業務及び財産の状況を調査する検査役の選任を申し立てられた会社の対応(会社法第358条)

この記事の位置付け

株主が申し立てる検査役の選任は、会社の業務及び財産の状況を調査する場面(会社法第358条)と、株主総会の招集の手続及び決議の方法を調査する場面(同法第306条)とに分かれますので、次のとおり切り分けます。

裁判所から、検査役の選任の申立てがされた旨の通知、又は審尋の期日の呼出しを受け取った会社の御担当者から、ご相談をいただくことがあります。会計帳簿の閲覧謄写の請求と異なり、この手続では裁判所が選任した第三者が会社に立ち入り、業務及び財産の状況を調査します。会社にとっては、対応の負担が大きく、また調査の結果がその後の紛争の全体を左右します。

本記事では、会社法第358条の検査役の選任の申立てを受けた発行会社の側の立場から、申立ての要件、会社が述べることができる事項、選任された場合の調査への対応、報告がされた後に生ずることを、順を追って御説明します。

第358条の検査役と第306条の総会検査役の違い

検査役という同じ名称が用いられますが、制度は別のものです。相談の初期の段階で混同が生じやすいところですので、まず対照により確認してください。

項目 業務及び財産の状況の調査(第358条) 株主総会の検査役(第306条)
調査の対象 会社の業務及び財産の状況の全般 株主総会の招集の手続及び決議の方法
申立ての時期 不正の行為等を疑うに足りる事由があるとき 株主総会に先立ち、総会の開催が予定されている段階
持株の要件 総株主の議決権の100分の3以上の議決権、又は発行済株式の100分の3以上の数の株式(定款によりこれを下回る割合を定めることができます) 総株主の議決権の100分の1以上の議決権。会社も申立てをすることができます
報告の相手方 裁判所。会社及び申立てをした株主に写しが交付されます 裁判所。会社及び申立てをした株主に写しが交付されます
その後の展開 裁判所が株主総会の招集等を命ずることがあります(第359条) 決議の効力が争われる場面の証拠となります

両者を取り違えますと、争点の設定そのものを誤ります。裁判所から届いた書面に記載された条文の番号を、必ず確認してください。

申立ての要件と、会社が争える点

 不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実

会社法第358条第1項は、会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときに、申立てをすることができると定めています。会社の側が最も争うことができるのは、この点です。

「疑うに足りる事由」は、不正の行為が現に存在することまでを要するものではありません。他方、株主の主観的な疑念のみでは足りず、客観的な資料により裏付けられた具体的な事実が示される必要があります。会社としては、申立書に記載された事実について、(1)そもそも事実として存在しないのか、(2)存在するが不正の行為に当たらないのか、(3)存在するが重大な事実といえないのかを、項目ごとに整理して反論します。

 持株の要件

申立てをすることができるのは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主です。定款によりこれを下回る割合を定めることもできます。会社は、株主名簿及び議決権の総数により、申立ての時点で要件が満たされているかを計算し、計算の過程を書面により示してください。自己株式の数の控除を誤る例が見受けられます。

 申立ての利益

既に他の手続により同一の事項が調査され、又は会社が自ら調査を行って結果を株主に開示している場合には、重ねて検査役を選任する必要がないという主張が考えられます。もっとも、会社が自ら行った調査は、その独立性が問われますので、外部の専門家により行われたこと、調査の範囲が申立ての対象を包含していることを示す必要があります。

審尋において会社が述べること

検査役の選任は非訟の手続により行われ、裁判所は、会社の陳述を聴かなければならないとされています(会社法第870条第1項)。この機会をどのように用いるかにより、結論が変わります。

 会社の業務の状況の説明

指摘された取引について、意思決定の経過、根拠となる資料、社内の手続を具体的に説明します。取締役会の議事録、稟議書、契約書、会計の処理を示す資料を整理し、時系列により提出してください。説明を抽象的な弁明にとどめますと、疑うに足りる事由が解消されません。

 濫用的な申立てであるとの主張

申立ての目的が、会社の業務を妨げること、又は株式を高い価格で買い取らせることにある場合には、その事情を主張することが考えられます。もっとも、株主が株式の買取りを求めていること自体は正当な行為であり、その一事をもって濫用と評価されるものではありません。主張をする場合には、交渉の経過、送付された書面、他の株主への働きかけの状況といった具体的な事実に基づいて述べてください。

 調査の範囲の限定を求めること

選任それ自体を避けることが難しい事案であっても、調査の対象となる期間及び事項を、申立ての理由に対応する範囲に限るよう求めることには実益があります。会社の全部の期間、全部の取引に調査が及ぶことを避けるため、対象の特定について意見を述べてください。

選任された場合の調査への対応

 資料の提出の範囲

検査役は、その職務を行うため必要があるときは、子会社の業務及び財産の状況を調査することができます(会社法第358条第4項)。調査に対して会社が資料の提出を拒むことは、原則として相当ではありません。拒んだ事実それ自体が、報告において不利に記載されることとなります。

他方、提出の方法については協議の余地があります。原本の持ち出しではなく会社内での閲覧とすること、電子的な記録は対象を特定して抽出すること、第三者の個人に関する情報は遮蔽することについて、検査役と事前に取り決め、取決めの内容を書面に残してください。

 役職員に対する聴取

検査役は、役員及び従業員から事情を聴取します。会社としては、聴取の対象となる者に対し、正確に事実を述べること、記憶にない事項は記憶にない旨を述べること、推測により述べないことを、あらかじめ伝えてください。口裏を合わせることは、それ自体が重大な不利益を招きます。

 窓口の一本化と記録

調査への対応の窓口を1人に定め、提出した資料の一覧、聴取が行われた日時と対象者、検査役から求められた事項を、その都度記録してください。この記録は、報告の内容に事実の誤りがある場合に、これを指摘するための基礎となります。

報告書が提出された後に起こること

 裁判所による株主総会の招集等の命令

検査役は、必要な調査を行い、その結果を裁判所に報告します(会社法第358条第5項)。裁判所は、報告があった場合において必要があると認めるときは、取締役に対し、一定の期間内に株主総会を招集すること、又は調査の結果を株主に通知することを命じます(同法第359条第1項)。この命令がされた場合、会社は指定された期間内に総会を招集しなければなりません。

会社及び申立てをした株主には、報告の書面の写しが交付されます(同法第358条第7項)。したがって、報告の内容は株主の知るところとなり、その後の権利の行使の基礎となります。

 取締役の責任への波及

報告に不正の行為又は法令若しくは定款に違反する事実が記載された場合には、提訴の請求、株主代表訴訟、取締役の解任の請求へと展開することがあります。報告の受領後は、記載された事実ごとに、会社としての評価と対応の方針を取締役会において決定し、議事録に記録してください。

 報告の内容に誤りがある場合

報告の内容が事実と異なる場合には、その旨を裁判所に対して書面により指摘します。裁判所は、報告の内容を明瞭にし、又はその根拠を確認するため必要があると認めるときは、検査役に対して更に報告を求めることができます(会社法第358条第6項)。指摘は、資料を添えて速やかに行ってください。

会計帳簿の閲覧謄写請求との関係

実務においては、会計帳簿の閲覧謄写の請求(会社法第433条)と、検査役の選任の申立てとが、相前後して行われます。両者の関係は、次のとおりです。

第1に、閲覧謄写の請求は株主自身が帳簿を見る手続であり、検査役の選任は裁判所が選任した第三者が調査を行う手続です。会社が閲覧謄写の請求を拒絶した場合に、株主が次の手段として検査役の選任を申し立てるという展開が典型です。

第2に、会社が閲覧謄写の請求を拒絶する場合には、拒絶の理由を書面により明確にしておく必要があります。理由を示さないまま拒絶した経緯は、検査役の選任の審尋において、会社が調査を回避しようとしていると評価される事情となります。

第3に、閲覧に応じた範囲と、検査役の調査の対象とが重複する場合には、既に開示済みである旨を説明し、調査の範囲の限定を求める材料とすることができます。開示の範囲の記録が重要となるのは、この場面です。

費用の負担

裁判所は、検査役を選任した場合には、会社が検査役に対して支払う報酬の額を定めることができます(会社法第358条第3項)。すなわち、検査役の報酬は会社の負担となります。報酬の額は、調査の対象の範囲、要する期間、会社の規模により異なりますので、事前に見通しを立てることは容易ではありません。

会社の側にとっては、調査の範囲が広がるほど費用の負担も大きくなります。この点からも、審尋の段階において、調査の対象を申立ての理由に対応する範囲に限るよう意見を述べることに実益があります。

なお、会社が自ら依頼する弁護士の費用、資料の準備に要する社内の労力は、これとは別に会社が負担することとなります。対応の体制は、通常の業務に支障が生じない範囲で組んでください。

してはいけない対応

次の対応は、いずれも会社の立場を著しく不利にします。

  • 申立書を受け取ったまま放置し、審尋の期日に出席しないこと。会社の説明がないまま判断がされます。
  • 資料を廃棄し、又は書き換えること。それ自体が不正の行為を疑わせる事情として評価されます。
  • 役職員に対し、事実と異なる説明をするよう求めること。後に判明した場合の不利益は、当初の指摘よりも大きくなります。
  • 申立てをした株主に対し、申立ての取下げと引換えに個別の利益を提供すること。株主の権利の行使に関する利益の供与(会社法第120条)の問題を生じます。
  • 調査の対象となる取引の関係者を、調査の期間中に配置転換し、又は退職させること。妨害と評価される危険があります。

弁護士に相談する意味

この手続において最も重要なのは、審尋までの限られた期間に、指摘された事実ごとの反論と、これを裏付ける資料を整えることです。期間は長くありませんので、書面を受領した段階でご相談をいただくことが有効です。

また、検査役の調査への対応、報告の内容の点検、報告後に想定される展開への備えは、いずれも一連のものとして設計する必要があります。個別の局面ごとに場当たりの対応を重ねますと、後の手続において説明の一貫性を欠くこととなります。

なお、審尋における主張の組立て、調査の範囲に関する協議の進め方については、事案ごとに異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウに属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立って御依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある御質問

質問1 申立てがあれば、必ず検査役が選任されるのですか。

要件を欠く場合には申立ては認められません。会社としては、持株の要件、疑うに足りる事由の有無について、資料に基づいて反論することとなります。

質問2 調査を拒むことはできますか。

選任がされた後に調査を拒むことは相当ではありません。拒んだ事実は報告に記載され、会社に不利に働きます。範囲及び方法について協議することが現実的な対応です。

質問3 費用は誰が負担しますか。

検査役の報酬は会社の負担となります。額は裁判所が定めます。

質問4 会計帳簿の閲覧に応じていれば、申立ては認められませんか。

そのようには限りません。もっとも、既に開示した範囲は、調査の対象の限定を求める材料となります。

質問5 報告の内容に事実と異なる記載があります。

資料を添えて、速やかに裁判所へ書面により指摘してください。裁判所が検査役に対して更に報告を求めることがあります。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

申立書及び疎明資料、裁判所からの通知、定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の計算書類、指摘された取引に関する契約書及び稟議書を御持参ください。

まとめ

会社法第358条の検査役の選任は、少数株主が採り得る手段の中でも、会社の内部に直接及ぶ点で影響の大きい手続です。会社の側の対応は、次の5点に整理されます。

  • 第306条の総会検査役と混同せず、根拠となる条文を確認します。
  • 持株の要件と、疑うに足りる事由の有無を、資料に基づいて点検します。
  • 審尋において、指摘された事実ごとに具体的な説明を行い、調査の範囲の限定についても意見を述べます。
  • 選任された場合には、方法について協議しつつ、調査には誠実に対応します。
  • 報告の後に生ずる株主総会の招集の命令、責任の追及への展開を、あらかじめ想定して方針を定めます。

期間が限られる手続ですので、書面を受領した段階で、早期にご相談ください。

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