株主総会を長年開いていない会社に生じている少数株主のリスクと、今から整える手順

この記事の位置付け

株主総会の運営の不備をめぐる場面は、過去の決議の効力を争われる場面と、これから適式な運営へ戻す場面とに分かれますので、本ページでは次のとおり切り分けて御説明します。

株主が親族及び旧知の者に限られている非上場会社では、株主総会の議事録は毎期作成しているものの、現実に株主が集まったことは一度もないという運用が広く見られます。長い間それで支障が生じてこなかったところ、事業承継、M&Aの検討、あるいは株主の相続を機に、過去の運営の不備に気付かれてご相談をいただくことがあります。

本記事では、発行会社の側の立場から、過去の運営の不備がどこまで争われ得るのかを整理したうえで、少数株主から争われる前に、今期から適式な運営へ戻すための手順を御説明します。

長年の不開催により生じている3つの危険

 過去の決議の効力

現実に招集も開催もされていない株主総会について議事録のみが作成されている場合、当該決議は存在しないものと評価される余地があります。株主総会の決議が存在しないことの確認は、決議の取消しの訴えと異なり、出訴の期間の制限がありません(会社法第830条第1項)。すなわち、10年以上前の決議についても争われ得ます。役員の選任の決議、計算書類の承認の決議、定款の変更の決議のいずれもが対象となります。

 役員の任期の満了

取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法第332条第1項)。公開会社でない会社においては、定款により選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすることができます(同条第2項)。選任の決議が存在しないと評価される場合、現に登記されている取締役が適法に選任された者であるかどうかが問題となり、その者が行った業務執行の効力にも影響が及びます。

 計算書類の承認の欠缺

取締役会設置会社においては、計算書類は定時株主総会に提出し、その承認を受けなければならないとされています(会社法第438条)。承認の決議が存在しないと評価される場合、剰余金の配当の決議、役員報酬に関する決議の前提も併せて争われます。

これらは、いずれも少数株主との対立が生じた段階で、まとめて主張される類型です。対立が生じる前に整えておくことに、大きな意味があります。

まず確認していただきたい5点

是正の前に、現状を把握してください。次の5点を順に確認します。

確認事項 用いる資料 確認する内容
定款 定款の原本 機関設計、役員の任期、招集の通知の期間、書面又は電磁的方法による議決権の行使の可否
登記 登記事項証明書(履歴事項全部証明書) 役員の就任及び重任の登記の欠落、就任年月日と任期の対応
議事録 過去10期分の株主総会及び取締役会の議事録 作成の有無、記名押印、招集の通知の記録の有無
株主名簿 株主名簿、株式に関する契約書、相続に関する資料 現在の株主が誰であるか、名義と実質の相違、相続の発生の有無
計算書類 過去10期分の計算書類、税務申告書 承認の決議の有無、配当の実績

確認の結果は、期ごとに一覧表として整理してください。どの期のどの決議が形式を欠くのかが明らかになれば、是正の優先順位が定まります。

今期から適式な運営へ戻す手順

 第1段階 株主を確定します

適式な招集は、株主が誰であるかが確定していなければ行えません。株主名簿の記載と、株式の取得の原因を示す資料とを突き合わせ、相続が発生している場合には相続人の範囲を確認します。名義と実質が異なる可能性がある株式については、設立時又は増資時の払込みの資金の出所、配当金の受領者を確認してください。

 第2段階 招集の手続を執ります

取締役会設置会社においては取締役会の決議により、取締役会を設置していない会社においては取締役の決定により、開催の日時、場所、議題を定めます。招集の通知は、公開会社でない会社においては原則として1週間前までに発します(会社法第299条第1項)。書面による議決権の行使を認めない場合、取締役会を設置していない会社では通知を口頭により行うこともできますが、記録を残す観点から書面によることをお勧めします。発送の記録(発送簿、郵便の記録)を必ず保存してください。

 第3段階 現実に開催し、記録を残します

出席した株主、議決権の数、議事の経過の要領、議事の結果を議事録に記載します(会社法施行規則第72条)。所要時間が短くても差し支えありません。重要なのは、招集から開催、決議、議事録の作成までの一連の記録が残ることです。

 第4段階 役員の選任と登記を整えます

任期の満了が生じている場合には、改めて選任の決議を行い、就任の承諾を得たうえで登記を申請します。登記の懈怠については過料の対象となりますが、これを避けるために登記をしないまま放置しますと、後の紛争において不利益が拡大します。速やかに整えてください。

 第5段階 過去分の取扱いを決めます

過去の決議についてどこまで遡って是正するかは、事案により判断が分かれます。同じ内容の決議を改めて行うこと、株主全員の同意により追認の趣旨を明らかにすることが考えられます。株主全員の同意が得られる状態であれば、この段階で整えておくことが最も確実です。対立が生じた後には、同意を得ることが困難となります。

書面による決議の活用と、その限界

取締役が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき議決権を行使することができる株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。株主が少数であり、全員の協力が得られる会社においては、この方法により適式な決議を積み重ねることができます。

もっとも、次の限界があります。

  • 株主の全員の同意が必要ですので、1人でも対立する株主がいる場合には用いることができません。
  • 同意の意思表示は、株主本人の書面又は電磁的記録によることを要します。議事録のみを作成し、株主が署名していない場合は、これに当たりません。
  • 同意の書面は、決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置く必要があります(会社法第319条第2項)。

すなわち、書面による決議の方法によるとしても、株主全員の同意を示す書面を実際に取得し、保存しておかなければ、現実に開催していない総会と同じ評価を受けることとなります。

少数株主から争われた場合の会社の反論

既に対立が生じ、過去の決議の効力を争われている場合には、次の順序により反論を組み立てます。

第1に、招集及び開催の事実を示す資料の有無を確認します。招集の通知の控え、発送の記録、出席者の署名、当日の資料、交通費の精算の記録といった間接的な資料も、開催の事実を示す手掛かりとなります。

第2に、当該株主が過去の決議を前提とする行動を採ってきた事実を示します。配当を受領していたこと、役員として登記されることに同意していたこと、計算書類の内容について異議を述べてこなかったことは、いずれも会社の側の主張を支える事情となります。

第3に、決議の取消しの訴えによる主張については、出訴の期間(決議の日から3箇月。会社法第831条第1項)の経過を確認します。決議が存在しないことの確認の訴えには期間の制限がありませんので、両者を区別して対応してください。

第4に、争われている決議の内容が現在の権利関係にどのような影響を及ぼすかを整理します。影響が限定的である決議については、争いを長引かせるよりも、改めて決議を行うことにより解決を図る方が合理的な場合があります。

してはいけない対応

  • 過去の議事録を作成し直し、又は日付を遡って作成すること。発覚した場合の不利益は、当初の不備よりもはるかに大きくなります。
  • 争いを避けるために、招集の通知を一部の株主に発しないこと。決議の取消しの原因となります。
  • 任期の満了に気付きながら、過料を避けるために登記を先送りすること。
  • 株主全員の同意が得られない状態で、書面による決議があったものとして議事録を作成すること。
  • 不備の存在を認識しながら、M&Aの相手方に開示しないこと。表明及び保証の違反として、後に責任を問われます。

弁護士に相談する意味

この主題の特徴は、対立が生じる前であれば、比較的少ない負担で整えることができる点にあります。株主全員の協力が得られる段階であれば、書面による決議、追認の趣旨の確認、登記の是正を、順序立てて進めることができます。

反対に、少数株主から権利の行使を受けた後は、同じ作業に対して株主の同意が得られず、過去の不備がそのまま争点となります。事業承継、M&A、株主の相続といった契機を捉えて、早期に点検を行うことをお勧めします。

なお、過去分の是正をどこまで遡って行うか、追認の趣旨をどのような書面により確認するかについては、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立って御依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある御質問

質問1 議事録は毎期作っています。それでも問題がありますか。

現実に招集も開催もされていない場合には、決議が存在しないと評価される余地があります。招集の通知の記録、株主の同意を示す書面の有無を確認してください。

質問2 何年前まで遡って争われますか。

決議が存在しないことの確認の訴えには、出訴の期間の制限がありません。決議の取消しの訴えは、決議の日から3箇月以内に提起する必要があります。

質問3 役員の重任登記が数年分漏れています。

改めて選任の決議を行い、就任の承諾を得たうえで登記を申請します。過料の可能性はありますが、放置による不利益の方が大きくなります。

質問4 株主全員の同意が得られれば、集まらなくてもよいのですか。

会社法第319条の方法によることができます。同意を示す書面又は電磁的記録を実際に取得し、10年間備え置いてください。

質問5 既に少数株主と対立しています。今から整えても意味がありますか。

今期以降の運営を適式に行うことには意味があります。過去分の取扱いは、争われている決議の内容と影響を踏まえて判断します。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、過去10期分の株主総会及び取締役会の議事録、株主名簿、過去10期分の計算書類、株式に関する契約書を御持参ください。

まとめ

株主総会を長年開いていない会社について、会社が進めるべき事項は次の5点に整理されます。

  • 過去の決議の効力、役員の任期の満了、計算書類の承認の欠缺という3つの危険を把握します。
  • 定款、登記、議事録、株主名簿、計算書類の5点により、期ごとの現状を一覧表として整理します。
  • 株主の確定、招集、開催、記録、登記という順序により、今期から適式な運営へ戻します。
  • 株主全員の協力が得られる場合には、会社法第319条の書面による決議を活用し、同意の書面を保存します。
  • 過去分の是正は、株主全員の同意が得られる段階で済ませます。

対立が生じる前の点検が、最も費用と時間を要しません。事業承継、M&A、株主の相続を検討される段階で、早期にご相談ください。

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