少数株主から株式を買い取ってほしいと言われた会社の対応

少数株主から、「株式買取請求書」と題する書面で株式を買い取ってほしいと申し入れられたが、応じる義務があるのかどうか分からないという非上場会社の経営者の方から、御相談をいただくことがあります。

この場面で問題となるのは、書面の表題だけで判断せず、記載されている根拠と求められている内容を確認する必要があるという点です。表題が「株式買取請求書」であっても、内容が任意の申入れにとどまる場合と、法律上の買取義務を伴う場合とでは、会社が採るべき対応が異なります。

以下では、確認すべき資料、及び申入れの内容ごとの会社の対応を御説明します。

相続に関連するもの 相続人が株式を承継した後、換価を希望して申し入れる場合です 定款の定めの有無により検討事項が異なります

書面の表題のみで判断せず、記載されている根拠と求められている内容を確認してください。表題が「株式買取請求書」であっても、内容が任意の申入れにとどまる場合があります。

 確認すべき資料

表2 初期に確認する資料

区分 資料
受領書面 到達日、封筒、記載された請求の内容と根拠、代理人の有無
定款 譲渡制限の定め、種類株式の定め、相続人等に対する売渡しの請求に関する定め
株主名簿 当該株主の記載、株式数、取得の年月日、名義と実質の一致
計算書類 直近3期分。分配可能額の有無を確認します
議事録 株主総会及び取締役会の議事録。過去の取得の事例を確認します
過去の売買 過去に株式の売買がある場合の価格と条件
取決め 株主間契約、覚書、退任時の確約書等の有無

 期限の確認

任意の申入れであっても、相手方が回答の期限を指定していることがあります。また、会社法上の手続に基づく請求である場合には、会社が対応すべき期間が定められています。手続によっては期間の定めが置かれている場合があります。その有無と起算点は、受け取った書面の内容や事実関係により異なりますので、早めにご確認いただくことをお勧めします。

会社側の法的な立場

 一般的な株式買取義務はありません

会社は、株主から求められたというだけで株式を買い取る義務を負うものではありません。株式は株主の財産であり、その処分は株主の判断に委ねられていますが、その相手方となることを会社に義務付ける一般的な規定は置かれていません。

このため、「株主が買い取れと言っているのだから応じなければならない」という前提で対応を始めることは適切ではありません。

 会社法が特に定めた場面があります

もっとも、会社法は、一定の場面において、会社が株式を買い取ることを予定した制度を設けています。譲渡を承認しない場合の買取り、一定の組織上の行為に反対した株主による株式買取請求などがこれに当たります。これらは、株主が投下した資本を回収する機会を確保するための制度です。

受領した書面が、こうした制度に基づくものであるかどうかを確認することが、対応の分岐点となります。

 会社が取得する場合の制約

会社が自己株式を取得する場合には、会社法上、手続の要件と分配可能額による財源の規制があります。これらの要件を満たさない取得は、会社にとって重大な問題を生じさせます。したがって、応じる方針を採る場合であっても、要件の確認を経る必要があります。

なお、会社が取得する場合と、支配株主その他の個人が取得する場合とでは、要件も帰結も異なります。税務上の取扱いも異なりますので、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。

 他の株主との関係

特定の株主からのみ株式を取得する場合、他の株主との関係が問題となります。会社法は、株主に平等な機会を確保するための手続を定めており、これを省略することはできません。また、法律上の要件を満たしていても、他の株主から同様の申出が相次ぐことが見込まれる場合には、事実上の影響も検討する必要があります。

会社側が検討し得る選択肢

表3 選択肢の整理

選択肢 概要 主な検討事項
応じない 株式買取義務がないことを前提に、取得しない旨を回答します 想定される権利行使への備え、回答の表現
会社が取得する 自己株式として取得します 手続の要件、分配可能額、他の株主の取扱い
支配株主等が取得する 代表取締役、後継者等が個人として取得します 資金の手当て、価格の根拠、税務上の取扱い
第三者が取得する 取引先、持株会等が取得します 取得主体の適格性、将来の株主構成への影響
一部のみ取得する 保有株式の一部を取得します 残存する株式の取扱い、将来の再度の申出
分割して取得する 期間を分けて取得します 資金繰り、価格の設定、合意の内容
株式の集約に関する手続 会社法上の手続により株主構成を整理します 手続の選択、価格、少数株主への説明

いずれの選択肢を採るかは、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なります。具体的な進め方は、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

 「応じない」という判断も選択肢です

株式買取義務がない以上、応じないという判断は正当な選択肢です。ただし、その場合には、その後に想定される展開に備える必要があります。株主が資料の開示を求め、株主総会において議決権を行使し、又は第三者への譲渡を検討することがあり得ます。

 「応じる」という判断をする場合

株主構成を整理する機会として、任意の取得を検討する価値がある場合もあります。とりわけ、相続によって株主が増加している場合、承継の準備を進めている場合、将来のM&Aを想定している場合には、株主数の減少そのものに意味があります。

もっとも、価格について合意に至らなければ取得は実現しません。価格に関する会社側の考え方を、根拠とともに整理しておく必要があります。

 取得の主体をどこに置くかを検討します

同じ「買い取る」という結論であっても、取得の主体をどこに置くかによって、要件も帰結も異なります。

表4 取得の主体による違い

取得の主体 主な要件・制約 会社側から見た検討事項
発行会社 会社法上の手続の要件、分配可能額による財源の規制、他の株主に対する手続 財源の有無、資金繰り、議決権の総数への影響
代表取締役・後継者 個人の資金の手当て、価格の根拠の説明 承継の方針との整合、将来の相続への影響
従業員持株会等 組織の実態、規約の整備、運営の継続性 将来の退会及び承継の際の取扱い
取引先その他の第三者 取得主体の適格性、譲渡承認の手続 将来の株主構成への影響、関係が終了した場合の取扱い

いずれの主体を選ぶかは、株主構成、財務状況、資金の手当ての可否、承継の方針により異なります。また、取得の主体によって税務上の取扱いが異なりますので、税理士その他の税務専門家にご確認いただく必要があります。当事務所では、法律上の論点と税務上の論点とを区別してご説明いたします。

 合意に至った場合の書面

任意の取得においては、合意の内容を書面で明確にすることが不可欠です。対象となる株式、価格、支払の方法と時期、株券の交付又は名義書換の手続、清算に関する条項を明記してください。書面の作成は、後日の紛争を避けるために重要です。

とりわけ、株主が保有する株式の全部を取得するのか一部を取得するのか、取得の後に会社と当該株主との間に残る関係があるのか、過去の配当、役員報酬、貸付金その他の金銭に関する事項を含めて清算するのかという点は、書面に記載しておかなければ後日争われます。相続によって株主が複数となっている場合には、共同相続人の全員が当事者となっているかどうかも確認が必要です。株券発行会社である場合には、株券の交付の有無と、株券が現に存在するかどうかについても、書面において明らかにしておく必要があります。

してはいけない対応

表5 避けるべき対応

避けるべき対応 理由
書面を放置すること 会社法上の手続に基づく請求である場合、期間の徒過により会社に不利な効果が生じ得ます
要件を確認せずに支払を行うこと 会社が取得する場合には手続の要件と財源の規制があり、これを欠く取得は重大な問題を生じさせます
根拠のない金額を口頭で提示すること 提示額は先例として扱われることがあり、他の株主との関係にも影響します
「買い取る義務は一切ない」と断定して回答すること 会社法が定める場面に該当する可能性を確認する前の断定は適切ではありません
他の株主に無断で特定の株主のみを優遇すること 手続上の問題を生じさせ、新たな紛争を招くおそれがあります
記録を残さずに交渉を進めること 後日、合意の有無及び内容が争われることがあります

弁護士に相談する意味

第一に、受領した書面が会社法上の請求権に基づくものであるかどうかの判別には、書面の記載、定款、株主名簿、会社の状況を総合した検討が必要です。この判別を誤ると、期限の徒過又は不必要な支出につながります。

第二に、会社が取得する場合の手続の要件と財源の規制については、事前の確認が不可欠です。実行してから要件を欠いていたことが判明した場合、回復は容易ではありません。

第三に、他の株主との関係の整理です。一人の株主との解決が、他の株主との関係で新たな問題を生じさせることがあります。全体の株主構成を踏まえた検討が必要です。

第四に、価格の検討です。会社側として価格の根拠を持たないまま交渉に入ることは、会社にとって不利益となり得ます。価格の考え方については、株価に関する記事群及び関連するランディングページをご参照ください。

第五に、窓口の一本化です。代理人が就任している相手方との交渉は、書面によって進行します。社内での対応の負担と、記録の不備に起因する危険を軽減することができます。

当事務所は、発行会社、支配株主、代表取締役、法務責任者の側に立ってご依頼をお受けしております。ご相談は事前予約制です。

よくある質問

質問1 株主から買い取れと言われた場合、会社は応じなければならないのですか。

一般的な株式買取義務はありません。応じる義務が生じるのは、会社法が特に定めた場面に限られます。まず、受領した書面がそのような制度に基づくものであるかどうかを確認してください。

質問2 断ることで、株主から訴訟を起こされることはありますか。

任意の申入れを断ったこと自体を理由として、会社が責任を負うものではありません。もっとも、その後に株主が別の権利を行使することはあり得ます。想定される展開を踏まえて回答の方針を定めることが適切です。

質問3 会社に資金がない場合はどうすればよいですか。

会社が取得する場合には分配可能額による制約があり、資金繰りへの影響も検討する必要があります。会社以外の主体が取得する方法、分割して取得する方法、取得しない方法を含めて検討することになります。

質問4 株主が提示してきた価格が高すぎると感じます。

提示された価格に応じる義務はありません。会社側として、評価の手法と前提条件を整理し、根拠のある考え方を示すことが必要です。価格に関する詳細は、株価に関する記事群をご参照ください。

質問5 一部の株主だけから買い取ることはできますか。

会社が自己株式を取得する場合には、他の株主に対する手続が定められています。省略することはできません。取得の主体を会社以外とする場合には、別の検討が必要となります。

質問6 相談の際には何を持参すればよいですか。

株主から受領した書面の原本又は写しと封筒、定款、株主名簿、直近3期分の計算書類、株主総会及び取締役会の議事録、過去に株式の売買がある場合はその資料、株主との従前のやり取りの記録をご持参ください。

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必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

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