スクイーズアウトによる少数株主の排除を弁護士に依頼するとき 手法の選択と価格紛争への備え

少数株主との協議が行き詰まり、株主総会の決議によって株式を取得して株主構成を整理したいという会社の経営者の方から御相談をいただきます。M&Aの買主から株主の一本化を求められている、あるいは会計帳簿の閲覧謄写請求が繰り返されているという事情を伴うことが通例です。本記事は、会社の側がスクイーズアウトを弁護士に依頼するという場面について、手法をどのように選ぶのか、そして必ず生じる価格の争いにどう備えるのかを整理したものです。

スクイーズアウトは、少数株主の同意がなくても手続を進めることができる制度です。もっとも、同意が不要であることと、争いが生じないこととは別です。いずれの手法によっても、少数株主には裁判所に価格の決定を求める道が用意されています。したがって、実務上の勝負どころは決議の可否ではなく、価格の主張をどこまで先に固めておけるかにあります。

以下では、手法の選択の順序、手法ごとの日程の組み方、価格紛争への備え、そして依頼の範囲と費用の考え方を、具体的な日付を挙げて御説明します。

本記事が扱う場面と、扱わない場面

弁護士への依頼という同じ主題であっても、判断の分かれ目となる論点は場面ごとに大きく異なりますので、次のとおり整理しております。

Contents
  1. 手法を選ぶ前に、議決権の水準を確定させます
    1. 10分の9以上を保有しているかどうか
    2. 3分の2以上にとどまる場合
    3. 3分の2に届かない場合
  2. 手法ごとの要件と、要する期間を先に比較します
    1. 全部取得条項付種類株式には、定款変更の手順が加わります
    2. 相続人等に対する売渡しの請求には、1年という期限があります
  3. 株式の併合を選ぶ場合の日程を、日付で組みます
    1. 通知の期限
    2. 反対株主の株式買取請求ができる期間
    3. 事前開示と差止請求
    4. 端数の処理
  4. 特別支配株主の株式等売渡請求を選ぶ場合の日程
    1. 株式等売渡請求の内容の決定と、対象会社の承認
    2. 通知の期限と、価格決定の申立期間
    3. 差止請求と、無効の訴えに備えます
  5. 価格紛争への備えは、決議の前から始まります
    1. 算定を担当する専門家を先に選任します
    2. 対価の額を決めた過程を記録に残します
    3. 裁判所の判断の枠組みを踏まえて主張を組み立てます
  6. なぜ少数株主は、価格を争うのか
    1. 第1 対価の額の根拠が説明されていないため
    2. 第2 過去に配当を受け取っていないため
    3. 第3 排除される順序に納得していないため
  7. 依頼の時期と、任せられる範囲、費用の考え方
    1. 依頼の時期
    2. 任せられる範囲
    3. 費用の考え方
  8. いま確認していただきたいこと
  9. よくあるご質問
    1. 少数株主が反対していても、手続を進めることはできますか
    2. 価格の決定の申立てをされた場合、手続はいったん止まりますか
    3. 対価は金銭でなければなりませんか
    4. 手続の途中で方針を変更することはできますか
  10. おわりに
  11. 出典

手法を選ぶ前に、議決権の水準を確定させます

相談の冒頭で必ず行うのは、議決権の水準の確認です。ここが定まらなければ、手法の議論に入ることができません。

10分の9以上を保有しているかどうか

会社の総株主の議決権の10分の9以上を1名の株主が有している場合には、特別支配株主の株式等売渡請求を用いることができます(会社法第179条第1項)。株主総会の決議を経ることなく、対象会社の承認によって進めることができる点が特徴です。取締役会設置会社においては、この承認は取締役会の決議によります(会社法第179条の3第1項及び第3項)。

3分の2以上にとどまる場合

10分の9に届かないが3分の2以上の議決権を確保できる場合には、株式の併合又は全部取得条項付種類株式の取得を用います。株式の併合には株主総会の特別決議が必要であり(会社法第180条第2項、第309条第2項第4号)、全部取得条項付種類株式の取得も同様です(会社法第171条第1項、第309条第2項第3号)。

3分の2に届かない場合

この場合、議決権を積み上げる作業が先行します。任意の買取り、相続人等に対する売渡しの請求(会社法第174条から第177条まで)、所在不明株主の株式の売却(会社法第197条)を組み合わせ、決議の要件を満たす水準に到達させたうえでスクイーズアウトに移ります。この積み上げの期間を見落とすと、日程が破綻します。

手法ごとの要件と、要する期間を先に比較します

主な手法を整理します。期間は関係者の対応や裁判所の状況によって変動しますので、目安として御覧ください。

手法 必要な議決権 機関決定 期間の目安
特別支配株主の株式等売渡請求 10分の9以上 対象会社の承認(取締役会) 2か月から4か月
株式の併合 3分の2以上 株主総会の特別決議 3か月から6か月
全部取得条項付種類株式の取得 3分の2以上 定款変更と株主総会の特別決議 4か月から6か月
相続人等に対する売渡しの請求 特別決議の水準 株主総会の特別決議 2か月から6か月

全部取得条項付種類株式には、定款変更の手順が加わります

全部取得条項付種類株式を用いる場合、種類株式発行会社となるための定款変更と、既存の株式を全部取得条項付種類株式とする定款変更とを順に行います。後者については、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要です(会社法第111条第2項)。手順が2段階になる分、期間を要します。

相続人等に対する売渡しの請求には、1年という期限があります

定款に相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対する売渡しの請求に関する定めがある場合(会社法第174条)、会社は株主総会の決議によって請求をすることができますが(会社法第175条第1項)、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは請求をすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。既に1年を経過している場合、この手段は選べません。

株式の併合を選ぶ場合の日程を、日付で組みます

効力発生日を令和9年2月1日と定めた場合を例に、日程を御説明します。

通知の期限

会社は、効力発生日の2週間前までに、株主及びその登録株式質権者に対し、併合の割合その他の事項を通知しなければならず(会社法第181条第1項)、この通知は公告をもって代えることができます(同条第2項)。もっとも、1株に満たない端数が生ずる場合には、この期間は効力発生日の20日前までと読み替えられます(会社法第182条の4第3項)。効力発生日が令和9年2月1日であれば、令和9年1月12日までに通知又は公告をしなければなりません。

反対株主の株式買取請求ができる期間

併合により1株に満たない端数となる株式を有する反対株主は、会社に対し、その全部を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第182条の4第1項)。この請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間にしなければなりません(同条第4項)。効力発生日が令和9年2月1日であれば、令和9年1月12日から同月31日までの20日間です。この20日間に何通の請求が届くかによって、その後の作業量が決まります。

事前開示と差止請求

会社は、株主総会の日の2週間前の日と通知又は公告の日のいずれか早い日から効力発生日後6か月を経過する日までの間、併合に関する事項を記載した書面等を本店に備え置かなければなりません(会社法第182条の2第1項)。また、併合が法令又は定款に違反する場合において株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に対し併合をやめることを請求することができます(会社法第182条の3)。開示書類の記載が不十分であることは、この請求の材料となります。書面の作成は弁護士に任せていただく部分です。

端数の処理

併合により生じた1株に満たない端数の合計数に相当する数の株式は、競売し、その代金を端数に応じて株主に交付します(会社法第235条第1項)。市場価格のない株式については、会社法第234条第2項から第5項までの準用により、裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却することができ、会社自らが買い取ることもできます(会社法第235条第2項)。この許可の申立てに要する期間を日程に組み込む必要があります。

特別支配株主の株式等売渡請求を選ぶ場合の日程

取得日を令和9年2月1日と定めた場合を例にします。

株式等売渡請求の内容の決定と、対象会社の承認

特別支配株主は、売渡株主に対して交付する金銭の額又はその算定方法、割当てに関する事項、取得日その他の事項を定めて請求をします(会社法第179条の2第1項)。この請求をするには対象会社の承認を受けなければならず、取締役会設置会社においては取締役会の決議によります(会社法第179条の3第1項及び第3項)。

通知の期限と、価格決定の申立期間

対象会社は、取得日の20日前までに、売渡株主に対して承認をした旨などを通知しなければなりません(会社法第179条の4第1項)。取得日が令和9年2月1日であれば、令和9年1月12日までです。売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間、すなわち令和9年1月12日から同月31日までの間に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第179条の8第1項)。

差止請求と、無効の訴えに備えます

売渡株主は、株式等売渡請求が法令に違反する場合、対象会社が通知等の規定に違反した場合、又は対価に関する定めが対象会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合において、不利益を受けるおそれがあるときは、取得をやめることを請求することができます(会社法第179条の7第1項)。また、取得の無効は、取得日から6か月以内(対象会社が公開会社でない場合は1年以内)に訴えをもってのみ主張することができます(会社法第846条の2第1項)。手続の適法性を後から補うことはできませんので、決議と通知の記録を残す作業が重要になります。

価格紛争への備えは、決議の前から始まります

価格の争いは、申立てを受けてから準備を始めたのでは間に合いません。決議の前に整えておくべき事項があります。

算定を担当する専門家を先に選任します

株式の価値の算定そのものは、公認会計士等の評価の専門家が行います。弁護士は、算定の前提となる事実の整理、算定書の記載と法律上の主張との整合の確認、裁判所に対する説明を担当します。決議の後に算定を始めますと、対価の額の合理性を説明する資料が手元にないまま手続が進むことになります。

対価の額を決めた過程を記録に残します

誰が、いつ、どの資料に基づいて対価の額を決めたのかは、後の手続で必ず問われます。取締役会の議事録、算定書、参考とした取引の記録を時系列で保存してください。この記録の有無が、対価の額が著しく不当であるという主張に対する反論を左右します。

裁判所の判断の枠組みを踏まえて主張を組み立てます

非上場会社の株式について、収益還元法によって算定された価格から非流動性ディスカウントを行うことはできないとした最高裁判所平成27年3月26日第一小法廷決定(民集69巻2号365頁)があります。これは会社法第785条第1項に基づく株式買取請求の事案です。他方、会社法第144条第2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定については、DCF法によって算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとした最高裁判所令和5年5月24日第三小法廷決定があります。手続の種類によって枠組みが異なりますので、選んだ手法に応じた主張を組む必要があります。

なぜ少数株主は、価格を争うのか

少数株主が価格の決定を申し立てる背景には、3つの事情があります。

第1 対価の額の根拠が説明されていないため

通知書に金額だけが記載され、算定の方法が示されていない場合、株主の側には検証の手がかりがありません。申立てをすること自体が情報を得る手段となります。あらかじめ算定の方法を示すことで、申立てを避けられる例があります。

第2 過去に配当を受け取っていないため

長年にわたって剰余金の配当が行われていない会社では、株主は保有期間中に経済的な利益を得ていません。最後の機会である取得の局面で価格を争うのは、この経緯によるところが大きいといえます。

第3 排除される順序に納得していないため

創業家や役員の保有分が先に整理され、自分だけが最後に残されたという受け止め方をされる例があります。手続の順序と各株主への説明の内容をそろえておくことは、紛争の予防として意味があります。

依頼の時期と、任せられる範囲、費用の考え方

スクイーズアウトは、着手から完了までに複数の機関決定と法定の期間が積み重なります。依頼の時期は早いほど選択肢が残ります。

依頼の時期

買主から株主の一本化を求められている場合には、最終契約の締結予定日から逆算して、少なくとも6か月前には方針を決めておく必要があります。株主総会の招集手続、20日間の株式買取請求期間、端数の売却の許可の申立てが順に必要となるためです。

任せられる範囲

手法の選定、株主構成の確認、機関決定の設計、招集通知と事前開示書類の作成、通知及び公告の手配、株式買取請求への対応、裁判所に対する申立て及び申立てを受けた場合の対応が、弁護士の業務です。登記の申請は司法書士が、課税関係の検討は税理士が、株式の価値の算定は評価の専門家が担当します。

費用の考え方

費用は、株主の人数ではなく、用いる手法と、裁判所の手続に至るかどうかによって変わります。手続の設計と書類の作成までを一つの範囲とし、株式売買価格決定の申立てを受けた場合の対応を別の範囲として定めるのが通例です。公告の掲載費用、登記に要する費用、算定に要する費用、申立ての手数料は実費として別に必要となります。委任契約書に範囲と金額を明記したうえで着手します。

いま確認していただきたいこと

本日のうちに、次の事項を御確認ください。

第1に、株主名簿を取り出し、議決権の総数と、会社側で確保できる議決権の割合を計算してください。10分の9以上か、3分の2以上か、それ未満かで手法が変わります。

第2に、定款を開き、種類株式に関する定めの有無、株式の譲渡制限の定め、相続人等に対する売渡しの請求に関する定めを御確認ください。

第3に、直近3期の計算書類と勘定科目内訳明細書を用意し、純資産の額と、直近の配当の有無を御確認ください。対価の額の検討の出発点となります。

第4に、排除の対象となる株主のうち、所在が分からない者、相続が発生している者がいるかを御確認ください。該当があれば、先行して別の手続が必要になります。

第5に、買主から示されている日程がある場合には、その日から逆算して本日までの月数を書き出してください。

よくあるご質問

少数株主が反対していても、手続を進めることはできますか

できます。株式の併合も、特別支配株主の株式等売渡請求も、全部取得条項付種類株式の取得も、少数株主の同意を要件としていません。少数株主に用意されているのは、価格について裁判所の判断を求める道と、法令又は定款に違反する場合に手続をやめるよう求める道です。したがって、反対の意思が表明されていること自体は、手続を進められない理由にはなりません。

価格の決定の申立てをされた場合、手続はいったん止まりますか

止まりません。株式の併合も株式等売渡請求も、効力発生日又は取得日に効力が生じ、価格の争いはその後に別途進行します。ただし、差止請求がされた場合や、手続に法令違反がある場合には、別の問題が生じます。手続の適法性を確保しておくことが、日程を守る前提となります。

対価は金銭でなければなりませんか

特別支配株主の株式等売渡請求において売渡株主に交付するのは金銭です(会社法第179条の2第1項第2号)。株式の併合による場合も、1株に満たない端数の処理を通じてその代金が交付されます(会社法第235条第1項)。資金の手当ては手続の前提として検討します。

手続の途中で方針を変更することはできますか

可能な場面と、そうでない場面があります。相続人等に対する売渡しの請求は、会社がいつでも撤回することができます(会社法第176条第3項)。他方、株主総会の決議を経た後の株式の併合を取りやめる場合には、改めて手続が必要となります。方針の変更に伴う費用と期間を含めて、着手前に御説明いたします。

おわりに

スクイーズアウトは、要件を満たしていれば必ず完了する手続です。難しいのは完了させることではなく、価格の争いと手続の瑕疵という2つの後遺症を残さずに終えることです。この2つは、いずれも決議の前の準備によって大きく減らすことができます。

議決権の水準がどの程度か、買主から示された日程があるか、対象となる株主に所在不明の者や相続の未了の者がいるかという3点が分かれば、その日のうちに手法の見当を申し上げることができます。株主名簿と定款、直近の計算書類をお手元に御用意のうえ、お電話をください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

スクイーズアウトによる少数株主の排除に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)

出典

法令

会社法第111条第2項(種類株主総会の決議を要する場合)、第171条第1項(全部取得条項付種類株式の取得に関する決定)、第172条第1項及び第2項(裁判所に対する価格の決定の申立て)、第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)、第175条第1項(売渡しの請求の決定)、第176条第1項及び第3項(売渡しの請求及びその撤回)、第177条(売買価格の決定)、第179条第1項(株式等売渡請求)、第179条の2第1項(株式等売渡請求の方法)、第179条の3第1項及び第3項(対象会社の承認)、第179条の4第1項(売渡株主等に対する通知等)、第179条の7第1項(売渡株式等の取得をやめることの請求)、第179条の8第1項(売買価格の決定の申立て)、第180条第2項(株式の併合)、第181条第1項及び第2項(株主に対する通知等)、第182条の2第1項(株式の併合に関する書面等の備置き及び閲覧等)、第182条の3(株式の併合をやめることの請求)、第182条の4第1項、第3項及び第4項(反対株主の株式買取請求)、第197条(所在不明株主の株式の競売及び売却)、第234条第2項から第5項まで及び第235条第1項及び第2項(1に満たない端数の処理)、第309条第2項第3号及び第4号(株主総会の特別決議)、第846条の2第1項(売渡株式等の取得の無効の訴え)

国家行政組織法第14条第2項(訓令及び通達)

裁判例

最高裁判所平成27年3月26日第一小法廷決定(民集69巻2号365頁。非上場会社において会社法第785条第1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできないとされた事例)

最高裁判所令和5年5月24日第三小法廷決定(会社法第144条第2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定において、DCF法によって算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができるとされた事例)

公表資料

国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)

国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)

なお、同会議において検討されている財産評価基本通達の見直しは、内容も実施の時期も確定したものではありません。また、税法上の評価と、会社法上の「公正な価格」又は「売買価格」とは、目的も算定方法も異なります。財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いであって、裁判所を拘束するものではありません。

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