくある御質問
質問1 本当に会社が解散させられることがあるのですか。
要件は厳格であり、認容される事案は限られます。もっとも、機関が長期にわたり機能していない状態が続いている場合には、危険が現実のものとなります。運営の実績を資料により示すことが重要です。
質問2 持株が10分の1に満たない株主でも訴えを提起できますか。
定款によりこれを下回る割合が定められている場合を除き、要件を欠きます。株主名簿及び議決権の総数により計算してください。
質問3 訴えられた後に株主総会を開いても意味がありますか。
会社が機能していることを示す事情となります。もっとも、訴えの提起の後にのみ開催された場合には、その点を指摘されますので、従前の実績と併せて説明する必要があります。
質問4 和解で終わらせることはできますか。
株式の買取りによる解決が図られる例があります。価格、支払いの時期、他の株主への波及を防ぐ条項を含めて設計します。
質問5 訴訟の費用は会社の負担になりますか。
会社が自ら依頼する弁護士の費用は会社の負担となります。訴訟費用の負担は判決において定められます。
質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。
訴状及び証拠、過去5期分の株主総会及び取締役会の議事録、計算書類、配当の実績が分かる資料、役員の構成が分かる資料、株主名簿、これまでのやり取りが分かる資料を御持参ください。
まとめ
少数株主から会社の解散の訴えを提起された場合、会社の側の対応は次の5点に整理されます。
- 持株の要件(10分の1)が満たされているかを、株主名簿と議決権の総数により計算します。
- 第1号と第2号のいずれの類型による主張であるかを特定し、要件ごとに反論を組み立てます。
- やむを得ない事由の判断に対しては、他の手段が存在すること、及び会社が株式の買取りを申し出た事実を示します。
- 機関の運営の実績、配当及び役員報酬の方針、指摘された取引の根拠を、資料により示します。
- 訴訟における反論と、株式の買取り又は集約による解決とを、同時に組み立てます。
会社の存立に関わる請求ですので、訴状又は予告の書面を受領した段階で、早期にご相談ください。
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