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株主間の取締役選任合意の効力と相続による承継―東京高等裁判所令和2年1月22日判決

公開 2020年1月22日

▶ 少数株主対策・経営権の防衛の御相談

複数の家系が株式を持ち合う同族会社で、かつて株主どうしが「取締役は我々三名(その指名された者を含む)を互選する」と書面で約束していたところ、40年以上後に、その一方の家系の相続人が、支配株主の側の株式の受託者に対し、自分を取締役に選任する議案に賛成する旨の意思表示を求めた場面の判例です。東京地方裁判所令和元年5月17日判決は請求を棄却し、東京高等裁判所令和2年1月22日判決も控訴を棄却しました。

2つの判決は結論を同じくしますが、理由は異なります。第一審は、取締役選任合意に法的拘束力があることは認めたうえで、暫定的な合意にすぎない可能性が十分にあり、相続人の代になっても両家から取締役を出す趣旨の合意とまでは認められないとしました。控訴審は、株主間契約を一律に無効とすべきではないとし、効力の有無と内容は契約当事者の合理的意思を事実認定して判断するという枠組みを示したうえで、本件の合意は直近の定時株主総会での議決権行使の内容を事実上確認したものにすぎないと認定し、仮に何らかの法的効力があったとしても、取締役候補者や契約当事者に相続が生じたときに消滅するものであったと判断しました。

本記事では、株主間で取締役の選任について合意する会社・支配株主の立場から、そのような合意にどの程度の効力が認められ、相続や株式の移転の後にも引き継がれるのか、また契約をする際に何を定めておくべきかを、2つの判決の本文に沿って審級の順に整理します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 2つの家系の共同事業として始まったビル賃貸事業
    2. 会社設立時の合意(昭和23年合意)と、その後の扱い
    3. 新ビルの建築と昭和47年合意
    4. DSN氏側の取締役選任の要求と、株主構成の変化
    5. HNM家側の取締役の不在と、本件訴訟の提起
  4. 事案の経緯
  5. 問題となった取締役選任合意の文言
    1. 第7条―取締役の選任(昭和47年合意)
    2. 第8条―定めのない事項の扱い
    3. 昭和23年合意(判決による要約)
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 原告らの請求
    2. 争点と当事者の主張
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審の判断(東京地方裁判所令和元年5月17日判決)―法的拘束力はあるが、相続人の代まで及ぶ趣旨とは認められない
    1. 法的拘束力は認めた
    2. しかし、両家から1名ずつ取締役を出し続ける趣旨とは認めなかった
    3. 原告らの主張を退けた理由
    4. 第一審の結論
  9. 控訴審の判断(東京高等裁判所令和2年1月22日判決)―そもそも法的効力を与える意思はなく、相続で消滅する
    1. 本案前の抗弁(当事者適格)を退けた
    2. 株主間契約の効力を判断する枠組み
    3. 強い効力が認められやすい株主間契約と、その限界
    4. 本件の合意に強い効力を与える意思はなかったとする間接事実
    5. 結論―事実上の事前確認にすぎず、仮に効力があっても相続で消滅した
    6. 第一審の判断との関係
  10. 審級ごとの結論の推移
  11. 主文及び結論
  12. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
    3. 株主間で取締役の選任を合意する会社・支配株主が確認しておきたいこと
  13. よくあるご質問
    1. 株主どうしで取締役の選任について約束した合意は、無効なのですか。
    2. 先代が交わした取締役選任の約束は、相続人に引き継がれますか。
    3. 合意に従った議決権の行使を、裁判で強制することはできますか。
    4. 合意に違反した議決権行使で成立した株主総会決議は、取り消されますか。
    5. 株主間契約に有効期間を定めなかった場合、いつまで効力が続きますか。
    6. 合意の後、合意どおりに運用されていなかった事実は、どう評価されますか。
  14. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 東京地方裁判所民事第49部 令和元年5月17日 平成29年(ワ)第13320号 判決 原告ら(相続人2名)の請求をいずれも棄却。訴訟費用は原告らの負担
控訴審 東京高等裁判所第11民事部 令和2年1月22日 令和元年(ネ)第2796号 判決 本案前の抗弁(当事者適格の欠如)を退けたうえで、控訴を棄却。控訴費用は第1審原告らの負担

控訴審判決の本文によれば、第一審判決に対しては、これを全部不服とする原告ら2名が控訴しました。控訴審判決に対する上告又は上告受理申立ての有無及び判決の確定は、確認できていません。この表は、2つの判決本文の冒頭及び主文の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。2つの判決は同じ人物を同じ符号で表示していますが、本記事でも審級を通じて同じ表記を用いています。

本記事の表記 立場
ビル賃貸会社KBR 昭和23年に設立された株式会社で、駅前のビルの一部とその敷地の一部を所有し、その賃貸等を業としています。発行済株式総数は300株です(昭和57年の株式併合による)
HNM家 原告らの家系。旧ビルの敷地の所有者であったBKT氏の一族です
SGW家 被告の家系。旧ビルの事業を企画したFKS氏の一族です。HNM家とは遠い縁戚関係にあります
原告TKH氏 第一審の原告・控訴人。BKT氏の子で、ビル賃貸会社KBRの株式71株を所有しています。自らを取締役に選任する議案への賛成を求めました
原告NRK氏 第一審の原告・控訴人。BKT氏の孫(KZK氏の子)で、ビル賃貸会社KBRの株式29株を所有しています
被告SYK氏 第一審の被告・被控訴人。CHR氏の長女で、CHR氏から株式79株の信託譲渡を受けた受託者として議決権を行使する立場にあります
BKT氏 HNM家の株主。昭和47年の取締役選任合意の当事者の1人。平成16年に死亡
CHR氏 SGW家の株主(FKS氏の孫)で、ビル賃貸会社KBRの代表取締役であった者。昭和47年の取締役選任合意の当事者の1人。平成30年に死亡
DSN氏 旧ビルの賃借人で、会社設立の際に3分の1の株式を取得した者。昭和47年の取締役選任合意の当事者の1人。平成9年に死亡
FKS氏 CHR氏の祖父。BKT氏と共同で旧ビルの賃貸事業を始め、ビル賃貸会社KBRを設立した者。昭和24年に死亡
EGW氏 DSN氏の代理人として、昭和47年に取締役に選任された者
MRT氏 DSN氏の妻の弟。DSN氏側が取締役に選任するよう求め続け、平成8年に取締役に選任された者
KZK氏 BKT氏の子で、原告NRK氏の父。BKT氏の後任の取締役となり、平成25年に死亡
GNM氏 CHR氏の妻。CHR氏の死亡により株式信託契約上の受益者の地位を承継した者
NBK氏 BKT氏の妻で、ビル賃貸会社KBRの監査役であった者
UMD氏 昭和26年から昭和47年までビル賃貸会社KBRの代表取締役であった者(BKT氏の知人)
OKD弁護士 昭和23年の公正証書の作成の際に、FKS氏とBKT氏の代理人を務めた弁護士
DSN氏の事業会社JTC DSN氏が設立した会社で、ビル賃貸会社KBRの株式を保有していた株主。平成20年に清算結了
SGW家側の会社HSK 新ビルの上層部分を区分所有するSGW家側の会社。DSN氏の事業会社JTCから株式100株を取得し、合計121株を保有しています

事案の概要

以下は、主に控訴審判決の認定事実によるものです。第一審判決の認定と異なる点は、その旨を示しています。

2つの家系の共同事業として始まったビル賃貸事業

昭和5年頃、FKS氏は、BKT氏が所有していた駅前の土地の上に鉄筋コンクリート5階建ての旧ビルを建築し、貸ビル事業を始めました。旧ビルの建物はBKT氏とFKS氏の共有(持分各2分の1)とし、収益の分配も2分の1ずつとする旨が合意されていました。

第二次世界大戦の終了後、両名は高額の財産税の納付を迫られ、旧ビルの賃借人であったDSN氏に旧ビルの共同オーナーになってもらい、その対価を納税資金に充てることにしました。旧ビルの経営を会社経営とするため、旧ビルや敷地を現物出資してビル賃貸会社KBRを設立し、BKT氏、FKS氏及びDSN氏の3者が発行済株式総数の3分の1ずつを保有することが企画されました。

会社設立時の合意(昭和23年合意)と、その後の扱い

昭和23年1月、BKT氏、FKS氏及びDSN氏の間で不動産持分権譲渡契約の公正証書が作成されました(作成日は、第一審判決では1月5日、控訴審判決では1月19日と記載されています)。その中で、会社を設立した場合には3名が会社の取締役となり(議決権は平等)、永久に会社の繁栄を計ることを互いに承認する旨が合意されました。控訴審判決はこれを「昭和23年合意」と呼んでいます。

ビル賃貸会社KBRは昭和23年4月7日に設立され、DSN氏は発行済株式6万株のうち2万株を取得しました。しかし、昭和24年の最初の定時株主総会でも、FKS氏の死亡後の昭和26年の臨時株主総会でも、DSN氏は自らを取締役に選任するよう要求せず、取締役にはなりませんでした。

DSN氏は、昭和28年頃から、昭和23年合意に基づいて自身を取締役に選任するよう要求するようになりましたが、HNM家側もSGW家側もこれに反対しました。DSN氏の事業会社JTCは、株主として検査役選任の申立てをしました。この手続の中で、公正証書の作成でFKS氏とBKT氏の代理人を務めたOKD弁護士は、昭和23年合意の記載は「会社法上自由公正に行使さるべき議決権を永久に拘束する無効の定め」であるとの見解を述べ、当時の代表取締役UMD氏も、取締役となる個人間の約束があっても総会の議決権を拘束する理由がないとの見解を述べました。結局、昭和47年5月29日までの間、DSN氏又はその指名する者が取締役に選任されることはありませんでした。

新ビルの建築と昭和47年合意

昭和45年頃、ビル賃貸会社KBRは旧ビルを建て替えることを検討し始めました。新ビルは会社の単独所有とせず、会社、HNM家側及びSGW家側が費用を負担して、それぞれ区分所有する共同ビルとすることになりました。第一審判決は、建替えの規模や構造についてBKT氏とCHR氏が対立し、DSN氏が規模拡大を目指すCHR氏の方針に賛成したと認定しています。

昭和47年2月24日、BKT氏、CHR氏及びDSN氏の3名の間で「契約書」と題する文書が作成され、3名が個人の資格で署名しました。文書の中心は、新ビルの概要、区分所有の方法、建築の段取りでしたが、その第7条に、取締役の選任に関する定めが置かれていました(以下「本件取締役選任合意」又は控訴審判決に従い「昭和47年合意」といいます)。控訴審判決は、BKT氏とCHR氏は株主であったものの、DSN氏は厳密には株主ではなく、株主である事業会社JTCの実権を握っている者にすぎなかったと認定しています。また、昭和47年5月29日の定時株主総会の議事録には株主総数8名と記載されており、昭和47年合意は株主全員による合意ではなかったことがうかがわれるとしています。

同年4月11日には、ビル賃貸会社KBR、HNM家側及びSGW家側を当事者とする「共同ビル建設に関する基本契約書」が別に取り交わされ、新ビルの区分所有比率を会社31.39%、HNM家側21.47%、SGW家側47.14%とすることなどが定められました。同年5月29日の定時株主総会では、第7条のとおり、退任する取締役の後任として全員一致でEGW氏が選任され、BKT氏、CHR氏及びDSN氏の指名する者の3名が取締役となる状態が実現しました。新ビルは昭和49年5月16日に完成しています。

DSN氏側の取締役選任の要求と、株主構成の変化

DSN氏は、昭和55年以降、昭和47年合意に基づく要求であることを明示して、EGW氏の任期満了ごとに、EGW氏に代えてMRT氏を取締役に選任するよう要求し続けました。昭和55年の定時株主総会では、議長のCHR氏が「〔事業会社JTC〕のその都度の都合で〔ビル賃貸会社KBR〕の人事の出入りは困る。」と発言するなどし、平成2年の定時株主総会までの間、毎回、HNM家側とSGW家側の株主の賛成が得られず、要求は実現しませんでした。MRT氏が取締役に選任されたのは、平成8年のことです(発言は判決本文の記載を、会社名を本記事の表記に置き換えて引用しています)。

この間、昭和57年の株式併合(200株を1株に併合)により発行済株式総数は300株となり、HNM家側、SGW家側及びDSN氏の事業会社JTCがそれぞれ100株を保有する状態が続きました。ところが、平成11年5月、SGW家側の会社HSKが事業会社JTCに20億円を貸し付け、JTCの保有株式100株に質権を設定するとともに株式の売買予約完結権を取得し、平成16年12月にこれを行使して100株を取得しました。これにより、SGW家側が3分の2、HNM家側が3分の1という株主構成に変わりました。事業会社JTCは平成20年1月に清算結了の登記をしています。

HNM家側の取締役の不在と、本件訴訟の提起

ビル賃貸会社KBRでは、株主への配当はほとんど行われず、HNM家とSGW家の双方から役員が選出され、役員報酬の形で利益の分配が行われてきました。両家の役員報酬の比率は長く1対1前後で推移していましたが、平成22年3月期以降、SGW家側の受領額が毎年増加し、HNM家側を大きく上回るようになりました。

平成16年10月にBKT氏が死亡すると、その子のKZK氏が後任の取締役に選任され、平成25年3月にKZK氏が死亡すると、同年6月13日、原告TKH氏が取締役に選任されました。同日、被告SYK氏も取締役に選任されています。その後、平成26年6月12日の臨時株主総会で原告TKH氏を取締役から解任する決議がされましたが、この決議の効力を否定する判決が確定し、原告TKH氏は取締役の地位を失いませんでした(控訴審判決は、手続上の瑕疵を理由に決議を取り消す判決が平成27年3月に確定したと記載し、第一審判決は、決議を無効とする判決が確定したと記載しています)。しかし、平成27年5月1日の定時株主総会で原告TKH氏は再任されず、同年11月19日には監査役設置会社でなくなったことで監査役のNBK氏も地位を失い、HNM家側の役員は存在しなくなりました。

平成26年12月8日、CHR氏は、委託者兼受益者として、保有する株式79株を長女である被告SYK氏に信託譲渡し、議決権は受託者である被告SYK氏が行使することになりました。CHR氏は平成30年に死亡し、受益者の地位は妻のGNM氏が承継しました。

控訴審判決は、役員の不在により利益の分配が受けられなくなったHNM家側が強い不満を抱くようになったものの、株主総会に議案を提出しても株式の3分の2を保有するSGW家側に否決されることが確実であったと認定しています。原告らは、平成28年にビル賃貸会社KBRの解散請求訴訟を提起しましたが、その後に訴えを取り下げ、会社が取下げに同意しなかったため、解散請求を棄却する判決がされて確定しました。そのうえで、原告らは、BKT氏の取締役選任合意上の地位を原告TKH氏が承継したと主張して、本件訴訟を提起しました。

事案の経緯

時期 出来事(2つの判決の本文による)
昭和5年頃 BKT氏の土地の上に旧ビルが完成。BKT氏とFKS氏の共有で、収益も2分の1ずつ分配
昭和23年1月 BKT氏、FKS氏及びDSN氏の間で不動産持分権譲渡契約の公正証書。会社設立の場合は3名が取締役となる旨の合意(昭和23年合意)
昭和23年4月7日 ビル賃貸会社KBRの設立。DSN氏が6万株のうち2万株を取得
昭和24年・昭和26年 株主総会で取締役が選任されるが、DSN氏は自らの選任を要求せず
昭和28年頃から昭和29年 DSN氏が取締役への選任を要求。事業会社JTCが検査役選任を申し立て、OKD弁護士及びUMD氏が昭和23年合意の効力を否定する見解を述べる
昭和45年頃 旧ビルの建替えの検討を開始
昭和47年2月24日 BKT氏、CHR氏及びDSN氏が「契約書」を作成。第7条に取締役選任合意(昭和47年合意)
昭和47年4月11日 「共同ビル建設に関する基本契約書」を締結(区分所有比率等)
昭和47年5月29日 定時株主総会で全員一致によりEGW氏を取締役に選任
昭和49年5月16日 新ビルが完成
昭和55年から平成2年まで DSN氏側がMRT氏の取締役選任を要求し続けるが、HNM家側・SGW家側の賛成が得られず実現せず
昭和57年 株式併合により発行済株式総数が300株に(3グループが各100株)
平成8年5月30日 定時株主総会でMRT氏を取締役に選任
平成9年3月 DSN氏が死亡
平成11年5月 SGW家側の会社HSKが事業会社JTCに20億円を貸し付け、株式100株に質権を設定し、売買予約完結権を取得
平成16年10月 BKT氏が死亡(平成17年1月27日、KZK氏が後任の取締役に)
平成16年12月 会社HSKが予約完結権を行使して株式100株を取得。SGW家側が3分の2に
平成25年3月 KZK氏が死亡(同年6月13日、原告TKH氏と被告SYK氏が取締役に選任)
平成26年6月12日 臨時株主総会で原告TKH氏の解任決議。後に決議の効力を否定する判決が確定
平成26年12月8日 CHR氏が株式79株を被告SYK氏に信託譲渡
平成27年5月1日 定時株主総会で原告TKH氏が再任されず、取締役の地位を失う
平成27年11月19日 監査役設置会社でなくなり、NBK氏が監査役の地位を失う。HNM家側の役員が不在に
平成28年 原告らが会社の解散請求訴訟を提起(後に訴えを取り下げるが、会社が同意せず、棄却判決が確定)
平成30年 CHR氏が死亡。受益者の地位をGNM氏が承継
令和元年5月17日 東京地方裁判所が原告らの請求を棄却する判決
令和2年1月22日 東京高等裁判所が控訴を棄却する判決

問題となった取締役選任合意の文言

以下は、控訴審判決の本文に記載された昭和47年2月24日付け「契約書」の記載を、判決本文の文言のまま引用したものです。数字の表記も判決本文のとおりとし、人名と会社名だけを本記事の表記に置き換えています。

第7条―取締役の選任(昭和47年合意)

「〔ビル賃貸会社KBR〕は本年5月迄に取締役を改選し、〔BKT氏〕、〔CHR氏〕、〔EGW氏〕(〔DSN氏〕の代理人)の三名を新取締役に選任する。我々は今后、〔ビル賃貸会社KBR〕の取締役は我々三名(その指名された者を含む)を互選する事に定めた。又取締役は累積投票で選任出来る如将来定款を改正する事を協議する。〔EGW氏〕は取締役就任迄部長として勤務す。〔DSN氏〕の代理人は日本人に限る。」

第一審判決の前提事実の部分では、冒頭が「本年5月末迄に」と記載されています。

第8条―定めのない事項の扱い

「今回定めなかった事項は前回の契約を基にして、その都度、上述の3名の取締役で協議してすすめてゆく。」

この契約書には、第1条から第6条までに、新ビルの敷地の一括利用、賃借人の移転、新ビルの設計、所有区分、会社所有部分の予定賃借人、建築許可の取得に向けた取締役の業務分担が定められていました。取締役の選任に関する定めは、建物の共同建築を中心とする契約書の中の1か条でした。

昭和23年合意(判決による要約)

控訴審判決は、昭和23年の公正証書の内容を、会社を設立した場合には「〔BKT氏〕、〔FKS氏〕及び〔DSN氏〕の3名は、当該会社の取締役となり(議決権は平等)、永久に当該会社の繁栄を計ることを互いに承認する」ものと要約しています。これは判決による要約であり、公正証書の条文そのものの引用ではありません。

当事者の請求と主要な主張

原告らの請求

原告らは、被告SYK氏に対し、判決確定後に開催される、原告TKH氏を取締役に選任する議案が提出されたビル賃貸会社KBRの株主総会において、被告SYK氏が議決権行使の権限を有する株式79株について、その議案に賛成する旨の意思表示をするよう求めました。株主総会での議決権の行使という意思表示を判決で命じることを求める、いわゆる意思表示を命じる判決を求める訴えです。

争点と当事者の主張

第一審判決は、争点を4つに整理しました。

争点 原告ら(HNM家側の相続人)の主張 被告SYK氏の主張
取締役選任合意に法的拘束力があるか 私人間の合意は原則として法的拘束力を持つ。本件の合意は、両家の共同事業の主体である会社で、両家から少なくとも1人ずつ取締役を選任する趣旨で、具体的であり、成立時に既に履行されている 新ビルの建築に当たって取締役の選任についての今後の方針を定めたものにすぎず、議案に賛成する法的義務を定めたものではない。DSN氏側のMRT氏の選任要求も受け入れられなかった
合意の趣旨及び効力(承継の有無) 会社では配当がされず役員報酬で利益が分配されてきたから、合意は各株主が各グループから取締役を選任できるという純然たる経済的な合意で、一身専属的なものではない。合意上の地位は株式と不可分で、株式の相続人に承継される 合意は3名の個人的な信頼関係の下で交わされたもので、死亡や株式の譲渡・相続の場合にまで義務が承継されることは予定していない。3名とも死亡している。信頼関係を前提とするから将来に向けて自由に解消でき、既に解消済みである。地位を被告に移転する合意もない
合意に基づき意思表示を命じる判決を求めることができるか 株主全員が当事者である議決権拘束契約で、内容が明確であれば、意思表示を命じる判決を求めることができる 議決権の行使は株主の任意性が尊重されるべきである。当事者は相続や譲渡で替わっており、損害賠償を請求できるにとどまる
当事者適格 合意上の地位は株式と不可分であり、遺産分割で株式を取得した相続人に帰属する 合意上の地位は相続人全員に準共有されるから固有必要的共同訴訟であり、相続人全員が訴えていない以上、当事者適格を欠く

控訴審で、被告SYK氏は、昭和47年合意は3者間の暫定的な合意で承継人には効力が及ばないこと、株式が第三者に承継された場合の扱いを定めておらず内容が不明確であること、合意の当時に3名以外の株主もいたから法的拘束力がなく無効であることを主張しました。原告らは、合意は実質的な株主全員の間の合意であるから、その拘束力は株式の承継人にも及ぶと主張しました。

結論を左右した争点

2つの判決で結論を左右したのは、次の点でした。

  1. 株主間の取締役選任合意に、どのような効力(損害賠償だけか、議決権行使の履行の強制までできるか)を与える意思が契約当事者にあったか。その判断の枠組みをどう考えるか。
  2. 合意に何らかの効力があるとして、当事者や取締役候補者の死亡・相続の後、相続人の代になっても効力が続くか。株式を相続した者が合意上の地位を承継するか。

第一審は、法的拘束力を認めたうえで、2の点(合意の趣旨)で原告らの主張を退けました。控訴審は、1の点で、そもそも議決権行使の履行強制ができる効力を与える意思はなかったと認定し、2の点についても、仮に効力があっても相続の発生により消滅したとしました。意思表示を命じる判決を求めることができるかという争点や、当事者適格の争点は、第一審では判断されず、控訴審は当事者適格の点だけを判断しています。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断(東京地方裁判所令和元年5月17日判決)―法的拘束力はあるが、相続人の代まで及ぶ趣旨とは認められない

法的拘束力は認めた

第一審は、契約書が、新ビルの敷地の一括利用、所有区分、予定賃借人などを定めたうえで、新たに選任される取締役が業務を分担して建築許可の取得を促進するとし、取締役の人選を具体的に定めていることを確認しました。そのうえで、次のように述べて、取締役選任合意の法的拘束力を認めました。

「本件取締役選任合意は、本件会社が新ビルを建築しようという場面において、新ビルに係る権利関係を確認した上で、その建築等を新たな取締役の下で促進すべく締結した契約書の中で、取締役の人選について具体的に定めたものであるから、法的拘束力を有するものと解するのが相当である。」

(「本件会社」はビル賃貸会社KBRを指します。)第一審は、法的拘束力を認めないと取締役の選任が進まず、新ビル建築に向けた業務が進まない事態も生じ得るとし、それでは取締役の人選を具体的に定めた趣旨に反するとしています。

しかし、両家から1名ずつ取締役を出し続ける趣旨とは認めなかった

第一審は、合意の趣旨について、次の事情を挙げて、相続人の代になっても両家から少なくとも1名ずつ取締役を選出する趣旨の合意とは解し難いとしました。

  • 文言。合意は「我々三名(その指名された者を含む)」としており、家や一族を意識した定めになっていない。1か月半後の「共同ビル建設に関する基本契約書」は、BKT氏側とCHR氏側をそれぞれグループとして代表者を定めており、定め方が明らかに異なる。
  • 契約書の性格。契約書に会社の利益分配に関する定めはなく、取締役選任合意は新ビルの建築を新たな取締役の下で促進するための契約書の中に置かれている。
  • 暫定的な合意の可能性。累積投票は将来の協議事項とされ、第8条は定めなかった事項を3名の取締役で協議して進めるとしていることから、3名が暫定的に合意したものと解することも十分に可能である。
  • その後の運用。BKT氏やCHR氏は、DSN氏側の事業会社JTCが株主総会でMRT氏の選任を求めても排斥し続けた。原告らは、その都度の都合で取締役を変更することは権利の濫用であるとの理由で選任しなかったにすぎないと主張したが、そのような理由が議事録に記載されているのは2回の総会に限られ、JTCは総会のたびに選任を求めていたから、BKT氏やCHR氏が合意を拘束力のあるものと考えていたとは首肯し難い。
  • 会社設立時の合意との関係。昭和23年合意について、代理人であったOKD弁護士や当時の代表取締役UMD氏が、議決権の行使を拘束するものではない旨の書面を作成している。昭和47年合意も同じく取締役選任についての合意で、当事者もFKS氏がCHR氏に代わったほかは同一であるから、有意な事情の変更がない限り同様の位置付けのものと解するのが相当であり、そのような事情の変更は認められない。

原告らの主張を退けた理由

原告らが挙げた、役員報酬による実質的な配当、両家からの役員の選出、CHR氏がBKT氏やKZK氏の死亡時にHNM家側の後任の選任議案に賛成したことについても、第一審は採用しませんでした。役員報酬の推移は持株数に比例しておらず、その時々の貢献度などに基づいて話し合いで定めた可能性も排斥できないとし、CHR氏の賛成についても、次のように述べています。

「〔HNM家〕の者が本件会社の取締役に選任される旨の議案に賛成することが法的な義務であると認識した上で当該議案に賛成したことを認めるに足りる的確な証拠はなく」

第一審は、全会一致で進めるため、また会社の安定した運営に資するものと判断して賛成した可能性も十分あり得るとしました。

第一審の結論

第一審は、取締役選任合意は法的拘束力こそ認められるものの暫定的な合意にすぎない可能性が十分に認められ、相続人の代に至った後も両家から少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で合意したとまでは認められないから、意思表示を命じる判決を求めることができるかの争点や、当事者適格の争点を判断するまでもなく、請求には理由がないとして、請求を棄却しました。

控訴審の判断(東京高等裁判所令和2年1月22日判決)―そもそも法的効力を与える意思はなく、相続で消滅する

控訴審判決は、第一審判決を引用せず、事実の認定と判断を独自に示しています。

本案前の抗弁(当事者適格)を退けた

被告SYK氏は、合意上の地位は相続人全員に準共有されるから固有必要的共同訴訟であり、相続人全員が訴えていない以上、原告らは当事者適格を欠くと主張しました。控訴審は、給付の訴えにおいては、自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格があるとする最高裁判所平成23年2月15日第三小法廷判決を参照し、原告らは合意上の地位が株式の相続人に帰属するとして給付を請求する権利を有すると主張しているから、原告適格を有するとして、この抗弁を採用しませんでした。第一審が判断しなかった点についての判断です。

株主間契約の効力を判断する枠組み

控訴審は、まず、株主間契約の効力について一般的な考え方を示しました。

「株主の議決権行使や株式会社の運営に関する株主間の契約の効力については、これを一律に無効と解すべきではない。」

そのうえで、議決権行使契約には、契約に沿った議決権行使の履行を強制できる場合もあれば、契約に沿わない議決権行使で成立した株主総会決議に取消事由があると肯定できる場合もあるとしつつ、株主間契約は、契約当事者の属性、契約内容、契約締結の動機目的、保有する株式の種類や議決権の割合、締結時期などが千差万別で、効力についての当事者の認識も千差万別であると指摘しました。そのため、個別の株主間契約ごとに、会社法その他の関係法令の趣旨を考慮に入れて契約当事者の合理的意思を探求し、次の点を事実認定したうえで、当事者の主張する法的効果が肯定できるかを判断するとしました。

  • 当事者双方が法的効力を発生させる意思を有していたか、法的効力を伴わない紳士協定的なものとする意思を有していたにすぎないか
  • 法的効力を発生させる意思があった場合の効力の内容・程度(損害賠償請求ができるにとどまるか、議決権行使の履行強制ができるか、契約に沿わない議決権行使で成立した決議の取消事由を肯定するか、契約の終期など)

強い効力が認められやすい株主間契約と、その限界

控訴審は、株主間契約は、複数の法人が発行済株式の全部又は大半を保有して合弁事業を営む場合に、会社法等の法令では実現の保障がない事項(特に少数派株主の希望する事項)があるときに締結の必要性があると指摘されているとし、取締役の選任、株主の変動や組織再編・新規出資、剰余金処分に関する事項が重要であると述べました。

そして、株主間契約をめぐる法的状況の十分な知識と会社経営の企画力がある株式会社間で締結され、当事者の株式の合計が発行済株式の全部又は大半を占め、内容が具体的で違反の有無が判断しやすく、方針や意図が明確な合意ほど、法的効力を発生させる意思で合意したと推認しやすいとしました。そのような意思が明確に認定できる株主間契約については、議決権行使の履行を強制する裁判(判決・仮処分命令)も可能であり、契約に沿わない議決権行使で成立した決議を、定款違反があった場合に準じて取り消すことも可能であるとしています。ただし、決議の取消しについては、次の限定を付しています。

「ただし、後者の株主総会決議取消判決ができるのは、株主間契約の当事者ではない株主に予想外の影響を及ぼすことを避けるために、発行済株式の全部を株主間契約の当事者が保有している場合に限られる。」

契約の終期については、契約の内容や当事者の方針、意図などから、確定期限、不確定期限、解除条件などの終期の有無を個別に認定するほかはなく、事情変更の原則の適用も考えられるとしました。そのうえで、一律の有効期間を設けることについては、次のように述べています。

「株主間契約に具体的な定めがないにもかかわらず、有効期間を限定するために、一律に契約の有効期間の定めがあるなどと判断する(米国の州法にならって契約締結後10年間に限り有効であると解釈する等)ことは、必要がないものと解される。」

さらに、株主間契約が会社の業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)の規定の趣旨に反する結果をもたらす場合には、その体制を構築する義務を負う会社かどうかにかかわらず、「内部統制システムの規定の趣旨に反する限度で、公序良俗・信義則に違反するものとして、株主間契約の法的効力は否定されると解すべきである」としました。

本件の合意に強い効力を与える意思はなかったとする間接事実

控訴審は、この枠組みを本件に当てはめ、次の事情を、契約当事者が議決権行使の履行強制ができる強い効力を与える意思を有していなかったことを基礎付ける間接事実としました。

観点 控訴審が認定・評価した内容
契約の動機・目的と内容 当事者に株主間契約をめぐる法的状況の十分な知識と会社経営の企画力があったと認める証拠はない。合意の内容にあいまいな点が残り(特に、特定人である取締役候補者が死亡した場合の扱い)、企業運営の方針や意図が外部から明確に読み取れない
取締役候補者・当事者の属性 取締役候補者の大半が特定の自然人で、当事者も自然人の株主である。相続人が複数の場合の候補者の決め方、相続人の適性や能力、相続人が誰になるかなどを契約時に予測して定めることはなかなか困難である。特定の自然人を候補者や当事者とする株主間契約は紳士協定的なものが多く、法的効力を与えるとしても当面の短期間(例えば次の直近の株主総会)に限る意思である場合が多い
合意のその後の運用 昭和23年合意に基づくDSN氏自身の選任要求は、両家の反対で実現しなかった。昭和47年合意に基づくMRT氏の選任要求も、最初の要求から10年以上実現しなかった
文言の比較 昭和47年合意は、「今后」「その指名された者を含む」「互選する事に定めた」の文言が加わった分だけ、強い効力を与える意思があったかのように解釈する余地もないわけではない。しかし、昭和23年合意に基づく要求が実現しなかった以上、強い効力を持たせるには、昭和23年合意より明確に表現する必要があった
文書の他の記載 契約書の中心は共同ビルの区分所有部分の特定や建築の段取りで、会社の運営(取締役の選任)に関する記載はわずかであり、会社の運営に特化した文書は作成されていない
締結時期 昭和47年当時、会社実務や下級裁判所の裁判実務は、議決権行使契約は無効である、又は当事者間では有効でも強い効力は否定されるという前提で動いていた。強い効力を認める見解を反映した実務的な議論が本格化したのは平成に入ってからである
累積投票への言及 累積投票は取締役の全員を同時に選任する場合でなければ少数派株主の側から取締役を選任する機能を果たせないが、当時の取締役は別々の総会で選任されていた。また、導入は「将来定款を改正する事を協議する」という表現にとどまり、確定的な合意ではなかった

このうち文言の比較について、控訴審は次のように評価しています。

「このような観点からみると、昭和47年合意の文言は、紳士協定的な色彩が抜けておらず、昭和23年合意の文言と五十歩百歩であると評価せざるを得ない。」

結論―事実上の事前確認にすぎず、仮に効力があっても相続で消滅した

控訴審は、強い効力を与える意思があったことを基礎付ける間接事実は非常に乏しく、その意思がなかったことを基礎付ける間接事実は非常に豊富であるとし、次のとおり認定しました。

「1から7までの点を総合すると、昭和47年合意(取締役選任合意)の契約当事者の意思は、法的効力を付与するものではなく、次の直近の定時株主総会(昭和47年5月)における取締役選任議案についての議決権行使内容を、事実上、事前に確認するものであったという事実を認定するのが、無理のないところである。」

そして、昭和47年5月より後に開催される株主総会についても強い効力を与える意思があったと認定するには無理があるとしたうえで、仮に何らかの法的効力を与える意思があったとしても、次のとおり判断しました。

「その契約当事者の意思は、特定人たる取締役候補者又は自然人たる契約当事者に相続が発生した場合においては、合意の法的効力は消滅するというものであったと推認するのが、無理のないところである。」

控訴審の口頭弁論終結時には、取締役候補者と契約当事者の全員が死亡して相続が発生していたため、仮に何らかの法的効力があったとしても既に消滅しているとされました。こうして、合意に沿った議決権行使の履行強制を求める原告らの請求は理由がないとされ、これと同旨の第一審判決の結論は正当であるとして、控訴が棄却されました。

第一審の判断との関係

控訴審は、請求を棄却した第一審の結論を維持しましたが、理由は次の点で第一審と異なります。

  • 法的効力の有無。第一審は取締役選任合意に法的拘束力があると認めましたが、控訴審は、当事者の意思は法的効力を与えるものではなく、直近の定時株主総会での議決権行使の内容を事実上事前に確認するものであったと認定しました。この点は、控訴審が第一審と異なる判断をしたものです。
  • 相続による消滅。第一審は、相続人の代になっても両家から1名ずつ取締役を出す趣旨とまでは認められないとしましたが、控訴審は、仮に効力があったとしても、取締役候補者や契約当事者に相続が発生すれば効力は消滅するものであったと推認しました。暫定的な合意である可能性を重視した第一審の考え方を、より明確な形で示したものといえます。
  • 当事者適格。第一審は判断せず、控訴審が原告適格を肯定しました。
  • 判断の枠組み。株主間契約の効力についての一般的な判断方法(合理的意思の事実認定、強い効力が認められやすい類型、決議取消しの限定、終期、内部統制システムとの関係)は、控訴審が新たに示したものです。

審級ごとの結論の推移

論点 第一審(東京地方裁判所令和元年5月17日判決) 控訴審(東京高等裁判所令和2年1月22日判決)
当事者適格 判断せず 原告適格を肯定し、本案前の抗弁を退ける(第一審が判断しなかった点)
取締役選任合意の法的効力 法的拘束力を認める 変更。法的効力を与える意思はなく、直近の定時株主総会での議決権行使の内容を事実上事前に確認したものと認定
合意の趣旨・承継 暫定的な合意にすぎない可能性が十分にあり、相続人の代まで両家から1名ずつ取締役を出す趣旨とは認められない 仮に効力があっても、取締役候補者や当事者に相続が発生すれば効力は消滅する趣旨と推認。全員が死亡しており既に消滅
意思表示を命じる判決の可否 判断するまでもないとして判断せず 一般論として、法的効力を発生させる意思が明確に認定できる株主間契約では履行強制の裁判も可能と述べたが、本件では強い効力を与える意思がないとした
結論 請求をいずれも棄却 維持。控訴を棄却

主文及び結論

第一審判決の主文は、「原告らの請求をいずれも棄却する。」「訴訟費用は原告らの負担とする。」というものです(「原告ら」は原告TKH氏及び原告NRK氏を指します)。

控訴審判決の主文は、「本件控訴を棄却する。」「控訴費用は第1審原告らの負担とする。」というものです。

結局、40年以上前の取締役選任合意を根拠に、HNM家側の相続人が支配株主の側に取締役選任議案への賛成を求めた請求は、2つの審級を通じて認められませんでした。控訴審判決に対する上告又は上告受理申立ての有無及び判決の確定は、確認できていません。

判断の射程

以下は、2つの判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。最終的な判断である控訴審判決を基準とし、第一審の判断が改められた点はその旨を示しています。

参考となる点

  • 株主間契約は一律に無効とはされず、効力は当事者の意思の事実認定で決まること。控訴審は、株主間の議決権行使に関する契約を一律に無効と解すべきではないとし、損害賠償だけか、履行強制までできるか、決議の取消事由になるか、いつまで続くかを、個別の契約ごとに当事者の合理的意思を事実認定して判断するとしました。取締役の選任について株主間で合意する会社・支配株主にとっては、合意の文言だけでなく、どのような効力を与えるつもりかを契約書の上で明確にしておくことが、後の紛争の帰趨を左右することになります。
  • 特定の自然人を候補者や当事者とする合意は、紳士協定的なものと評価されやすいこと。控訴審は、自然人である株主が特定の自然人を取締役候補者として合意する場合、相続の場面の扱いを予め定めることが困難であることなどから、紳士協定的なものが多く、効力を与えるとしても当面の短期間に限る意思である場合が多いとしました。同族会社で家系ごとに取締役の枠を約束するような合意は、明確な定めがなければ、長期にわたって議決権を拘束する効力は認められにくいと考えられます。
  • 相続の発生により効力が消滅すると推認されたこと。控訴審は、仮に何らかの法的効力があったとしても、取締役候補者や契約当事者に相続が発生した場合には効力が消滅するというのが当事者の意思であったと推認しました。株式を相続した者が当然に合意上の地位を承継するという原告らの主張は認められていません。支配株主の側からみると、先代が交わした取締役選任の約束を根拠に、相続人から取締役の地位を求められた場面で参考になる判断です。
  • 合意どおりに運用されてこなかった事実が重視されたこと。2つの判決はいずれも、DSN氏側の取締役選任の要求が長期間受け入れられなかったことを、合意に拘束力を認める当事者の意思がなかったことの根拠としました。合意の後の株主総会の運用が、合意の効力の評価に直結しています。
  • 強い効力が認められる場合とその限界が示されたこと。控訴審は、専門的な知識のある会社間の合意で、当事者の株式が全部又は大半を占め、内容が具体的で方針や意図が明確なものほど、法的効力を発生させる意思が推認しやすく、履行強制の判決や仮処分も可能であるとしました。他方で、契約違反の議決権行使による決議の取消しは、発行済株式の全部を契約当事者が保有している場合に限られるとし、内部統制システムの規定の趣旨に反する限度では効力が否定されるとしました。
  • 有効期間を一律に限定する必要はないとされたこと。控訴審は、具体的な定めがないのに一律に有効期間があると判断する必要はないとしつつ、終期は契約ごとに認定し、事情変更の原則の適用も考えられるとしました。期間を区切りたい当事者は、契約で終期を定めておく必要があります。

一般化できない点

  • 本件は、自然人である株主3名が、建物の共同建築を中心とする契約書の1か条として、昭和47年に交わした合意についての判断です。控訴審は、合意の時期における学説や実務の状況も間接事実として考慮しており、現在、専門家の関与の下で締結される株主間契約に同じ評価が当てはまるとはいえません。
  • 控訴審が示した株主間契約の効力についての一般的な枠組み(履行強制の裁判の可否、決議取消しの限定、終期、内部統制システムとの関係)は、本件の結論を導くために必要な範囲を超えて述べられた部分を含みます。本件では強い効力を与える意思がないとされたため、履行強制や決議取消しが実際に認められた事案ではありません。
  • 第一審は法的拘束力を認め、控訴審はこれと異なり法的効力を与える意思はなかったと認定しました。同じ合意について審級で評価が分かれたことからも、合意の効力の判断は事実認定に大きく依存するといえます。
  • 控訴審は、昭和47年合意が株主全員の合意ではなかったことがうかがわれると認定しましたが、そのことを理由に合意を無効と判断したわけではありません。株主全員が当事者でない合意の効力一般について、本件から結論を導くことはできません。
  • 控訴審判決に対する上告又は上告受理申立ての有無及び判決の確定は、確認できていません。

株主間で取締役の選任を合意する会社・支配株主が確認しておきたいこと

本件を踏まえると、会社・支配株主の側が他の株主との間で取締役の選任について合意する場合には、次の点を契約書の上で明確にしておくことが考えられます。

  • 法的効力の内容。法的拘束力を持たせるのか、事実上の確認にとどめるのか。持たせる場合、違反の際に損害賠償だけを認めるのか、議決権行使の履行強制まで認めるのか。
  • 対象となる株主総会と期間。直近の株主総会だけか、将来にわたるのか。終期、更新、解約の方法と、事情が変わった場合の見直しの手続。
  • 相続・株式の移転の場合の扱い。当事者や取締役候補者が死亡した場合、株式が相続・譲渡・信託された場合に、合意上の地位が承継されるのか、終了するのか。承継させる場合に誰が地位を引き継ぎ、候補者をどう決めるのか。
  • 候補者の決め方。特定の個人を名指しするのか、指名権を定めるのか。指名された者の適性に疑義がある場合の扱い。
  • 運用の記録。合意に基づいて議決権を行使した経過を記録に残すこと。逆に、合意に拘束されない意思であれば、その旨を明確にしておくこと。

また、先代が交わした古い取締役選任の約束が残っている同族会社では、その文言、締結の経緯、その後の株主総会での運用を整理しておくことが、相続人から取締役の地位を求められた場合の備えになります。取締役の選任を株主間契約ではなく、会社法上の制度(例えば、非公開会社における取締役の選任に関する種類株式など)で設計する方法もありますが、これは本件の判決が述べたものではなく、当事務所の一般的な着眼点です。いずれも本件を踏まえた当事務所の考え方であり、2つの判決が特定の条項例の有効性を判断したものではありません。

相続などにより株主が増え、分散した株式の集約を検討している会社の方は、次のページを御覧ください。

よくあるご質問

株主どうしで取締役の選任について約束した合意は、無効なのですか。

本件の控訴審は、株主の議決権行使や会社の運営に関する株主間の契約の効力を、一律に無効と解すべきではないとしました。ただし、どのような効力があるかは、契約ごとに当事者の合理的意思を事実認定して判断するとし、本件の合意については、法的効力を与えるものではなく、直近の株主総会での議決権行使の内容を事実上確認したものにすぎないと認定しました。

先代が交わした取締役選任の約束は、相続人に引き継がれますか。

本件では引き継がれませんでした。第一審は、相続人の代になっても両家から1名ずつ取締役を出す趣旨の合意とは認められないとし、控訴審は、仮に効力があったとしても、取締役候補者や契約当事者に相続が発生した場合には効力が消滅するというのが当事者の意思であったと推認しました。株式を相続したことだけで、合意上の地位が当然に承継されるとはされていません。

合意に従った議決権の行使を、裁判で強制することはできますか。

控訴審は、一般論として、法的効力を発生させる意思が明確に認定できる株主間契約については、議決権行使の履行を強制する判決や仮処分命令も可能であると述べました。もっとも、本件の合意にはそのような意思がなかったとされ、請求は棄却されています。

合意に違反した議決権行使で成立した株主総会決議は、取り消されますか。

控訴審は、法的効力を発生させる意思が明確に認定できる株主間契約であれば、契約に沿わない議決権行使で成立した決議を取り消すことも可能であるとしつつ、それは、契約の当事者でない株主に予想外の影響を及ぼさないよう、発行済株式の全部を契約の当事者が保有している場合に限られるとしました。

株主間契約に有効期間を定めなかった場合、いつまで効力が続きますか。

控訴審は、具体的な定めがないのに一律に有効期間があると判断する必要はないとし、終期は契約の内容や当事者の方針、意図から個別に認定するほかはなく、事情変更の原則の適用も考えられるとしました。本件では、相続の発生により効力が消滅するという当事者の意思が推認されています。期間を限りたい場合には、契約で終期や解約の方法を定めておくことが大切です。

合意の後、合意どおりに運用されていなかった事実は、どう評価されますか。

本件では、合意に基づくDSN氏側の取締役選任の要求が長期間受け入れられなかったことが、2つの審級のいずれでも、当事者に拘束力を認める意思がなかったことの根拠とされました。合意後の株主総会での実際の運用は、合意の効力の評価に大きく影響します。

関連する記事と御相談のご案内

同族会社や合弁会社で、他の株主との間で取締役の選任に関する合意をする場合、又は先代が交わした古い合意を根拠に取締役の地位を求められた場合は、合意の文言、締結の経緯、合意後の株主総会での運用、相続や株式の移転の経過を整理し、合意にどのような効力があるかを検討します。経営権の防衛に関する当事務所の対応は少数株主対策・経営権の防衛の御相談で、平時から少数株主や株式買取業者への備えを整える方法は平時における少数株主・株式買取業者への防衛策の導入の御相談で、少数株主との紛争全般については少数株主とのトラブルに関する会社側の総合相談で御案内しています。少数株主対策・スクイーズアウトに関するほかの裁判例は、少数株主対策・スクイーズアウトの裁判例の解説記事一覧をご覧ください。

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

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