少数株主から一部だけの買取り又は分割払いによる買取りを求められた会社の判断

この記事の位置付け

少数株主からの買取りの求めは、対象となる株式の一部のみを買い取る場面と、代金を分割して支払う場面とに分かれますので、本ページでは次のとおり切り分けて御説明します。

少数株主から株式の買取りを求められた際に、「全部ではなく半分だけ買ってほしい」「一括では資金がないので分割で支払ってほしい」といった申出がされることがあります。会社の側にとっては、資金の負担を抑えられる反面、株主構成の整理が中途で終わり、支払いが完了するまで関係が続くという難点があります。

本記事では、発行会社の側の立場から、一部のみの買取りと分割による支払いのそれぞれについて、会社法上の制約、判断の基準、契約において定めるべき事項を御説明します。

一部だけの買取りを求められた場合の判断

 株主構成の整理という目的から見た評価

会社が少数株式を買い取る目的は、多くの場合、株主構成を整理し、意思決定の安定を図ることにあります。この目的から見ますと、一部のみの買取りは目的を達成しません。買取りの後も当該株主は株主のまま残り、株主総会の招集の請求、会計帳簿の閲覧謄写の請求、議題の提案といった権利を引き続き行使することができます。

他方、持株の比率が低下することにより、行使できる権利の範囲が変わる場合があります。総株主の議決権の100分の3以上、100分の1以上、10分の1以上といった基準を下回ることになるのであれば、一部のみの買取りにも実益があります。買取りの前後で当該株主の議決権の比率がどのように変化するかを、必ず計算してください。

 残る株式の取扱いを定めておくこと

一部のみを買い取る場合には、残る株式について将来どのように取り扱うかを、あわせて協議することが有効です。将来の買取りの優先交渉権、第三者へ譲渡する場合の事前の通知、価格の算定の方法をあらかじめ定めておけば、株式買取業者への流出を防ぐ手掛かりとなります。もっとも、譲渡制限株式については会社の承認が必要ですので、これらの定めは承認の判断を補うものと位置付けてください。

 自己株式として取得する場合の手続

会社が一部のみを取得する場合であっても、手続は全部を取得する場合と同じです。株主総会の決議により取得する株式の数、対価の内容及び総額、取得することができる期間を定め(会社法第156条第1項)、特定の株主からの取得については株主総会の特別決議を要します(同法第160条、第309条第2項第2号)。他の株主の売主追加請求権への備えも必要です。

分割払いによる買取りを求められた場合の判断

 財源規制は分割により回避できません

会社が自己株式を取得する場合、取得の対価の総額は、取得の効力が生ずる日における分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項)。支払いを分割したとしても、取得の効力が生ずる時点における対価の総額により判断されますので、分割払いによって財源規制を免れることはできません。この点は、実務においてしばしば誤解されています。

分配可能額が不足する場合には、次の方法を検討します。

  • 取得する株式の数を減らし、対価の総額を分配可能額の範囲内に収めます。
  • 取得の時期を事業年度をまたいで分け、それぞれの時点の分配可能額の範囲内で取得します。この場合、各回の取得ごとに株主総会の決議が必要となります。
  • 支配株主が個人として取得します。この場合には財源規制及び売主追加請求権の制約は及びませんが、資金の手当てと税務上の取扱いを検討する必要があります。

 支配株主が個人として分割により支払う場合

支配株主が個人として取得し、代金を分割して支払う場合には、株式の移転の時期と代金の支払いの時期との関係を明確に定めます。代金の完済前に株式を移転する設計とする場合には、譲渡人の側に未回収の危険が残りますので、担保の提供、期限の利益の喪失、所有権の留保に相当する定めを検討してください。反対に、完済まで株式を移転しない設計とする場合には、その間、当該株主は株主のままであり、権利を行使することができます。

 支払いが滞った場合の帰結

分割払いを選択する場合に最も注意すべきは、支払いが滞った場合の帰結です。支払いの遅滞は、それ自体が新たな紛争の原因となり、当初の紛争を蒸し返す契機ともなります。分割の回数は可能な限り少なくし、期間は短く設定してください。

契約において定めるべき事項

項目 定める内容
対象と数 取得する株式の種類及び数。一部のみの場合は、残る株式の数も明記します
代金と支払い 総額、1回当たりの額、支払いの期日、振込先、遅滞した場合の取扱い
株式の移転の時期 名義書換えの時期、株券が発行されている場合は株券の交付の時期
期限の利益の喪失 支払いを怠った場合に残額の全部について期限の利益を失う旨
残る株式の取扱い 将来の買取りの協議、第三者への譲渡の際の事前の通知
清算条項 対象となる範囲。一部のみの買取りの場合、株主としての地位に基づく請求権をどこまで含めるかを検討します
守秘義務 価格及び条件を第三者に開示しない旨と、その例外

一部のみの買取りにおいては、清算条項の範囲に特に注意してください。当該株主は買取りの後も株主として残りますので、株主としての一切の請求権を放棄させる内容とすることは相当ではなく、また実効性もありません。本件の売買に関する請求権に限定する設計が通例です。

他の株主との均衡

一部のみの買取り、分割による支払いのいずれについても、他の株主から同一の条件を求められる可能性を考慮してください。次の備えが有効です。

第1に、条件を定めた理由を記録します。当該株主に固有の事情(保有する株式の数、取得の経緯、交渉の経過、会社の資金の状況)を、取締役会の議事録に明記します。

第2に、価格の算定の根拠を統一します。個々の交渉で異なる算定の方法を用いますと、後に説明が困難となります。会社としての算定の考え方をあらかじめ定め、これに従って各交渉を進めてください。

第3に、自己株式として取得する場合には、他の株主に対する通知が制度上必要となる場面があります。売主追加請求権に関する通知を経ることにより、他の株主が条件を知ることとなりますので、これを前提として説明を準備してください。

してはいけない対応

  • 分配可能額を確認しないまま金額を合意すること。分割払いとしても財源規制は及びます。
  • 株主総会の決議を経ないまま、会社の資金により代金を支払うこと。
  • 一部のみの買取りにおいて、株主としての一切の請求権を放棄する旨の清算条項を用いること。
  • 代金の完済前に名義書換えを行い、担保も期限の利益の喪失の定めも置かないこと。
  • 条件を定めた理由を記録せず、他の株主への説明の準備を欠くこと。

弁護士に相談する意味

一部のみの買取り、分割による支払いは、いずれも「まとまるならばそれでよい」と判断されやすい場面です。しかし、株主構成の整理という本来の目的から見た評価、財源規制との関係、他の株主への波及を検討しないまま合意しますと、後により大きな負担が生じます。

特に、当該株主が株主として残る設計を採る場合には、その後の権利の行使を前提とした備えが必要です。合意の前に、買取りの後の株主構成と議決権の比率を数値により確認してください。

なお、価格の水準の見極め、残る株式に関する定めの具体的な文言については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立って御依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある御質問

質問1 分割払いにすれば、分配可能額が少なくても買い取れますか。

取得の効力が生ずる時点の対価の総額により判断されますので、分割によって財源規制を免れることはできません。

質問2 一部だけ買い取っても意味がありますか。

買取りの前後で当該株主の議決権の比率がどの基準を下回るかによります。数値により確認してください。

質問3 残る株式を将来買い取る約束をしても差し支えありませんか。

協議を行う旨の定めは有効です。もっとも、価格をあらかじめ確定させる定めについては、税務上の取扱いを含めて検討が必要です。

質問4 支配株主が個人で買い取る場合も株主総会の決議が必要ですか。

会社の自己株式の取得ではありませんので、会社法上の決議は要しません。株式の譲渡について会社の承認の手続が必要となります。

質問5 他の株主から同じ条件を求められたらどうしますか。

当該株主に固有の事情を記録しておき、条件の相違を説明します。会社としての価格の算定の考え方を統一しておくことが前提となります。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

定款、登記事項証明書、株主名簿、直近の計算書類、これまでのやり取りが分かる資料、株主から示された申出の内容が分かる資料を御持参ください。

まとめ

一部のみの買取り又は分割による買取りを求められた場合、会社が確認すべき事項は次の5点に整理されます。

  • 買取りの前後で当該株主の議決権の比率がどう変わるかを数値により確認します。
  • 分割払いによっても財源規制は及びます。分配可能額を必ず算定します。
  • 分配可能額が不足する場合は、数の縮小、時期の分割、支配株主による個人としての取得を検討します。
  • 株式の移転の時期、期限の利益の喪失、残る株式の取扱い、清算条項の範囲を契約に定めます。
  • 条件を定めた理由を記録し、他の株主への説明を準備します。

合意の前の設計が、その後の株主構成の整理を左右します。早期にご相談ください。

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